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第六十五話

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「うわぁぁ!!」

「きゃあああ!」

 ティンクルたちが地面に落ちてきた。 

「大丈夫か!」

 俺たちが駆け寄る。

「ええ、ですがあのワイバーン、とてつもない強さです...... あの時はあなたの魔法でなんとかなりましたが...... 我らでは」

 セレネはそういって剣を地面につきたてた。

「くっ、せめてワイバーンだけでも......」

 グラディスが立ち上がろうとする。

「これは...... サキミ、一度引いて体勢をたてなおそう!」

 ディンが自信を失ったようにそういった。

「だめだ! 俺たちがここを引けばモンスターたちを押し返せなくなる」

「だが! 倒すすべもない! 余たちの攻撃はなにも効いておらぬ!ただただこのままでは無駄死にする......」

 ディンが目を伏せそういった。 

「そうだ...... だがお前たちはもう逃げることも叶わぬ...... このまま我らに殺されるがよい。 その絶望こそがわが力となる」

 そうヴェルディクは歪んだ微笑みを浮かべる。 上空にはワイバーンが旋回している。

「いや、手がある...... ディン」

「だが......」

 ディンに俺は耳打ちする。 ディンは驚いていたが、俺の顔をみてうなづいた。

「なんのつもりだ...... もはやお前たちにはなんの手だてもない。 お前たちはこのまま絶望に落ちていくしかないのだ」

 そう嘲笑するようにこちらを見て、巨大な黒い魔力球体を作り出した。

「あんなの食らったら! 二人とも逃げて」

 ネメイオがそう叫ぶ。

 俺は前にで、後ろにディンがついた。

「死ね......」

 黒い球が俺に当たると、爆煙が俺たちを包む。

「クックックッ...... これでこの世界は暗く沈む」

「沈むかよ!! いくぞディン! フェアネスソウル」

 爆煙からでて魔法をつかう。

「効かない!? その鎧! 排魔の刻鎧《アンチマジックメイル》か!! ぐっ、力が! これはまさか......」

 ーー混沌を流れる闇と煌めき、あだし奔流するその力をこの現世に顕現させよーー 

「カオティックオーバーブラスター!!」

 ディンの黒い砲撃が赤い雷を纏い上空に放たれた。

「ギャオオオオオオン!!」

 ワイバーンはその砲撃で地面へと落ちてくる。

「やめろぉぉお!!!」

 そう叫ぶヴェルディクの声をききながら、俺は双剣に魔力をこめ落ちてくるワイバーンを切り裂いた。

「グオオオオオオ!!!」

 ワイバーンは咆哮し地面に落ちると土煙をあげる。

「き、貴様...... なぜわたしが......」

 黒い球体の中の姿が揺らめく。 

「お前がワイバーンだとわかったか、か、お前はガルガンチュアとの戦いを見ていなかった。 なのに、俺の魔法のことを知っていたからな。 俺の魔法を知っているのはあの魔法を使ったワイバーンだけだ」

「く......!」

 そのまま黒い球体は消え去った。

「おかしいです! モンスターたちが暴れまわっています!」

「モンスター同士まで食らいあってる!?」

 ティンクルとセレネが下の状況をみてそういった。

「くく、やつらの操作ができなくなった...... モンスターたちは暴れまわり、もうはや結界もない。 結局結果は同じだ......」

 ワイバーンはそういった。

「余らもいくぞ! ぐっ......」

 ディンがぐらつき、膝を地面につけた。

「むりだ...... 俺たちも限界に達してる......」

「だが、このままでは」

「む、無駄なこと...... モンスターたちは暗黒大陸からいくらでも現れる。 人の絶望がモンスターと我らを...... 生、む......」

 そういうと、ワイバーンは地面へとくずれた。

(いやまだだ。 アマルセウスはディンにあの剣を渡した。 あの剣には何かある。 考えろ。 人の感情を力にする...... 負の力がやつらの力、ディンは正の力、希望...... まさか)

「ディンその剣だ...... その剣を使え」

 ディンによたりながら近づいて、その体を支えた。

「剣...... これがなんだ。 切れもしない剣だぞ......」 

「お前たちは人の感情を力にする異世界人。 やつらが絶望や憎悪を力にするように、人や魔族の希望から生まれたお前も人の希望や愛を力にできるはずだ!」

「い、いや、でも、そんなことをしたことが...... どうすればいいかわからん」

「だからこその剣だ!」

 ディンはその剣を抜いた。 

「皆の正の力をその剣へと集めるんだ! 願え! その剣にすべての思いを集めろ!」

「わたしたちが転移で下に伝えてくる!」

 ネメイオたちが下へと向かっていった。

「剣...... すべての思い。 皆の思い、ここに集まってくれ! 頼む!」

 ディンは剣を掲げる。 その体を支えながら俺も想いを伝える。

 剣が仄かに光る。

「何かが集まる...... 感じるこの暖かい想い、正しき心、もっともっともっと!!」

 周囲から剣に光の粒子が集まってくる。 それは流星のように地平線からもこの剣に集まってくるのがわかった。

「よしディン!!」

「おおおおおおおお!!!」

 俺とディンは光輝く剣をふるう。 

 それは空を切り裂くように左右にまばゆい光を放射し、遠くに見える黒い大地を太陽のように照らしていった。
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