隔界記~王崩の白銀姫~

曇天

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光りに消える

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 女子高からの帰り道、逆波 詞葉《さかなみ ことは》は人気のない道を歩きながら思った。


(しまった、人通りの多い道を歩くつもりだったのに、考え事をしてるうちに曲がり道を通り損ねるなんて本末転倒だ。 引き返した方がいいかな......)
  

 そう思ったのは、ここ最近、誰かの視線を感じていたからだ。


(わたしのことを好きな人がいる? 女子高なのに? 違うか、となると......)


 思い当たるのは、いじめをしていた不良の同級生に辞めるよう一言もの申したからだ。


(つい腹が立って言ってしまったけど、あれで逆恨みでもされたかな)


 挟まれないように、一本道を避けて歩いた。


(この先、裏道を通ればすぐ寮だけど、
 人通りの多い道なら遠回りになる)


 少し考えて、裏道に入ることにした。


(まあ、早歩きすれば大丈夫でしょ、
 それに最悪この薙刀なぎなたで......)


 とスクールバックと共に持っている部の薙刀をみて思った。


 裏道に入ると、左右は大きな建物の裏側で、エアコンの室外機が無数にあった。
 足早に通り抜けようとしたが、人の視線に気付いて止まった。
 それは、いままで感じたことのない冷たい射るような視線だった。
 

(何、このいやな感じ)


 足を止めると、いつのまにか後ろに人影が現れていた。
 背が低いから女性なのか、深く笠のようなものを被り黒い外套を身に付けた異様な風体だった。


「冥泳」《めいえい》


 その人物が感情のない声で呟く、すると外套から無数の黒い蛇のようなものが見えたと思ったら消え、そして詞葉の影から現れると身体を這い首を絞めつけた。


「なに!? これ......」

 
 息ができなくて意識を失いそうなになったとき、


「霧衣!」《むい》


 そう声が聞こえると、あたりに霧がかかり、なにも見えなくなった。
 そして詞葉が意識を取り戻すと、誰かの脇にかかえられていた。


「誰......」

 
 そう朦朧とした意識の中聞くと、


「すみません、向こう・・・で話します」


 その人物は、そう言うと手に着けていた数珠をはずした。


 すると数珠は青く光ると砕け散り、その場に光の輪だ現れた。
 詞葉を片手に抱えた人物が光の輪をくぐると二人は光に消えた。


 少しして霧が晴れた後、さっきの場所に二人の姿はなく、
 それを見た、黒い外套の人物もすぐに姿を消した。



「ん......ここは......」

 
 頬に風を感じて、詞葉が目覚めると草原の中にいた。
とても空気が澄んでいるように感じ、遠くに町らしき建物が小さく見えていた。


「詞葉様」


 呼ばれて振り替えると、白い外套を来た人物が、
 右拳を地面につけ膝を折ってこちらに頭を下げていた。


「その声、さっきわたしを助けてくれた人なんですか」

「すみません、あなた様をお守りするはずが、助けが遅れました」


 そう言うと外套を脱ぎ顔を見せた。


 それは、年齢は詞葉よりす少し年上の女性で、空のように青い髪に、紫に見える瞳、そして涼やかな顔をしていた。


「私を守る? 一体どういうこと、それにここはどこなの?」


 詞葉は、出来るだけ自分を落ち着かせるようにと思ったが
目の前の女性に矢継ぎ早に聞いてしまった。


「そうですね。
 まずここは、詞葉様の住む世界『下界』げかいとは異なる『真上界』しんじょうかいという世界です」


 女性は自らを、蒼真《そうま》と名乗ると、落ち着かせるように詞葉にゆっくりこの世界の説明をはじめた。


 この真上界はかつて、下界の術師達によって創られた世界で、八十二の国があり、ここは玲《りょう》という彼女の住む国だという。

 
 そして、蒼真は話を続ける


「貴方様、いえ詞葉様は、この琉の王、恒幹《こうかん》様の孫に当たられる方なのです。」

「王様の孫ということは......」

「はい、詞葉様の父君、恒樹《こうき》様が王太子様でした」


 それを聞いて詞葉は意外にも驚きはしなかった。 
 小学生の時死んだ父は、飄々として浮世離れした人だと、
 常々子供ながらに感じていたからだ。


「その孫のわたしが襲われるということは、政治的なことに巻き込まれたってことなの?」


 厳しい顔をした詞葉が問うと、少し沈黙の後、蒼真は、


「おそらくそうかと.......現在、恒幹様は長らくご病気で執務を王太子である恒樹様の弟、恒枝《こうし》様が担っております。
 もし、王が崩御......亡くなられると、恒枝様か長兄の実子である、
 詞葉様に王権が委譲されます。」

「わたしそんなの継ぐ気なんてないよ」

「ええ.......恒樹様が、下界に降りられたのも継承問題を避けたのでしょうね。
 ですが、恒樹様は民や重臣にすら待望論が根強く、それを恐れた恒枝様の派閥が、その血を引く詞葉様を狙い間者を放ったのでしょう」

「私は恒幹様の命で、詞葉様を見守っていたのですが、気づかれないよう遠くに離れてた為、遅れてしまったのです。
 申しわけありませんでした。」

 
 蒼真は深々と頭を下げて言った。


「いいよ、いいよ、わたしがいつもと違う道を通ったんだし......
それに、助けてもらわないとどっちにしろ拐われただろうしね。
 それで、わたしはどうしたらいいの? 王になる気なんてないけど、相手が信じてくれなきゃ、また帰っても狙われてしまうし......」

「はい、恒幹様にお会いして、重臣達の前で王を辞退なされれば、貴女様を推す者も諦めると思いますので、王宮に参って頂きたいのです。」

「......仕方ないか......お祖父さんにも会ってみたいし、行くしかないよね」

「ありがとうございます詞葉様。
 あっ、その姿では目立ちます故、すみませんが、こちらを羽織って頂けますか?」


 そう言うと、自分の外套を脱ぎ詞葉にそっと掛けて
 蒼真の厳しかった顔がふっと和らいだ。
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