隔界記~王崩の白銀姫~

曇天

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深精《しんせい》

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 二人は草原から遠くに見えていた町に着いた。

 
 町は、和風とも言える木製の建築物が整然と並び、漆喰だろうか白い外壁の家が多い、一見すると綺麗に見えてはいるが、よく見ると穴や朽ちた箇所が多い、それに町を歩く人々の服装も、継ぎ接ぎや汚れが見えた。
 商店らしきものがあるが、置かれた果物や野菜は新鮮にはとても見えず、乾燥させた魚や肉も数が少なくて、美味しそうには見えなかった。
 町の奥の方にぐったりとした人が建物にもたれ掛かっていたり、こちらを見ている柄の悪そうな男達もいた。
 一見しても治安が良くないことが見てとれた。
 何より、そこにいた人々はみな口数が少なく目も虚ろだった。


「なんか、あまり、豊かな国じゃないのね......あっ!ごめんなさい」

 
 詞葉は、少しだけ別の世界に期待してた為、ついそう口走ってしまったのだった。

 
「いえ......そうですね、こんな地方でも前はそれなりに活気もあったのですが.......」

 
 蒼真は少し寂しそうにそう言った。


(聞いちゃ不味かったかな)


 詞葉は話を変える為に、
 

「ねえ蒼真さん、わたしを襲ってきた人が出した黒い蛇みたいなものって何だったの?」

「ああ、私が使った霧衣もですが、こことは異なる『深精界』《しんしょうかい》と呼ばれる世界の者『深精』《しんせい》です。
 その深精の存在と力を知った下界の者達が術師となり、この世界を創ったと伝わっています」

「この世界の人は皆その力を使えるの?」 

「いえ、全員ではありません、深精界と繋がれる場所があり、そこで、彼らと契約しないと力は使えないのです。
 まあ突然、深精界と繋がり、契約し術を使えるようになる者もいるのですが.......」

 
 蒼真の話を聞いていると、向こうから怒号が聞こえてきた。


「待て! このくそがき共、許さねえぞ!」


 見ると大柄な店主に捕まってる二人の男の子が、持ち上げられじたばたしていてた。
 詞葉は急いで駆け寄り店主に聞いた。


「待って! どうしたの」

「あん?こいつらうちの肉を盗もうとしたんだ、いままでも何回もやられてるんだ。
 きっとコイツらの仕業に違いねえ!」

 
 いきり立つ店主に、

 
「あの許してあげて貰えませんか、お金がないので......
 あの、わたしが持ってるもので.......」


 持ってるのは、身に付けてる時計ぐらいなので、それをはずそうとしてると、


「店主幾らだ」


 蒼真が割って入り、店主にお金を払った。


「まあ、金さえ貰えばいいけどよ、こいつらまたやるぜ、
 親もいねえ、孤児なんだろうしよ」

 
 店主がしぶしぶ子供達を離すと、子供達は走っていった。 

 
「詞葉様......」

 
 少し怖い顔をした蒼真に見つめられて、


「.......ごめんなさい、わたし何もできないのに、勝手なことして......」


 そう言う詞葉を見て、ひとつため息をつくと、


「貴方様の持ち物は、この世界では珍しいもの、不用意に見せてはいけません。
 誰かが気づいて、危険な目にあうかもしれませんから」

 
 そういうと蒼真は少し笑った。
 詞葉が不思議に思っていると、


「すみません。
 やはり貴女様は恒樹様に似てらっしゃいます」

「父さんに」

「ええ、わたしも戦災孤児でした。
 さっきの子達のように、物を盗んで捕まった時、
 恒樹様が助けて、王宮に連れていってくれたんです」

  
 懐かしそうに遠くを見つめ、詞葉の方に向き直すと、


「ですが、今は慎んでくださいますようお願い致します」

 
 そう一言添えた。



 その頃、王都にある王宮白華城《ひゃっかじょう》では、
 王の間、玉座に座る恰幅のいい人物に、若く長身で長い白髪の男は、
 かしずいてうやうやしく話しかける。
 

「我が主、昨年より税収が倍近くになっております。これも主の慧眼あってのこと」
  
 
 主と呼ばれた柔和な顔をした人物は、額の汗を拭いながら、

 
「しかし玄蓬《げんほう》よ、他の者は、今の施策は変えるべきと進言してくる、実際今までほぼなかった地方の反乱が多く起こっておるようなのだが、我は民に苦難を与えているのではないか、本当にこのままで良いのか?」


 玄蓬と呼ばれた男は、冷たく美しい顔の口元に大きな青い鳥の羽の扇子をあて、


「何を申されます恒枝様、この国はいままでになく国力を蓄えております。
 これで、他国からの侵攻や飢饉、天災、魔精《ましょう》などに対することができるのですよ。
 でなければ、ニ十年前の『姜』《きょう》の進攻のように多くの者がより大きな痛みを負いましょう。一時痛みがあるかもしれませぬが、後の千年を考えれば、この程度我慢せねばなりますまい、あと数年すれば、恒枝様はこの国始まって以来の名君と呼ばれましょう」

 
 恒枝と呼ばれた人物は顎に手をやり髭を撫でながら、


「......ふむう、あいわかった進めるがよい......」

「はっ、御意にございます、それと......」
 

 玄蓬は少しいい淀んで、

 
「......実は恒枝様、詞葉様の保護に失敗したそうです。
 なにやら、先に手を打たれたようですね......
 ですがこれで、詞葉様擁立を掲げる一派の存在が明らかになったというもの。」 

 
 そう言われて、恒枝は眉を潜めながら
 
 
 「そちの考えすぎではないか、兄は王座に興味はなかった、それ故下界に降りたのであろう。
 その子が、王座を狙うなどと考えようか」

「確かに、詞葉様にはその気はないのかも知れません。
 ですが、詞葉様を操りこの国を牛耳ろうと考える不届きな輩はいるのでしょう。
 ですから、間者を送り詞葉様を先に保護して利用されぬよう仕向けたのですが.......
 どうやら、この国に入ったとのこと必ずや身柄を抑えます。」 

「しかし兄の子、我が姪に当たる、丁重にもてなすように、傷つけることはまかりならん」

 
 恒枝が命じると


「はっ、仰せのままに」


 そう玄蓬は平伏して答えた。



 王の間を後にして、長い王宮の通路を歩いていると、玄蓬が止まり、
  

「で、見つかったか焔紗《えんさ》」 

 
 そう言うと、玄蓬の影から顔に包帯のような青い布を巻いた小柄な少女が現れ出てきた。


「......いえ、ですが、この王都に来ることは間違いありません、各町から王都への道を隈無く網をはっておりますゆえ、どこに現れても見つけられるでしょう。
 しかし、共に付いておる者がかなりの手練れでしたが、いかがいたしましょう」  
 
「何? それほどの者が......
 お前は報告があり次第向かい、なんとしても詞葉様を手に入れろ。
 共の者は何者でも切り捨てて良い」 

「はい、玄蓬様......」


 と答えると、焔紗と呼ばれた少女は再び影に消えた。
 

「もう少し、もう少しで叶うのだ.......」

 
 玄蓬は口角を少しあげて呟いた。
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