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第四十一回 桃理の想い

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 紅《こう》が佳信《かいしん》さんと話している間に、
 僕は桃理《とうり》を探しにでる。すると村の端で、
 うずくまって顔を伏せ、座っている桃理《とうり》を見つけた。

「桃理《とうり》......」 

「......わかってる、私は仙人でなんでもできるから、
 勝手なことをいってるって、
 そういう者にだけはなりたくなかったのに......」 

 桃理《とうり》は小さく呟いた。

「そんなことはないよ。僕なら言いたくても言えなかった。
 押し付けるのは責任をとりたくなかったから......
 でも桃理《とうり》がいってくれたから、
 子供たちが飢えずにすんだ。ありがとう」
 
 そう僕が言うと、桃理《とうり》は顔を伏せたまま話し始めた。

「私ね......物心ついたときに兄さまとさらわれた。
 でも兄さまがかばってくれて、私だけそこから逃げだした。
 それからひとりぼっちで......飢えってとても辛いの......
 だからもの乞いや盗みで、食いつなぐ毎日だった。
 ひもじくて、情けなくて、つらくて......とてもいやだった」

(それで飢えた子供たちをみてられなかったのか......)

 僕は黙って聞く。

「それがある日の夜、朝みたいに明るくなったと思ったら、
 すごい音がして意識がなくなった......
 目が覚めたらそこには何もなくて、でも良かったって思ったの......
 これでもう盗みで叩かれたりしない、怖い兵士たちもいないって、
 私は人が死んだことなんかより、その事のほうが嬉しかった......」

 ときどき言葉につまりながら話しを続ける。

「そこに命炎仙《みょうえんせん》さまが降りてきた。
 命炎仙《みょうえんせん》さまも最初受け入れられなかった......
 全てを嫌いになってたから......
 でも命炎仙《みょうえんせん》さまは優しく、
 各地を巡り飢えた人たちや傷ついた人たちを癒して回っていた。
 自分が倒れるのすら省みずに.......」

 そう言って桃理《とうり》はしばらく黙った。

「......あの子達も、今死ななくてもこのまま生きていたら、
 あのときの私のようになっているかもしれない。
 人の死にすら、喜びを感じるような人間に......
 そう思ったら体が動いたの......」 

 そして息を深く吸うと顔を上げ立ち上がる。

「そう、だから私は、
 命炎仙《みょうえんせん》さまのようになると決めたんだ! 
 落ち込んでられない!行くわよ!三咲《みさき》!」

「ああ、わかった」

 僕は沙像仙《さぞうせん》のことを桃理《とうり》に話した。

「沙像仙《さぞうせん》......
 命炎仙《みょうえんせん》さまか前に話してくれたわ。
 沙像仙《さぞうせん》は自然の邪魔となる人間を排すべき、
 と常に言っていた仙人らしいわ。
 だから玄陽仙《げんようせん》に与したのだと」

「それが人間に力を貸す......
 おかしいな、やはり戦争を起こさせようとしているのか」

 その時、紅《こう》がやってくる。
 
「沙像仙《さぞうせん》は北の方にある古城にいるらしいぜ」

「すぐにいきましょう!」

「いや、言っても話しなんて聞いてはくれない......
 それに戦いになったら、僕たち三人じゃ勝てないだろうし......」

「そこでだ。佳信《かいしん》のじいさんが、
 冴氷仙《ごひょうせん》がいるらしいって、
 伝説がある場所を教えてくれた」

「冴氷仙《ごひょうせん》は玄陽仙《げんようせん》側でしょ!
 二人相手するなら間違いなく殺されるわよ」

「いやどうやら、冴氷仙《ごひょうせん》はそう好戦的ではなくて、
 話がわかる仙人らしい......といっても伝承だが」

「確かに人が住める場所を作るぐらいだから、
 必ずしも危険な仙人ではないかも......
 それに命炎仙《みょうえんせん》もどうしようもなくなったら、
 冴氷仙《ごひょうせん》に会えといっていたし、
 話しだけでもしてみよう」

 僕たちは冴氷仙《ごひょうせん》のいるという、
 凍閉洞《とうへいどう》へと向かった。
  
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