陰陽学園帖《いんようがくえんちょう》~術の使えない陰陽師《おんみょうじ》が参る~

曇天

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第29話 咒縛監獄② 収容棟《しゅうようとう》の戦い①

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「おい、灰! あまり焦るでない!」


 大陰が走る灰にそう言う。


「早く無疫を倒さねえと、結界が破られるかも知れねえ」


 地下に入って、大分進むと奥に一つの独房が見えた。


「ここか、神無が言ってた。 霊力を感じる場所......」


「ああ、そうみたいだな、何やら異様な霊力を感じるぞ」


 灰が房の鍵を壊して中にはいると、大きな部屋に一人の囚人服の男がいた。


「君かい、無疫が言ってた。 結界を破れる術を持ってるって術士は」


 その頬がこけて骨と皮だけになり、目だけが爛々と輝く男は言った。


(そいつを待ってるってわけだ)


「そうだ......無疫の所に連れていけよ」


 そう灰が言うと、


「......そうか、君が......」


 突然、灰の足がふらつく、


「なんだ!? 何をした!」


「悪いけど、無疫の所には行かせないよ、あいつはイカれてる、君にはここで死んで貰う!」


 男は立ち上がり、術式を唱えた。


「俺は無疫を倒しに来たんだ! お前の敵じゃない!」


「信じられると思うか!」


「お前あいつに逆らったら、霊病で死んじまうんだろ!」


「かまわない! あの異常者さをこの街に封じられればな、あいつはこの街から出て、咒疫を蔓延させるつもりなんだ! 俺の家族も......俺の術じゃ奴を殺れない! お前をここで殺せば、奴はこの街からは出られない!」


(くっ! どんどん痺れがひろがる、こいつの術はなんだ......攻撃された覚えもない、あれば式神が反応するはず、空気になにか......なら)

 
 灰は術式を唱え、


「火水行、爆哮《ばくこう》!」


 前方に水蒸気爆発を起こした。 


「ぐっ! これは、」


 吹き飛んだ男は膝を着いた。


(痺れが拡がらなくなった......やはり、毒か細菌か空気に含まれてたのか、だが止めさせねえと動けねえ)


「火行、炎極《えんごく》」


 灰は炎を回転させ一点に集束させた。


「これを撃てばお前は死ぬ......術を解け!」


「殺せばいい! 俺は死んだってかまやしない! 無疫の場所は教えない!」


 男は激昂して叫んだ。


「聞け! 場所は聞かない、お前は学園の前にいる結界を壊してる奴らをこの術で弱らせてくれればいい」


「!?」


「......本当に無疫の仲間じゃないのか?」


「ああ、そういえば教えてくれると思ったが、まずったぜ」


 男は躊躇しているようだった。


「かまわねえ、すぐ、信じるのは無理だからな、ただ、学園の前の奴らはやってくれるだろ」


「......ああ、わかった、すまん、術式の毒は解除した。」


「いいって行ってくれ」


 男は自らの名を蟲毒《こどく》と告げ、外に出ていった。


 他の棟へ向かうか、灰は走った。




「雅、この下から霊力を感じるわ」


「神無様の仰られたとおりです。 天后様」


 雅は天后と地下に向かっていった。 奥にある独房の鍵を壊して中に入ると、一人の包帯に巻かれた人物がいた。


「お前か、結界を破った術の使い手は......」   


 とても低い声で、その体中に包帯を巻いた男は言った。


「あなたは......」


「......俺に力を貸し結界を敗れ、そうすればこの世界を俺と同じ地獄の苦しみを味あわせてやる」


 そう言ってニヤリと笑うと、術式を唱えた、


「水行、血疫弾《けつえきだん》......」


 指先から赤い何かを複数撃った。 


「速い!......」


 ほとんどをかわしたが、一発だけ腕をかすった。


「浅い! こちらも攻撃を......」


 すると、凄まじい痛みが体を襲った。


(うっ! なに!? かわしたはず!)


 腕をみると当たった場所から、赤い斑点はんてんが少しずつ拡がっている。


(これは、まさか!? この人が無疫 爛)  


「そうだ、さあその霊病を治したくば、俺の言うことを聞け」 

 
 どんどん斑点が拡がっている。 雅はかまわず術式を唱えた。


「土金行、晶矢《しょうや》」

 
 部屋を埋め尽くす多数の水晶の矢で無疫を狙うと、


「いいのか、死ぬぞ!」


「......かまいません......覚悟の上です」 

 
 手を振り下ろそうとすると、


「待て! 俺は無数疫じゃない!」


 そう言うと包帯の男は、ただの囚人服をきた太った姿になり、雅の斑点と共に痛みも消えていた。


「......幻だったのね」


「何故だ! 知っていたのか、もし俺が本物だったらお前は死んでいたんだぞ」


 そう言う男に、


「知ってようが、どうだろうが、私がとる道は一つだけなのです」


「お前も無疫と同じ頭のおかしな奴だ! さっさとどこかにいってくれ!」
 
 
 そう言う男、幻紫《げんし》を術で縛ると、雅は神無のところに向かった。
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