ブラックバイトウィザード

曇天

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第二十九話 人ではないもの

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「どういうことですかヒミコさん!?」

「僕と同じ魔法さ、
 魂を分離して、
 別の身体に移したのさ」
 
「そうさ、 
 ボクは魂だけなのさ、
 今はいひかちゃんの身体をもらってるんだよーん」

 そう笑いながらいひかは話す。

「だからあ、
 身体はなんだっていいのさあ!!」

 そういってこっちに突っ込んでくる。
 遅延《ディレイ》を使っても、
 スピードは常人のそれではなかった。
 そしてオレを殴る。

「ぐわあ!!!」

 オレの腕は砕けた。
 
(くっ! 腕はすぐ回復するけど、
 痛覚はあるから痛い!!)

 よく見るといひかの腕はぷらぷらしている。

「折れたのか......
 まずいっすよ!
 あんな力で動けば、いひかの身体が壊れる!」

「んふぅ、
 そうさボクはこの身体を全力で使える。
 本来脳で無意識でセーブしている筋力も全てね。
 全力で戦えば、この身体は数分で死ぬよ。
 どうする? 
 いひかちゃんを殺すぅ、それとも君たちが死ぬぅ?」

 アルスタインはいひかの顔でニヤニヤしている。

「アルスタイン、
 君はいひかになにをしたんだ。
 まずそれを教えてくれないか」

「んふ?
 ああ、いひかちゃんを操った方法かい?
 簡単さ、昔彼女の両親を殺したとき、
 放心状態の彼女に魔法でマーキングしたんだ。
 彼女の両親は強くてね。
 死体しか手に入らなかったから、
 彼女が大きくなればきっと強い魔法使いになると思ってね」

「なるほど、それで身体のスペアとして、
 置いておいたのか」

「んふう、
 そうゆーこと」
 
「くそが!!」  

 オレがそういうと、アルスタインは笑う。

「くひひ、くやしい、ねえくやしい、
 くやしいねえ、ボクそういうのだーいすき、
 みんな苦しめて、殺すのー、くひひ」

「そうか、なら安心して殺せるね」

 ヒミコさんはそう言葉をはき、
 その目は凍るように冷たかった。

「はあ?
 殺せるぅ?
 どうやってボクは魂だよ。
 いひかちゃんを殺せるの?
 でも、殺せてもムダダーヨ?」

 そういっておどけている。

 ヒミコさんはおもむろに、
 周囲の死体を衝撃波《ウェーブ》で、
 破壊しだした。

「なにを!?」

「タイガくん、ここから向こう半分全力で、
 遅延《ディレイ》できるかい?」

「は、はい!」

「やめろ!!
 何してる!!
 死体を壊すな!!」

 アルスタインは狼狽している。

「君は僕の所に来たとき、命乞いをしたよね。
 死んでも大丈夫なら、
 頭を下げる必要もなかったはずだ。
 君、移る身体がないとまずいんじゃないか」

「やめろおおおお!」

 飛びかかってくるいひかに、
 オレが全力で遅延《ディレイ》を使う。
 いひかはゆっくり移動してくる。

「ほう、ずいぶん強力になったものだね。
 タイガくん、感心、感心」

「いや、そんなことより!
 これ全部破壊したらいひかの身体が」

「大丈夫だよ。
 時間さえあればね」

 ヒミコさんは全ての遺体を消滅させ、
 オレに遅延《ディレイ》を解除させた。

「ちくしょうぅぅ!
 何てひどいことを!
 ボクが生涯をかけて集めた、
 身体だったのにぃぃ!!)

 アルスタインは地面を殴り悔しがっている。

「許さないからなああ、
 お前たちの身体、絶対もらうぅぅ!!
 どうせ、こいつを殺せないはずだろ!!」

「いいのか?
 その身体が壊れたら、
 もう終わりだ」

 オレがにらんでいう。

「うっ、はったりだ!
 ブラフだ!!
 ボクに嘘は通じないぞ!」

 アルスタインは地面をバンバン蹴っている。

「じゃあ試してみようか......」

 オレがそういうと、
 ヒミコさんは冷たい目で見据え腕を前にだした。

「うわああ!
 わかった、いひかも左足も、心臓も返す、返すから!
 命は許しておくれよ!
 代わりの身体に入るから!」

 アルスタインは左足のペンダントと、
 キューブ化した心臓をオレたちに投げて渡すと、
 奥の部屋へとつれていく。

 そこには一体の小太りのピエロが眠っている。

「なるほど、それが本体か」

「そうだよ......
 いひかから出れば命は助けてくれるんだよね」

「お前が約束を守ればだ」

「わかった......」

 そういうと、いひかは崩れ落ちた。
 
「いひか!?」

 オレとラクリマはかけよりいひかを抱える。
 
「う、うう......」

 ヒミコさんが声をあげる。

「んふう、くひひひ!
 やってやった!
 奪ってやったぞ!
 これで形勢逆転だ!
 バーカバーカ!」

 ヒミコさんがそういった。

「ん? なんだよ!
 もっと驚けよ!
 もう死ぬんだぞ!
 お前たち全員だぞ!」

 そういった瞬間、眠っていたピエロの身体は爆発した。

「なっ!?
 ボクの身体が!?
 なんで!!」

 そういうと。視線を動かして驚いている。

「なんで......
 お前が......」

 そこにはヒミコさんがいる。

「それは僕の身体じゃないよ。
 タイガくんの遅延《ディレイ》中に、
 そこにあった遺体から作った形だけの操り人形さ。

「そんな、これが人形......
 動かない!!
 目と口しか動かないよぅ!
 ひどいや! 騙すなんて!!」

 ヒミコさんはアルスタインに近寄る。
 
「ひぃいい、
 助けて!!
 助けてください!!
 なんでもしますから、
 命だけは!!」

「いいよ」

「本当ですか!」

「僕は、ね」

「へ?」

「あなただったのね......
 あのとき私のパパとママを殺したのは......」

 いひかはふらつきながら立ち上がり、
 水光姫《みひかひめ》へと変身した。

「待って待って! そう! 
 ボクは子供の頃に実験台にされて、
 魂にされたんだ!
 たから仕方なかったんだよ!
 こんなかわいそうな人間を殺さないよね!」

「そうね。
 人は殺さないわ......」

 いひかがそういうと、
 アルスタインはほっとしたようだった。
 
「......だってもうあなたは人としては死んでるもの」

 そういうと冷気が部屋を包み、
 アルスタインは凍りつく。

「いいやぁぁ、死に、たく、ない......ぃぃぃぃ......」

 そういうと、人形は粉々に砕け散った。
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