たまたま神さま、ときたま魔王

曇天

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第六十四話

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「なんとか通れたな」

 かなり厳重なチェックを抜け法王都市、バルンクエスにはいった。 

「ええ、あそこまで念入りに調べるなんて、なせでしょうか」

 リムリーナがそう不思議そうにいった。

「何か十年は信仰している信徒以外は入れないらしい。 よほど知られてはいけない何かがあるんだろうな」

 町は豪華できらびやかな装飾の建物、食べ物や衣服装飾品などおりとあらゆるものがある。

「信徒の寄付によって運営されてるらしいですが、貧しいものたちからもお金をえていて、こんな暮らしなんて疑問を持たないのでしょうかね」

 セイちゃんが非難するようにいう。

(だいぶ人間っぽくなったな。 おれの影響か...... いや前からか)

「そうだね。 それが当たり前だとでも思ってるんだろ。 それよりなんか、ここ変な感じがするな」

「ええ、とても微細ですが何か魔力の変動を感じます」

 セイちゃんとリムリーナがうなづく。

「もうなにか起こってるのか...... やはり調べるなら法王がいる場所かな......」

「あれでしょう。 あの巨大な円柱状の建物」
 
 確かにどこからでも見えるような高い塔のようなものがある。

「よし、いってみよう」

 おれたちは塔の前に来た。 近くだとかなり大きな塔のようで、他国の城並みだった。 ひっきりなしに信徒たちが出入りしている。

「中にはいろう」

「ええ」

「はい」

 おれたちは中にはいる。 そしてここが教会だと知った。 中は贅をこらして作れた壮麗な細工の柱や金銀、宝石がちりばめられた女性の調度品であふれ、塔の上階が法王の住居であることをしった。

「とんでもない豪華さだな。 アルフレドの城でさえ、ここまでじゃなかった」

「それだけ寄進が多いのでしょうね。 絵や彫像などアストを表現したものが多いです」

「それにしても、ここまで金銀や宝石で飾り立てるのは悪趣味ですね」

 リムリーナと不快そうにセイちゃんがつぶやく。

(確かに、宗教芸術というよりは、ただの成金だな)

 法王は各国にいる大司教の中から法王を選ぶシステムらしい。 マーゼフ法王は数年前に、前法王の死去に伴い選ばれたという。 

「何かと噂がある...... 席を金でかったとか」

「そんなお金誰がだしたんでしょう?」

「まさか、黒衣の化者《ダークレイス》でしょうか?」

「それも含めて法王を調べよう」

 おれたちは上階へむかい、部屋を調べた。

 どうやら、大勢の幹部の信徒が住んでいるようだ。 

「この階だけ、一つの部屋になっているのか......」

 そこは他の部屋がなく一つの扉があるだけだった。

「......本当に大丈夫なのですか」

 部屋の中から声がする。

「この声はマーゼフだ」

 リムリーナが音の精霊をだして声を聞きやすくした。

「......ああ、心配ない」

 そのこえにも聞き覚えがあった。

「これはアグザだ...... やはり黒衣の化者《ダークレイス》が関わっていたか」

「アグザお前はそういうが、もう多くの幹部が倒されたうえ、ハストワーン、アルフレド王国の計画も潰されたときいたのですよ!」

 マーゼフはそう語気をあらげた。

「さすがに各国に信徒がいる。 よくしっているな。 ......確かに、かなりの計画の変更を余儀なくされている。 しかし問題はない。 少しずつだが必要な魔力は得ている」

「それでモンスターどもを全滅できるんでしょうね。 いや、エルフやドワーフどももです」

「人間主義者たちの突き上げがはげしいようだな」

「それが、この教団、いやこの国の意義なのです」

「......それがなくなれば誰もこのアルト教を信奉しなくなる...... か、その差別心を求心力に、この教団、いやお前はこの地位を得たのだから当然か」

「人は自分より劣るか、優れるかを排除し安心したい。 そのためには人外が最も適している。 異形、異質な文化をもつからです」

「......それらを排したところで、自分達のなかからまた別の排除する存在を産み出さなければならなくなるだろうがな」

「そのときは、貧しいものや、醜いもの、弱いものを人間の中から、みつくろうでしょう。 いや理由などなんだっていい。 この世は弱肉強食、強いものが弱いものを食うのが道理、多く強いものになるしかないのですよ」

「......確かにな。 それこそ人間だ...... こちらも準備はととのった」

「どんな手です? 全て失敗したのでしょう?」

 マーゼフはあざけるようにいうと、アグザはすこし笑い声を漏らした。

「くくくっ、いいや、あれらは失敗ではない。 あれのおかげで魔力を集めそれを物質化し、出力を調整できるようになった」

「それがどうなるというのですか?」

「......もうわかる。 なにも感じないか?」

「......なに、なんです?」

 マーゼフが怪訝な顔をしたそのとき、おれの体はあきらかに違和感を感じる。

「これは......」

「魔力が流れでていきます」

 セイちゃんがそういう。

「ええすごい勢いで魔力が!」

 リムリーナがそういうと、マーゼフが震えだす。

「な、なんだ...... 体がおかしい」

「当然だ。 この国から魔力を奪い取ってるからな」

「な、なんだと...... ぐっ」

 声が小さくなる。

「あれらはいわば実験、成功してもよし、失敗してもこれに繋げればいい。 ここは他国の干渉をうけぬ唯一の場所だ...... 魔力をすべてもらいうける」

「ふ、ふざけるな......」

「この世は弱肉強食なのだろう。 そう世界を定義しておいて、お前は自分が食われる側になる覚悟はなかったのか」

「あ、あなたも魔力を失いしぬのですよ......」

「心配は無用、この体は既に死んでいる......」

「な、なんだと、それはアンデッド...... 力が抜ける...... いやだ...... 死にたく......」

 倒れる音がきこえる。
 
「あれは死体だったのか......」

「このままでは私たちも魔力を失い死にいたります」

「もう無理か! 逃げよう!」

 セイちゃんにいわれ、おれたちはすぐに塔を降りた。

 町中は魔力を失い、倒れるものたちがいた。

「なんとかできないか!」

「装置の場所もわかりません」

「......しかたない」

 おれたちは外へとなんとかにげた。

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