たまたま神さま、ときたま魔王

曇天

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第六十六話

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「ここは......」

 ザイクロフトから北にむかった山に廃墟があった。 石で作られたかなり古いものだ。

「かつての都市あとですかね......」

「みたいだな...... 魔力は」

「この奥、かすかにつづいています」

 奥へと進むと、古い小さな城があった。  城は朽ち果て天井もない。

「奥にいます......」

 セイちゃんがそう緊張している。

(おれたちは精霊の力で姿を消している。 一応戦える策も用意している)

 奥へと進むと、黒いローブの男が何か大きな球体のもののまえにいて操作している。

(こいつも、リズミラでみたやつのように死者かもしれないが、仕掛けるなら今!)

「見つけたぞ! アグザ後ろだ!」

 突然声がして、おれはセイちゃんを抱いてとんだ。

 黒い炎が横をかすめる。

「くっ!」

 みるとハエのような小さな虫がとんでいる。 それが集まると大きなハエへと変わった。

「キヒホッ! おしいな!」

「バグラか!! 死んでなかったのか!」

「体を分けていたのさ」

「......ここまで来るとはな......」

 ローブを脱いだ。 その姿は若い整った顔の長い黒髪の男だった。 

「お前がアグザか......」

「......ああ」

「なにがしたいんだ。 ザイクロフトもリズミラもお前たちに操られただけか......」

「......そうだ」

「魔王復活をなぜもとめる」

「聞いたはずだ。 この世界の滅亡、それが私たちの望み......」

「なぜ、そこまでしたいんだ」

「いってやれよ。 名もなき勇者さま」

 バグラは茶化すようにそういう。

(勇者......)

「......その呼び方はやめろ」

「いいだろうが、お前はかつての勇者、愛神アストによって魔王を倒すために産み出されたあわれな兵器。 キヒホッ」

「アストに作られた兵器......」

「そうだ。 そいつはこの国バストアの王子ジェグロム。 しかし魔王を倒すという美名のもとに、アストの力で人間じゃなくなった。 そして魔王を倒したあと、自分の国も人間たちによって滅ぼされたかわいそうな勇者」

 黒い炎がバグラをもやす。 キホヒッと笑い声を残してバグラは影へときえた。

「それで人間を滅ぼすのか......」

「............」

 黒い炎がおれへ向かうが、おれは払いのけた。

「私の消せない闇の炎を......」

「お前の事情はしらないが、とめさせてもらう!」

 アグザにセイちゃんの風がおそうが魔力障壁に弾かれた。 

「私の力でもきれない! この魔力障壁は!? 負の魔力!!」

「精霊か......」

「おれの黒魔弾《ブラックバレット》なら!」

 おれの魔力の黒弾が、魔力障壁を激しい音をたて貫通し、アグザへと当たる。

「ぐっ...... お前も負の魔力をあつかえるのか......」

「アンデッドをとめろ」

「......断る」

 おれは再び魔力弾を放った。

「その程度なら負の魔力を重ねれば......」

 アグザの体から黒い炎がたちのぼるが、それを炎を吹き出した弾がアグザを貫いた。

「なっ...... ばかな...... これは炎」

 膝まずいてアグザは驚いている。

「精霊を込めた精霊黒弾《エレメントバレット》だ」

「負の魔力に精霊を...... 何者だきさま。 ただの人間じゃないのか......」

「神だよ」

「神...... アストの仲間か」

「違う。 でもアストは人間の神なんだろ」

「......やつらは真の神などではない」

「やつら...... どういうことだ...... 魔王を倒すためにアストはお前を勇者にかえたんだろ」

「確かにおれは勇者になった...... アストの力で闇の魔法がつかえるようにな。 だが魔王を作ったのも神たちだ」

「なっ......」  

 セイちゃんをみると同じく驚いている。

「神さまが魔王を...... どういうことだ」

「人間もモンスターも、やつらの人形にすぎない。 バグラのいったとおりだ...... 勝手に作って滅ぼすのだからな」

 そう吐き捨てるようにアグザはいう。

「それがほんとうだとして、それでやつらの思いどおり、魔王を復活させてみんな滅ぼすのか」

「......いいや私は神どもに復讐するのだ。 魔王は死んだ、ならば......」

「まさか魔王のアンデッドを作るつもりか!!」

「お前がモンスターや人間たちを本当に守りたいというなら、私に力を貸せ、神を滅ぼすためにな」

「......その神はどこにいるんだ」 

「北の大陸だ...... 私がかつて魔王をたおすために訪れた【神の境界】にいくゲートがある。 まずはアルフレドにある魔王の体を手に入れる」

(どうする...... アグザは許せないが、もし本当に神が敵なら)

「ぐっ...... なんだ......」

 アグザのようすがおかしい。

「どうした?」

 その瞬間アグザの体が爆発した。 アグザが膝をついた。

「がっ......」

「なんだ!?」

 アグザがなにかをつかむ。 それは小さなハエだった。

「バグラ...... 貴様か」

「キヒホヒッ、マサトが開けた魔力障壁から影を入り込ませたのさ」

 そうアグザの影から、嬉しそうなバグラの声がする。

「くっ......なんのつもりだ。 貴様も神への復讐を望んでいるはず...... なぜ裏切る」
 
「いーや、俺は魔王復活を遂行するために、お前と行動しただけだ。 アンデッドを動かすのに使っていた魔力で強化した虫だ。 お前もこれなら殺せる」

「貴様......」

「お前の役目は終わった。 アグザ、いやジェグロム、苦しみながら死ね!!」

 アグザの影から無数の虫が飛び出てきて連鎖的に爆発する。

「ガッ、ガハッ」

 アグザはそのまま倒れた。

「キヒホヒヒッ!!」

 そう笑い声は遠くなっていった。

「アグザ!」

 おれは回復を試みたが、アグザの体が治らず、その体は炭化したようになり崩れていく。

「ダメです...... これは負の魔力が強すぎて、治すことはできません」

「......かまわない。 神に作られた負の魔力でできた滅ばぬ体だったのだ。 これで皆のところへやっといける」

「それで復讐か......」

「......ああ、神への恨み、力を望んだ自分の愚かさ、国を滅ぼされた怒りで、体に満ちる負の魔力に飲み込まれていた。 多くの者を苦しめてしまった...... すまなかった......」

 後悔したようにつぶやく。

(負の魔力から解き放たれて理性が戻ってきたのか......)

「それで魔王の復活はどうとめればいい」

「......お前はモンスターを魔力結晶にできるのだろう。 私の残りの魔力を結晶化して使え、人々から奪った魔力がたまっている...... それを使え」

「いいんだな」

「ああ、やってきたことの罪滅ぼしには...... とてもならないが、せめて最後に......」

「......わかった」

 おれはアグザを魔力結晶化させた。 その最後の顔は後悔してるようにも安らかな顔のようにも見えた。


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