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第七話

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 遺跡には地下へと続く階段があった。

「どうしたリン、地下へは入っていかないのか、そうかあきらめてくれるのか!」

 アエルは嬉しそうにいった。

「いいや、こっちにきてもらうだけ」

「きてもらう?」

 怪訝な顔をしているアエルをみながら、私は【遠隔透視】《リモートビューイング》を使った。

 遺跡地下は迷路のようになっており、モンスターがうごめいている。 十階ほど下に赤い肌を持つ翼のはえた人型の生物が座っている。

「こいつがレッサーデーモンか...... 悪魔みたいだな。 呼ぶまえに一応の用意をしておこう。 【召転移】《アポート》」

 さっき買った槍の束をここに転移させた。

「これは、さっき買った槍?」

「アエル、少し離れていて、ここにレッサーデーモンを呼ぶから」

「呼ぶ?」

「【召転移】《アポート》」

 目の前にレッサーデーモンが現れた。

 その瞬間、レッサーデーモンはその翼で空へと飛び上がる。

「なるほど判断が早い。 【念話】《テレパス》」

「人間、魔族を、認識、攻撃を開始」

(知能はある...... ただ心は無機質で感情の揺らぎがない。 まるで人形のよう。 対話は無理か)

「【念力】《サイコキネシス》」

 全ての槍が宙にまうと、空にいるレッサーデーモンを囲み一斉に刺さる。

「身体損傷、回復...... 再度、攻撃指定」

 すぐに傷が治っていく。

「あれで死なないのか...... 【地念力】《アースキネシス》」

 槍を変形させる。 レッサーデーモンの体からウニのように長い針がとび出した。

「重大損傷、回復を重視......」

「まだか、【雷念力】《ヴォルトキネシス》」

 雷撃を放つとレッサーデーモンが轟音とともに光り輝き、そのまま地面へと落ちてきた。    

 落ちたレッサーデーモンの体から煙が立ち上ぼりそのまま動かなくなった。

「す、すごい、あのレッサーデーモンをなにもさせずに倒すなんて」

 アエルはただ呆然とやけ焦げたレッサーデーモンを見ている。

(確かにタフだった。 普通の生物とは思えない)

「まあ、これでかなりの金額を得られる。 住むために必要な道具や物資を手に入れよう」

 私たちはギルドに戻った。


「まさか...... レッサーデーモンを倒すなんて......」

 レッサーデーモンの遺体をギルドに持ち込むと、マムラさんは息をのんだ。

「さすがに戦いは回避すると思ったのですが......」

 そうマムラはんは言葉すくなに語った。

「まさか、レッサーデーモンまでやったのか」

「前に戦争が起こったとき、一体で国の一部隊を壊滅させたよな......」

「ええ、それを、たったふたりなんて......」

 周囲の冒険者たちもざわついている。
 
(確かにあのタフさなら納得だ。 かなり目立ってしまったな。 怪しまれると困る。 お金を得たらさっさと家にこもるとしよう)

 お金を得ると、物資を山のように買い、馬車数台に乗せると、足早に町を離れた。


「よし、正確に届いている」

 家に戻ると、大量の物資がうずたかくつまれていた。

「それってどんな魔法なんだ!! 教えてくれ!」

 アエルが興奮気味にいった。

「これは私にしか使えないんだよ。 それよりアエルはこれを覚えてくれない」

 そうアエルを軽くいなしながら、本を渡した。

「使えない...... これは大地と樹木の魔導書?」

 アエルは不満げにいい、渡した魔導書を手に取った。

(この世界の魔法は魔素を使い、コードという特定の文字や言葉で発動する。 それがかかれているのが魔導書だ。 私にも使えるらしいが超能力《サイキック》でもかなり疲弊するから、覚えなくてもいいか)

「必要なとき以外は町に行きたくないんだ。 だから畑を作ろうと思ってる。 それはゆっくり覚えてくれればいいよ」

「なるほど、これで畑の土壌をつくり、果物や野菜を作るのか」

「そう、あとは少し周囲を回って探索したい」

「わかった。 まっててくれ」

 アエルはそういうと家のなかに戻り、ワンピースに着替えてきた。

「その格好でいくの」

「ああ、リンがいれば鎧なんて着ないでもいいだろ」

 そう上機嫌で手でヒラヒラとスカートを動かしこたえる。

(ずいぶんご機嫌だ。 よっぽど服が気に入ったのか...... まあずっと深刻な顔をしていたし、まあいいか)

 嬉しそうなアエルをみて私は少し安心した。

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