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第二十一話

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「それでどうやって、ラグオーンを呼び出すんだ?」

 大臣の屋敷からでた私はアエルに書類を見せた。

「それはリンが作った書類だろう?」 

「いいや、これはラグオーンの所にあった書類だよ。 それをすり替えておいた」

「あっ! あの時出掛けたのはすり替えるためになのか、でもなんのために?」

「私が作った【念写】《ストコグラフ》は、能力を解除すると文字が消えただの紙になる」

「なくなったことに気づくな」

「それでケイレスにはラグオーンに書類のことを伝えるようにといったんだ」

「それで取り返しに来るのか?」

「多分ね、この書類はラグオーンにとって重要なもの。 ヤゼルオ伯爵への切り札でもある。 取り返しにくるはずだよ」

 私はそういって書類をみる。


「待ってたわ」 

 ナーフにつくとケイレスがそこにいた。

 町の方を指差している。 そこにはラグオーンが冒険者たちといる。

「あなたのいう通り、ラグオーンに伝えたわよ。 でも私たちの仲間の他に地下へ武装した者たちが大勢はいっていったわ。 襲うたに待ち構えてる」

「ええ、わかってる。 ありがとう」

「いくつもり? あの人数、私たちが加勢してもきついわよ。 かなりの人数がいる」

「問題ないよ。 ケイレスたちは退避して、あとでバルメーラ大臣に恩賞を出してもらえるようになってるから、会いに行って」

「......そういうことじゃないの。 死ぬのがわかっていて、いかせるわけにもいかないってことよ」

「そんなことを言ってもリンには通じないぞ」

「みたいね...... はぁ、しかたないか」

 ため息をつきながらケイレスもついてくる。 

 私とアエルたちはラグオーンのもとに近づく。

「貴様が手紙を寄越したものか」

「ええ」 

 書類の一部を渡して見せた。 

 ラグオーンの顔色が変わる。

「くっ、本物! どうやってそれを手に入れた......」

 そういってラグオーンはこちらをにらんだ。

「そんなことはどうでもいいでしょ。 これを買うの、買わないの」

「いいだろう...... だが、これは全てじゃないだろう」 

「ええもちろん。 あなたの噂は聞き及んでいるから。 取引が終わるまで別の場所においてある。 当然でしょ」

「ちっ、わかった。 前金はここに用意している。 残りは全ての書類を手に入れてからだ」

 ラグオーンはこちらをにらみ、口惜しそうに唇をかむと、後ろにいるものたちに袋を持ってこさせる。

「これでいいな」

 袋の中身は金貨がつまっていた。

「ええ、でもあの地下の機械はなんなの?」

「なに......」

(なぜこいつがあれのことを......)

「知っているメモリアを作るものでしょ」

(まさか、フォグのことを知っているのか)

「フォグ...... あの人から聞いたからね」

 かまをかけると、ラグオーンの表情が厳しくなる。

「......やはり、あの男が話したか!」

(フォグめ...... ゼヌエラはやはり何かたくらんでいたのか、あまりにうまい話すぎた)

(フォグとはゼヌエラの人間......)

「もういい、金だ。 残りの書類を渡せ!」

 苛立つラグオーンから持っている袋をうけとった。

「残りはどこだ......」

「それは渡さない」

「なんだと!? ふざけるな貴様!!」

 ラグオーンは激昂する。

 そのとき、後ろから騎馬兵と馬車が近づいてくる。

「なっ! あれは」

 ラグオーンは驚く。 騎馬兵の後ろの馬車からバルメーラ大臣が降りてきた。

「これを」

 私は交換した金貨の袋を見せた。

「つまり、あの書類は本物ということかラグオーン......」

 大臣はそういってラグオーンをみる。

「まさか、もう大臣に書類を......」

「そういうことだよ。 あなたとヤゼルオの罪は確認した。 ヤゼルオはもう別件で拘束している」 

「くっ! ならば! お前たちこのままだと、私ともども死罪だぞ! こやつらを殺せ!」

 地下から武装した兵があがってきた。

「アエル」

「わかった!」

 ーー水よ、汝の荒れ狂うその身を、うちつけよーー

「ビルド、ウォーターウェーブ」

「【冷念力】《クライオキネシス》」

 ラグオーンの私兵に波が叩きつけられ、それが凍った。 ラグオーンの周囲をケイレスたち冒険者と大臣の騎馬兵が囲む。

「そ、そんな......」

 槍を突きつけられ、ラグオーンはその場に膝をついた。
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