上 下
26 / 51

第二十六話

しおりを挟む
「人も増えてきたなリン」

 町を歩きながら、アエルはそういった。

「ええ、他の町にいた貧困者やはみ出しものが集まってるからね。 でも問題もある」

「やはりあれか食料か?」

「そう、ナーフにしか果樹園や畑はない。 今は売ったもので需要に対応しているけど、買い取ることで食品は高値になってきているんだ」

「なら農地が必要か......」

「そうだけど、そう簡単じゃない。 モンスターに魔族、土地を広げるのも危険がある」

「確かに土地を広げるのには、壁を移動してモンスターの侵攻を阻まないといけないしな。 それでどうするんだ?」

「サフィーナさんの話だとここから東側に海があるらしい」

「海ってなんだ?」

「アエルは海を知らないの? 巨大な水だよ」

「ああ、湖?」

「もっと大きい、湖よりはるかに大きな場所だよ」

「?」

 いまいちイメージができないのか、アエルは首をかしげている。

 ここには地図がなかったので最大の【遠隔透視】《リモートビューイング》でみたが、ここは島国らしく海にかこまれていた。

「すべての国を囲うぐらいの大きさ...... 嘘だろ」

 アエルは驚いている。

「しかし、ナーフの町から東はかなり魔族の領域に近づくぞ」

 不安そうにダンドンさんがいった。

「てすね。 先に二つの町の防備を固めてからにします」

 そう私がいうと思い出したかのようにアエルは真剣な顔になった。

「......そうだった。 下位魔族がみんないなくなったから、多分召喚で兵力を増強しているはず......」

「だから壁はなるだけ厚くしておきたいんだ」

 そう私がいうと、アエルは静かにうなづく。

 それから半月かけて壁を強固にした。


「二つの町とも壁に金属版を張り付け、リンさんにいわれてつくった火薬つきの大量の大型ボウガンなどを備え付けた。 これでモンスターの侵攻にも対応できる」

 ダンドンさんはそういって胸を張った。 

「そうですね。 じゃあ海まで領域を拡大させましょう」

「なら、私もついていくよ」

 ケイレスがそういう。

「そうだね。 頼むよ」

 私とアエル、ケイレスは海を目指してむかう。

 
「すごいな! みろリン! 見渡す限り水だぞ! うわっ! しょっぱい!」

 アエルは砂浜ではしゃいでいる。

(これで海までのモンスターはあらかた倒したか、魚はいる。 でもモンスターは海にはいないみたいだ。 なぜだろう)

 私たちは海まで空を飛び三日あまりでついていた。

「とうしたケイレス? 海だぞ」

「いやどうしたじゃないでしょアエル! ここまでどれだけのモンスターを倒したとおもってるの! 1000体はいたわよ! どうなってるの!」

「そうだけど......」

「そうだけど...... じゃないわよリン! なんなのその魔法、モンスターが簡単に吹き飛んだ。 めちゃくちゃだわ」

 ケイレスは飽きれたようにいうとアエルがうなづく。

「まあな。 私はもうなれたが......」

「そんなことより、ナーフからこれだけの距離だと魔封珠は効果ないね」

「そんなこと...... まあいいわ。 ここにおいておけば、ここまでは壁を作ればいいじゃない」

「そうだね。 ここなら海産物もとれるし問題ない。 よしここに魔封珠を持ってこよう。 なに、この感じ......」

 いやな感じを受け【遠隔透視】《リモートビューイング》を行う。

 なにかが空から近づいてきていた。

「あれは...... 魔族か!」

「本当か! リン」

「見えたわ! 二人」

 小さなワイバーンにのり甲冑をきたものたちがこちらに飛来する。

 各々が風、氷といった魔法を放ってくる。

「【瞬間移動】《テレポート》」

 その場からはなれる。

「リン! あれは上位魔族だ!」

「ガイエルたちと同じか、【念力】《サイコキネシス》」

 甲冑の兵士を念力で拘束してワイバーンごと地面に落とした。 上位魔族らしきものは立ち上がる。 一人が兜を抜ぐと、銀髪に大少の角が左右にはえている魔族の少女だった。

「アエル...... 生きていたのですわね。 あの時死んでいれば苦しまずに死ねたのに」

 そう悲しげに魔族の少女は目を伏せた。

「アストエル......」

「あなたは私の手で殺してあげますわ。 あなたはそっちの人間を」

「............」

 巨大な二本角の甲冑の魔族が無言で長剣を抜きこちらにせまる。

「なめないでよね!」

 ケイオスが剣をぬくと、魔族のふるった剣をうけた。
しおりを挟む

処理中です...