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第三十五話

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 私たちはバルメーラ大臣に呼ばれ屋敷へと訪れていた。

「それで......」

「ああ、ダルグタール大臣は逝去された。 君たちが帰ったあと、ご自分で喉を短剣でつかれたそうだ」

 表情もかえずにバルメーラ大臣はいった。

「......そうですか」

(これが政治か...... 嫌な感じだ)

「まあ、これで貴族たちは統制を失った。 今や私にすり寄ってくるものたちも多い。 これで反抗の芽は当分でないだろう」

 バルメーラ大臣は窓のそとをみながらそういった。


「それでどこにいくんだ?」

 アエルがそういう。 私たちは帰り借りた馬車にのり走っていた。

「ずっと気になことがある...... アエルは町にいてもよかったんだけど」

「いや、ついていく。 それで気になることってなんだ」

「ラグオーンがゼヌエラから手に入れた機械のこと」

「ああ、メモリアとやらを作れる機械か...... それがなんだ」

「なぜゼヌエラは薬を作らせたのかってこと」

「貴族を薬漬けにしてダメにしたかったとか」

「あれには依存性も害悪もない...... サフィナさんの話だとこの世界には他にも依存性のある薬のものはたくさんあるらしい。 なのにわざわざあの薬を売らせていた......」

「だったら、お金がほしかったんじゃないのか。 体に悪くないなら貴族たちに多く高く売れる。 ゼヌエラは貿易をしていないんだろ」

「それも考えたが、ラグオーンを調べたら金をわたした形跡がないらしい。 ギルドにいけばなにかわかるかもしれない」

 私たちはギルドに向かった。

「いらっしゃいませリンさん、アエルさん」

 ギルドに入るとマムラさんが声をかけてきた。

「ゼヌエラに関する話か、依頼ってあるかな?」

「ゼヌエラですか...... さすがに国交もないから依頼はないですね。 でもゼヌエラから逃げてきた人がいます。 ほらあそこに...... セリナさんです」

 マムラさんがいうほうに、一人食事を取っている女性セリナがいた。

「少し話を聞きたいんだが」

「なんだ......」

 長い黒髪の女性セリナに話を聞いた。 彼女は壁をつくったように冷たい感じがした。 

「ゼヌエラのことについてなんだけど」 

「よくは知らないな...... 私は逃げてきただけだからな」

 そうそっけなくこたえる。

「なぜ逃げてきたんだ?」

 アエルがそう聞いた。

「......あそこは地獄だからだよ。 十年前にザルギードが独立してから、外界とたたれ、貧困と支配される場所になったからだ」

 そういって目を伏せた。

「ザルギードはなぜ独立なんかしたんだ」

「......さあね。 ただ強い、勇者だからな。 従う以外にない」

 アエルをみると震えている。

(......勇者とはそれほどか、確かにゼヌエラは小国らしいし、ラクエスが滅ぼせないわけもない。 それほど個人の力が常識を逸脱してるってことか......)

「そうか、ありがとう。 あとフォグという人物は知っている?」

「フォグ...... ザルギードの側近の貴族だな......」

(ということは、やはり国絡みってことか)

「まさか、ゼヌエラにはいるつもりなのか!」

 帰ろうとすると後ろから止められる。

「ああ、気になることがあるんだ」

「一体なんだ?」

「古代の機械をつかい薬を製造して、こちらにながしているようなんだけど」

「古代...... 確かにゼヌエラは遺跡が多い。 それでどうやって入るつもりだ。 兵士が常駐して警備している。 それに...... 私はモンスターの襲来のどさくさで逃げてきたんだぞ」

「このリンならそんなもの簡単に突破できる」

 そう横からアエルが鼻息荒く答えた。

「そんなはずは......」

 セリナは口をつぐむ。 そして口を開いた。

「ならば私もつれていってくれ」

「どういうこと?」 

「ゼヌエラには詳しい。 それに私の母がそこにいるのだ。 もう一度だけでも会いたい」

(嘘はないか......)

「わかった案内を頼める?」 

 うなづくセリナとともにゼヌエラへと向かうことにした。
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