来る気がなかった俺の異世界冒険記 ~転生させた女神が承認欲求モンスターだった~

曇天

文字の大きさ
6 / 60

第六話

しおりを挟む
「ラッキーでしたね! 杖とローブまで手に入れられました! これ魔力軽減のローブですよ! こっちは魔力増幅の杖です!」

 そう無邪気にティティは喜んでいる。 俺たちは【シルバービッグ】というモンスターを狩りに草原へとやってきていた。

「それはいいけど、これ本当に大丈夫だろうな。 呪われてないよな」

「ありえません。 私が言うんだから」

(それがすこぶる不安なんだよな。 まあ細工とか精巧だし、かなり高価な剣のようだけど...... というか日本刀だよな。 この世界に刀? 売り主がげっそり痩せ細って返してきたって話だが)

 おれは刀を抜いて考える。 刀身が美しく輝く。

「そんなことより、ほらあそこ! あれじゃないですか!」

 ティティは草原の奥を指差している。

「ん? あれか」

 遠い草原の中に銀色の毛をもつ豚がいる。

「ええ、シルバーピッグです! やっと食べれるお肉ーーー!! 我々貧乏でお肉なんて久しぶりですよ!」

「まて! あの銀の体毛は鋼なみなんだぞ!」

 そういって止めたがティティは走っていき、シルバービッグにぶつかられ宙をまった。

「た、助けてくださーい! 助けてくださーいレージさーん!」

 お手玉のようにピッグたちにぶつかられて宙をまうティティを横目に、別のシルバーピッグに近寄ると俺は新しい刀をふるう。

「ヴァリアブル【切る】】 

「ブヒィィ!」

 刀はモンスターのその硬い毛皮を簡単に切り裂いた。

「すごいな! なんて切れ味だ!」

「た、助けてくださーい! 聞いてますレージさん!? 女神さまが助けてっていってますよー!!」

 すこしだけ横目でその姿をみる。 そして他のモンスターをさがす。

「これならこいつらを狩るのは難しくないな」


「よし十匹狩れば十分だろ! 頼まれたのは八匹だしな」

「......ひどいです。 私が空中をまってたのに、笑いをかみころしてましたよね。 助けを求めてたのに、飛ばしているモンスターだけ狩りませんでしたよね......」

 泥だらけになったティティが恨めしそうにいった。

「俺がまてといったのに突っ込むからだろ。 お前は攻撃方法がないんだから」

「だって、だって! 私もモンスター倒したかったんだもん!」

「そんなことはいいから、さっさと浄化と回復使えよ。 余った肉をさばくんだろ」

「そうでした! クリア、ヒール!」

 きれいになったティティは早速豚の調理にはいった。

(お金がういた分、調理道具を無理やり買わされたからな...... 雑貨屋でじたばたと地面に寝転がってただこねられたし、本当に料理なんてできんのかよ。 嫌な予感しかしないな)

 だが予想に反して手際よく豚を解体して、クリアを使い肉を取り出していく。

「さて、これからお肉を焼きますよ!」

 そういって肉を焼くと、付け合わせの食材を盛り付けている。

「さあ、できましたよ!」

 待っていると、きれいに盛り付けられた料理をだされた。

「さあ、どうぞ!」

「ああ、いただきます......」
 
(見た目はきれいだ。 それが逆に恐ろしい。 だがただ焼いて塩をかけただけ、まさかこの見た目で食べられないとかないよな)

「う~ん、おいしい!!」

 ティティは山盛りの肉を頬張り美味しそうに食べている。

(こいつどんだけくうんだよ。 まあ自分で食べてるなら大丈夫か...... いやまて! こいつは頭が壊れている! 味覚や胃腸が壊れていてもおかしくない!)

「ほら! 遠慮しないで! おいしいですよ!」

 期待の眼差しでこっちをみている。

(し、しかたない! 腹をくくるか! 最悪死んでもこの面倒なことからにげられるとポジティブに考えよう!)

 目をつぶり口にはこぶ。

「!!!」 

「うまい!! 予想に反してうまい!!」

「予想に反してってなんですか!」

「ま、まさか、こんな特技があったとは! フルポンコツだと思っていたが......」

「フルポンコツってなんですか!?」

 俺はティティを見直した。  

「さて、もう一口...... あれ?」

 皿にはなにもなかった。

「あーー! 私のお肉が!!」

 取り乱したティティがこちらをみた。

「......レージさん。 そこにお座りなさい」

 そういってティティは正座してこちらをみる。

「なんだよ」

「このような殺伐とした世界でも、人としての道を失ってはなりませんよ」

「どういうことだ?」

「人のお肉をとるなど、人としてやってはならぬこと」

「取ってないわ!」

「私はあなたの守護者、つまり保護者のようなもの。 厳しくなるのもしかたなきこと、これはあなたのためなのですよ」

「だからとってないっての! 俺の肉もなくなったんだって!」

「はい、はい、もう一度作ります。 最初からつくってほしいといってください。 食いしん坊なんだから」

 そうため息をつき、立ち上がった。

「ちがう! 俺じゃない!」

「......犯人はいつもそういう」

 そういってティティは俺をじとっと横目でみて、肉を調理に向かう。

「ちがうのに! くそっ! これじゃ俺が意地汚いみたいだ!」

「あっ!」

 そういうティティのほうに向かう。

「なんだ! 指でも切ったのか!」

「いえ、お肉が......」

 そこにあった生肉がなくなっていた。

「......生肉は命に関わるぞ」

「食べてません! ここにおいといたんです! でも......」

 ティティは首をかしげている。

「しかし、ここには俺とティティしかないしな」

「ですよね...... いえ何かの気配がします」

 そうキョロキョロとティティは辺りをみまわした。

「気配? なんにもないけど」

「ふふふっ、私からお肉を奪うとは...... ふふふっ」

 そうティティはバキバキの目で残りの肉を解体しはじめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...