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第三十三話

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「わーちゃんはなんのために大神殿なんかに? いやそんなことより、こんなところで見つかったら、さすがにわーちゃん一人じゃ倒されてしまう」

 オレは雪道を走り、夜には法王国の大神殿へとたどり着いた。 閉じられた門をフィニシスオーバーを使い突破する。

 ドワーフの建造物に負けない荘厳な建物がそこにある。 大勢の白いローブを着た信徒が中にいて、町のようになっていた。 その中央に塔のような建物があった。 

「一応、マゼルダが隠蔽の魔法をかけてくれたけど、いつ解けるかわからない、できるだけ人との接触をさけないと......」

 神殿にはいり中を歩くと、騎士とみられる武器を携帯するものたちが巡回している。 

「しかしわざわざ他国に遠征してまで、モンスター討伐とは、なぜ法王はあそこまでモンスター討伐に躍起になるのだ」

「......わからぬ。 国民の不満も日増しに高まっている。 それはそうだ。 生活にモンスターは必須、奪えば死ねということ同義」

「だが法王の命だから、仕方あるまい......」 

 そう三人の騎士がはなしあっていた。

(法王の命令なのか......)

 オレは塔の中にはいる。 そこは普通の信徒とは違う、刺繍のはいった色つきのローブの者達が歩いている。

(外にいた白いローブを着たものはいない。 ここは信徒でもかなりの高位のもの以外入れないみたいだな...... いや早くわーちゃんを探さないと、でもこんな所でなにをするつもりなんだ) 

 取りあえず中央に行くと、上下に螺旋状の石階段があったので、降りていってみることにした。 最下層には大きな部屋があり、のぞいてみる。

 そこには巨大な透明な球体があった。

「なんかデカイ球体があるな...... あの魔王城への転送装置みたいだ」

 オレは引き返し上の方へ螺旋階段を登る。

(わーちゃんはどこにいる?)

 最上階につくと、大きな柱がたつ部屋の中、身に付けているものから他のものより高位だと思われる司祭らしき人物が、中央にある翼のある四本腕の像に祈りを捧げている。

 オレはゆっくり柱の影で司祭をみる。

(あれは多分法王か...... 気にはなるが、先にわーちゃんを探さないと)

「何者です! 隠れていますね! でてきなさい!!」
  
 司祭は振り返りこちらに向かって叫んだ。

(やべ! ばれた!?)

 すると、俺の前にわーちゃんが姿を現した。

「わー......」

 オレはいいかけて止めた。 その威厳ある姿はいつものわーちゃんではなかったからだ。

「アンデッドだと...... わざわざこんなところにでてくるなど、神への贖罪のつもりですか」

「......贖罪、お前こそ罪を償わねばならんだろう」
 
(わーちゃん、こいつのこと知ってるのか?)

「......誰だ貴様...... 何をいっている」
 
「自らしたことを忘れるとはなガーシオン、いや今はゼフトワイニといった方がよいか」

「なっ!? なぜその名前を! ま、まさか、あなたはアーヴァインさまなのか!!」 

(......ん? アーヴァインってどこかで、ほぎゃあ!! アーヴァインって八代目法王じゃん! わーちゃん元法王なのかよ)

「だが、あなたはアンデッドとなり昇天したはず...... なぜ今ごろ......」

 ゼフトワイニは狼狽して聞いた。

「私はお前に強制的にインフィニティオーバーさせられ、アンデッドにされたとき、最後の魔力で転移した。 しかし暴走する魔力で記憶を失ったのだ。 だがかつてみた氷結洞窟の景色で記憶が戻った......」

(あの時か、それで記憶が......)

「なるほど、法王としての資質をもち、最高の魔法使いでもあったあなたならば、そんな芸当も可能ですな...... それで私を殺しにでもきましたか」

「そんなつもりはない。 死んだ我が身の復讐など愚かなことだ...... なぜお前は私を殺した。 いやそれよりなぜモンスターを討伐させている。 そして下にあったあの魔法装置はなんだ?」

 焦ってはいるが冷たい目で見つめるゼフトワイニに、わーちゃんは静かに聞いた。

「......あなたが悪いのです。 歴代でも優秀だったあなたがあろうことか邪悪なモンスターとの共存などをはかろうとするなど、死して当然の神への冒涜です!」

 そうゼフトワイニは少しにやつきながらいう。

「......確かに教義では、モンスターを人の敵と認め討伐を美徳としていた。 しかしこの過酷な地にすむものはモンスターなしでは生きては行けぬ。 いやそれはモンスターも同じことだろう」

「だからあなたは教義を! 神を裏切ったと!」 
 
「......かもしれぬ。 教義はひどく偏狭だった。 モンスターのみならず、神を信じぬものは敵とし、人間の争いを助長し、憎悪を高ぶらせる教えに私は疑問をもった。 自らを信奉しなければ敵とする神など、人と同じではないかとな」

「神こそ至高! 神の言葉こそ絶対! 不信など悪!! 故に私はあなたを! いや貴様を殺したのだ!」

 そうゼフトワイニは声高らかに語る。   

「それはおかしいな......」

「なにがだ!!」

「お前自身がそれを破っている!! ダークスフィア!」

「まっ!」   

 わーちゃんがオレが止めるまもなく、魔法で司祭を吹き飛ばした。 しかし倒れた司祭は立ち上がったが、その顔は骸骨だった。

(な、なんだあれ!? あいつアンデッドなのか!)

「私と同じ時代を共に生きたお前は、本当ならば死んでいなければならない。 年もとらず死にもしない。 やはり自らをもアンデッドと化したのか」 

「クックック...... そうですが、それがなにか......」

「教義では、そんなことは許されてはおらん。 お前とて教義を破っておるだろう」
 
「......いいえ、私は破ってなどおりませんよ」

 その時、階段を上り騎士達がやってきた。

「法王!! いまの音は! なっ、骸骨!? それに法王その姿は一体!!」

 騎士達がこちらをみて困惑している。

「驚くには値しません騎士たちよ。 私は神に命じられたのです。 神への敵対者アーヴァインを射てと」

「アーヴァイン!? 第八代の法王!! ゼフトワイニさま! 一体あなたは何を!!」

「もういい、神により愛された私をそんな風に蔑むならば、あなたたちも消えなさい......」

 そう言うと右腕をかざす。 するとその手にあった指輪が怪しく輝き黒い炎が法王を包んだ。
 
(フィニシスオーバーか!!)

 ーー深淵より生まれし、漆黒の闇よ、光さえ飲み込み、はぜよーー

「ダースエクスプロージョン......」

 巨大な黒い闇が収束し、騎士団にむかう。 

「シャドープロテクション!!」

 大きな影となったわーちゃんが騎士団を包み魔法を防いだ。

「ぐぅ!!」

 影からでたわーちゃんが膝をついた。  

「なっ! お主! われらを守ったのか! やはりアーヴァインさまなのか......」

「に、逃げろ...... お前達を守りきれぬ」  

「どうやら前より強くなったようですね...... ですが、それは私も同じ! このフィニシスオーバーの力でね!」

「......かっていってくれんな。 人の仲間に何してくれてんだ」

 オレはわーちゃんの前に出た。

「何者ですか...... いつの間に」

「ま、マスター、なぜここに」

「いいからわーちゃんはじっとしてろ。 そこの騎士団わーちゃんを頼む。 命救われてんだろ」

「う、うむ、わかった」

 騎士団にわーちゃんを任せ、オレは法王と対峙する。

「貴様何者だ......」

「わーちゃんの仲間、家族だよ」

「その化け物の家族だと......」

「お前が人のこと言えた分際かよ」

「私は神の命を受けたのだ!! モンスターや人間が神の御力の前にこうべをあげるなど許されん!!」」

 黒い炎をまとい、法王は人とは思えない跳躍をした。

 ーー深淵より生まれし、漆黒の闇よ、光すら飲み込みはぜよーー

「ダースエクスプロージョン」

 法王から、黒い巨大な闇の塊が放たれ迫ってくる。

「まだ、あんな魔法を使えるのかよ! くっ! かわすとみんなが!!」

「ぴーー!」

 俺の服からスラリーニョが飛び出した。 スラリーニョは空中でカットされた宝石のような形になると、そのどす黒い魔力の塊を弾いた。

「な、なんだと!? スライムごときがあの魔法を!!」

「ぴ!!」

「お前こそ、スラリーニョやわーちゃんの前にこうべをあげるんじゃねえ!!」  

 オレはフィニシスオーバーを使い、法王より高く跳び殴りつけた。

「グフッ!!」

 法王は地面へと落下し石床を粉砕した。 その時法王のつけていた指輪はくだけちった。

「な、な、なぜ人間が、神の力を......」 

「こんなもん神の力でもなんでもない。 感情から魔力を引き出す方法でしかないんだよ」

「ぐ、そんなはずはない...... あの方は神の力を与えてくれた...... そうだ、私は、わ、た、し、は、ぐおおおおおおお!!!」 

 法王の目が赤くなると黒い炎で衣服は燃えつき、骸骨へと化した。

「マスター!! ガーシオンは感情にのまれもう制御できません! このままだと暴走した魔力でここを全て消し去ってしまう!」

「......大丈夫だわーちゃん。 スラリーニョ」 

 オレは宝石の剣となったスラリーニョを持つと黒い炎ごと法王を両断した。

「グオオオオオオオオ!!」

 咆哮のように叫んだ法王は真っぷたつとなりチリに消えた。

「もう助けようもないな......」 

「構いません...... あやつは契約などしないでしょうから」

 わーちゃんがふらつく体でこちらに歩いてくる。

「ぴー!」

「たすかったぞ。 スラリーニョでもお前いつの間に、そうか、クエリア...... いやミリエルが忍ばせたのか!」

「ぴぴ!!」

 そううなづいているようだ。

「取り込み中、すまないが、事情を話してはもらえないだろうか......」

 騎士団長らしきものがそういった。
 
 信奉騎士団長マグランに事情を話した。

「そんな...... まさか、本当にあなたは八代法王のマーヴァインさまなのですか」

「ああ、このような姿になったのは、遥か昔、私の補佐ガーシオン、いやあのゼフトワイニに襲われ禁忌の魔法でワイトにされた。 その時反撃したことであやつも......」  

「......確かにゼフトワイニさまは突然現れた方でした。 いまにして思えばおかしなことですが、それが変だとも思わなかったのです......」

 マグランは思い出して、困惑しているようだ。

「おそらく強力な魅了の魔法を使って、違和感をなくしておったのだろう」  

「......しかし、にわかには」 

「まあ、別に信じる必要はないよ。 それより下にあったあの球体はなんだ」

 オレが聞くと、マグランはうなづいた。

「......あれは、法王が設置したものです。 理由はわかりません。 あと覚えているのは、モンスターを倒したあとこの指輪を騎士団員にみにつけさせるようにとも命じられましたが......」

 そういって小さな指輪をはずした。

「ふむ、おそらく魔力を吸収する指輪ですかな。 モンスターの魔力を下の球体におくるものでしょう。 ですがあの球体に魔力はなかった更にどこかに送ったのかもしれませんな......」

「魔力を集めているってことか?」

「そのためにモンスター討伐を進めていたということでしょうな」

(魔力を集めて何をするつもりだ......)

 オレたちは後始末をマグランに頼み、大神殿をあとにする。

「マグランもモンスターを捕縛したら、引き渡してくれるって約束してくれたし、よかったな」

 オレとわーちゃんは雪がふるなか帰っていた。

「......マスター、本当に申し訳ございません。 私事でこのような
ことに巻き込んでしまって」

「かまわないよ。 でもこのままでいいのか、この国の王様なんだろ」

「法王アーヴァインはとうに死んだ身、死んだものが現在の人々に干渉するは許されもますまい...... 私がここに生きていたのは失われた記憶を取り戻したかったから、故に帰ったらターンアンデッドにて昇天したく思います......」

 そうわーちゃんは静かにいった。

「それはだめだよ。 死んだのはアーヴァインだろ。 今ここにいる
のはオレたちと生きたわーちゃんだ。 前にいったろ。 オレは過去にはこだわらない。 わーちゃんもわーちゃんのいまを生きればいいよ」

「マスター...... 御意」

 長い沈黙があり、わーちゃんは静かにそう答える。 

 その被ったフードは雪のせいか、かすかに震えているようにも見えた。
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