とびらの向こうはおとぎの国 ~王子さまとドラゴンに愛され中~

このはな

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王子さまの気の毒な事情

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 そうじゃないといいなあとねがっていたけれど。
 本当に、本当のことだったんだ……!
 ボーゼンとなったわたしを見て、ジェイク王子もため息をもらす。
 わたしはハッとわれに返った。
「なっ、なんとかならない……かな……?」
 かすれ声で言うと。
 王子はまたひとつ、ため息をついた。
「なんとかって言われてもな……なんとかしてやりたいが、王子のおれが王さまの命に逆らうわけにいかないし……」
 や、やっぱり……!
「そっか、そうだよ、ねえ……?」
「ああ、すまんな……」
 とっても気まずい雰囲気。
 この場の空気をどうにかしたくて、アハハと笑おうとしたら。
「ジェイク王子! あなたがこのまま、チトセを逃がしてくれればいいのよ!」
 わたしたちの前に、ティファニーがパッと姿をあらわした。
「ティファニー! どこにいってたの?」
「いってたのじゃなくて、姿を消していたの。チトセのそばにずっといたわよ」
「なんだあ、そうだったんだー」
 わたしは大きく胸をなでおろした。
「いつのまにかいなくなっていたから、無事に逃げられたってわかってたけど、ずっといっしょだったなんてわからなかったよ」
「わたしがチトセを置いて逃げるわけないでしょう?」
「えへへ、ありがとう」
 笑顔で話すわたしたちを見て、ジェイク王子の目がまん丸になっていた。
「なっ、なんだ? チトセは妖精まで飼っているのか?」
 ティファニーは一瞬ポカンとし、やがてプーッとほおをふくらませた。
「失礼ね!」
「飼っているんじゃなくて、友だちだよ!」
 わたしは、ふくれっ面のティファニーのかわりに、あわてて訂正した。
「友だち? 妖精と友だちになれるものなのか……?」
 ジェイク王子の口ぶりから、この世界では妖精と友だちになるのはめずらしいことみたいだ。もっとも、現実の世界でもそうだけど。
「正しくは、ティファニーはわたしのじゃなくて、おばあちゃんの友だちなの。でも今では、わたしとも友だちだよ」
「友だち……? 学友の意味か?」
「がくゆう?」
 えーと、たぶん、『学友』って書くんだよね……?
 現実の世界にたとえたら、クラスメイトの意味になりそう。けど……。
「そうじゃなくて、仲間とか……親しくつきあうひとのことをいうんだけど……」
 自分で説明しながらも、どこかピンとこなかった。
 うーん、知らない言葉を教えるのってむずかしいなあ。
 王子さまには友だちがいないのかな。
 悩んでいると、とつぜん、部屋の前のろうかが騒がしくなった。
 とたんに、ジェイク王子はそばにあった机に、姿勢を正してすわる。
「どうしたの? 石みたいになって」
「シッ、だまってろ。おれはいそがしいことになっているのだ」
「はあ?」
 本を広げて読書をする体勢をとったジェイク王子。
 コンコンコン、とノックが鳴ったあと、とびらがひらく。
「ジェイクさま!! お部屋に戻っていらしたのね!」
 キレイな女の子がひとり、おおよろこびしながら入ってきた。
 机に近づき、足を曲げて優雅にごあいさつをしてから、おねがいするみたいに両手を組む。
「あしたは年に一度のカーニバルですわ! ぜひ、わたくしとおどってくださるとお約束してくださいませ!」
 すると、ジェイク王子は本から顔をあげて、目もとに笑みを浮かべた。
「これはエイプリルじょう
 と言って立ちあがり、彼女の手をとる。
「おとものものもつけずに、男の部屋に入ってきてはいけませんよ」
 そうして、うやうやしく手の指にキスをしたんだ。

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