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第四話 収集者ギルド

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 本日二話目となります。ご注意ください。
 途中で挟む説明の分は皆様にライオネルに共感してもらおうとあえて読みづらいようになっています。
 皆様も知っているあの・・説明と大まかなところは同じだと思うので、読み飛ばしていただいて構いません。

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(ん……? そういや収集者ギルドってどこにあるんだ?)

 リーオンと別れて歩き出したライオネルだったが、肝心の収集者ギルドの場所を知らないことに気が付いた。

(まぁそこらへんの奴に聞けばわかるだろう)

 ライオネルはそう考え、ちょうど向こうから歩いてきた薄茶色の綺麗な毛並みをした可愛らしい猫の顔を持つ猫人族ねこびとぞくの若い女性に声をかけることにした。

「おい、ちょっとそこの。聞きたいことがあるんだが」
「は、は、はいぃぃ!? わわ私は食べても美味しくないですよぉ!」
「は……? お、おい! ちょっと待て!」

 ライオネルが声をかけるとその女性は急に怯え出し走って逃げてしまった。

「なんだよ……俺ってそんなに怖いのか?」

 若い女性に逃げられたという事にライオネルはかなり落ち込んだが、収集者ギルドの場所を誰かに教えてもらわねば何も始まらないと考え、再び歩き出した。

(さっきは女だったから逃げられたんだ。男なら逃げ出すこともないだろう)

 そんなことを考えていると、前から普人族ふびとぞくの男が歩いてきた。その男にライオネルが声をかけようと目を合わせると、その男はすぐに目をそらしライオネルに背を向けて足早に去っていった。

(なんだアイツ……! むかつく態度だ!)

 その男の態度に憤慨したライオネルだったが、大きな街にやっと入ったのにこんなくだらないことで喧嘩して追い出されるのは嫌だったのでグッとこらえた。

(腹が立ったら、腹が減ったな……)

 今まで初めての大きな街を見た感動やいろいろなものを見た驚きで忘れていたが、グルドの街が近いからと急いでいたせいで朝から何も食べていなかったことに気が付いた。
 腹が減っていることに気が付くと、辺りからいろいろな香辛料やたれの香りが漂っていることに気が付いた。ギルドに行くことばかり考えていて周りのことに気が付かなかったようだ。

(幸いここらへんには屋台が多いからそこでなんか買って腹を満たそう。腹が膨れりゃいい案も思い付くだろ)

 大通りを挟み向かい合ってにおいや音による呼び込みが自然に行われている屋台をどれにしようか物色しながら歩いていると、ふと嗅いだことのあるにおいがライオネルの鼻に飛び込んできた。

(ん……? このにおいは二週間前に……)

 においにした方に行くと串焼き屋の屋台があり、そこでは普人族の男が肉の刺さった串を焼いていた。

「おっちゃん! おっちゃんもグルドの街に来てたのか! でもどうやって?」
「あん?」

 その串焼き屋の屋台の男は二週間前、ライオネルが初めて山を下りた日に食べた串焼き屋のおやじだった。

「誰と勘違いしてんだ? 俺はあんたみたいな強面の大男は知り合いにはいないね」
「え? ほら、二週間前に山の麓の村で串焼き売ってくれたじゃねぇか」

 ライオネルはあの初めて食べた串焼きの味が気に入って二週間経ってもその味を思い出して涎が出るほどだったので、串焼き屋のおやじをよく覚えていた。

「麓の村……? あぁ、そりゃ俺の双子の弟だ」
「はぁ!? 双子!?」

 屋台のおやじの顔はけっこう強面なのでそれの同じ顔が二人もいるという事にライオネルは驚いた。

「あぁ。若いころにこの街に二人して出てきて串焼き屋を二人でやってたんだが、お袋の体調が悪くなってきたもんだから弟は地元に帰ってそこで串焼き屋やってんだ。」
「へぇ~。そういう事だったのか」
「で、どうする? 串焼き食ってくか?」
「おう! 三本くれ!」
「まいどあり! 銅貨三枚だ」

 串焼き三本分の銅貨を払い、おやじから串焼きを三本受け取った。
 その串焼きを食べて腹が満たされると、収集者ギルドの場所を聞いて回っていることを思い出した。若いころからグルドの街にいる串焼き屋のおやじなら知っているかと思い聞いてみた。

「そういえばおっちゃん、収集者ギルドの場所知ってるか?」
「あぁ、知ってるぜ。この大通りの隣にもう一本大きめの通りがあってな、その中心あたりにあるぜ。盾と金貨と剣の看板がかかってる建物だ」
「おぉ! 助かるぜおっちゃん! 行ってみるわ!」
「おう、また来いよ~」

 ついに収集者ギルドの場所が分かったので意気揚々と歩き出した。

(あの串焼き屋の双子おやじはいつも俺のほしい情報をくれるな)

 そんなことを思いながら串焼き屋のおやじに教わった通りに進むと、看板が見えて来た。

(お、盾と金貨と剣の看板だ。ここが収集者ギルドか)

 その建物は他の建物と同じように白の壁に赤い屋根だったが、高さが他の建物よりも高く、入口の扉も重厚な印象を受けた。
 その扉を押し開けてライオネルは収集者ギルドに入っていった。

 ギルドの中はテーブルと椅子があり、そこで飲み食いしている男たちが居た。酒場としても利用されているようだった。その向こうにカウンターが三つあり受付嬢と思われる女性たちが各々の仕事をしているようだった。

 扉を開けて入ってきたライオネルにテーブルで飲み食いしていた男たちの視線が一気に集中した。

「随分とデカいな……。お前見たことあるか?」
「いや、あの人族種ひとぞくしゅは見たことがねぇ」
「背中に背負ってるのは大剣か? 鉄じゃねぇようだが……」

 ライオネルを品定めするような視線とひそひそ声を意に介さず、ライオネルはどこで収集者登録をするのかと周りを見渡した。
 ライオネルが入ってきた扉の正面には受付嬢の座ったカウンターが三つあり、「受注」「報告」「登録」と書いてあった。そのうちの登録と書いてある一番端のカウンターへとライオネルは進んだ。

 登録用のカウンターは受付嬢以外は誰もおらず、その受付嬢も何やら書き物をしているようだった。
 ライオネルはカウンター前の椅子を引いて座るといまだに書き物を続けている受付嬢へと声をかけた。

「収集者登録をしたいんだがここで合っているか?」
「はいはーい。ここで合ってますよ……ニャッ!?」
「ニャ?」

 声をかけられた受付嬢はペンを動かす手を止め顔を上げたが、ライオネルと目があった途端に奇声とともに固まってしまった。
 固まった受付嬢はカタカタと小刻みに震えだし、震える声で言った。

「わわ私を食べても美味しくないって言ったじゃないですかぁ……」
「は? なんの話だ……って、あぁさっきの」

 受付嬢をよく見てみると大通りでライオネルに声をかけられ、脱兎のごとく逃げ去った猫人族ねこびとぞくの少女だった。近くで見てみると愛くるしい瞳と薄茶色と白の毛並みが特徴的だった。

「別に取って食おうってわけじゃねぇよ。収集者登録をしに来たんだ」
「しゅ、収集者登録ですかぁ? ……なんだぁ良かったぁ」

 ライオネルがここに来た目的を告げると猫人族ねこびとぞくの少女は安心し、少し肩の力が抜けたように見えた。

「すいませんでした! 気を取り直して、収集者ギルドへようこそ! 本日は収集者登録でよろしいですか?」
「あ、あぁ、そうだ」

 ライオネルに少女を食べる気が無いと分かった途端に今までの情けない雰囲気が消え、柔和な笑顔と堂々とした雰囲気へと急変した受付の少女にライオネルは面食らったようだった。

「では、登録までのお手伝いをさせていただきます。私は収集者ギルド、グルドの街支部の収集者登録受付担当のコティーと申します。まず初めに、収集者登録には銀貨一枚が必要となります。お持ちでしょうか?」
「あぁ大丈夫だ」

ライオネルはブラックセンチピードの腰鎧の下にあるお金の入った革袋の感触を確かめながら答えた。

「では早速収集者について説明させていただきます。収集者は六級から一級までの階級に分かれています。この階級によって受けられる依頼が変わってきます。依頼の掲示板で自分の階級で受けられるものを受けていただきます。この階級は依頼の達成率や依頼主からの評価などによって上がっていきます。試験などはありません。あまりに達成率や評価などが低かった場合階級が下がったり、最悪の場合収集者の資格を剥奪することもありますので、自分が達成できると思った依頼だけを受けるようにしてくださいね。
 また、パーティを組んで依頼を受けることもできます。その場限りの臨時パーティを組むこともありますが、基本的にはある程度決まった人達でパーティを組むことが多いですね。その場合パーティメンバーとパーティ名を記載したパーティ登録用紙を提出しておいてくださいね。パーティにも階級がありますので皆さんで協力して階級を上げていってくださいね。所属するパーティの階級と個人の階級は別物ですので注意してください。パーティを組む利点としては、個人では受けられない依頼を受けられるようになることや個人で依頼を受けた場合にも依頼主によってはパーティの評価に加点してくださることもありますね。パーティメンバーが依頼主からパーティの評価を下げるようなことがあった場合には、そのパーティの評価に影響してくることをお忘れなく。
 それと収集者ギルドに国からの依頼が来ることがあります。これは受けなくてもいいのですが、受ければ個人及びパーティの評価に大きく加点されます。なるべく優先して受けることをお勧めします。
 依頼の達成率や評価、パーティについてなど貴方の情報が記載された収集者カードを後で発行します。これが無いと依頼など受けられないので無くさないようにしてくださいね。もし無くしてしまった場合、再発行料として銀貨五枚をいただきます。
 説明としてはこのくらいですかね。……って聞いてます?」
「んあ? ……聞いてるよ?」

 水晶の小刀をいじりながらギルドの中をきょろきょろと見渡していたライオネルは全く説明を聞いていなかった。グルドの街に入る前にリーオンから説明されていたので必要ないと思い聞き流していたのだ。

「はぁ……収集者になろうって人はこんな人ばっかり……。では最後に魔力の有無を調べます。この水晶に手を置いてください」
「え? いや俺は……」

 コティーがカウンターの下から握りこぶしほどの大きさの青色の丸い水晶を取り出した。魔力の有無といっても獅子人族ししびとぞくは魔力の代わりに闘気を使うため魔力は一切ない。そのことをコティーに伝えようとしたが、

「魔力は身体強化など人族よりも強い魔獣との戦闘には必須ですから、魔力が無いと収集者としてはやっていけませんからね。さっさと手を置いてください!」

 と、ライオネルの手を取って無理やり水晶の上に乗せた。
 しかしライオネルが水晶の上に手を乗せても水晶に変化は無かった。

「こ、これは……。ライオネルさん、あなたには魔力が無いので収集者として魔獣との戦闘は無理です。魔力が無いという情報は収集者カードに特記事項として記載されますので、戦闘系の依頼を受けることはほぼ不可能だと考えてください。街の外での素材の収集などの依頼も同様に不可能でしょう。それでも収集者になりますか?」
「うそだろ……。魔力が無いと収集者になれないのかよ……」

 ライオネルは収集者としての出鼻を挫かれ、二週間前の麓の村で味わったあの絶望感に再び苛まれ茫然とした。

「あら? あなた獅子人族ししびとぞくよね?」
「あ、あぁ、俺は獅子人族ししびとぞくだが……」

 コティーの後ろを通った、体が鱗に覆われた制服姿の女性がライオネルに声をかけた。その女性は普人族ふびとぞくに蛇の鱗を生やしたような見た目をしており普人族ふびとぞく蛇人族へびびとぞくの混血だと思われる容姿で、長い黒髪の背の高い綺麗な女性だった。

「私は隣の報告カウンター担当のカガシィーよ。コティー、この人は魔力が無くても収集者として問題ないわよ」
「え? 先輩、どうしてですか?」
「手引きの後ろの方の特記事項を読んでみなさい」
「えぇっと……ニャァ! 書いてありました!」

 コティーはカガシィーに促され、カウンターの下の手引きを取り出して最後のページを読むと素っ頓狂な声を上げた。

「なんて書いてあったんだ?」
「手引きには『獅子人族ししびとぞくの者は魔力を持たないが特例として収集者登録を推奨し、なおかつ五級から登録すること』って書いてありました!」
「そうか……、よかった……」

 コティーから告げられた内容にライオネルは心底安堵した。せっかくグルドの街に来たのに金が尽きては宿にも滞在できず出ていかなければならなくなるからだ。なので、手っ取り早く金の稼げそうな収集者になれるようで安堵したのだ。

「でも先輩、なんで獅子人族ししびとぞくの方は魔力無しでも登録を推奨しているんですか? それも六級を飛ばして五級から?」
「それはね、ここのギルドマスターが昔獅子人族ししびとぞくの人と交流があったみたいでね、『あいつらは魔力が無い代わりに闘気が使えるから、そこらの六級よりかよっぽど強い。だから獅子人族ししびとぞくが来たらなるべく好待遇で収集者にしろ!』って」
「へぇ~。だから素材集め系が主な六級を飛ばして、戦闘系が主になる五級からなんですね」

 あまり自らのテリトリーを出ることの少ない獅子人族ししびとぞくと交流があったというギルドマスターのことが少し気になったが、その交流のおかげで収集者として登録することが出来る幸運に感謝することにした。
 カガシィーはコティーに特記事項のことを伝え終えると、カウンターの後ろの書類が仕舞ってあると思われる本棚の方へと向かい書類の整理をし始めた。

「じゃあ改めて登録をお願いする」
「はい、失礼いたしました。この紙に貴方の名前を書いてください。字は書けますか? 書けないようでしたら代筆も行っております」
「いや、大丈夫だ。自分で書く」

 コティーが取り出した手のひら程の大きさの白紙の紙にライオネルは自分の名前を書きコティーに渡した。

「ライオネルさんでお間違いありませんか?」
「あぁ、俺はライオネルだ」
「ではこのお名前で登録し、収集者カードを発行させていただきます」

 そう言うとコティーはまたカウンターの下からさっき魔力を測った水晶とは色の違う緑色の水晶を取り出した。
 その水晶にライオネルの名前を書いた紙を押し当てると、紙が水晶の中に吸い込まれていき、代わりに薄緑色の板が横から出て来た。

「おぉ……すげぇな……」
「はい、こちらがライオネルさんの収集者カードです。依頼を受けるときも報告するときも必要になります。また、ある程度身分証明書としての効力もありますので無くさないよう大切に扱ってくださいね。あ、登録料として銀貨一枚いただきますね」

 その薄緑色の板にはライオネルの名前と依頼達成率と現在の評価を記す空欄があった。
 ライオネルは銀貨一枚をコティーに渡して収集者カードをもらい、やっと初めの一歩を踏み出すことが出来たのだと実感していた。

「これでライオネルさんの収集者登録は終了です。これから頑張ってくださいね。それと、依頼掲示板と反対側の壁際に魔獣等の対処法についての本が置いてありますから、必ず目を通しておいてくださいね」
「えぇ~……」
「読・ん・で・く・だ・さ・い・ね!」
「わ、わかったよ。それじゃあ早速……」

 分かったと言ったもののライオネルに読む気はさらさら無かった。
 依頼を受けるためにライオネルは依頼掲示板のほうに向かおうとしたが、

「ちょっと待ってください!」

 と、コティーに止められた。

「なんだよ、まだなにかあるのか?」
「いえ、そういうわけではないのですが。ライオネルさんは今日この街に来たんですよね?」
「あぁ、そうだけど……」
「でしたら、先に宿を取っておくことをおすすめしますよ! もうそろそろ夜ですし。あ、お金はあるんですよね?」
「ある程度は持ってるよ」
「でしたら活動の拠点となる宿を決めた方がいいですよ」

 コティーにそう言われ、確かにそうだとライオネルは思った。もしここで依頼を受けて、達成まで予想外に時間を取られたとしたら、宿が閉まっていて今夜の寝る場所を確保できないかもしれない。そうなったら、この大きな街で野宿するはめになる。ここに来るまでの二週間ずっと野宿だったので、そろそろまともな床で寝たいと思った。

「うん、そうするかな。どこかいい宿を知らないか?」
「もちろん知っていますよ! 収集者ギルドと提携している宿屋で『渡り鳥の止まり木』という宿屋があります。あまり高くはありませんし、一晩くらいでしたらツケられますよ。
 この通りのちょっと先に枝に鳥が止まっている看板を掲げている店ですよ」
「じゃあそこに行ってみるかな。いろいろと助かった。ありがとう」
「いえ、これもお仕事ですから。ではおやすみなさい」

 そう言ってこちらにお辞儀をしたコティーと手を振るカガシィーに見送られながら、夕暮れ時のグルドの街をライオネルは宿を探して歩き出した。

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今回の人族種ひとぞくしゅの説明

猫人族ねこびとぞく
 人間の体に猫の頭を持ち、全身が毛で覆われている人族種。柔軟性に優れ身軽に動くことが出来るので、斥候など偵察を得意とするが、とても好奇心旺盛なところが玉に瑕である。子供のころ語尾に「ニャ」が付くことがあり、大人になるまでに大半が直されるが、大人になっても抜けないものもいる。

蛇人族へびびとぞく
 人間の体に蛇の頭を持ち、全身が鱗で覆われている人族種。個体によっては尻尾が生えているものもいる。本物の蛇のように変温ではない。蜥蜴人族と間違えやすいが、蛇人族は指が鉤爪のようにとがっていない。
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