彼方の大地で綴る【四章まで完結済み】

しいたけ農場

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第一章 エトランゼ

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「……う、それは……。だってまだ上手く使えないんだもん」


 拗ねたように、カナタは両手で持った珈琲を口に運ぶ。

 エトランゼはこの世界に来た際に、『ギフト』と呼ばれる力を授かる。

 原理は未だ解明されておらず、誰がどんなギフトを得るのかの法則性も全く不明。

 何よりも問題なのは、そのギフトの力の差が個人によって大きすぎること。

 それによりエトランゼの間での格差が広がるばかりか、この世界にもともといた人々の間でも、エトランゼは皆強力なギフトを持っていると誤解を生んでいる。

 そのためギフトを持つエトランゼに対する差別は大きくなるばかりだった。


「ギフトって言えばさ、凄かったんだよ! 最近凄いギフトを持っている人と友達になったんだ。トウヤ君って言って、炎使い《パイロマスター》のギフトで、ばぁーって火を出したり剣に火を纏わせたり、凄かったなー」


 夢見がちにその時の光景を思い返すカナタ

の表情には憧れと、ほんの僅かながらの羨望の心が見て取れた。


「はぁ。どうしてボクのギフト、こんなに地味なんだろ。地味っていうか最早意味不明だし」


 溜息をつきながら顔を下げて覗き込む彼女の両手では、小さな光が踊っている。

 かといえばそれは別段、何かの役に立つわけではない。物理的な感触を持ってはいるものの、相手にぶつけても石を投げられた程度の痛みしかない。


「俺も見たことのない、未知のギフトだ。今後成長すれば何らかの役に立つかも知れないし……」

「立たないかも知れないんだよね?」


 カナタが掌の中の光をぽいと投げ捨てると、少しばかり床を転がってから霧散するように消えていく。


「……まぁな」


 ギフトは個人に与えられるが、決して唯一無二の力ではない。

 カナタのギフトは唯一無二のものだが、この世界に元より存在している魔法で代用で来てしまう程度のことしかできない。

 勿論なんの道具もなしに、その場でそれを行えるのは大きな違いだが、それはあまり慰めにはならない。

 反面、この世界を探しても殆ど見つかることのない個性的な力を持つ者もいる。

 人の心を読む、天才的な頭脳を持つ、炎や風、雷などの現象を思うがままに操る。

 そんな力を持つ者は稀であり、カナタもその『希少』なギフトを持つ一人ではあるのだが、今のとこ珍しいだけで役には立たないというのが本人の抱いている感触だった。


「まー、落ち込んでても仕方ないってのは判るけどね。それにギフトは鍛えれば鍛えるほど強くなるって聞いたし!」


 珈琲を飲みながら、ヨハンはこくりと頷く。


「うん! そうと決まればもっと修行しないと! 取り敢えず、今できる仕事を探しにソーズウェルかな」


 ソーズウェルはこの国の王都オルタリアの南方に位置する街で、王家を守護する五大貴族のうちの一人が治める巨大な交易都市だった。


「あ、ソーズウェルと言えば」


 今度は何を思いだしたのか、話がまた転換する。

 この忙しないところは果たして若い女性特有のものなのか、それともカナタが落ち着きがないだけなのか。

 ヨハンに判断する基準はない。


「三日後、ソーズウェルにお姫様が来るんだって! お姫様!」

「ああ。各地を査察していたエレオノーラ姫だろう。父王が危篤になったために急遽予定を切り上げて戻ってくるらしいが」

「へぇ。詳しいね。なんで?」

「こんなところに住んで久しいが、最低限の情報ぐらいは把握している。お前も、一応は自分が住んでいる国のことぐらいは把握しておけ」


 エレオノーラ姫はその美しい容姿から国民の人気も高い。きっと当日は父の死に悲しむであろう彼女を慰めるためという名目で、その姿を一目見ようと多くの国民がソーズウェルに詰めかけるだろう。


「ふーん。じゃあさ、三日後にボク、ソーズウェルにいるから、剣届けてよ。ついでに一緒にご飯でも食べよう!」

「……なんでそんな面倒をしなければならん」

「えー、いいじゃん! だってここって外れにあるから来るの面倒くさいし」


 ヨハンの店は王都とソーズウェルの間にあるのだが、直線の街道が整備されたことで使われなくなった山道の中腹に建っている。そのため偶然通りかかる客などは滅多なことでは訪れることはない。


「それにその面倒な行程を踏んで、ちゃんと道具を売りに来てあげてるんだよ」

「俺のところの方が他よりも高く買っているから、そこは問題ないと思うが」

「いいから! 可愛い弟子のためだと思ってね」

「弟子にした覚えはない。まぁ、愛嬌があるのは認めるが」

「じゃあ今から弟子になる」

「師事代を取るぞ」

「そこはお師匠お墨付きの愛嬌で支払うよ」


 明るく、前向きでついでにお調子者。調子に乗っているときの彼女を止める術を、ヨハンは半年で習得することはできなかった。


「仕方ないか」

 こうして結局折れてやることになる。


「やったー! ありがとう! それより、お姫様が来るってことは護衛の依頼とかないかなぁ? ボク、お姫様を護る騎士ってちょっと憧れてるんだよねー」


 憧れは憧れでも、騎士に護られるのではなく、本人が騎士になってしまう辺り、目の前の少女はずれている。


「俺だったら姫の護衛にカナタをつけるなど怖くてできん。せいぜい楽しませるための道化がいいところだろう」

「あー、道化かぁ。それも楽しそうだね」


 嫌味を全くものともせずに、カナタはいつの間にか彼女専用となっているカップの中の珈琲もはやカフェオレを飲み干し、カウンターに強く置いた。


「ごちそうさま! それじゃあボク行くね」

「……ちょっと待て」

「ふぇ?」


 出ていこうとしたところを呼び止められて、カナタはきょとんとした顔でヨハンを見上げる。

 面倒事を愛嬌で押し切られた意趣返し、というわけでもないが、一つやらなければならないことがあったことを思い出した。


「可愛い弟子に、師匠からプレゼントが二つあるんだが」

「いらない!」


 両手を前に突きだして、完全に拒否の構えを取るカナタ。


「なんだ、プレゼントがいらないとは殊勝な奴だな」

「タイミングと切り出し方と、それから表情でロクなものじゃないことぐらいは判るよ!」

「どうせ暇なんだから別にいいだろう。それに、ここに来て珈琲を飲んで、更に剣の修理を頼んだ時点でお前に拒否権はない」

「うー。その言い方は狡い」


 根っからのお人好しであるカナタは、そう言われると踏み倒すことなどできはしない。


「修理費もタダにしてやるんだから別にいいだろうに」

「判ったよぅ。やればいいんでしょ、やれば」


 今度はカナタが折れる番だった。

 剣の修理費と、三日後のソーズウェルへの届け物の代わりに労働力を確保したヨハンは、容赦なくその内容を告げていく。

 一度了承してしまった以上、例えその内容は明らかに剣の修理費と釣り合っていない重労働だろうと、カナタに拒否するという選択肢は残されていなかった。


「それだけじゃないぞ。一つは本当にプレゼントだ」


 ぱっと顔を明るくさせたカナタの額に、ヨハンが無造作に放り投げた宝石がぶつかって「あう!」という悲鳴と共に床に転がった。


「一度だけ砕けば自分の場所を知らせることができる宝石だ。範囲はそれほど広くはないが、ソーズウェルぐらいなら感知できる」

「それよりも女の子の顔に向けて物を投げたことを誤るべきだと思うんだけど!」


 額を抑えながら、眇めた目でこちらを睨むカナタ。


「ソーズウェルでの食事は奢ってやる。時間ができたらそいつを砕け」


 現金なもので、おごりとの言葉にすっかり気をよくしたカナタは、最早食事のことしか頭になく、何を食べるかを夢想しながらヨハンの店を後にしていった。

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