彼方の大地で綴る【四章まで完結済み】

しいたけ農場

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第一章 エトランゼ

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 ヨハンの魔法道具屋。

 そう看板が建てられた石造りの建物は、店とは名ばかりで、閑古鳥がよく鳴いている。


「ただいまー!」


 景気の良い声と共に、扉が開け放たれる。

 ここ半年ばかりは、もう一つ鳴き声が増えたものだが。

 入ってきたのはショートボブの髪に、ワンピースタイプの服を着て、その上に軽装の防具を付けた少女だった。

 中央に石造りのテーブル、奥にカウンターが置かれた以外には、商品棚に乱雑に様々な品物が並べられた店内をまるで我が家のように突っ切り、カナタはカウンターへと身を乗り出す。

 その店の主ヨハンは年齢は二十代中ごろだが、その落ち着いた佇まいから実年齢よりも上に見られることが多い。

 中肉中背、これといって特徴のない容姿の、ローブを纏った青年だった。

 ヨハンももともとはこことは違う世界、簡単に言うならば地球の、日本出身者であるため本来の名前があるのだが、ある理由からそれを使ってはいない。


「はい! これ!」


 元気よくカナタがカウンターに差し出した袋を開き、中身を改めるとヨハンは小さく頷いた。


「魔獣の牙に火獣の毛皮。後は壊れた武器の欠片か」

「魔法の力が込められた武器は、壊れてもまた再利用できる、でしょ?」

「そうだ。特にエレクトラムやオブディシアンは他で引き取ってくれるところなどないだろうからな。どんどん持ってこい」

「……あはは。パーティ組んだ人達からは貧乏くさいって笑われたけどね」

「言わせておくといい。笑われることで金が得られるのならそれに越したことはない」


 一度奥に引っ込み、カナタが持って来たものに対する代金を適当な革袋に入れて、小さな手の中に投げて渡す。

 その間に火を起こし、お湯を沸かしながら茶色い豆を挽く。


「珈琲? ボク、砂糖とミルク沢山入れて!」

 匂いを嗅ぎ付けたカナタが声を上げる。


「……誰もカナタに呑ませるとは言っていないが」

「えー、だってボクが来たら煎れるんだから、当然ボクの分もあるってことでしょ?」


 特に否定はせずに、珈琲を入れる作業を続ける。


「うわ、こんなに……!」

「正当な報酬だ。少し気になったんだが、他のところで報酬を値切られたりはしていないか?」


 あの日、二人が出会ってから早いものでもう半年。

 紅い月の夜に、地球から何人もの人間がこちらの世界、誰が呼んだのか『彼方の大地』に呼び出される。

 その現象については未だ何の解明もされておらず、ヨハン達はエトランゼと呼ばれ、この世界で生きていくことを余儀なくされていた。

 ヨハンに拾われて数日間は呆然自失をしていたカナタだったが、持ち前の明るさと行動力を発揮して、今では冒険者として日々の食い扶持を自分で稼いでいた。


「実はちょっとだけ」


 入れ終わった珈琲を、咎める意味も込めてカナタの目の前に強く置くと、その衝撃でミルクが入って茶色くなった液体が小さく揺れた。


「だって、お金に困ってるって言われたら仕方ないじゃん」

「既定の報酬で仕事を受けたらそれはきっちりと取り立てるべきだ。それが契約というもので、決して反故にしてはならない。特にお金が関わることならなおさら」

「それは判るけど……」


 冒険者は様々な依頼を受けてこなすことで報酬として金や道具を得る。その内容は魔物退治から街の清掃まで多岐に渡る。

 特別な手続きや技術を必要とせず、誰でも気軽に仕事を受けられることから大半のエトランゼはそこに落ち着く。

 多分に漏れずカナタもヨハンの勧めで冒険者になったのだが、お人好し故にこの世界ではそれに足を取られることも多いようだ。


「せめて誰かとコンビでも組んでくれればもっと安心なんだがな」

「じゃあヨハンさんが一緒に来てくれればいいのに」

「残念ながら店がある。ここからは離れられない」

「どうせお客さんも来ないしいいんじゃない? ガラクタいじりばっかりしてたら身体が鈍るよ」

「そのガラクタは多少なりともお前の役に立っていると思っていたのだがな」

「それはまぁ、そうだけど」


 ヨハンの店の主な収入源は、買い取った――カナタの言葉を借りるならば――ガラクタを組み合わせて作る魔法具だとか魔装具だとか、マジックアイテムだとか呼ばれる魔法の力が込められた道具によるものだ。

 いつも客入りが少なく見えるが、高値で取引されている珈琲豆をある程度仕入れることができるだけの儲けはある。


「でも本当に売れてるの? なんか高くない?」


 適当にその辺りの剣を持ち上げながらそう質問する。


「相応の価値があるものだ。稲妻の力を宿した剣は振るえば雷撃が敵に飛んでいく」

「じゃあこれは?」


 今度は宝石が嵌め込まれたブローチのようなものを手に取る。


「装備者の魔力を増幅させるアクセサリーだ。五個まで効果があって、六個目以上を付けて魔法を使えば暴走して大怪我をする」

「危ないじゃん! ちゃんと注意書きしとこうよ!」

「売るときに説明するから問題ない」


 確かに稲妻の剣にしてもブローチにしても効果のある代物なのだろうが、如何せん値段が高いのが問題なのだろう。駆けだしとはいえ今のカナタの稼ぐ給料ではとてもではないが買えるものではない。


「それが買えるぐらいに稼げる冒険者なら、別口から同じぐらいの性能の道具を手に入れているだろうからな」

「判ってるならなんか対策しようよ!」

「だから比較的安価なものも置いてあるんだろう。お前の剣だってそのうちの一つだ」


 錆避けのコーティングがされた剣や、魔法金属で作られた軽くて丈夫な装備などがそれにあたる。カナタが冒険者になるにあたって餞別代りに渡されたのもそのうちの一本だった。


「ボク、稲妻の剣がよかったなぁ」

「それも考えたが、使い方を間違えて自分か仲間を感電死させる未来が視えたからな」

「……否定はできないけどさ……」


 椅子を引っ張って来て座ると、カウンターの上にだらりと上半身を伸ばすカナタ。


「奥の工房にもっと凄そうなやつあるよね? あれは売り物じゃないの?」

「あれは作ったはいいが製作費が嵩み過ぎて幾らで売っていいか見当もつかなくなったやつだ。そのうち、何処かに卸しに行くさ」 


店の奥にある、魔装具と呼ばれる、装備者に圧倒的な力を与える全身防具も存在している。カナタがそれが欲しいと言った際には今の稼ぎ十年分の代金を要求され、諦めることとなった。


「面倒くさがりなんだから……」

「しかし、報酬はちゃんと受け取った方がいい。ただでさえエトランゼの冒険者に対しての風当たりは強い」


 これ以上店の経営の話をカナタとするつもりはないのか、半ば無理矢理ヨハンは話題を変えてくる。


「……それは判ってるけど」


 カナタの表情が暗くなる。

 彼女にも思い当たることがあるのだろう。

 この国、この世界でのエトランゼに対するもともとの住民の対応は決していいものとは言えない。

 最初にエトランゼがやって来てからもう十数年経つらしいが、それでもまだ彼等に対する差別は消えず、一部では国民としての法が適用されないところまである始末だ。


「あ、そうだ! 剣、壊れたんだった」


 腰に差していた鞘を外して、彼女の小柄な体格には不釣り合いな、幅広の剣を差し出してくる。

 見れば所々に刃毀れや欠けが目立っている。


「俺は鍛冶屋ではないのだが」

「でも直せるでしょ?」

「いい加減剣の使い方ぐらいは覚えろ。ただでさえお前は『ギフト』の使い道が今一つ判らないのだからな」
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