彼方の大地で綴る【四章まで完結済み】

しいたけ農場

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第一章 エトランゼ

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「そこまでだよ! この人達が何したっていうの!」


 カーステンとエトランゼの間に立って、剣を構えながらカナタは凛然と問いかける。


「き、貴様は! ええい曲者だぞ! 何をしている、すぐに捕らえろ!」


 カーステンの号令で、呆然と見ていた兵士達は直ちに槍を構えてカナタを包囲する。

 しかし、今度はその一角が背後からの攻撃によって脆くも崩れた。


「ったく、無茶するよ! ヨハンは暴れて時間を稼げばいいって言ってたから、これでもいいのかも知れないけどさ」

「き、貴様も……! あの時の子供! やはりエレオノーラと繋がっていたか。こいつらを捕えればエレオノーラの居場所も判る、決して逃がすな! 神はお前達の行いを見ているぞ!」

「……何が、神様だ!」


 囲まれていることなどお構いなしに、カナタは剣を抜いてカーステンに斬りかかる。


 カーステンもすぐに鞘から引き抜いた剣でそれに応戦し、二人は至近距離で鍔競り合った。

「神様を語って酷いことをして、そんなことを喜ぶ神様がいるもんか!」

「それがいるのだよ! 父神エイス・イーリーネは貴様達エトランゼを認めてはいない! 穢れた外よりの血を、肉を、この地に留めるわけにはいかぬのだ!」

「ボク達だって、好きで来たわけじゃ……ない!」


 剣捌きではカーステンに軍配が上がる。

 カナタの持った剣を跳ね上げると、陽光を反射する白銀の刃を小さな身体に振り下ろす。

 カナタはそれに対して全身に力を込めて、痛みを覚悟してから左腕で身体を護るように掲げた。


「愚かな!」


 腕ごと身体を両断しようとするカーステンだが、それは叶わなかった。

 カーステンの剣は、カナタの左腕を切断することができずに、それ以上進めない。


「流石ヨハンさん……。なんでメイド服なのかは後で問い詰めるとして」


 防刃、耐衝撃、対魔法、ついでに防弾。

 様々な防御を施され、加えて裏地にびっしりと刻まれた魔方陣からは装備者の能力も増強する。

 まさかメイド服にそんな機能があるとは思わないカーステンは、会心の一撃が不発に終わったことに戸惑い、次の一手を忘れる。


「このおおぉぉぉ!」

 カナタの全霊の体当たりが、カーステンの身体を弾き飛ばす。

 そして彼の手から離れた剣を、しっかりとキャッチして倒れたその身体に突きつける。


「ストップ! エトランゼ達を逃がして! じゃないとこの人がどうなっても知らないよ!」


 それを聞いて、トウヤと戦っていた兵士達が動きを止める。


「何をしている! 私の命などどうでもいい! 早くこの神に逆らう愚か者どもに鉄槌を下せ! 貴様達、私に逆らうのか! 私の言葉は神の使途、御使いの言葉に等しいのだぞ!」

「静かにしててよ! それに貴方は人間だよ、神様じゃないし!」

「カナタ、避けろ!」


 トウヤの叫びで我に返ったカナタは、間一髪で飛んできた矢を身を翻して避けることに成功したが、続く二射目でカーステンから奪った剣を取り落としてしまう。


「随分と派手にやってくれたものだな」


 腕を組んで、砦から現れる大柄な姿があった。


 五大貴族の一人、モーリッツは憮然とした様子で、部下を伴ってその場に現れた。


「カーステン卿、ここはお下がりください」

「し、しかし……。エトランゼ共に愚弄されたままでは……」

「足手まといだと言っているのです。ここは教会と信徒ではなく、お互いに戦を預かる者としての行動をしましょう」


 有無を言わせぬモーリッツのその態度に、カーステンは忌々しげな表情を隠しもせずその場から下がっていく。


「やれやれ、困った御仁だ。お前達、捕らえているエトランゼを解放しろ。戦いの巻き添えになって死なれては夢見が悪い」


 指示を受けて、先程までとは違い迅速に兵達がエトランゼを檻から解放する。

 転がり出るように出てきたエトランゼ達は、何が起こったのか判らずにモーリッツとカナタを交互に見ていた。


「失せろ、エトランゼ! お前達がもしギフトを使うのならば、私は全力をもって貴様達を駆逐するしかなくなるがな」

「怖かったでしょ? 逃げていいよ。後はボク達が何とかするから」

『なんとかできるの? 貴方に? ふふっ、面白いわ! だって貴方とっても弱いのに、どうやるの? ねぇ、ウァラゼルにやって見せてよ!』

「えっ?」

『力を貸してあげましょうか? わたしが、このウァラゼルが! そうね、それがいいわ。とっても楽しそう! さあさあわたしを手に取って、いつまでも地面に転がったままじゃ格好がつかないもの!』

「なに今の……? って、うわっ!」


 頭の中に響いてきた少女の声。甲高く、無邪気な声色でありながら、不思議と鳥肌が立つような不気味さがあった。

 それがなんであるかを確かめる間もなく、包囲を狭めてきた兵士達の槍が、カナタのメイド服を掠める。


「ふざけた格好の子供だ!」

「もう! 否定はしないけどさ!」

「相手はギフトを持っている! 子供とはいえ油断するなよ!」

「残念でした! ボクはそんな便利なギフトは貰ってないよ! ……でもね!」


 左腕を強く振り、飛び出してきた剣の柄を右手で握って引きだす。

 収納されていたのはどう見てもメイド服の袖よりも長いショートソードだった。


「色々便利なもの、貰ってるもんね!」

「あいつは貸してやるって言ってたけどな」


 敵を薙ぎ倒しながらのトウヤの言葉は聞こえない振りをして、相手の懐に飛び込みショートソードを振るう。

 ショートソードが軽く鎧の腹の部分に触れただけで、敵兵は全身を打ち抜くような衝撃を浴びて、意識を失いその場に昏倒した。

 呆気にとられる周囲の兵士達を余所に、次々とその一撃で倒していく。


「カナタ、こっちに!」

「うん!」


 人の壁を乗り越えてトウヤと合流し、二人は揃ってモーリッツへと武器を向ける。


「威勢がいいのは結構だが、ここが敵の拠点であることを忘れるなよ」


 その言葉通り、周囲からは次々と敵兵が集まっており、中には弓兵やローブを纏って杖を持った魔導師まで交じっている。


「魔法兵、放て!」

「ジャマー!」


 掲げられた杖から放たれるのは、火炎魔法の初歩であるファイアーボール。初歩とはいえ鍛錬を重ねれば重ねるほどに威力を増すそれは決して侮ることはできず、多くの魔導師の主力となりうる魔法である。

 だが、カナタはそれを待ってましたと言わんばかりにスカートの中から取り出した小瓶を地面に叩きつけた。

 ふわりと舞い上がった粒子が辺りを包みこみ、直撃するはずの魔法はそれに触れただけで霧散して消えていった。


「なっ……!」

「モーリッツ様!」


 それと同時に、船着き場の方から泡を喰った様子で兵士が駆けてくる。


「何事だ!」

「ふ、船着き場にて敵の工作活動です! 魔装船の殆どが動力部から煙を吹いています!」

「なんだと……!」


 驚きながらも、すぐにモーリッツは状況を冷静に判断する。


「嵌められたというわけだな、お前達に」

「本当はもう少しスマートに行く予定だったんだけどな」


 呆れながらトウヤが答える。


「時間稼ぎはここまでだ。カナタ、退くぞ」

「逃がすものか。私は無事な魔装船の方へと向かう。こいつらが逃げるとしたら、フィノイ河を渡るだろうからな。魔装兵、こいつらを逃がすなよ!」


 モーリッツの声に応えるように、砦の内部から地面を踏み鳴らす音が、嫌に大きく響いてくる。

 窮屈そうに両開きの扉を潜って現れたのは、全身に鎧を纏った、まるで機械の兵隊にも見える何者かだった。


「まったく。我が方にも二機しかないこいつを持って来ておいたのは成功だったか失敗だったか……。まあいい、魔法兵、弓兵は私に続け。船を奪った不埒者を仕留める」


 モーリッツがその場を去っていく。


「カナタ、俺達も早く!」


 例え相手がどんなに強くても、二人がやるべきことは後は逃げるだけだ。

 そう考えて身を翻したが、その考えの甘さをすぐに思い知ることになった。

 魔装兵と呼ばれたそれは、強く地面を踏み込むと、その重量を全く意に介さぬが如く、一足跳びでカナタとトウヤの目の前にまで着地して見せた。


「こいつ!」


 振りかぶられた両刃の大剣は、思いの外早い。

 トウヤはすぐに反応することができずに、地面を転がることでその身体を狙った一太刀をどうにか回避した。


「早いよ!」


 カナタのショートソード改め、触れた相手に電撃を浴びせるスタンソードが鎧を打つが、衝撃が内部まで届いた様子はない。

 兜の奥に見える瞳が輝き、嫌な予感がしてカナタはすぐにその場から飛び去った。

 直前までカナタがいた場所を大剣が通過する。それだけでは飽き足らず、更なる追撃を重ねるために一歩、魔装兵は前に踏み出した。


「魔装兵……。ただの鎧じゃない! 全身に魔法が掛けられた鎧を纏った兵器みたいなもんだ!」

「だったらボクだって一緒だよ! 見た目はメイドだけど!」


 恐らく、原理は同じものだ。下手をすれば重さがない分カナタのメイド服の方が優れているまでありうるが。


「馬鹿! 中身の強さが段違いだろうが!」


 トウヤの正論と、装甲の違いはどうしようもない。

 振り下ろされた大剣を受け止める。

 メイド服に施された魔法によって筋力は遥かに増しているはずなのだが、それでも一撃で身体ごと潰されそうになりそうなほどに重い。


「ぐぅ……!」

「燃えろ!」


 そこに背後からトウヤの炎が、魔装兵を包み込む。

 致命傷にこそならなかったものの、そちらの方が強敵と判断した魔装兵は、カナタへとどめを刺さずにトウヤの方へと振り返った。


「取り敢えず少しでも距離を取るぞ」

「うん! これでも……!」


 絶妙な身体捌きで魔装兵の大剣を避け、その合間に斬撃を叩き込むトウヤ。

 その合間合間に炎を発して魔装兵を攻撃するのだが、その圧倒的な防御を貫くことはできず、相手の動きが鈍る様子もない。

 トウヤの隙ができたタイミングで、カナタが作りだした光の弾を投げつけて、魔装兵の注意を引く。石ほどの威力しかないが、それでも得体の知れない何かを放り投げられてそれを無防備に受ける奴はいない。

 そんな風に逃げ腰ながら戦い続け、やがて二人は船着き場の傍までやってきた。

 確かにそこは報告にあった通り、錨で繋がれた幾つもの船が、煙を吹いている。

 そのうちの一つ、無事なものの上に見知った姿を見かけて、カナタは安堵の息を吐いた。


「ヨハンさん!」

「いや、それはいいけど!」


 大剣を避けながら、トウヤが叫ぶ。


「どうすんだよこいつ! まさか連れてくのか!?」


 トウヤの叫びが聞こえたわけではないだろうが、ヨハンは船の上で何かを構えたまま、二人を待っていた。

 それは銃だった。以前持っていた物とはまた違う、この世界で滅多に見ることのできないその武器の不自然なまでに長い砲身は真っ直ぐにこちらを向いている。


「トウヤ君、動かないで!」

「なんでだよ!」

「ヨハンさん、射撃は下手だから! 当たるよ!」

「はぁ!?」


 冗談じゃない。そんな意味を含ませた声は杞憂に終わった。

 見えない衝撃がすぐ傍に迫る魔装兵を打ち抜き、何かが炸裂するような音と共にその巨体が後ろへと派手に吹き飛ぶ。

 その凄まじい威力に軽く感動しながらも、トウヤはすぐに頭を振って今やるべきことを思い返した。


「今がチャンス!」


 それでも魔装兵は起き上がる。

 大剣を構え迫るその身体に、更なる射撃が加わった。

 そうしている間に二人の身体は桟橋を渡り、ヨハンが立つ船の上へと向かっていた。
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