彼方の大地で綴る【四章まで完結済み】

しいたけ農場

文字の大きさ
15 / 178
第一章 エトランゼ

1‐15

しおりを挟む
 弾倉にある全ての弾を撃ち切り、ヨハンがレバーを引くと、そこから自動的に空になった薬莢が排出される。

 次なる弾薬を取りだして、それを弾倉に込めてレバーを下ろす。


「ヨハン殿、カナタ達が!」

「判っています」


 背後に迫る魔装兵に、続けて弾丸を打ち込み続けるが、相手もこちらの射撃に慣れたのか、不意を突けない一撃では確実に撃ち抜くことはできなくなってきていた。

「姫様。先程説明したようにして船を動かしてください。動力に火さえ入れば勝手に進むはずです」

 様々な大きさの魔装船が並ぶが、その中でヨハン達が乗っているのは、十人ほどが乗れる大きさのものだ。見た目は木製の船だが、魔法で動くエンジンを搭載しているので好きな方向に自由に進むことができる。


「う、うむ!」


 エレオノーラが船倉へと梯子を降りていく。

 それから少しもしないうちに、船全体が微弱な振動に包まれる。


「やったぞ! ヨハン殿、妾だってやればできるのだ!」


 彼女がやったことは予め説明されていた通りにスイッチを押しただけなのだが、今はそこに対するコメントは控えておく。

 桟橋を駆けるカナタとトウヤ。すぐ背後には魔装兵が迫る。


「船が動くぞ! 飛べ!」

「トウヤ君、先へ!」


 先を走るトウヤが桟橋から跳躍し、船の甲板に転がり、少し遅れたところを走る魔装兵の大剣がカナタに迫る。


「……振り向くな」


 その声が聞こえたのかどうかは判らない。

 それでも、カナタはヨハンが思った通り、背中に向けて振り下ろされようとしている大剣を全く気にすることなく、こちらにただ走っている。

 引き金が引かれ、火薬が炸裂する音と共に銃身から弾丸が飛び出す。

 装填されていた弾丸は振り上げられた大剣を撃ち抜くと、そこで炸裂して指向性を持った衝撃波で、魔装兵をその後ろへと弾き飛ばした。


「ヨハンさん、キャーーーーッチ!」


 後先を考えず、桟橋からカナタが全力でジャンプした。

 その目標は船の甲板、それだけでなくその上で銃を構えていたヨハンの元へ。


「馬鹿か」


 咄嗟に銃を捨てて、飛んできた小柄な身体を抱きとめる。

 その衝撃を受け止めきれずに、カナタを胸に抱いたままヨハンは仰向けに倒れ、背中を強く打った。


「げほっ……。なんでこんなことをした?」

「いやぁ……。なんか肩から落ちてったトウヤ君見てたら痛そうだったから」


 至近距離で見合いながら、ヨハンの恨めし気な視線から逃れるカナタ。

 そうしている間にも魔装船のエンジンは唸りを上げて、船体は岸から離れていく。


「やってくれたな」

 大型の魔導船に乗るための最も高く長い橋の上から、そんな声がする。そこに繋がれている魔装船も、既にヨハンの工作を受けてエンジンからは黒々とした煙を吐きだしている。

 その横を通過するヨハン達の魔導船を睨みつけながら、モーリッツは兵達を従えてそこに立っていた。


「お前がこの件を仕組んだ者か」

「どうしてそう思う?」

「行き当たりばったりが過ぎる子供達にこんな大それたことはできまい。加えてエレオノーラ姫が一人でこんなことを思い付くこともな」

「モーリッツ様」


 背後の魔法兵と弓兵が武器を構えるが、それを手で制した。


「よい。今回は私の負けだ。素直に認めようではないか」


 太った貴族の男は、以外にもそれほど機嫌を悪くした様子はない。

 むしろヨハンを見て、何かを期待しているかのように、奇妙な高揚感すら覚えているようにすら見えた。


「不埒者では格好もつくまい。名を聞いておこう」

「ヨハンだ」

「ほう。かつて王宮に仕えた大魔導師と同じ名だな。何か因果はあるのか?」

「師と弟子だ。知識と信念と、名を受け継いだ」

「……ふむ。信念、か」


 モーリッツは記憶の中の大魔導師を思い浮かべる。

 王に仕え、幾つもの助言をし続けていた彼は、何を目的としていたのか。

 当時、そして自分では今ですらも若輩と思っているモーリッツには、そんなことは想像もつかない。


「ヨハンよ。お前の目的はなんだ? エレオノーラ姫は間違いなくこの国が内包する火種である。それが判っていながら何故、姫を護ろうとするのだ?」

「エトランゼである俺が、それを護るために効率的な方法を取るのは不思議ではないだろう」

「ふははっ。確かにその通りだ。……だが、詭弁だな」


 船は次第に遠ざかっていく。

 次の言葉がお互いに最後となるだろう。


「ヨハンよ。しばしエレオノーラ姫の身柄を預ける。……成すべきを成して見せよ」


 その言葉に、ヨハンは何も答えない。

 やがて船は遠ざかり、弓も魔法も届かない距離へと離れていった。

 その姿は霞に溶けて消えてから、モーリッツの副官は彼に問う。


「よろしかったのですか?」


「結構。私とて小さな野心ぐらいはある。教会の連中に好き放題されるよりは、こちらの方が楽しめそうだ」

 命を賭けてでも信念を貫く姫。

 後先を全く考えない少女とそれに付きあわされる哀れな少年。

 そして、自らの心を決して明かさなかった大魔導師の名を継ぐ者。


 運河の向こうに消えた彼等がどのような道を進むのが、それがもたらす変化も含めて、モーリッツには楽しみで仕方がなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...