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第一章 エトランゼ
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「急ぎ門を閉じろ!」
そう叫んで、イシュトナルの兵達は門を開閉するためも大きなレバーへと向かうが、その間に立つエトランゼ達がそれを妨害する。
開かれた門の向こうに見えるのはイシュトナル要塞を囲む濠に唯一掛けられた橋と、今まさに攻め入らんとしているエトランゼとディッカーの部下の混合軍だった。
「それで、これからは手筈通りでいいんだな?」
横に立つ長身の男、ヨシツグがそうヨハンに語り掛けた。
「ああ。ヨシツグさんはエトランゼ達を率いて内部の制圧を頼む」
「おいおい。同じエトランゼなんだし、呼び捨てで構わないよ。その方が親しみが持てるだろ?」
「……なら、ヨシツグ。内部の方は頼んだ」
広大なイシュトナル要塞の敷地内では、既にあちこちの詰め所から武装した兵士達が泡を喰った様子で飛び出してくる。
当然それは雄大に聳える壁のような本丸からも一緒で、窓や屋上からは幾つもの矢が降り注いでいる。
その中には、鎧を着た三人の騎士の姿もあった。
聖別騎士。
神の祝福を受けた装備に身を包む、エイスナハルが誇る最強の戦力。
「でも、大丈夫なのかい? あいつらは俺がいても苦戦するぐらいの強さだ」
「時間を稼ぐぐらいなら一人で充分だ。その間に他を制圧し、本丸を落とせばこの戦いは俺達の勝ちだ」
イシュトナル要塞はそれ自体は堅牢だが、そこにいる兵の数は決して多くはない。
何せもともとが辺境で争い事など起こらないことに加えて、ディッカーに連れられて四分の一ほどの兵が離反しているのだ。
むしろこうなれば、無駄な広さが災いして多方面から攻める敵を押し留めるのは困難になる。だからこそ、彼等は本来ならば門前であらゆる敵を食い止めなければならなかったのだ。
「単純な策だが上手く行ったな」
奴隷を売りに来て、途中でエトランゼに追われているように偽装したハーマンは、見事にその役割を果たしてくれた。
彼の引く馬車の中にはエトランゼの精鋭が潜み、相手に判断する時間を与えずに内部へと入り込む。そしてそこから飛び出したエトランゼ達により、門を開け放ったまま維持して外の味方を引き込むことに成功した。
当のハーマン本人はすぐに戦線から離脱し、今はもうこの場所にはいない。
後は一度態勢を崩し、相手の心を挫くことができればこの戦いは勝てる。辺境の地に、本国からの増援が来るのには相当な時間を要するだろう。
「その為の切り札も用意した」
背後を見れば、オルタリアの兵達を鼓舞しながら進むエレオノーラの姿があった。
大急ぎででっち上げたドレスのような鎧は、この戦いの中心と在るべき意匠が施された、人目を引くものになっている。
それを見たヨシツグが一瞬だけ表情を歪ませた。
「いいから行きましょうよ」
何か言いたげな彼を、絶妙なタイミングでトウヤが急かす。志願したことでトウヤもヨシツグと同じ突入部隊に配属されていた。
「その人がやるって言ってるんですから、できると思いますよ。俺は」
「あ、ああ……」
気のない返事で会話は打ちきられたが、ヨシツグは持ち前の前向きさで部下達を率い、前面に立ちはだかる敵兵を蹴散らして要塞内部へと突入していく。
「聖別騎士は俺に任せろ。オルタリアの兵達は各施設の破壊や封鎖を優先してくれ」
「で、ですが……」
ヨハンの横に立っていた兵はそう指示されて、不安そうな態度を隠せなかった。
「大丈夫だ。手筈通りにやってくれれば、この戦いは勝てる」
ヨハンはエレオノーラより、この場の総指揮官としての権限を得ている。
多少の不安はあれど、兵士はその言葉に素直に従った。
目の前に迫る聖別騎士三人。
話によれば強力なギフトを持つトウヤやヨシツグすらもいなしたその力は只事ではない。
しかし、だからこそヨハンが一人で相手をする意味がある。
ショートバレルと名付けた、近距離使用の比較的砲身が短い方の銃を構え、弾丸を込める。
幸いにアイテムの補充は充分。
「後は、気力と時間の勝負だな」
様々な思惑が交差する戦場、その中心でヨハンの戦いが始まった。
そう叫んで、イシュトナルの兵達は門を開閉するためも大きなレバーへと向かうが、その間に立つエトランゼ達がそれを妨害する。
開かれた門の向こうに見えるのはイシュトナル要塞を囲む濠に唯一掛けられた橋と、今まさに攻め入らんとしているエトランゼとディッカーの部下の混合軍だった。
「それで、これからは手筈通りでいいんだな?」
横に立つ長身の男、ヨシツグがそうヨハンに語り掛けた。
「ああ。ヨシツグさんはエトランゼ達を率いて内部の制圧を頼む」
「おいおい。同じエトランゼなんだし、呼び捨てで構わないよ。その方が親しみが持てるだろ?」
「……なら、ヨシツグ。内部の方は頼んだ」
広大なイシュトナル要塞の敷地内では、既にあちこちの詰め所から武装した兵士達が泡を喰った様子で飛び出してくる。
当然それは雄大に聳える壁のような本丸からも一緒で、窓や屋上からは幾つもの矢が降り注いでいる。
その中には、鎧を着た三人の騎士の姿もあった。
聖別騎士。
神の祝福を受けた装備に身を包む、エイスナハルが誇る最強の戦力。
「でも、大丈夫なのかい? あいつらは俺がいても苦戦するぐらいの強さだ」
「時間を稼ぐぐらいなら一人で充分だ。その間に他を制圧し、本丸を落とせばこの戦いは俺達の勝ちだ」
イシュトナル要塞はそれ自体は堅牢だが、そこにいる兵の数は決して多くはない。
何せもともとが辺境で争い事など起こらないことに加えて、ディッカーに連れられて四分の一ほどの兵が離反しているのだ。
むしろこうなれば、無駄な広さが災いして多方面から攻める敵を押し留めるのは困難になる。だからこそ、彼等は本来ならば門前であらゆる敵を食い止めなければならなかったのだ。
「単純な策だが上手く行ったな」
奴隷を売りに来て、途中でエトランゼに追われているように偽装したハーマンは、見事にその役割を果たしてくれた。
彼の引く馬車の中にはエトランゼの精鋭が潜み、相手に判断する時間を与えずに内部へと入り込む。そしてそこから飛び出したエトランゼ達により、門を開け放ったまま維持して外の味方を引き込むことに成功した。
当のハーマン本人はすぐに戦線から離脱し、今はもうこの場所にはいない。
後は一度態勢を崩し、相手の心を挫くことができればこの戦いは勝てる。辺境の地に、本国からの増援が来るのには相当な時間を要するだろう。
「その為の切り札も用意した」
背後を見れば、オルタリアの兵達を鼓舞しながら進むエレオノーラの姿があった。
大急ぎででっち上げたドレスのような鎧は、この戦いの中心と在るべき意匠が施された、人目を引くものになっている。
それを見たヨシツグが一瞬だけ表情を歪ませた。
「いいから行きましょうよ」
何か言いたげな彼を、絶妙なタイミングでトウヤが急かす。志願したことでトウヤもヨシツグと同じ突入部隊に配属されていた。
「その人がやるって言ってるんですから、できると思いますよ。俺は」
「あ、ああ……」
気のない返事で会話は打ちきられたが、ヨシツグは持ち前の前向きさで部下達を率い、前面に立ちはだかる敵兵を蹴散らして要塞内部へと突入していく。
「聖別騎士は俺に任せろ。オルタリアの兵達は各施設の破壊や封鎖を優先してくれ」
「で、ですが……」
ヨハンの横に立っていた兵はそう指示されて、不安そうな態度を隠せなかった。
「大丈夫だ。手筈通りにやってくれれば、この戦いは勝てる」
ヨハンはエレオノーラより、この場の総指揮官としての権限を得ている。
多少の不安はあれど、兵士はその言葉に素直に従った。
目の前に迫る聖別騎士三人。
話によれば強力なギフトを持つトウヤやヨシツグすらもいなしたその力は只事ではない。
しかし、だからこそヨハンが一人で相手をする意味がある。
ショートバレルと名付けた、近距離使用の比較的砲身が短い方の銃を構え、弾丸を込める。
幸いにアイテムの補充は充分。
「後は、気力と時間の勝負だな」
様々な思惑が交差する戦場、その中心でヨハンの戦いが始まった。
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