彼方の大地で綴る【四章まで完結済み】

しいたけ農場

文字の大きさ
30 / 178
第一章 エトランゼ

1‐30

しおりを挟む
「急ぎ門を閉じろ!」


 そう叫んで、イシュトナルの兵達は門を開閉するためも大きなレバーへと向かうが、その間に立つエトランゼ達がそれを妨害する。

 開かれた門の向こうに見えるのはイシュトナル要塞を囲む濠に唯一掛けられた橋と、今まさに攻め入らんとしているエトランゼとディッカーの部下の混合軍だった。


「それで、これからは手筈通りでいいんだな?」


 横に立つ長身の男、ヨシツグがそうヨハンに語り掛けた。


「ああ。ヨシツグさんはエトランゼ達を率いて内部の制圧を頼む」

「おいおい。同じエトランゼなんだし、呼び捨てで構わないよ。その方が親しみが持てるだろ?」

「……なら、ヨシツグ。内部の方は頼んだ」


 広大なイシュトナル要塞の敷地内では、既にあちこちの詰め所から武装した兵士達が泡を喰った様子で飛び出してくる。

 当然それは雄大に聳える壁のような本丸からも一緒で、窓や屋上からは幾つもの矢が降り注いでいる。

 その中には、鎧を着た三人の騎士の姿もあった。

 聖別騎士。

 神の祝福を受けた装備に身を包む、エイスナハルが誇る最強の戦力。


「でも、大丈夫なのかい? あいつらは俺がいても苦戦するぐらいの強さだ」

「時間を稼ぐぐらいなら一人で充分だ。その間に他を制圧し、本丸を落とせばこの戦いは俺達の勝ちだ」


 イシュトナル要塞はそれ自体は堅牢だが、そこにいる兵の数は決して多くはない。

 何せもともとが辺境で争い事など起こらないことに加えて、ディッカーに連れられて四分の一ほどの兵が離反しているのだ。

 むしろこうなれば、無駄な広さが災いして多方面から攻める敵を押し留めるのは困難になる。だからこそ、彼等は本来ならば門前であらゆる敵を食い止めなければならなかったのだ。


「単純な策だが上手く行ったな」


 奴隷を売りに来て、途中でエトランゼに追われているように偽装したハーマンは、見事にその役割を果たしてくれた。

 彼の引く馬車の中にはエトランゼの精鋭が潜み、相手に判断する時間を与えずに内部へと入り込む。そしてそこから飛び出したエトランゼ達により、門を開け放ったまま維持して外の味方を引き込むことに成功した。

 当のハーマン本人はすぐに戦線から離脱し、今はもうこの場所にはいない。

 後は一度態勢を崩し、相手の心を挫くことができればこの戦いは勝てる。辺境の地に、本国からの増援が来るのには相当な時間を要するだろう。


「その為の切り札も用意した」


 背後を見れば、オルタリアの兵達を鼓舞しながら進むエレオノーラの姿があった。

 大急ぎででっち上げたドレスのような鎧は、この戦いの中心と在るべき意匠が施された、人目を引くものになっている。

 それを見たヨシツグが一瞬だけ表情を歪ませた。


「いいから行きましょうよ」


 何か言いたげな彼を、絶妙なタイミングでトウヤが急かす。志願したことでトウヤもヨシツグと同じ突入部隊に配属されていた。


「その人がやるって言ってるんですから、できると思いますよ。俺は」

「あ、ああ……」


 気のない返事で会話は打ちきられたが、ヨシツグは持ち前の前向きさで部下達を率い、前面に立ちはだかる敵兵を蹴散らして要塞内部へと突入していく。


「聖別騎士は俺に任せろ。オルタリアの兵達は各施設の破壊や封鎖を優先してくれ」

「で、ですが……」


 ヨハンの横に立っていた兵はそう指示されて、不安そうな態度を隠せなかった。


「大丈夫だ。手筈通りにやってくれれば、この戦いは勝てる」


 ヨハンはエレオノーラより、この場の総指揮官としての権限を得ている。

 多少の不安はあれど、兵士はその言葉に素直に従った。

 目の前に迫る聖別騎士三人。

 話によれば強力なギフトを持つトウヤやヨシツグすらもいなしたその力は只事ではない。

 しかし、だからこそヨハンが一人で相手をする意味がある。

 ショートバレルと名付けた、近距離使用の比較的砲身が短い方の銃を構え、弾丸を込める。

 幸いにアイテムの補充は充分。


「後は、気力と時間の勝負だな」


 様々な思惑が交差する戦場、その中心でヨハンの戦いが始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

処理中です...