彼方の大地で綴る【四章まで完結済み】

しいたけ農場

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第一章 エトランゼ

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 カナタがディッカーの屋敷の門前まで行くと、既にそこには武装した兵達による人だかりができていが、奇妙なことに兵達はその侵入者を包囲しているのにそれ以上接近せず、遠巻きに様子を見ているだけだった。


「だから、敵じゃねえって言ってんだろ? 忘れ物を届けに来てやったんだよ」


 その粗野な声には聞き覚えがある。

 以前エレオノーラの命を狙った野獣のような男。

 彼は強い。下手に挑みかかれば一人や二人の犠牲ではすまない。


「その人は駄目です! 凄く強いから……!」


 人波を掻き分けて、カナタは最前線に飛び出して、その姿を改めに視界に納めて、全身に緊張が走った。

 あの時とは違う、セレスティアルを使って盾を生み出せば、彼の攻撃にも耐えることができるかも知れない。

 頭の中で必死に攻略法を考えながら、ヴェスターの正面に飛び出して、カナタは言葉を失った。

 全身を真っ赤な血で濡らしたヴェスターは、肩に何かを担いでいた。

 荷物にしては大きいそれは、今もぽたぽたと赤い雫を垂れ流し、完全に脱力した状態でされるがままになっている。


「ヨハン……さん」

「よぉ、おちびさん。久しぶりだな」


 まるで久々に会った友人のような気安さで、ヴェスターは片手を上げて挨拶をする。


「ヨハンさんを放して!」

「ん? ああ、別にいいぜ。ほら」


 どさりと無造作にヨハンの身体が放り投げられた。

 小さな砂埃と共に地面に転がったヨハンの元に、カナタを追って来ていたサアヤがすぐに跪き、その手にリザレクションの光を集める。


「おーおー、必死だねぇ。こいつも色んな人に好かれて羨ましいこって」

「……ヨハンさんを助けてくれたの?」

「さあねぇ。ひょっとしたこういうこと考えてるだけかも知れないぜ」


 剣を抜き、それを振り上げる。

 切っ先が落ちる場所は、ヨハンを癒しているサアヤの頭部。

 無我夢中で飛び出したカナタは、間一髪でセレスティアルの剣を生み出して、ヴェスターの剣を受け止めた。


「おぉ! なんかすげぇな! お前さんのギフト、進化してるじゃねえか!」

「何が目的なの!」

「冗談だよ、冗談。あんまかっかすんなって」


 掛かっていた重みが消えて、ヴェスターは剣を鞘にしまい込む。


「だがな。面白いもんは見れただろ? ここにいる連中はだーれも助けようとしなかった。なんでだと思う? 嬢ちゃんでも反応できるぐらいゆっくりやってやったのに。そりゃな、俺達がエトランゼだからだよ」


 ぐるりと辺りを見渡せば、バツが悪そうにオルタリアの兵士達は目を背けた。

 彼等とて、様々な思惑があるのだろう。今ここで得体の知れない男と戦って戦力を減らすわけにはいかないと。

 ただ、事実として彼等は、エトランゼであるなしに関わらず命を救ってきたサアヤを助けようとはしなかった。


「おら。ちゃんと治療ができる場所に連れてってやれよ」


 ここでようやく、一部の兵士達が進み出て、ヨハンの身体にできるだけ負担を掛けないように二人係で持ち上げる。

 その間もサアヤは、その傷を癒し続けていた。


「気を付けろよー! あのウァラゼルってガキにぼこぼこにやられて、多分中身までぼろぼろになってるみたいだからよ。加えてここまで俺が担いできたからな! いやー、血が出るのなんのって、死んだら置いてこうと思ったけど、意外と人間死なないもんだな! ……おいおい、怖い顔すんなよ嬢ちゃん。道を切り開いて来てやったのは事実なんだからよ」


 大剣を一振りすると、どれだけの数の異形を切り殺してきたのか、べっとりとした血が飛び散って辺りを濡らす。


「それからもう一個ニュースがあるぜ。連中の群れを切り開いて、追ってくる連中を片っ端から殺してきたからよ」


 遠くに砂埃が上がっている。

 それが意味することが、一瞬にしてその場の全員に伝わった。


「いやー、結構な数残ってんなぁ。じゃ、俺は取り敢えず休むわ」


 この地に大量の異形を招いた張本人は、なんでもないことのようにそう言って、誰にも止められないままに奥へと歩いていった。
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