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第二章 魔法使いの追憶
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オル・フェーズ王立魔法アカデミー。
アーデルハイトの紹介でようやく訪れたそこは、名前に恥じないほどに巨大で立派な施設だった。
城かと見紛うほどの大きな建物に、立派な時計塔を中心としてそこからは各方面に道が広がり、露店が並んでいる。
その終着点にある建造物もまた校舎であるらしく、カナタの横をおそろいの制服を着た生徒達が通り過ぎていっていた。
魔法実験用の広場もあるらしく、オルタリアがどれだけこの学院に、魔法技術に力を入れているか一目で理解できる。
「あー、疲れたー」
カナタは今、先程の魔法少女アーデルハイトと共に通りに面したスペースに設けられた、休憩用のテーブルで向かい合わせに座っていた。
ぺたんとテーブルに頬を乗せ、正面に座る整った顔立ちの少女を見上げる。
既に時間は夕刻。あれから事件の説明を警備隊にしてから、改めてアカデミーの敷地内の見学に移った。
天井まで伸びる本棚にぎっしりと書籍が止まった図書室。
カナタには何に使うのか判らない器具が所狭しと並んだ実験室の数々。
大勢の生徒が、かつてカナタが元の世界でそうであったように、席に座って座学を受けている教室。
魔法使いの杖やアクセサリーが並ぶ購買や、生徒が自主的に制作した魔法道具を販売する露店など、様々な施設は幾ら見ていても飽きることはなく、後半はアーデルハイトが根を上げたことでこうして休憩する運びとなっていた。
「でも楽しかったー。凄いんだねー、ボク達の世界の学校よりもずっと大きくて色々なものがある」
「エトランゼの世界の学校? へぇ、少し興味があるわね」
「でもこっちの方が全然面白いよ」
「それって貴方が勉強嫌いだからじゃないの? ここに入学しても、座学は一番とらなくてはいけない項目が多いわよ」
「うぇー……。ボク、身体動かす方が好きだからなぁ」
実験場という名の広場では、生徒達が紅白に分かれて模擬戦をやっていた。中にはアーデルハイトに声を掛ける者もあったが、彼女はやんわりと断っていた。
「でもよかったの?」
テーブルから顔を上げて、アーデルハイトの顔を正面に見る。
「なにが?」
「今日、授業とか全部出れなかったでしょ? 遅れたりしたら……」
「それは……」
何故か答えにくそうに口籠るアーデルハイト。
その意味が判らずに首を傾げていると、遠くから誰かがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「おーい、君達!」
息を切らせながらやって来たのは、つい先程、研究成果を盗まれて倒れ込んでいた中年の男性だった。きっちりとした正装に身を包んだその姿は立派なもので、恐らくはこの学院の教授職についているのだろう。
「やっと見つけた……。君は見ない顔だけど、見学者かい?」
「あ、はい。えっと、アーデルハイトさんに案内してもらっていて」
「アーデルハイト君に? ……まあいいか。とにかく、あの時はありがとう。資料は奪われてしまったけど、彼等の仲間の一人を捕らえることができたからね。きっと解決もすぐだろう」
「い、いえ……。むしろごめんなさい。ちゃんと取り返すことができなくて」
「いや、いいさ。盗まれた僕や学院の警備にも問題があるし。何より大の大人が子供にそこまで期待するわけにはいかないからね」
紳士的な態度で、その教授はにこやかにそう言ってくれた。
カナタへ掛ける言葉はそれで終わりで、今度は少しばかり顔を歪ませてアーデルハイトの方を見る。彼女も彼女で、故意に目を合わせないようするためなのかそっぽを向いていた。
「アーデルハイト君。人助けも結構だが、ここのところ授業の出席率がよくないようだが?」
「個人研究に時間を割いていますので」
「それにしたって、個人ではどうしようもない部分もあるだろう。実験の規模や結果を考えれば、集団研究に切り替えた方がいいんじゃないか? 君の実力ならば何処の研究室でも引く手数多だろうに。そのためにも授業にちゃんと出席し、同じ志を持つ仲間をだね……」
「興味のあるテーマがありませんので」
「それはないだろう。よく考えて見てくれ。そうだ、よければ今度資料を纏めておくから、相談しようじゃないか」
カナタはその光景に見覚えがあった。
間違いなく、学生時代に見た問題児である生徒と熱心な先生の会話だ。
カナタ自身はそうではないが、友人にそういった人物がいたので、そこに立ち合ったことは何度かある。
「必要なだけの単位は取得していますし、実技や筆記の結果も問題ありません。後は研究が終われば卒業。それだけの話でしょう?」
「いや、しかしね……。卒業、と言っても君のその後の進路もこちらとしては考えなければならないんだよ? だというのに……」
「ブルーノ教授。今日は人の案内をしているので、そう言った話題はまた後日にお願いします」
「後日って……。君はまたすぐに雲隠れしてしまうじゃ……うわぁ!」
びゅんと、二人の間に入るように、何処からともなく箒が飛んでくる。
アーデルハイトはそれに横向きに腰かけると、呆然と話を聞いていたカナタに手を差し伸べた。
「家まで送るわ」
「え、あ、ありがと……」
一瞬教授を見たが、彼もアーデルハイトの頑なな態度にもう言葉もないのか黙って見送るつもりだった。
アーデルハイトの後ろに座って、肩を落としたままのブルーノ教授を見下ろす。
「あの! 今日盗まれた資料って、やっぱり大事なものなんですか?」
「あ、ああ……。まぁ、大事だね。長年の研究の成果だから。でも君が気にすることではないよ。もう警備隊に探してくれるように依頼はしてあるし」
「……判りました」
そのやり取りを最後にして、箒は空高く舞い上がっていく。
大勢の生徒達が見上げる中を、アーデルハイトとカナタは夕焼けの空へと吸い込まれていった。
アーデルハイトの紹介でようやく訪れたそこは、名前に恥じないほどに巨大で立派な施設だった。
城かと見紛うほどの大きな建物に、立派な時計塔を中心としてそこからは各方面に道が広がり、露店が並んでいる。
その終着点にある建造物もまた校舎であるらしく、カナタの横をおそろいの制服を着た生徒達が通り過ぎていっていた。
魔法実験用の広場もあるらしく、オルタリアがどれだけこの学院に、魔法技術に力を入れているか一目で理解できる。
「あー、疲れたー」
カナタは今、先程の魔法少女アーデルハイトと共に通りに面したスペースに設けられた、休憩用のテーブルで向かい合わせに座っていた。
ぺたんとテーブルに頬を乗せ、正面に座る整った顔立ちの少女を見上げる。
既に時間は夕刻。あれから事件の説明を警備隊にしてから、改めてアカデミーの敷地内の見学に移った。
天井まで伸びる本棚にぎっしりと書籍が止まった図書室。
カナタには何に使うのか判らない器具が所狭しと並んだ実験室の数々。
大勢の生徒が、かつてカナタが元の世界でそうであったように、席に座って座学を受けている教室。
魔法使いの杖やアクセサリーが並ぶ購買や、生徒が自主的に制作した魔法道具を販売する露店など、様々な施設は幾ら見ていても飽きることはなく、後半はアーデルハイトが根を上げたことでこうして休憩する運びとなっていた。
「でも楽しかったー。凄いんだねー、ボク達の世界の学校よりもずっと大きくて色々なものがある」
「エトランゼの世界の学校? へぇ、少し興味があるわね」
「でもこっちの方が全然面白いよ」
「それって貴方が勉強嫌いだからじゃないの? ここに入学しても、座学は一番とらなくてはいけない項目が多いわよ」
「うぇー……。ボク、身体動かす方が好きだからなぁ」
実験場という名の広場では、生徒達が紅白に分かれて模擬戦をやっていた。中にはアーデルハイトに声を掛ける者もあったが、彼女はやんわりと断っていた。
「でもよかったの?」
テーブルから顔を上げて、アーデルハイトの顔を正面に見る。
「なにが?」
「今日、授業とか全部出れなかったでしょ? 遅れたりしたら……」
「それは……」
何故か答えにくそうに口籠るアーデルハイト。
その意味が判らずに首を傾げていると、遠くから誰かがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「おーい、君達!」
息を切らせながらやって来たのは、つい先程、研究成果を盗まれて倒れ込んでいた中年の男性だった。きっちりとした正装に身を包んだその姿は立派なもので、恐らくはこの学院の教授職についているのだろう。
「やっと見つけた……。君は見ない顔だけど、見学者かい?」
「あ、はい。えっと、アーデルハイトさんに案内してもらっていて」
「アーデルハイト君に? ……まあいいか。とにかく、あの時はありがとう。資料は奪われてしまったけど、彼等の仲間の一人を捕らえることができたからね。きっと解決もすぐだろう」
「い、いえ……。むしろごめんなさい。ちゃんと取り返すことができなくて」
「いや、いいさ。盗まれた僕や学院の警備にも問題があるし。何より大の大人が子供にそこまで期待するわけにはいかないからね」
紳士的な態度で、その教授はにこやかにそう言ってくれた。
カナタへ掛ける言葉はそれで終わりで、今度は少しばかり顔を歪ませてアーデルハイトの方を見る。彼女も彼女で、故意に目を合わせないようするためなのかそっぽを向いていた。
「アーデルハイト君。人助けも結構だが、ここのところ授業の出席率がよくないようだが?」
「個人研究に時間を割いていますので」
「それにしたって、個人ではどうしようもない部分もあるだろう。実験の規模や結果を考えれば、集団研究に切り替えた方がいいんじゃないか? 君の実力ならば何処の研究室でも引く手数多だろうに。そのためにも授業にちゃんと出席し、同じ志を持つ仲間をだね……」
「興味のあるテーマがありませんので」
「それはないだろう。よく考えて見てくれ。そうだ、よければ今度資料を纏めておくから、相談しようじゃないか」
カナタはその光景に見覚えがあった。
間違いなく、学生時代に見た問題児である生徒と熱心な先生の会話だ。
カナタ自身はそうではないが、友人にそういった人物がいたので、そこに立ち合ったことは何度かある。
「必要なだけの単位は取得していますし、実技や筆記の結果も問題ありません。後は研究が終われば卒業。それだけの話でしょう?」
「いや、しかしね……。卒業、と言っても君のその後の進路もこちらとしては考えなければならないんだよ? だというのに……」
「ブルーノ教授。今日は人の案内をしているので、そう言った話題はまた後日にお願いします」
「後日って……。君はまたすぐに雲隠れしてしまうじゃ……うわぁ!」
びゅんと、二人の間に入るように、何処からともなく箒が飛んでくる。
アーデルハイトはそれに横向きに腰かけると、呆然と話を聞いていたカナタに手を差し伸べた。
「家まで送るわ」
「え、あ、ありがと……」
一瞬教授を見たが、彼もアーデルハイトの頑なな態度にもう言葉もないのか黙って見送るつもりだった。
アーデルハイトの後ろに座って、肩を落としたままのブルーノ教授を見下ろす。
「あの! 今日盗まれた資料って、やっぱり大事なものなんですか?」
「あ、ああ……。まぁ、大事だね。長年の研究の成果だから。でも君が気にすることではないよ。もう警備隊に探してくれるように依頼はしてあるし」
「……判りました」
そのやり取りを最後にして、箒は空高く舞い上がっていく。
大勢の生徒達が見上げる中を、アーデルハイトとカナタは夕焼けの空へと吸い込まれていった。
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