90 / 178
第二章 魔法使いの追憶
2‐34
しおりを挟む
まだ扉の前にいるカナタを押し留めようとするが、間に合わなかった。
ヨハンの隣に並んだカナタはその部屋を眺めて、未知の道具が生み出す不気味な嫌悪感に顔を顰める。
「……ヨハンさん、あれ……」
そして、カナタは見てしまった。
部屋の左右に小さな檻が並び、その中にあるものを。
四肢をもがれ、代わりに魔物の両手両足を縫合され思うがままに歩けない者。
廃人のように口を開いたまま、ぶつぶつと意味のない言葉を唱え続ける者。
手足が異様に短く、まるでそこだけ子供のような者。
そして何よりも異様なさまを見せつけるのは、一つの檻に捨てられるように放り込まれた、折り重なった人間達だった。
彼等は死んではないが、身体が無事であるにも関わらずろくに動くかず、自分の上に圧し掛かる他者を押し退けることすらせずにぼうっと天井を見上げている。
ふらつきそうになるカナタの肩を、ヨハンは両手で支える。
「ご、ごめ……」
「……いや。こんなことだろうとは思っていた。お前を連れて来たのは俺のミスだ」
ヨハンが焦っていたのは紛れもない事実だった。そのため、カナタにまで気が回らなかったのだ。
「行けるか?」
「……うん」
二人が一歩を踏み出すと、檻の中の人とも獣ともつかない者達が顔を向けてくる。
それはまるで助けを求めているようだった。
そして二人が部屋の中央辺りまで来たところで、何処からか聞こえてきた靴音に、反射的に立ち止まることになる。
この部屋からは二ヵ所廊下が伸びていて、靴音はその片方からこちら向かって歩いて来ていた。
キメラ達を閉じ込めるためなのか、金属製で設えた扉が音を立てて開き、その足音の主が姿を現す。
それはある意味、最早二人にとっては予想通りの人物だった。
「こんなところまでやってくるとは、熱心な学生さんだ。……と、学院の生徒が来たら言ってあげようと思ってんだけどね」
冷静に、これまで会ったときと殆ど変わらないような態度で、ブルーノ教授はそう口にしながら部屋へと入ってい来る。
「まさか魔法学院の警備がこんなに簡単に無力化されるとは……。学生達にも褒められていたけど、君は大した道具を持っているね。我流で作っているのかな?」
「その辺りは企業秘密だ。それより質問に答えてもらうぞ」
「いや、僕としては君達の方が遥かに興味深いのだけどね。しかし、質問に答えるのも教授の仕事か」
ヨハンは持っていた資料のあるページを開き、それを突きだすようにブルーノ教授へと見せつけた。
「……お前はエトランゼを使って何をしていた?」
「そこに書いてあるじゃないか。ギフトを持ったキメラの作成だよ。君達異邦人は文化も思想も違いすぎて厄介この上ないが、ギフトだけは有用な力だからね。僕達が利用してあげようと言うわけだ」
「違う。そこじゃない。……第二世代のギフトとは何だ?」
「書いてある通りのことだよ。質問は一通り資料に目を通してからにしてくれると助かんるな」
エトランゼの子供にギフトが受け継がれることはない。
少なくともヨハンが知っている限りではそれが通説だった。例えエトランゼ同士だっとしても、その子はギフトを持たずに生まれてくる。
「僕も最初に知ったときは驚いたよ。君も知っての通り、彼等がギフトと呼ばれる力を使うことはない。……普通ならばね」
ブルーノ教授は淡々と、その先を続ける。
「そう。使えないだけで持っているんだ。彼等第二世代のエトランゼは。今はまだサンプルも少なく決定的ではないが、その多くが君達第一世代よりも珍しく、強力なギフトを持っていることが多い。君達は、どれだけこのオルタリアを騒がせれば気が済むのか」
本当に困ったと。
そうとでも言いたげな溜息が、カナタに火をつける。
セレスティアルの剣を手の中に生み出して、今にも飛びかかって行きそうなカナタを、ヨハンは腕を伸ばして制する。
「キメラの研究と並行してエトランゼについての実験も数多く行っていてね。例えば――エトランゼからギフトを取り出せないかと苦心してみたのだが。」
檻の中で、死人のように呼吸だけを繰り返す人型を視線で指す。
「残念なことにそれはできないようだ。ギフトと魂は強く結びついていて、それを無理矢理に取り出そうとすればああして廃人になってしまう」
「聞きたいことはもう一つある」
資料を捲り、その中の一ページを開いた。
それをブルーノ教授に突きつけながら、ヨハンは声を荒げる。
「何故、ここにこの名前がある」
資料に書かれていた被験者の名前。
幾つものエトランゼの名前の中に交じって、それは確かにあった。
アーデルハイト・クルル。
魔法学院に通う、正真正銘のこの世界の住人の名前が。
「彼女は困った学生だった。……君は彼女の保護者のようなものだろう? 長年一緒に暮らしていたのなら判っているはずだよ。あの特異とも呼べる才能の数々が」
「前も言ったはずだ。アーデルハイトは」
「努力した? 違う。努力は誰だってしている。それでも辿り付けぬ高みがあるだろう? 人の昇る階段を一足跳びで乗り越え、誰もが届かない場所に辛うじて手を掛ける。それこそが天才というものだ」
「だとしたらそれは貴重な人材だ。何故、実験材料にするような真似をする?」
「エトランゼ君。君は学生だったことはあるかい?」
ヨハンは答えない。
ブルーノ教授はそれを勝手に肯定ととらえて話を進めていく。
「度を越えた才能は足並みを乱す。彼女の所為で自信を失った生徒を大勢見てきた。いやいや、僕達とて魔法の探究者、その原因が本人にあることぐらいは判っているよ」
「だがね」と、ブルーノ教授は付け加える。
その目には冷酷な光が宿っており、アーデルハイトのことは最早学生とも思っていないのだろう。
講義を聞かせるように、わざわざ聞き取りやすいペースで話を続けていく。
「彼女はなにもしなかった。その有り余る才を遊ばせるままに自由に行動し、学院の利益を生み出さない。そしてあろうことか!」
ブルーノ教授は急にいきり立ち、テーブルに拳を叩きつける。
実験器具が飛び跳ねて、そのうちの幾つかは床に転がって甲高い音を立てた。
「卒業を見送るような動きを見せた。卒業すれば自由が奪われるから、できるだけ学院に長く留まろうとしてね。まるで何かを待っているかのように」
「授業に出ないのは悪いことだけど、卒業後の進路ぐらいは好きにさせてあげればよかっただけじゃん!」
カナタはそう反論する。
「そんなわけにはいかない。学院にはヘルフリート陛下が多額の出資をしているのだ。魔法技術を高めるため、この国の未来を担う技術者の育成。そして何よりも……優れた兵士を生み出すために」
ヘルフリートの狙いは、魔法学院の生徒を利用した軍拡だった。
キメラを初めとする生物兵器。そして優れた素質を持つ学生達。
それらを兵器や兵士として使うことで、戦力の拡充を図ったのだった。
「昔、キメラを兵器として開発していた時に暴走事故を起こしてね。僕は多くの被害者を出したことがある。それ以来、僕は後悔してキメラを兵器にすることを一度は断念した。研究自体は好きだったし、兵器でなくてもこの国の人々の役に立てるものは幾らでも作れたからね」
一転して、穏やかな口調でブルーノ教授は語る。
もう彼の話を聞く必要など全くない。それなのに、ヨハンもカナタもその場から動くことができないでいた。
「でも、君達が現れた。君達エトランゼはこの国を変えていく。制御不可能な力を幾つも生み出していく。そればかりか、ギフトを持つ君達そのものが、制御できない怪物そのものじゃないか!」
「……そんなの……!」
「エトランゼ、言うことを聞かない天才児。それらは僕達の秩序を乱す。僕達の国を狂わせて、破滅へと向かわせるだろう。僕はそれが我慢できないんだ。だから、その為に抵抗する。なにもおかしなことはしていないだろう?」
果たして、目の前の男は狂っているのか。
その判断はヨハンには付きかねた。
彼の言っていることは全て事実だ。加えて、彼の言っていることを行おうとしたヨシツグという前例もある。
そして何よりも、エレオノーラの下に付き、ヨハン達がやっていることすらも――。
だが、それでも目の前の男の行いを許すわけにはいかない。
それがエトランゼのエゴだと罵られても、ヨハンもカナタもエトランゼで、同胞を護る気持ちは確かにあるのだから。
「……アーデルハイトを返して、この施設を放棄しろ」
「それはできないよ。僕がこれをやめたら、誰が君達を止めるんだい?」
「俺達はお前達を害するつもりはない」
「それは信じられないね。君達は一人一人が化け物なんだから」
ブルーノ教授が片手を上げる。
その掌に魔力が集まり、赤い輝きが一瞬で弾けた。
同時に、あちこちから獣の咆哮のような声が木霊し、何かを破壊するような音が幾つも聞こえてくる。
「キメラの制御魔法か!」
「その通りだ! さあ、僕の作ったキメラの実験台になってくれ。特にそっちの、光のギフトを持つ少女。君を殺せれば及第点、ヘルフリート陛下にも自信を持ってお勧めできる」
扉が破壊され、獣型のキメラがその場に現れる。
それだけでなく、檻の中にいる生き物たちも、もがきながら檻を抉じ開けてカナタ達の方へと近付いてくる。
カナタは今度こそセレスティアルの剣を構え、ヨハンもショートバレルに弾丸を装填する。
「――っと、そうだ。僕としたことが。一つ失敗してしまった」
何かを思い出したかのように、ブルーノ教授は両手を叩いて二人の意識を引き寄せる。
「これではアーデルハイト君もキメラの餌になってしまうな。すまないが、どちらか助けてきてもらえないかな? 学生であり貴重な材料の彼女をつまらない失い方はしたくないものでね」
「……貴様……!」
飛びかかってくるキメラを横に飛んで避けて、反撃に弾丸を叩き込む。
しかし、その生命力は凄まじく、身体に弾が入り込んだ程度ではすぐに再生してしまった。
「ヨハンさん!」
両手にセレスティアルの剣を構え、左右から迫りくる人型のキメラを斬り倒したカナタが叫ぶ。
「アーデルハイトのところに! ここはボクが引き受けるから!」
「カナタ……!」
「早く!」
ヨハンの前に立ち塞がり、獅子と山羊の顔が付いたキメラと向かいあう。
「……判った。すぐに戻ってくる」
「うん! 多分、十五分ぐらいしか持たないから!」
「……いやに具体的だな」
カナタに背中を預けて、ヨハンはブルーノ教授の横を通り過ぎて、その後ろの扉を開けて部屋を出ていく。
「……止めなくてよかったの?」
「僕はアーデルハイト君を殺したいわけではないからね。それに、今は君のそのギフトの方が興味深い」
「こいつら全部倒したら、絶対捕まえて反省させてやるから!」
そう声を張り上げてから、カナタは自らを包囲するキメラの群れに立ち向かって行った。
ヨハンの隣に並んだカナタはその部屋を眺めて、未知の道具が生み出す不気味な嫌悪感に顔を顰める。
「……ヨハンさん、あれ……」
そして、カナタは見てしまった。
部屋の左右に小さな檻が並び、その中にあるものを。
四肢をもがれ、代わりに魔物の両手両足を縫合され思うがままに歩けない者。
廃人のように口を開いたまま、ぶつぶつと意味のない言葉を唱え続ける者。
手足が異様に短く、まるでそこだけ子供のような者。
そして何よりも異様なさまを見せつけるのは、一つの檻に捨てられるように放り込まれた、折り重なった人間達だった。
彼等は死んではないが、身体が無事であるにも関わらずろくに動くかず、自分の上に圧し掛かる他者を押し退けることすらせずにぼうっと天井を見上げている。
ふらつきそうになるカナタの肩を、ヨハンは両手で支える。
「ご、ごめ……」
「……いや。こんなことだろうとは思っていた。お前を連れて来たのは俺のミスだ」
ヨハンが焦っていたのは紛れもない事実だった。そのため、カナタにまで気が回らなかったのだ。
「行けるか?」
「……うん」
二人が一歩を踏み出すと、檻の中の人とも獣ともつかない者達が顔を向けてくる。
それはまるで助けを求めているようだった。
そして二人が部屋の中央辺りまで来たところで、何処からか聞こえてきた靴音に、反射的に立ち止まることになる。
この部屋からは二ヵ所廊下が伸びていて、靴音はその片方からこちら向かって歩いて来ていた。
キメラ達を閉じ込めるためなのか、金属製で設えた扉が音を立てて開き、その足音の主が姿を現す。
それはある意味、最早二人にとっては予想通りの人物だった。
「こんなところまでやってくるとは、熱心な学生さんだ。……と、学院の生徒が来たら言ってあげようと思ってんだけどね」
冷静に、これまで会ったときと殆ど変わらないような態度で、ブルーノ教授はそう口にしながら部屋へと入ってい来る。
「まさか魔法学院の警備がこんなに簡単に無力化されるとは……。学生達にも褒められていたけど、君は大した道具を持っているね。我流で作っているのかな?」
「その辺りは企業秘密だ。それより質問に答えてもらうぞ」
「いや、僕としては君達の方が遥かに興味深いのだけどね。しかし、質問に答えるのも教授の仕事か」
ヨハンは持っていた資料のあるページを開き、それを突きだすようにブルーノ教授へと見せつけた。
「……お前はエトランゼを使って何をしていた?」
「そこに書いてあるじゃないか。ギフトを持ったキメラの作成だよ。君達異邦人は文化も思想も違いすぎて厄介この上ないが、ギフトだけは有用な力だからね。僕達が利用してあげようと言うわけだ」
「違う。そこじゃない。……第二世代のギフトとは何だ?」
「書いてある通りのことだよ。質問は一通り資料に目を通してからにしてくれると助かんるな」
エトランゼの子供にギフトが受け継がれることはない。
少なくともヨハンが知っている限りではそれが通説だった。例えエトランゼ同士だっとしても、その子はギフトを持たずに生まれてくる。
「僕も最初に知ったときは驚いたよ。君も知っての通り、彼等がギフトと呼ばれる力を使うことはない。……普通ならばね」
ブルーノ教授は淡々と、その先を続ける。
「そう。使えないだけで持っているんだ。彼等第二世代のエトランゼは。今はまだサンプルも少なく決定的ではないが、その多くが君達第一世代よりも珍しく、強力なギフトを持っていることが多い。君達は、どれだけこのオルタリアを騒がせれば気が済むのか」
本当に困ったと。
そうとでも言いたげな溜息が、カナタに火をつける。
セレスティアルの剣を手の中に生み出して、今にも飛びかかって行きそうなカナタを、ヨハンは腕を伸ばして制する。
「キメラの研究と並行してエトランゼについての実験も数多く行っていてね。例えば――エトランゼからギフトを取り出せないかと苦心してみたのだが。」
檻の中で、死人のように呼吸だけを繰り返す人型を視線で指す。
「残念なことにそれはできないようだ。ギフトと魂は強く結びついていて、それを無理矢理に取り出そうとすればああして廃人になってしまう」
「聞きたいことはもう一つある」
資料を捲り、その中の一ページを開いた。
それをブルーノ教授に突きつけながら、ヨハンは声を荒げる。
「何故、ここにこの名前がある」
資料に書かれていた被験者の名前。
幾つものエトランゼの名前の中に交じって、それは確かにあった。
アーデルハイト・クルル。
魔法学院に通う、正真正銘のこの世界の住人の名前が。
「彼女は困った学生だった。……君は彼女の保護者のようなものだろう? 長年一緒に暮らしていたのなら判っているはずだよ。あの特異とも呼べる才能の数々が」
「前も言ったはずだ。アーデルハイトは」
「努力した? 違う。努力は誰だってしている。それでも辿り付けぬ高みがあるだろう? 人の昇る階段を一足跳びで乗り越え、誰もが届かない場所に辛うじて手を掛ける。それこそが天才というものだ」
「だとしたらそれは貴重な人材だ。何故、実験材料にするような真似をする?」
「エトランゼ君。君は学生だったことはあるかい?」
ヨハンは答えない。
ブルーノ教授はそれを勝手に肯定ととらえて話を進めていく。
「度を越えた才能は足並みを乱す。彼女の所為で自信を失った生徒を大勢見てきた。いやいや、僕達とて魔法の探究者、その原因が本人にあることぐらいは判っているよ」
「だがね」と、ブルーノ教授は付け加える。
その目には冷酷な光が宿っており、アーデルハイトのことは最早学生とも思っていないのだろう。
講義を聞かせるように、わざわざ聞き取りやすいペースで話を続けていく。
「彼女はなにもしなかった。その有り余る才を遊ばせるままに自由に行動し、学院の利益を生み出さない。そしてあろうことか!」
ブルーノ教授は急にいきり立ち、テーブルに拳を叩きつける。
実験器具が飛び跳ねて、そのうちの幾つかは床に転がって甲高い音を立てた。
「卒業を見送るような動きを見せた。卒業すれば自由が奪われるから、できるだけ学院に長く留まろうとしてね。まるで何かを待っているかのように」
「授業に出ないのは悪いことだけど、卒業後の進路ぐらいは好きにさせてあげればよかっただけじゃん!」
カナタはそう反論する。
「そんなわけにはいかない。学院にはヘルフリート陛下が多額の出資をしているのだ。魔法技術を高めるため、この国の未来を担う技術者の育成。そして何よりも……優れた兵士を生み出すために」
ヘルフリートの狙いは、魔法学院の生徒を利用した軍拡だった。
キメラを初めとする生物兵器。そして優れた素質を持つ学生達。
それらを兵器や兵士として使うことで、戦力の拡充を図ったのだった。
「昔、キメラを兵器として開発していた時に暴走事故を起こしてね。僕は多くの被害者を出したことがある。それ以来、僕は後悔してキメラを兵器にすることを一度は断念した。研究自体は好きだったし、兵器でなくてもこの国の人々の役に立てるものは幾らでも作れたからね」
一転して、穏やかな口調でブルーノ教授は語る。
もう彼の話を聞く必要など全くない。それなのに、ヨハンもカナタもその場から動くことができないでいた。
「でも、君達が現れた。君達エトランゼはこの国を変えていく。制御不可能な力を幾つも生み出していく。そればかりか、ギフトを持つ君達そのものが、制御できない怪物そのものじゃないか!」
「……そんなの……!」
「エトランゼ、言うことを聞かない天才児。それらは僕達の秩序を乱す。僕達の国を狂わせて、破滅へと向かわせるだろう。僕はそれが我慢できないんだ。だから、その為に抵抗する。なにもおかしなことはしていないだろう?」
果たして、目の前の男は狂っているのか。
その判断はヨハンには付きかねた。
彼の言っていることは全て事実だ。加えて、彼の言っていることを行おうとしたヨシツグという前例もある。
そして何よりも、エレオノーラの下に付き、ヨハン達がやっていることすらも――。
だが、それでも目の前の男の行いを許すわけにはいかない。
それがエトランゼのエゴだと罵られても、ヨハンもカナタもエトランゼで、同胞を護る気持ちは確かにあるのだから。
「……アーデルハイトを返して、この施設を放棄しろ」
「それはできないよ。僕がこれをやめたら、誰が君達を止めるんだい?」
「俺達はお前達を害するつもりはない」
「それは信じられないね。君達は一人一人が化け物なんだから」
ブルーノ教授が片手を上げる。
その掌に魔力が集まり、赤い輝きが一瞬で弾けた。
同時に、あちこちから獣の咆哮のような声が木霊し、何かを破壊するような音が幾つも聞こえてくる。
「キメラの制御魔法か!」
「その通りだ! さあ、僕の作ったキメラの実験台になってくれ。特にそっちの、光のギフトを持つ少女。君を殺せれば及第点、ヘルフリート陛下にも自信を持ってお勧めできる」
扉が破壊され、獣型のキメラがその場に現れる。
それだけでなく、檻の中にいる生き物たちも、もがきながら檻を抉じ開けてカナタ達の方へと近付いてくる。
カナタは今度こそセレスティアルの剣を構え、ヨハンもショートバレルに弾丸を装填する。
「――っと、そうだ。僕としたことが。一つ失敗してしまった」
何かを思い出したかのように、ブルーノ教授は両手を叩いて二人の意識を引き寄せる。
「これではアーデルハイト君もキメラの餌になってしまうな。すまないが、どちらか助けてきてもらえないかな? 学生であり貴重な材料の彼女をつまらない失い方はしたくないものでね」
「……貴様……!」
飛びかかってくるキメラを横に飛んで避けて、反撃に弾丸を叩き込む。
しかし、その生命力は凄まじく、身体に弾が入り込んだ程度ではすぐに再生してしまった。
「ヨハンさん!」
両手にセレスティアルの剣を構え、左右から迫りくる人型のキメラを斬り倒したカナタが叫ぶ。
「アーデルハイトのところに! ここはボクが引き受けるから!」
「カナタ……!」
「早く!」
ヨハンの前に立ち塞がり、獅子と山羊の顔が付いたキメラと向かいあう。
「……判った。すぐに戻ってくる」
「うん! 多分、十五分ぐらいしか持たないから!」
「……いやに具体的だな」
カナタに背中を預けて、ヨハンはブルーノ教授の横を通り過ぎて、その後ろの扉を開けて部屋を出ていく。
「……止めなくてよかったの?」
「僕はアーデルハイト君を殺したいわけではないからね。それに、今は君のそのギフトの方が興味深い」
「こいつら全部倒したら、絶対捕まえて反省させてやるから!」
そう声を張り上げてから、カナタは自らを包囲するキメラの群れに立ち向かって行った。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる