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第四章 空と大地の交差
4‐17
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「なるほど。それでは現状、ハーフェンはオルタリアに与しているわけではないと」
ハーフェンの街にある海岸をずっと歩いていくと、次第に崖のようになっていく。
その高いところに街を見下ろすような形で、ハーフェンの町長であるマルク・ユルゲンスの屋敷は建っていた。
その来客用の応接室は柔らかな日差しの差し込む天窓に貿易により手に入れたのだろう、オルタリアではあまり見られないインテリアが目立つ。
中には掛け軸のようなものもあり、話によれば東方にある国からの船に乗せられていたものらしい。
ヨハンは今ソファに腰かけ、テーブルを挟んで反対側にはこの部屋の主であるマルク・ユルゲンス本人と対面している。
恰幅の良い優しげな顔立ちの中年男性は、少しばかり困ったような顔で額に浮かんだ汗をハンカチで拭き取りながら喋っていた。
「ええ。オルタリアからは以前、官吏としてヘルフリート陛下の息のかかった貴族が派遣されてきたのですが……」
マルクは周囲を見渡して、やや声を潜める。
「その振る舞いの悪さからちょっと揉め事を起こしまして……。今はお互いに不干渉と言う形になっております」
「それで、その官吏は今何処に?」
「街からうーんと離れたところの屋敷で、今日も引きこもってるんじゃない?」
応接室の扉を、音を立てて開きながら入ってきた少女がそんなことを言った。
金色の長い髪に小柄な体躯の少女はヨハンと言う来客があるにも関わらず、全く臆した様子もなくつかつかと部屋の中を歩いてくる。
「こら、クラウディア! 来客中だぞ」
「そのお客さんに用事があるから来たんだよ、アタシも。パパもさ、別に隠さなくていいよ、あのこと」
「あのこと?」
「ヘルフリートから派遣されてきたあのクズ貴族。アタシを厭らしい目で見るわ、ラニーニャの身体を触るわのクソすけべ野郎だったの。だからさ、夜中に話があるって呼び出して、小舟で沖に連れ出して海の底に叩きこんでやったんだ」
上機嫌に語るクラウディアだが、マルクは手で目を覆いヨハンは絶句していた。
「それからどうなった?」
「なんか岸には上がってきたみたいだけどね。それからはこっちには何にも干渉して来なくなって、清々してるよ。ね、パパ?」
「いや、お前……それは……」
マルクは言い淀んでいるが、クラウディアの言うことは大方事実のようだった。
だとすれば、ハーフェンはオルタリアとの関係が上手く行っていないことになる。
そんなヨハンの考えを見透かしたのか、クラウディアは正面に立ってこちらを見つめてくる。
「アンタがイシュトナルから派遣されてきた使者の人?」
「クラウディア! 今はお前が出る幕ではない。少し大人しくていてくれ」
悲鳴のようなマルクの声も何処吹く風と、クラウディアは我が物顔で振る舞い続ける。
「そう言うわけにはいかないの! で、どうなの?」
「如何にもその通りだが」
「名前はヨハン?」
「ああ、そうだ」
「はい。お手紙。海賊から」
「……なんだと?」
クラウディアが懐から取り出した手紙と言うよりは単なる紙切れを手に取り、そこに書かれていた文字を読む。
「……カナタが捕まっている?」
そこには綺麗な文字で、カナタを捕まえたこと。取り戻したかったら指定の海域にまでやってくることとだけ書かれていた。
「判ってると思うけど、悪戯じゃないからね。アンタの連れて来た子が伝令役になってるんだから」
どうやら屋敷の玄関でアーデルハイトを捕まえて、この手紙をぶんどって届けに来たようだった。
「……まったく」
呆れながら、ヨハンは手紙をローブの懐にしまい込む。
そして改めてマルクの顔を真っ直ぐに見て、告げる。
「申し訳ありませんが、用事ができてしまったもので。話の続きはまた後日に」
「い、いや君、それは……。いいのか、一応は君も使者としてここに来ている身だろう?」
「はい。ですが、あいつの命はそれよりも重要な案件になりますから。主もそれは理解してくれるでしょう」
「クラウディア! お前はあまり危険なことは……」
「もう遅いって! 海賊達はアタシ達の武装商船団にも挑戦状を出してるんだ。このまま退いたら舐められるよ」
「いや、私は別にそんなことは気にしないが……。それよりもお前の無事の方が」
「アタシは海の女。海で死ねるなら本望さ。さ、行こうよよっちゃん。まずは作戦会議だね。船のことなら心配しなくていいよ、アタシが出してあげるから」
そう言って、手を取ってクラウディアはヨハンを引っ張っていって出ていってしまったのだった。
ハーフェンの街にある海岸をずっと歩いていくと、次第に崖のようになっていく。
その高いところに街を見下ろすような形で、ハーフェンの町長であるマルク・ユルゲンスの屋敷は建っていた。
その来客用の応接室は柔らかな日差しの差し込む天窓に貿易により手に入れたのだろう、オルタリアではあまり見られないインテリアが目立つ。
中には掛け軸のようなものもあり、話によれば東方にある国からの船に乗せられていたものらしい。
ヨハンは今ソファに腰かけ、テーブルを挟んで反対側にはこの部屋の主であるマルク・ユルゲンス本人と対面している。
恰幅の良い優しげな顔立ちの中年男性は、少しばかり困ったような顔で額に浮かんだ汗をハンカチで拭き取りながら喋っていた。
「ええ。オルタリアからは以前、官吏としてヘルフリート陛下の息のかかった貴族が派遣されてきたのですが……」
マルクは周囲を見渡して、やや声を潜める。
「その振る舞いの悪さからちょっと揉め事を起こしまして……。今はお互いに不干渉と言う形になっております」
「それで、その官吏は今何処に?」
「街からうーんと離れたところの屋敷で、今日も引きこもってるんじゃない?」
応接室の扉を、音を立てて開きながら入ってきた少女がそんなことを言った。
金色の長い髪に小柄な体躯の少女はヨハンと言う来客があるにも関わらず、全く臆した様子もなくつかつかと部屋の中を歩いてくる。
「こら、クラウディア! 来客中だぞ」
「そのお客さんに用事があるから来たんだよ、アタシも。パパもさ、別に隠さなくていいよ、あのこと」
「あのこと?」
「ヘルフリートから派遣されてきたあのクズ貴族。アタシを厭らしい目で見るわ、ラニーニャの身体を触るわのクソすけべ野郎だったの。だからさ、夜中に話があるって呼び出して、小舟で沖に連れ出して海の底に叩きこんでやったんだ」
上機嫌に語るクラウディアだが、マルクは手で目を覆いヨハンは絶句していた。
「それからどうなった?」
「なんか岸には上がってきたみたいだけどね。それからはこっちには何にも干渉して来なくなって、清々してるよ。ね、パパ?」
「いや、お前……それは……」
マルクは言い淀んでいるが、クラウディアの言うことは大方事実のようだった。
だとすれば、ハーフェンはオルタリアとの関係が上手く行っていないことになる。
そんなヨハンの考えを見透かしたのか、クラウディアは正面に立ってこちらを見つめてくる。
「アンタがイシュトナルから派遣されてきた使者の人?」
「クラウディア! 今はお前が出る幕ではない。少し大人しくていてくれ」
悲鳴のようなマルクの声も何処吹く風と、クラウディアは我が物顔で振る舞い続ける。
「そう言うわけにはいかないの! で、どうなの?」
「如何にもその通りだが」
「名前はヨハン?」
「ああ、そうだ」
「はい。お手紙。海賊から」
「……なんだと?」
クラウディアが懐から取り出した手紙と言うよりは単なる紙切れを手に取り、そこに書かれていた文字を読む。
「……カナタが捕まっている?」
そこには綺麗な文字で、カナタを捕まえたこと。取り戻したかったら指定の海域にまでやってくることとだけ書かれていた。
「判ってると思うけど、悪戯じゃないからね。アンタの連れて来た子が伝令役になってるんだから」
どうやら屋敷の玄関でアーデルハイトを捕まえて、この手紙をぶんどって届けに来たようだった。
「……まったく」
呆れながら、ヨハンは手紙をローブの懐にしまい込む。
そして改めてマルクの顔を真っ直ぐに見て、告げる。
「申し訳ありませんが、用事ができてしまったもので。話の続きはまた後日に」
「い、いや君、それは……。いいのか、一応は君も使者としてここに来ている身だろう?」
「はい。ですが、あいつの命はそれよりも重要な案件になりますから。主もそれは理解してくれるでしょう」
「クラウディア! お前はあまり危険なことは……」
「もう遅いって! 海賊達はアタシ達の武装商船団にも挑戦状を出してるんだ。このまま退いたら舐められるよ」
「いや、私は別にそんなことは気にしないが……。それよりもお前の無事の方が」
「アタシは海の女。海で死ねるなら本望さ。さ、行こうよよっちゃん。まずは作戦会議だね。船のことなら心配しなくていいよ、アタシが出してあげるから」
そう言って、手を取ってクラウディアはヨハンを引っ張っていって出ていってしまったのだった。
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