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第四章 空と大地の交差
4‐26
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冷たい水の中に身体が沈んでいく。
小さな身体がまるで川に流される木の葉のように、何の抵抗もなく水の中を滑っていった。
半ば朦朧とした意識の中で、きっと自分はもう死んだのだと半分諦めていた。
嫌なことがあった。
別に死にたいと思ったわけではないし、むしろそれは怖いから嫌だったのだけれど。
それでもここでこうして死んでしまうのは仕方がないのかなぁと、そんなことを考えてしまうぐらいには心が弱っていた。
ただ、一つ。
お互いに意見は噛みあわなかったけれど。
魔物に襲われた時に庇ったあの人達は無事でいてくれればいいと、心から願っていた。
全てを救えると、誰もが同じ意見になれると考えたわけではない。
それでも、救える命を助けられないのは嫌だから。
ふわりと身体が軽くなった。
水の中で苦しかったはずの呼吸が、途端に楽になる。
死にたくはない。まだやりたいことが沢山ある。
そう思いながらも抵抗できない。その感触が、身体を包む温かさが余りにも心地よかったから。
「……もう」
いつか聞こえた声がする。
以前聞いた覚えのある声は、その中に深い慈愛を込められていた。
でも、奇妙なことだ。
何故かその声を何度も何度も聞いたことがある。不思議な安らぎをもたらすその声の主が、どうしても思い出すことができない。
「くだらないことで死なないでちょうだい」
呆れたような声にも覚えがある。
何処だっただろう?
いつだっただろう?
とても落ち着くその声は、以前好きな声だと言ってあげたことがある。
そして何より不思議なことがある。
つい最近も、すぐ傍でその声を聞いた覚えがあるのだ。それも何度も繰り返し。
「命だけは助けておくわね。それから先は、自分で何とかなさい。できるでしょう?」
こちらの答えなど聞いていない。
そっと身体が固い何かの上に乗せられる。
そのままぷかぷかと川の流れに乗って、下流へと流されていく。
暖かな感触をもう一度味わいたくて手を伸ばそうとするが、全身を蝕む痛みがそれを許してくれない。
そんな様子を見て声の主は少しだけ、呆れたように笑ったような気がした。
「また会いましょう……と、言いたいけれど。そうならない方がお互いのためね。サヨナラ、カナタ」
顔を上げたかった。
その人物が誰であるかを確かめたかった。
また会えると、そう言いたかった。
でも身体が動かない。痛みと寒さでもう目が開かない。
動けと念じる、必死になって身体を起こす。
やがて少しずつ身体に力が入った。
心の中で数字を数えて、タイミングを合わせて体を起こす。
そしたら何でもいい。彼女の方を見て、声を掛けてやる。誰だか確かめてやる!
そう心に決めて、数字を数える。
「三、二、一、ゼロ!」
「痛ったぁ!」
ごちんと。
そんな音がして、目の前にちかちかと星が幾つも舞った。
「うう……。なにこれ……?」
くらくらとする頭を抑えながらも、辺りを見渡す。
高い天井、身体の下には柔らかいベッド。
そして、
「アタシが何したってんだよ……」
カナタと同じように額を抑えている、長い金髪の少女がこちらを全力で睨みつけていた。
小さな身体がまるで川に流される木の葉のように、何の抵抗もなく水の中を滑っていった。
半ば朦朧とした意識の中で、きっと自分はもう死んだのだと半分諦めていた。
嫌なことがあった。
別に死にたいと思ったわけではないし、むしろそれは怖いから嫌だったのだけれど。
それでもここでこうして死んでしまうのは仕方がないのかなぁと、そんなことを考えてしまうぐらいには心が弱っていた。
ただ、一つ。
お互いに意見は噛みあわなかったけれど。
魔物に襲われた時に庇ったあの人達は無事でいてくれればいいと、心から願っていた。
全てを救えると、誰もが同じ意見になれると考えたわけではない。
それでも、救える命を助けられないのは嫌だから。
ふわりと身体が軽くなった。
水の中で苦しかったはずの呼吸が、途端に楽になる。
死にたくはない。まだやりたいことが沢山ある。
そう思いながらも抵抗できない。その感触が、身体を包む温かさが余りにも心地よかったから。
「……もう」
いつか聞こえた声がする。
以前聞いた覚えのある声は、その中に深い慈愛を込められていた。
でも、奇妙なことだ。
何故かその声を何度も何度も聞いたことがある。不思議な安らぎをもたらすその声の主が、どうしても思い出すことができない。
「くだらないことで死なないでちょうだい」
呆れたような声にも覚えがある。
何処だっただろう?
いつだっただろう?
とても落ち着くその声は、以前好きな声だと言ってあげたことがある。
そして何より不思議なことがある。
つい最近も、すぐ傍でその声を聞いた覚えがあるのだ。それも何度も繰り返し。
「命だけは助けておくわね。それから先は、自分で何とかなさい。できるでしょう?」
こちらの答えなど聞いていない。
そっと身体が固い何かの上に乗せられる。
そのままぷかぷかと川の流れに乗って、下流へと流されていく。
暖かな感触をもう一度味わいたくて手を伸ばそうとするが、全身を蝕む痛みがそれを許してくれない。
そんな様子を見て声の主は少しだけ、呆れたように笑ったような気がした。
「また会いましょう……と、言いたいけれど。そうならない方がお互いのためね。サヨナラ、カナタ」
顔を上げたかった。
その人物が誰であるかを確かめたかった。
また会えると、そう言いたかった。
でも身体が動かない。痛みと寒さでもう目が開かない。
動けと念じる、必死になって身体を起こす。
やがて少しずつ身体に力が入った。
心の中で数字を数えて、タイミングを合わせて体を起こす。
そしたら何でもいい。彼女の方を見て、声を掛けてやる。誰だか確かめてやる!
そう心に決めて、数字を数える。
「三、二、一、ゼロ!」
「痛ったぁ!」
ごちんと。
そんな音がして、目の前にちかちかと星が幾つも舞った。
「うう……。なにこれ……?」
くらくらとする頭を抑えながらも、辺りを見渡す。
高い天井、身体の下には柔らかいベッド。
そして、
「アタシが何したってんだよ……」
カナタと同じように額を抑えている、長い金髪の少女がこちらを全力で睨みつけていた。
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