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第四章 空と大地の交差
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壊れて今にも沈みそうな船の上で、一先ずヨハンは息を吐いた。
カナタは頭からヨハンのローブを被ったまま、もう役に立たなくなった透明になる外套を海へと放り投げる。
「おい、捨てるな。あれの材料費は高いんだ」
「え、いやだってもう壊れちゃってたし。ごめん」
「直せばまた使えるとは思わなかったのか。……まあいいか」
「……勝ったね」
「そうだな」
船の揺れに抵抗することなく、カナタは背中をヨハンの胸に預けた。
「帰らないとね。疲れたからおんぶ」
「……新しい甘え方だな」
「ちょっと色々開拓してみようと思って」
「仕方ないな」
「えっ、いいの?」
珍しく無事だったヘヴィバレルに、ローブを投げ捨てた際に零れ落ちた各種道具を拾い集めて、ヨハンはカナタを背負って歩きはじめる。
「えへへー」
肩の上に顎を乗せて、ぶかぶかのヨハンのローブを被ったカナタはすっかり上機嫌だった。
疲れてるのは本当だが、こうしてヨハンのぬくもりを感じて一緒にいることを自覚するだけで元気が出てくる。
「嬉しそうだな」
道すがら、ヨハンはそんなことを尋ねた。
「ヨハンさんにくっつくのも久しぶりだしね」
「なにが楽しいんだか」
「んー……」
照れくさいような、嬉しいような、なんだか申し訳ないような。
何とも言いようもない感情だったが、一つだけ判ることは、決して嫌ではないと言うことだった。
「微妙」
でも、恥ずかしいから誤魔化すことにした。
「だろう?」
「あ、ラニーニャさん!」
折れかけたマストに身体を預けるラニーニャが、こちらに手を振っていた。
その先に、甲板から必死の形相でロープを投げるクラウディアも。
その後ろでは武装商船団の船員達が手を振って歓声を上げて、そして歌っていた。
船乗り達の歌。数々の困難が襲い掛かる海の上で、自分達を勇気付けるために歌う頌歌。
それは何処か、あの海の上で聞いた海賊達の歌にもよく似ていて。
マーキス・フォルネウスに激突したまま、共に沈もうとしているその船を見て、カナタの目頭が一気に熱を帯びた。
顔を伏せて、ヨハンの背に埋める。
背中が濡れる感触で、ヨハンにはきっと全て伝わってしまっただろう。
「……帰るぞ。やることは沢山ある」
「……うん」
「それが終わったら、家に遊びに来い。アーデルハイトも喜ぶし、俺自身も色々と聞きたい話があるからな」
「お説教なら遠慮します」
「違う。大海賊の元で過ごした話とか、冒険者として何をしていたかとかでいい。何でもいいから楽しい話を聞かせてくれ」
暗い話や、苦労したことなどはそのうちにでいい。
今は彼女がどんな経験を積んで、何を学んで、如何に楽しいことがあったのか。
それを聞かせてくれればいい。
「お前は無駄に前向きだからな。土産話には事欠かないだろう」
以前からそうだった。
エレオノーラ達に出会う前から、冒険者として決して楽な日々を過ごしているわけではないというのに、カナタが持ってくるのは明るい話ばかりだ。
「……へへっ。じゃあ、今度はヨハンさんの話も聞かせてよ」
「俺の話なんか聞いてもつまらんだろう」
「ううん。聞きたい」
「……まあ、別にいいか」
穏やかにそんな話をしながら、二人は歩いていく。
その後ろには、ゆっくりとではあるが確実に、彼等が愛した海へと還っていく海賊達の姿があった。
カナタは頭からヨハンのローブを被ったまま、もう役に立たなくなった透明になる外套を海へと放り投げる。
「おい、捨てるな。あれの材料費は高いんだ」
「え、いやだってもう壊れちゃってたし。ごめん」
「直せばまた使えるとは思わなかったのか。……まあいいか」
「……勝ったね」
「そうだな」
船の揺れに抵抗することなく、カナタは背中をヨハンの胸に預けた。
「帰らないとね。疲れたからおんぶ」
「……新しい甘え方だな」
「ちょっと色々開拓してみようと思って」
「仕方ないな」
「えっ、いいの?」
珍しく無事だったヘヴィバレルに、ローブを投げ捨てた際に零れ落ちた各種道具を拾い集めて、ヨハンはカナタを背負って歩きはじめる。
「えへへー」
肩の上に顎を乗せて、ぶかぶかのヨハンのローブを被ったカナタはすっかり上機嫌だった。
疲れてるのは本当だが、こうしてヨハンのぬくもりを感じて一緒にいることを自覚するだけで元気が出てくる。
「嬉しそうだな」
道すがら、ヨハンはそんなことを尋ねた。
「ヨハンさんにくっつくのも久しぶりだしね」
「なにが楽しいんだか」
「んー……」
照れくさいような、嬉しいような、なんだか申し訳ないような。
何とも言いようもない感情だったが、一つだけ判ることは、決して嫌ではないと言うことだった。
「微妙」
でも、恥ずかしいから誤魔化すことにした。
「だろう?」
「あ、ラニーニャさん!」
折れかけたマストに身体を預けるラニーニャが、こちらに手を振っていた。
その先に、甲板から必死の形相でロープを投げるクラウディアも。
その後ろでは武装商船団の船員達が手を振って歓声を上げて、そして歌っていた。
船乗り達の歌。数々の困難が襲い掛かる海の上で、自分達を勇気付けるために歌う頌歌。
それは何処か、あの海の上で聞いた海賊達の歌にもよく似ていて。
マーキス・フォルネウスに激突したまま、共に沈もうとしているその船を見て、カナタの目頭が一気に熱を帯びた。
顔を伏せて、ヨハンの背に埋める。
背中が濡れる感触で、ヨハンにはきっと全て伝わってしまっただろう。
「……帰るぞ。やることは沢山ある」
「……うん」
「それが終わったら、家に遊びに来い。アーデルハイトも喜ぶし、俺自身も色々と聞きたい話があるからな」
「お説教なら遠慮します」
「違う。大海賊の元で過ごした話とか、冒険者として何をしていたかとかでいい。何でもいいから楽しい話を聞かせてくれ」
暗い話や、苦労したことなどはそのうちにでいい。
今は彼女がどんな経験を積んで、何を学んで、如何に楽しいことがあったのか。
それを聞かせてくれればいい。
「お前は無駄に前向きだからな。土産話には事欠かないだろう」
以前からそうだった。
エレオノーラ達に出会う前から、冒険者として決して楽な日々を過ごしているわけではないというのに、カナタが持ってくるのは明るい話ばかりだ。
「……へへっ。じゃあ、今度はヨハンさんの話も聞かせてよ」
「俺の話なんか聞いてもつまらんだろう」
「ううん。聞きたい」
「……まあ、別にいいか」
穏やかにそんな話をしながら、二人は歩いていく。
その後ろには、ゆっくりとではあるが確実に、彼等が愛した海へと還っていく海賊達の姿があった。
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