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八咫姫の呪い 前編
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戦国時代の戦場。
男の前には凄惨な戦いの後に残るおびただしい数の味方の遺体であった。
「こんな事が。。」
まさに破れるべくして敗れた戦いであった。
食糧は最低限しか所持せず、補給線も絶たれて味方同士は寸断され各個撃破されていった。
こちらの動きは敵に筒抜けであったのだ。
裏切り者がいたとか、もうそんな事はこのさいどうでもよかった。
一人だけ生き残ったところで国に帰れるはずもない。
「潔く腹を切って果てようぞ」
男が刀を自分に向けて腹に突き刺そうとした時、目の前に女が現れた。
「お前は何者だ?なぜ女が戦場にいる?」
「さて、どうしてだろうね」
「武士の情けじゃ。ここで死なせてくれ」
「どうせ死ぬつもりなら妾に魂を売ってはくれぬか」
「魂を売るとは?」
「お主の領主に対する恨みの事よ。お主は悔しくないのか?ろくに食糧も持たされず倍の兵力の敵と戦わされ敗北必死の中で領主はお主たちを放置して逃亡した。後に残るはこの惨状よ」
女の言葉を聞いて男は怒りが込み上げてきた。
「妾は呪いの術を使える。その命と引き換えにお主の呪いたい相手を呪い殺す事が可能じゃ」
それを聞いて男は怒りの眼差しを女に向けて答えた。
「わかった。我が命、そなたにくれてやろう。その代わり必ずや呪い殺してくれ。上園鹿之助を」
男の返答に女の目が怪しく光った。
そして男は勢いよく刀を腹に突き刺すと一気に横に引いた。
「その覚悟やよし。必ずや上園鹿之助を呪ってやろうぞ」
女の名は八咫姫(やたひめ)
武蔵国では知る人ぞ知る呪術の使い手であった。
⭐︎⭐︎⭐︎
というような小説を書いているのだが、投稿サイトでの評価はイマイチである。
まあいつもの事だ。
稲葉零は千葉県某所に住むごく普通の高校生。
趣味で小説を書いてはネットの投稿サイトに掲載しているが、反応はほとんどない。
完全に自己満足である。
「何書いているの?」
「お前に見せるような物じゃない」
「そう言わずに、お姉ちゃんに見せてごらん」
「お前がいつ俺の姉ちゃんになったんだ」
高校のクラスメイトである四位麻里奈とは近所の幼馴染で小学校からずっと同じ学校に通っている。
どうせ投稿サイトで見られるならここで見せても同じか。
俺はそう思って麻里奈に「ほれ!文句付けるなよ」とだけ言ってスマホを渡した。
「ふうん。で、この後どうなるの?」
麻里奈は意外にも真剣に読んでくれたようで、続きを聞いてきた。
「これは過去の出来事で、この後、領主にかけられた呪いが現在の子孫に降りかかるって展開なんだけど、まだそこまで書けていない。で、面白かったか?」
「面白くはないけど、可もなく不可もないってところかな。私は自分が書くわけじゃないから何とも言えないけど」
てっきりケチつけられると思っていたから予想外ではあるが、微妙な感想だ。
「そうか。ケチ付けられなかっただけ良かった」
「なに。ケチ付けて欲しかったの?」
「まさか。いくら稚拙な小説でも褒められれば嬉しいし、貶されれば頭にくる。それだけさ」
今日は部活もなく二人は下校する。
家が近所なので当然帰り道も一緒だ。
ちなみに二人ともテニス部なのだが、県予選の決勝戦まで進み、全国大会まであと少しという麻里奈に比べて零は球をラリー出来れば上等程度の実力で、当然ながら部活に身が入らない。
じゃあ、なんでテニス部を選んだのかというと、麻里奈に誘われたからであってそれ以外に理由はない。
帰り道、麻里奈は小説の中の登場人物について聞いて来た。
「ねえ、あの八咫姫ってうちの近くにある刀祢神社から取ったの?」
「まあな。あの神社も相当昔からあるって聞いてるし、いかにも歴史のありそうな雰囲気だからな」
刀祢神社は零と麻里奈とすむ町の中にある四百年もの歴史がある神社であった。
八咫姫という姫が祀られていると言う話を聞いた事くらいはあったので、その辺を物語として空想してみるのも面白いと思い零が作り上げた。
「せっかくだから神社に寄ってみない?」
「別に良いけど、どうしたんだ急に」
「どうもしないわよ。零の小説読んだついでにと思っただけ」
「そうか」
零はそう返事をして二人は帰路の途中で刀祢神社に立ち寄った。
入り口の鳥居は木の柱にしめ縄で出来ていていかにも歴史のある雰囲気を漂わせている。
境内に入るとすぐ目の前に拝殿があり、手水舎などはない小さな神社だ。
零と麻里奈は拝殿で手を合わせた。
零は特に祈りごともないが、小説が売れてくれと神頼みする。
「さて、帰るか」
参拝も終わり、もと来た道を引き返そうとした時、一人の女性とすれ違った。
〔女子大生かな?綺麗な人だな〕
零が見惚れているとそれに気がついたのか麻里奈が肩をつねる。
「痛え!」
「どこ見ているのかな?」
「いや。。別に」
零はそう言いながらも再度女性に目を向けると、女性は零の視線に気がついたのか「私に何か?」と声を上げる。
「いえ。。すみません」
零と麻里奈はそそくさとその場を立ち去った。
女性はしばらく二人を見ていた。
「あの女の子。呪いを掛けられている。このままだと近いうちに死ぬわね」
⭐︎⭐︎⭐︎
「聖菜か。おかえり」
「お爺ちゃん。ちょっといいかな?」
聖菜と呼ばれた女性は先ほど零と麻里奈が神社で出会った人であった。
刀祢聖菜(とねせいな)はこの時十九歳で、この神社の神主の娘で巫女でもある。
お爺ちゃんとは先代神主で聖菜の師でもあった。
聖菜の父親は神主を継いだが、祖父のもつ霊力はなく、その力は孫である聖菜に引き継がれていた。
「さっきすれ違った高校生の女の子。呪いが掛けられているみたいなの。確認してもらえるかな」
「その子はまだ近くにいるのか?」
「たぶん。遠くには行っていないと思うけど」
聖菜の呼びかけに祖父である刀祢太蔵は本堂から外に出て二人で零と麻里奈たちの後を追う。
五分ほど歩いたところで零と麻里奈を発見した。
二人の家はここから徒歩で五分たらずであった。
「良かった。見失わずに済んだ」
聖菜がそう言うと太蔵は笑った。
「聖菜もまだまだだな。わしなら家の中に入っても悪霊が取り憑いているならその気配を読み取れるぞ」
「そう思ってお爺ちゃんを連れて来たの。いいから早くあの子を確認して」
聖菜は太蔵の冷やかしにイラッとしたのか語気を強めた。
「はいはい。あまり怒ると老け込むぞ」
太蔵は麻里奈に視線を集中させる。
「むむ。。これは。。」
「何かわかった?」
「ピンクの下着」
「何見てんのよ!エロジジイ」
聖菜の張り手が炸裂して太蔵は頬に赤い手形が残った。
「ったく冗談だよ。下着の透視なんぞ出来やしないって。聖菜の言う通り、呪いがかけられてるな。それもかなり強力な。おそらくは八咫姫の呪いだな。時限式でこの年に呪いが発動されるようになっている。あの子は八咫姫が呪いをかけた領主の子孫という事か」
「じゃあ、上園鹿之助と血の繋がりがあるって事?それをあの子にそれを言っても信用してもらえないでしょうね」
「しかしこのままではあの子の命はそう長くは持たぬぞ」
「ダメで元々。とにかく声をかけてみるよ」
聖菜はひとまず引き返して明日、二人に声をかけて事情を説明しようと考えた。
男の前には凄惨な戦いの後に残るおびただしい数の味方の遺体であった。
「こんな事が。。」
まさに破れるべくして敗れた戦いであった。
食糧は最低限しか所持せず、補給線も絶たれて味方同士は寸断され各個撃破されていった。
こちらの動きは敵に筒抜けであったのだ。
裏切り者がいたとか、もうそんな事はこのさいどうでもよかった。
一人だけ生き残ったところで国に帰れるはずもない。
「潔く腹を切って果てようぞ」
男が刀を自分に向けて腹に突き刺そうとした時、目の前に女が現れた。
「お前は何者だ?なぜ女が戦場にいる?」
「さて、どうしてだろうね」
「武士の情けじゃ。ここで死なせてくれ」
「どうせ死ぬつもりなら妾に魂を売ってはくれぬか」
「魂を売るとは?」
「お主の領主に対する恨みの事よ。お主は悔しくないのか?ろくに食糧も持たされず倍の兵力の敵と戦わされ敗北必死の中で領主はお主たちを放置して逃亡した。後に残るはこの惨状よ」
女の言葉を聞いて男は怒りが込み上げてきた。
「妾は呪いの術を使える。その命と引き換えにお主の呪いたい相手を呪い殺す事が可能じゃ」
それを聞いて男は怒りの眼差しを女に向けて答えた。
「わかった。我が命、そなたにくれてやろう。その代わり必ずや呪い殺してくれ。上園鹿之助を」
男の返答に女の目が怪しく光った。
そして男は勢いよく刀を腹に突き刺すと一気に横に引いた。
「その覚悟やよし。必ずや上園鹿之助を呪ってやろうぞ」
女の名は八咫姫(やたひめ)
武蔵国では知る人ぞ知る呪術の使い手であった。
⭐︎⭐︎⭐︎
というような小説を書いているのだが、投稿サイトでの評価はイマイチである。
まあいつもの事だ。
稲葉零は千葉県某所に住むごく普通の高校生。
趣味で小説を書いてはネットの投稿サイトに掲載しているが、反応はほとんどない。
完全に自己満足である。
「何書いているの?」
「お前に見せるような物じゃない」
「そう言わずに、お姉ちゃんに見せてごらん」
「お前がいつ俺の姉ちゃんになったんだ」
高校のクラスメイトである四位麻里奈とは近所の幼馴染で小学校からずっと同じ学校に通っている。
どうせ投稿サイトで見られるならここで見せても同じか。
俺はそう思って麻里奈に「ほれ!文句付けるなよ」とだけ言ってスマホを渡した。
「ふうん。で、この後どうなるの?」
麻里奈は意外にも真剣に読んでくれたようで、続きを聞いてきた。
「これは過去の出来事で、この後、領主にかけられた呪いが現在の子孫に降りかかるって展開なんだけど、まだそこまで書けていない。で、面白かったか?」
「面白くはないけど、可もなく不可もないってところかな。私は自分が書くわけじゃないから何とも言えないけど」
てっきりケチつけられると思っていたから予想外ではあるが、微妙な感想だ。
「そうか。ケチ付けられなかっただけ良かった」
「なに。ケチ付けて欲しかったの?」
「まさか。いくら稚拙な小説でも褒められれば嬉しいし、貶されれば頭にくる。それだけさ」
今日は部活もなく二人は下校する。
家が近所なので当然帰り道も一緒だ。
ちなみに二人ともテニス部なのだが、県予選の決勝戦まで進み、全国大会まであと少しという麻里奈に比べて零は球をラリー出来れば上等程度の実力で、当然ながら部活に身が入らない。
じゃあ、なんでテニス部を選んだのかというと、麻里奈に誘われたからであってそれ以外に理由はない。
帰り道、麻里奈は小説の中の登場人物について聞いて来た。
「ねえ、あの八咫姫ってうちの近くにある刀祢神社から取ったの?」
「まあな。あの神社も相当昔からあるって聞いてるし、いかにも歴史のありそうな雰囲気だからな」
刀祢神社は零と麻里奈とすむ町の中にある四百年もの歴史がある神社であった。
八咫姫という姫が祀られていると言う話を聞いた事くらいはあったので、その辺を物語として空想してみるのも面白いと思い零が作り上げた。
「せっかくだから神社に寄ってみない?」
「別に良いけど、どうしたんだ急に」
「どうもしないわよ。零の小説読んだついでにと思っただけ」
「そうか」
零はそう返事をして二人は帰路の途中で刀祢神社に立ち寄った。
入り口の鳥居は木の柱にしめ縄で出来ていていかにも歴史のある雰囲気を漂わせている。
境内に入るとすぐ目の前に拝殿があり、手水舎などはない小さな神社だ。
零と麻里奈は拝殿で手を合わせた。
零は特に祈りごともないが、小説が売れてくれと神頼みする。
「さて、帰るか」
参拝も終わり、もと来た道を引き返そうとした時、一人の女性とすれ違った。
〔女子大生かな?綺麗な人だな〕
零が見惚れているとそれに気がついたのか麻里奈が肩をつねる。
「痛え!」
「どこ見ているのかな?」
「いや。。別に」
零はそう言いながらも再度女性に目を向けると、女性は零の視線に気がついたのか「私に何か?」と声を上げる。
「いえ。。すみません」
零と麻里奈はそそくさとその場を立ち去った。
女性はしばらく二人を見ていた。
「あの女の子。呪いを掛けられている。このままだと近いうちに死ぬわね」
⭐︎⭐︎⭐︎
「聖菜か。おかえり」
「お爺ちゃん。ちょっといいかな?」
聖菜と呼ばれた女性は先ほど零と麻里奈が神社で出会った人であった。
刀祢聖菜(とねせいな)はこの時十九歳で、この神社の神主の娘で巫女でもある。
お爺ちゃんとは先代神主で聖菜の師でもあった。
聖菜の父親は神主を継いだが、祖父のもつ霊力はなく、その力は孫である聖菜に引き継がれていた。
「さっきすれ違った高校生の女の子。呪いが掛けられているみたいなの。確認してもらえるかな」
「その子はまだ近くにいるのか?」
「たぶん。遠くには行っていないと思うけど」
聖菜の呼びかけに祖父である刀祢太蔵は本堂から外に出て二人で零と麻里奈たちの後を追う。
五分ほど歩いたところで零と麻里奈を発見した。
二人の家はここから徒歩で五分たらずであった。
「良かった。見失わずに済んだ」
聖菜がそう言うと太蔵は笑った。
「聖菜もまだまだだな。わしなら家の中に入っても悪霊が取り憑いているならその気配を読み取れるぞ」
「そう思ってお爺ちゃんを連れて来たの。いいから早くあの子を確認して」
聖菜は太蔵の冷やかしにイラッとしたのか語気を強めた。
「はいはい。あまり怒ると老け込むぞ」
太蔵は麻里奈に視線を集中させる。
「むむ。。これは。。」
「何かわかった?」
「ピンクの下着」
「何見てんのよ!エロジジイ」
聖菜の張り手が炸裂して太蔵は頬に赤い手形が残った。
「ったく冗談だよ。下着の透視なんぞ出来やしないって。聖菜の言う通り、呪いがかけられてるな。それもかなり強力な。おそらくは八咫姫の呪いだな。時限式でこの年に呪いが発動されるようになっている。あの子は八咫姫が呪いをかけた領主の子孫という事か」
「じゃあ、上園鹿之助と血の繋がりがあるって事?それをあの子にそれを言っても信用してもらえないでしょうね」
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