霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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藤村桐子 後編

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「あなたは。。」

「またお会いしたわね、いつぞやはお世話になりましたとお礼を言った方がいいかしら?」

「今、そんな状況なのかしら。藤村桐子だったっけ?どうしてあなたがここに?」

「私は今、この病院に入院しているのよ。それよりあの霊体。あなたなら何とか出来るでしょ」

桐子に言われて新子を見たが、これまで出会った霊魂とはまったく違うタイプであった。

「簡単に言わないで。あれは恨みというよりは殺戮を好んでやっている。あなたとはまったく違うタイプの霊体よ」

「立場の弱い人間に対して威丈高に振る舞う事でストレスを解消しているという点では彼女の方が私より数段上ね」

「あなたはそうだったの?」

「私はそれが出来ないから自分の腕を傷つけていた。私、自分が生きている価値なんてないと思っていた。実際にそうなんだと思う。だけど今もこうして生きている。恥だと知りながらもたぶん心のどこかに自分の存在を知って欲しかったんだと思う」

聖菜の姿を見て新子は声を上げる。

「何?あんたも殺されたいの?」

「己よりも弱い立場の人間と接する事が常態化されると、自分が全知全能の神のように思えてくる事があるらしいけど、あなたはまさにそれね」

「弱い人間を殺して何が悪いの。私は選ばれた人間なんだからそいつらを裁いて当然よ」

「誰が選んだのか知らないけど、妄想と錯覚もここまで来ると手に負えないわね」

「あんたもやってご覧よ。きっと楽しめるから」

「あいにくとそんな趣味はない」

聖菜がそう言うや否やいきなり新子が包丁で斬りかかる。
聖菜も聖剣神楽でその攻撃を弾き返す。
にやりと包丁を舌で舐めて聖菜を睨みつける新子。

「血に飢えたというより殺しの快楽を覚えた化け物ね。厄介だな」

聖菜と新子の戦いは包丁と聖剣神楽での撃ち合いになっていった。
その最中、桐子が那由多に話しかける。
彼女は普通の人には見えない那由多の姿が見えているからだ。

「子猫ちゃんは聖菜を助けないの?」

「子猫ちゃんって。。こう見えてもボクは人間の年齢で言ったら二百歳は超えているんだよ」

「あら。子猫に見えたけどお爺ちゃんなのね」

桐子の言葉にがっくりする那由多。

「お爺ちゃんでもない。式神の中じゃ全然若い方だよ。ボクは式神って言っても頭脳明晰な参謀タイプで戦闘は専門じゃないから」

「そうなの?式神も色々いるのね。私の時は邪魔してきたのに」

「君の時もボクは戦っていないよ。あれは夜叉だったでしょ」

「そんなの覚えてないわ」

そんな会話をしている間にも聖菜と新子の戦いはヒートアップしていた。
狂気に歪む新子の顔が聖菜を睨みつける。

「低俗な動物霊が複数合体するとこんな風になるらしいけど、あなたはブレーキの効かない暴走車みたいなものね」

「人の身体に刃物を突き刺す快楽は堪らないね」

「あなたがやった人たちはみんな病気が怪我で抵抗できない人ばかりだった。弱者しか狙い撃ちしない卑怯者」

「それが楽しいんじゃない。楽しむのに卑怯もなにもない」

それを聞いて桐子が前に出る。

「聖菜、ここは私に任せてくれない」

「いいけど、どうするつもり?」

「それ相当の痛い目には合わせるつもりよ。ちなみにどれだけ痛めつけても本体は死なないのかしら?」

「時と場合にもよるから何とも言えないわね。まあ、なるようになるんじゃない」

「聖菜って本当にこっちが想像している通りの言葉が返ってくるわね」

二人は互いに見合って含み笑いをする。
桐子が念を込めると白い光が桐子の周りに集まってきて刀の形に姿を変える。
神楽のような聖剣ではないが、霊体の集まりによる霊剣といったところだろうか。

「霊剣を作れるほどの能力があるとはね。秘めていた力が目覚めたってところね」

聖菜が感心して見ていると那由多が話しかける。

「聖菜、彼女に任せて大丈夫なのか?」

「今の桐子なら大丈夫。万一の時には私が手助けに入るから」

「彼女に手助けがいるとは思えないな。どちらかと言うとやり過ぎて止めに入るくらいじゃない」

「あの看護師にはそれくらいきついお仕置きが丁度いいんじゃないかしら」


「二度と弱い者を虐げる事が出来ないようにしてやるからかかってらっしゃい」

「二度とそんな口が聞けないようにしてやる」

新子が包丁を両手に持つと左右交互に振り回して攻撃してくる。
新子の包丁も霊剣である。
念を込めれば二つ、三つと作る事が出来るから厄介でったが、桐子は気にとめる様子もない。

桐子は剣を水平に構え、あえて上半身を隙だらけにしてみせた。

「頭が隙だらけだよ」

その誘いにのった新子は桐子の頭めがけて包丁を振り下ろす。
否、その腕が振り下ろされる事はなかった。
それより先に桐子の霊剣が新子の両腕を斬り落としたからだ。

「腕が。。私の腕が。。」

両腕を斬られた新子の身体に何体もの白い光たちが次々とまとわりつき抑えつけた。

「何だこれは?邪魔だ!どけ」

これには桐子も少し意外だったようだ。

「正直これは予想外だったわ。あなたはさっき何も起こりはしないと言ったけど、この人たちの恨み辛みを軽視したようね」

「離せ!離れろ、邪魔だ」

新子は必死で身体を揺さぶって払い除けようとするが、白い光たちは獲物に食いついた猛獣のように離れなかった。

「醜いわね。そのザマは何かしら?結局自分の蒔いた種は自分で回収する事になるのね。私もそうだったように」

桐子は冷徹にそういうと霊剣を振り下ろした。
新子の頭から身体が真っ二つに裂けてカエルの鳴き声に近い悲鳴声があがる。

「うげええええ」

二つに裂けた新子の身体は白い光たちに次々と食われていった。

「自分より弱い相手にしか力を振るえない愚か者の末路ね」

聖菜は桐子に声をかける。

「お見事。あなたにもかなりの霊力があるのを見られたし、私は労せず楽できた。いつもこんな感じならいいのにね」

「ところで霊魂たちに食べられた看護師の本体はどうなるのかしら?」

「ピラニアに食いちぎられた肉片みたいに見るも無惨な姿で死んでいるんじゃないかな」

「相変わらず恐ろしい事を平気で口にするわね」

聖菜の言う通り、宿直室で身体中を猛獣に食いちぎられたような森新子の遺体が発見されたのは明け方、朝晩で交代の看護師が来た時であった。

駆けつけた警察が不審死と捜査中だが、例の如く龍二がまた聖菜が関わっているのかと頭を抱えた事を付け加えておこう。
そしてこの日以来病院内で起きていた不審な医療ミスによる死亡事故はピタリとなくなった。


屋上では聖菜と桐子が何日ぶりかの再会であらためて話をしていた。

「入院してるって言ってたけど、見たところ元気そうだし、もう大丈夫なのかしら?」

「まあまあってところね。血を見ても何とも感じなくなったからその点はもう大丈夫だと思う。ただ、あなたと会ってから今まで見えなかったものが見えるようになったけどね」

「たぶん、あなたは元から霊力を持っていたんだけど、それが目覚めたんだと思う。わたしとの出会いは単なるきっかけに過ぎないわ」

夜が明けて朝日が昇り、空は暁色に染まっていく。
二人は明け方の陽の出を病院の屋上から眺めていた。

「じゃあ、私はこれで帰るから。お大事にしてね」

聖菜の後ろ姿を見送る桐子。

「刀祢聖菜。不思議な魅力のある人ね」

藤村桐子は聖菜に興味を抱いていた。
この日以降、桐子もまた零たち同様に聖菜の友に加わる事となった。
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