16 / 67
藤村桐子 後編
しおりを挟む
「あなたは。。」
「またお会いしたわね、いつぞやはお世話になりましたとお礼を言った方がいいかしら?」
「今、そんな状況なのかしら。藤村桐子だったっけ?どうしてあなたがここに?」
「私は今、この病院に入院しているのよ。それよりあの霊体。あなたなら何とか出来るでしょ」
桐子に言われて新子を見たが、これまで出会った霊魂とはまったく違うタイプであった。
「簡単に言わないで。あれは恨みというよりは殺戮を好んでやっている。あなたとはまったく違うタイプの霊体よ」
「立場の弱い人間に対して威丈高に振る舞う事でストレスを解消しているという点では彼女の方が私より数段上ね」
「あなたはそうだったの?」
「私はそれが出来ないから自分の腕を傷つけていた。私、自分が生きている価値なんてないと思っていた。実際にそうなんだと思う。だけど今もこうして生きている。恥だと知りながらもたぶん心のどこかに自分の存在を知って欲しかったんだと思う」
聖菜の姿を見て新子は声を上げる。
「何?あんたも殺されたいの?」
「己よりも弱い立場の人間と接する事が常態化されると、自分が全知全能の神のように思えてくる事があるらしいけど、あなたはまさにそれね」
「弱い人間を殺して何が悪いの。私は選ばれた人間なんだからそいつらを裁いて当然よ」
「誰が選んだのか知らないけど、妄想と錯覚もここまで来ると手に負えないわね」
「あんたもやってご覧よ。きっと楽しめるから」
「あいにくとそんな趣味はない」
聖菜がそう言うや否やいきなり新子が包丁で斬りかかる。
聖菜も聖剣神楽でその攻撃を弾き返す。
にやりと包丁を舌で舐めて聖菜を睨みつける新子。
「血に飢えたというより殺しの快楽を覚えた化け物ね。厄介だな」
聖菜と新子の戦いは包丁と聖剣神楽での撃ち合いになっていった。
その最中、桐子が那由多に話しかける。
彼女は普通の人には見えない那由多の姿が見えているからだ。
「子猫ちゃんは聖菜を助けないの?」
「子猫ちゃんって。。こう見えてもボクは人間の年齢で言ったら二百歳は超えているんだよ」
「あら。子猫に見えたけどお爺ちゃんなのね」
桐子の言葉にがっくりする那由多。
「お爺ちゃんでもない。式神の中じゃ全然若い方だよ。ボクは式神って言っても頭脳明晰な参謀タイプで戦闘は専門じゃないから」
「そうなの?式神も色々いるのね。私の時は邪魔してきたのに」
「君の時もボクは戦っていないよ。あれは夜叉だったでしょ」
「そんなの覚えてないわ」
そんな会話をしている間にも聖菜と新子の戦いはヒートアップしていた。
狂気に歪む新子の顔が聖菜を睨みつける。
「低俗な動物霊が複数合体するとこんな風になるらしいけど、あなたはブレーキの効かない暴走車みたいなものね」
「人の身体に刃物を突き刺す快楽は堪らないね」
「あなたがやった人たちはみんな病気が怪我で抵抗できない人ばかりだった。弱者しか狙い撃ちしない卑怯者」
「それが楽しいんじゃない。楽しむのに卑怯もなにもない」
それを聞いて桐子が前に出る。
「聖菜、ここは私に任せてくれない」
「いいけど、どうするつもり?」
「それ相当の痛い目には合わせるつもりよ。ちなみにどれだけ痛めつけても本体は死なないのかしら?」
「時と場合にもよるから何とも言えないわね。まあ、なるようになるんじゃない」
「聖菜って本当にこっちが想像している通りの言葉が返ってくるわね」
二人は互いに見合って含み笑いをする。
桐子が念を込めると白い光が桐子の周りに集まってきて刀の形に姿を変える。
神楽のような聖剣ではないが、霊体の集まりによる霊剣といったところだろうか。
「霊剣を作れるほどの能力があるとはね。秘めていた力が目覚めたってところね」
聖菜が感心して見ていると那由多が話しかける。
「聖菜、彼女に任せて大丈夫なのか?」
「今の桐子なら大丈夫。万一の時には私が手助けに入るから」
「彼女に手助けがいるとは思えないな。どちらかと言うとやり過ぎて止めに入るくらいじゃない」
「あの看護師にはそれくらいきついお仕置きが丁度いいんじゃないかしら」
「二度と弱い者を虐げる事が出来ないようにしてやるからかかってらっしゃい」
「二度とそんな口が聞けないようにしてやる」
新子が包丁を両手に持つと左右交互に振り回して攻撃してくる。
新子の包丁も霊剣である。
念を込めれば二つ、三つと作る事が出来るから厄介でったが、桐子は気にとめる様子もない。
桐子は剣を水平に構え、あえて上半身を隙だらけにしてみせた。
「頭が隙だらけだよ」
その誘いにのった新子は桐子の頭めがけて包丁を振り下ろす。
否、その腕が振り下ろされる事はなかった。
それより先に桐子の霊剣が新子の両腕を斬り落としたからだ。
「腕が。。私の腕が。。」
両腕を斬られた新子の身体に何体もの白い光たちが次々とまとわりつき抑えつけた。
「何だこれは?邪魔だ!どけ」
これには桐子も少し意外だったようだ。
「正直これは予想外だったわ。あなたはさっき何も起こりはしないと言ったけど、この人たちの恨み辛みを軽視したようね」
「離せ!離れろ、邪魔だ」
新子は必死で身体を揺さぶって払い除けようとするが、白い光たちは獲物に食いついた猛獣のように離れなかった。
「醜いわね。そのザマは何かしら?結局自分の蒔いた種は自分で回収する事になるのね。私もそうだったように」
桐子は冷徹にそういうと霊剣を振り下ろした。
新子の頭から身体が真っ二つに裂けてカエルの鳴き声に近い悲鳴声があがる。
「うげええええ」
二つに裂けた新子の身体は白い光たちに次々と食われていった。
「自分より弱い相手にしか力を振るえない愚か者の末路ね」
聖菜は桐子に声をかける。
「お見事。あなたにもかなりの霊力があるのを見られたし、私は労せず楽できた。いつもこんな感じならいいのにね」
「ところで霊魂たちに食べられた看護師の本体はどうなるのかしら?」
「ピラニアに食いちぎられた肉片みたいに見るも無惨な姿で死んでいるんじゃないかな」
「相変わらず恐ろしい事を平気で口にするわね」
聖菜の言う通り、宿直室で身体中を猛獣に食いちぎられたような森新子の遺体が発見されたのは明け方、朝晩で交代の看護師が来た時であった。
駆けつけた警察が不審死と捜査中だが、例の如く龍二がまた聖菜が関わっているのかと頭を抱えた事を付け加えておこう。
そしてこの日以来病院内で起きていた不審な医療ミスによる死亡事故はピタリとなくなった。
屋上では聖菜と桐子が何日ぶりかの再会であらためて話をしていた。
「入院してるって言ってたけど、見たところ元気そうだし、もう大丈夫なのかしら?」
「まあまあってところね。血を見ても何とも感じなくなったからその点はもう大丈夫だと思う。ただ、あなたと会ってから今まで見えなかったものが見えるようになったけどね」
「たぶん、あなたは元から霊力を持っていたんだけど、それが目覚めたんだと思う。わたしとの出会いは単なるきっかけに過ぎないわ」
夜が明けて朝日が昇り、空は暁色に染まっていく。
二人は明け方の陽の出を病院の屋上から眺めていた。
「じゃあ、私はこれで帰るから。お大事にしてね」
聖菜の後ろ姿を見送る桐子。
「刀祢聖菜。不思議な魅力のある人ね」
藤村桐子は聖菜に興味を抱いていた。
この日以降、桐子もまた零たち同様に聖菜の友に加わる事となった。
「またお会いしたわね、いつぞやはお世話になりましたとお礼を言った方がいいかしら?」
「今、そんな状況なのかしら。藤村桐子だったっけ?どうしてあなたがここに?」
「私は今、この病院に入院しているのよ。それよりあの霊体。あなたなら何とか出来るでしょ」
桐子に言われて新子を見たが、これまで出会った霊魂とはまったく違うタイプであった。
「簡単に言わないで。あれは恨みというよりは殺戮を好んでやっている。あなたとはまったく違うタイプの霊体よ」
「立場の弱い人間に対して威丈高に振る舞う事でストレスを解消しているという点では彼女の方が私より数段上ね」
「あなたはそうだったの?」
「私はそれが出来ないから自分の腕を傷つけていた。私、自分が生きている価値なんてないと思っていた。実際にそうなんだと思う。だけど今もこうして生きている。恥だと知りながらもたぶん心のどこかに自分の存在を知って欲しかったんだと思う」
聖菜の姿を見て新子は声を上げる。
「何?あんたも殺されたいの?」
「己よりも弱い立場の人間と接する事が常態化されると、自分が全知全能の神のように思えてくる事があるらしいけど、あなたはまさにそれね」
「弱い人間を殺して何が悪いの。私は選ばれた人間なんだからそいつらを裁いて当然よ」
「誰が選んだのか知らないけど、妄想と錯覚もここまで来ると手に負えないわね」
「あんたもやってご覧よ。きっと楽しめるから」
「あいにくとそんな趣味はない」
聖菜がそう言うや否やいきなり新子が包丁で斬りかかる。
聖菜も聖剣神楽でその攻撃を弾き返す。
にやりと包丁を舌で舐めて聖菜を睨みつける新子。
「血に飢えたというより殺しの快楽を覚えた化け物ね。厄介だな」
聖菜と新子の戦いは包丁と聖剣神楽での撃ち合いになっていった。
その最中、桐子が那由多に話しかける。
彼女は普通の人には見えない那由多の姿が見えているからだ。
「子猫ちゃんは聖菜を助けないの?」
「子猫ちゃんって。。こう見えてもボクは人間の年齢で言ったら二百歳は超えているんだよ」
「あら。子猫に見えたけどお爺ちゃんなのね」
桐子の言葉にがっくりする那由多。
「お爺ちゃんでもない。式神の中じゃ全然若い方だよ。ボクは式神って言っても頭脳明晰な参謀タイプで戦闘は専門じゃないから」
「そうなの?式神も色々いるのね。私の時は邪魔してきたのに」
「君の時もボクは戦っていないよ。あれは夜叉だったでしょ」
「そんなの覚えてないわ」
そんな会話をしている間にも聖菜と新子の戦いはヒートアップしていた。
狂気に歪む新子の顔が聖菜を睨みつける。
「低俗な動物霊が複数合体するとこんな風になるらしいけど、あなたはブレーキの効かない暴走車みたいなものね」
「人の身体に刃物を突き刺す快楽は堪らないね」
「あなたがやった人たちはみんな病気が怪我で抵抗できない人ばかりだった。弱者しか狙い撃ちしない卑怯者」
「それが楽しいんじゃない。楽しむのに卑怯もなにもない」
それを聞いて桐子が前に出る。
「聖菜、ここは私に任せてくれない」
「いいけど、どうするつもり?」
「それ相当の痛い目には合わせるつもりよ。ちなみにどれだけ痛めつけても本体は死なないのかしら?」
「時と場合にもよるから何とも言えないわね。まあ、なるようになるんじゃない」
「聖菜って本当にこっちが想像している通りの言葉が返ってくるわね」
二人は互いに見合って含み笑いをする。
桐子が念を込めると白い光が桐子の周りに集まってきて刀の形に姿を変える。
神楽のような聖剣ではないが、霊体の集まりによる霊剣といったところだろうか。
「霊剣を作れるほどの能力があるとはね。秘めていた力が目覚めたってところね」
聖菜が感心して見ていると那由多が話しかける。
「聖菜、彼女に任せて大丈夫なのか?」
「今の桐子なら大丈夫。万一の時には私が手助けに入るから」
「彼女に手助けがいるとは思えないな。どちらかと言うとやり過ぎて止めに入るくらいじゃない」
「あの看護師にはそれくらいきついお仕置きが丁度いいんじゃないかしら」
「二度と弱い者を虐げる事が出来ないようにしてやるからかかってらっしゃい」
「二度とそんな口が聞けないようにしてやる」
新子が包丁を両手に持つと左右交互に振り回して攻撃してくる。
新子の包丁も霊剣である。
念を込めれば二つ、三つと作る事が出来るから厄介でったが、桐子は気にとめる様子もない。
桐子は剣を水平に構え、あえて上半身を隙だらけにしてみせた。
「頭が隙だらけだよ」
その誘いにのった新子は桐子の頭めがけて包丁を振り下ろす。
否、その腕が振り下ろされる事はなかった。
それより先に桐子の霊剣が新子の両腕を斬り落としたからだ。
「腕が。。私の腕が。。」
両腕を斬られた新子の身体に何体もの白い光たちが次々とまとわりつき抑えつけた。
「何だこれは?邪魔だ!どけ」
これには桐子も少し意外だったようだ。
「正直これは予想外だったわ。あなたはさっき何も起こりはしないと言ったけど、この人たちの恨み辛みを軽視したようね」
「離せ!離れろ、邪魔だ」
新子は必死で身体を揺さぶって払い除けようとするが、白い光たちは獲物に食いついた猛獣のように離れなかった。
「醜いわね。そのザマは何かしら?結局自分の蒔いた種は自分で回収する事になるのね。私もそうだったように」
桐子は冷徹にそういうと霊剣を振り下ろした。
新子の頭から身体が真っ二つに裂けてカエルの鳴き声に近い悲鳴声があがる。
「うげええええ」
二つに裂けた新子の身体は白い光たちに次々と食われていった。
「自分より弱い相手にしか力を振るえない愚か者の末路ね」
聖菜は桐子に声をかける。
「お見事。あなたにもかなりの霊力があるのを見られたし、私は労せず楽できた。いつもこんな感じならいいのにね」
「ところで霊魂たちに食べられた看護師の本体はどうなるのかしら?」
「ピラニアに食いちぎられた肉片みたいに見るも無惨な姿で死んでいるんじゃないかな」
「相変わらず恐ろしい事を平気で口にするわね」
聖菜の言う通り、宿直室で身体中を猛獣に食いちぎられたような森新子の遺体が発見されたのは明け方、朝晩で交代の看護師が来た時であった。
駆けつけた警察が不審死と捜査中だが、例の如く龍二がまた聖菜が関わっているのかと頭を抱えた事を付け加えておこう。
そしてこの日以来病院内で起きていた不審な医療ミスによる死亡事故はピタリとなくなった。
屋上では聖菜と桐子が何日ぶりかの再会であらためて話をしていた。
「入院してるって言ってたけど、見たところ元気そうだし、もう大丈夫なのかしら?」
「まあまあってところね。血を見ても何とも感じなくなったからその点はもう大丈夫だと思う。ただ、あなたと会ってから今まで見えなかったものが見えるようになったけどね」
「たぶん、あなたは元から霊力を持っていたんだけど、それが目覚めたんだと思う。わたしとの出会いは単なるきっかけに過ぎないわ」
夜が明けて朝日が昇り、空は暁色に染まっていく。
二人は明け方の陽の出を病院の屋上から眺めていた。
「じゃあ、私はこれで帰るから。お大事にしてね」
聖菜の後ろ姿を見送る桐子。
「刀祢聖菜。不思議な魅力のある人ね」
藤村桐子は聖菜に興味を抱いていた。
この日以降、桐子もまた零たち同様に聖菜の友に加わる事となった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる