霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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神宮寺稀のお仕事 前編

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私の名前は神宮寺稀(しんぐうじまれ)。
本名ですかって?違いますわ。
これはあくまでも仕事をする上での名前ですの。
本名と年齢は企業秘密ですわ。

私の仕事はいわゆる「恨み晴らし屋」ですの。
悲しい事にこの世の中、理不尽な目に遭われている方たちがたくさんおります。
暴言、暴力。いじめや差別。迷惑行為など挙げたらキリがないですけど、そういった事に耐えきれなくなった人たちが私の元に恨みを晴らしてほしいとご依頼に来られるのですわ。
私はお客様のそんなご無念を少しでもお晴らし出来ればと微力ながらお力添えをしておりますの。

さて、今日はどんなお客様がお見えになるのかしら?

「あなたのお恨み、この神宮寺稀が晴らして差し上げますわ」

⭐︎⭐︎⭐︎

今回、稀に恨みを晴らしてほしいと依頼してきたのは松川智志(まつかわさとし)25歳。男。会社員。
趣味は美少女フィギュア収集。
特にお気に入りはアイドルを育成するスマホゲーム「七色天使セイラルージュ」のフィギュアである。

赤、青、黄、緑、ピンク、白、紫の七つの色のセーラ服を来た地下アイドルユニット「セイラルージュ」を育成するゲームから作られたフィギュアで、智志のお気に入りは赤セイラの乙桐葉(おとは)のフィギュアであった。

会社のデスクには七体のセイラルージュのフィギュアが飾られていて、朝出勤時にはいつも声をかけている。

「乙桐葉ちゃん、おはよう。今日も可愛いね」

25歳にもなった男がフィギュアに声をかける姿は周りから見たら異様なものであるが、本人はそんな事は気にしていない。


そんなある日、智志は会社に出勤してくると、デスクの上に置いてあったフィギュアが全て無くなっていた。
慌てた智志は仕事もそっちのけでフィギュアを探した。

「誰だ?俺のフィギュアを盗んだ奴は」

荒い息をして叫ぶ智志を同僚たちは冷ややかな目で見ていた。

「松川、仕事中に何やってんだ!」

智志は課長に怒られて仕方なくいったんは仕事についた。
そして仕事が終わった夕方になり再度フィギュアを探していたところに同期の子角春樹(こかどはるき)がやって来た。

「お前が探しているのはこれか?」

春樹が見せたのは赤セイラ乙桐葉のフィギュアであった。

「お前か?俺のフィギュアを盗んだのは。返せ」

智志が春樹に飛びかかろうとしたとき横から四人の男たちが明典を押さえつけた。
この四人はいずれも春樹の友人たちで社内ではよく連んでいる仲間であった。

「お前のその腐った根性を叩きのめしてやろうと思ってな」

「乙桐葉を返せ」

「うるせえ」

智志の腹に蹴りが入りその場にうずくまる。

「こんなフィギュア一つにガタガタ騒いでるんじゃえねよ」

春樹はそう言うと智志の目の前で乙桐葉フィギュアの首をへし折った。

「何しやがる」

春樹に再び飛びかかろうとした智志を四人ががりで押さえ付けて床に押し倒す。

「前からお前が気に食わなかったんだよ。ウザいし気色悪いしでな。早いところこの会社から出て行ってくれないか」

春樹はそれだけ言うと四人に合図して智志を離した。
あまり痛めつけると刑事事件として警察が出て来てしまうため、社内での喧嘩程度で済ませたのだ。

「ほらよ。返すぜ」

首の取れた乙桐葉のフィギュアを智志の前に投げ捨てると五人は笑いながら去っていった。

「よくも。。よくも

智志は笑いながら去っていく春樹たちを睨みつけていた。
その後、会社のゴミ箱から残る六体のフィギュアが見つかったが、どれも腕や足を折られていた。
智志の目に殺意がこもる。

「あいつら必ず地獄へ送ってやる」


「部長、こんな具合でよろしかったんですか?」

「上出来だ。松川の奴がこれでいなくなれば良し。まだ居残るようならもう一度痛い目に遭わせろ。くれぐれも警察沙汰にならない程度にな」

「部長も人が悪いですな。自分は手を汚さずに俺たちにこんな事させるなんて」

「人聞きの悪い事を言うな。その代わり奴を会社から追い出したらお前たち全員係長に昇格させてやると言っただろう」

「その約束守ってもらいますよ」

智志を痛めつけるように春樹たちに命じたのは直属の部長、天田光秀(あまだみつひで)であった。

その夜、智志はインターネットで恨み晴らしの情報を検索しているうちにひとつのサイトに目を止めた。

「神宮寺稀の館?」

サイトを開くとパープルの衣装に身を包んだ稀の艶やかな姿が映し出され、評判も上々であった。
五段階評価で四・八はほとんど満点である。
無論、やらせ評価の可能性もある。
ネットの評価など友人や親戚に頼んでいい評価を入れてもらう事も出来るからだ。
だが、智志は艶やかなHPが気に入った。

「場所はどこだ?」

所在地を確認するとすぐ近所であった。

「なんだ。目と鼻の先にこんなところがあったとは。灯台下暗しとはこの事だな」

他にも探せばあるだろうが、近所という点が何より大きく、智志は稀に呪いの依頼をする事に決めて翌日早速店に向かった。


「神宮寺稀の館へようこそ。今日はどんなお悩みを?」

「は、はあ。。」

全身をパープルカラーのアラビアンナイト衣装に身を包んだ稀は神秘的な雰囲気を演出している。
智志は稀の美貌に一瞬見惚れてしまったが、すぐに気を取り直し、恨みの内容を話し出す。
親身に話を聞きながら相槌を打ち、時には確認するようにお客の言ったことを繰り返して見せる。
稀の客対応は相手の心を掴むのに理想的なやり方である。

「その人形は松川さんにとっては大事な恋人のようなものだったのですね」

「そうです。をあいつらに償わせてやらなければ気が収まりません」

「お恨みを晴らしたい方は何人いらっしゃるのですか?お伺いしていると複数人いるようですが、代金はお一人につき十万円頂きますけれどよろしいでしょうか?」

「全部で五人です。構いません、あいつらを痛い目に遭わせられるのなら五十万円くらい安いものです」

「どのような呪いをご希望でしょうか?どれくらいの強さでどんな風にしたいのかお教え頂けますか」

「全員殺してほしい。乙桐葉と同じように首をへし折って」

「そこまではやり過ぎなのではごさいませんか?あまり強力な呪いはその分代償も大きくなって自分自身に跳ね返ってくる事もあるのですよ」

「じゃあ、全員手足のどこか失わせて一生苦しむようにしてほしい。それなら大丈夫ですか?」

「よろしいでしょう。ではその壊れたフィギュアをこちらにお預け頂けますでしょうか。それを使って呪いをかけますので」

稀に言われて智志は首の折れた乙桐葉のフィギュアを手渡す。
フィギュアを恭しく受け取ると稀は彼女の代名詞でもあるお馴染みの言葉を明典にかけた。

「ご依頼、承りました。あなたのお恨み、この神宮寺稀が晴らして差し上げますわ」
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