霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

文字の大きさ
18 / 67

神宮寺稀のお仕事 中編

しおりを挟む
その日の夜、丑三つ時。
呪いの儀式が始まった。
智志から預かった乙桐葉(おとは)のフィギュアと五体の人形をテーブルの上に並べた。

「さて、お人形さん。あなたのご主人のお恨みを晴らすために協力して下さいな」

稀はそういって壊された乙桐葉のフィギュアに念を込めると、

「さすがに首の骨を折るわけにはいかないけど、手足のどこでもいいからあなたの好きなところを折って下さい」

稀(まれ)がそう言うと乙桐葉フィギュアの首が空中に浮かび上がり目が光る。
それと同時にカタカタと音が鳴り、一緒に並べられていた五体の人形が揺れ動き出す。
次の瞬間、五体の人形は両手両足のいずれかがポキリと音を立ててへし折れた。
乙桐葉フィギュアの首はそれを空中から見届けるとポトリと落ちてコロコロと転がり、稀の手前で止まった。

「お恨み晴らしました」

稀はそう言ってにこりと笑う。


翌日、春樹たち五人を乗せた乗用車が対向車線に突然侵入してきた大型トラックと激突した。
五人は一命を取り留めたものの、全員手足のいずれかを切断するほどの重傷を負った。
智志はそのニュースをネット記事で読むとにやりと笑みを浮かべるのだった。

「神宮寺稀の呪いは凄いって噂は本当だったんだな」


智志が会社に出勤すると青ざめた天田の顔が目についた。
以前から何かと嫌味を言ってくる天田を智志は怪しんでいた。
そう言えばこいつ前々から俺に対して嫌味ばかり言って来たな。

もしや春樹たちに命じたのはこいつか。
そんな疑惑が頭の片隅にあったのだ。
自分の手は汚さずに俺をこの会社から追い出そうとしていたわけか。
智志の復讐心に再び火がついた。

「よし、次の標的はこいつだ」


さすがに連夜というわけにはいかず、五日ほど日にちを空けて再び稀の館に出向いた。
今度は天田への復讐を果たすためだ。
智志は天田を退職に追い込むために職場復帰が不可能な病気か怪我を追わせて欲しいと依頼し、今回も稀は親身に智志の話を聞いて呪いの依頼を受けてくれた。

天田はその日の夜に脳梗塞で倒れて入院し、一命は取り留めたものの、身体が麻痺して動かなくなり、依願退職となった。

「これで俺の事を見下す奴はいなくなった」

呪いに味をしめた智志はこの後も気に食わない上司、生意気な後輩などを次々と呪いにかけていった。
それは稀の力によるものなのだが、智志はまるで自分自身の力だと錯覚するようになっていく。
それだけでは気が済まず、子供の頃に自分をいじめたクラスメイトにも呪いの仕返しをしていった。
その数は二十人以上にもなり、稀に支払う金額だけで二百万円を超えていた。

智志の家はそこそこのお金持ちで、家住みの彼は家賃を支払う必要もなく、これまでの給料はフィギュアとネットゲームの課金以外は使う事もなかったので、貯金もそこそこは持っていた。
恨み晴らしのために二百万や三百万円を使うのは彼にとってどうという事もなかった。
それよりも自分を虐げた連中がこっぴどい目に遭うのを見る爽快感の方が遥かに上回った。

⭐︎⭐︎⭐︎

ひと通りの恨みを晴らし終えて、智志は以前からから片思いであった女性に告白しようと決意していた。
その女性は同じ会社の後輩である鹿目二千夏(かなめにちか)であった。
無論、智志の一方的な片思いなので、二千夏は智志の事は顔と名前を知っているくらいの面識しかない。

智志は会社の後輩である二千夏を待ち伏せした。
やり方も無粋だが、どうも松川智志という人間は自分本位で他人に対する礼節というものが抜けている人物のようだ。
本人にその自覚はないが、ある意味社内で嫌われてやむなしの人物であった。


「あのさ、俺と付き合わないか?」

いきなりの告白に二千夏は目を大きく見開いた。

「はっ?何を言っているのかわからない。私、あなたの事は同じ会社の社員って認識くらいで何も知らないんだけど」

「じゃあ、これを機に仲良くなっていこうよ」

二千夏は背筋がゾッとした。

「ちょっと待って。何でそうなるの。だいたい会うなりいきなりこんな事言って来ておかしいと思わない?」

「何がおかしい?」

「とにかく、私はあなたと付き合う気なんてさらさらありませんから」

そう言って立ち去ろうとする二千夏に智志は怒気を含んだ声をあげる。

「お前、俺に逆らったらどうなるか見ていろよ」

「えっ?なによ。あんたが失礼なだけじゃない。これ以上付きまとったら警察呼ぶわよ」

二千夏にそう言われてその場はいったん引くことにしたが、別れ際に再度脅し文句を二千夏に投げかける。

「お前は数日以内に痛い目に遭う。ここで言う通りにしておけば良かったと後悔するほどのな。覚悟しておけ」

二千夏はその言葉を恐怖に感じた。

「なによあれ?もしかして呪いでもかけるつもり」

二千夏はそう言いながら最近会社内で奇怪な事が起きているのを思い出した。
この数週間の間に社員の何人かが、事故で怪我をして長期欠勤している。

「まさか、社内の一連の事故ってあの人が。。」

二千夏は智志が自分に呪いでもかけようとしているのではと疑いの目を向ける。
大学時代、ミステリーサークルに所属していた彼女はその手のものは信用はしていなくともないと断言は出来ないと考えていた。
普通の人ならそんな発想は浮かばなかったであろうが、彼女ならではの感であった。

「そう言えば大学の後輩で神社の巫女やってた子がいたっけ。変わった子だったな」

それが聖菜だった。
二千夏と聖菜は同じ大学の先輩、後輩関係でミステリーサークルでも一緒に活動していた仲であった。
二千夏が頼めば聖菜は呪い返しを引き受けてくれるだろうが、彼女は聖菜のところに相談に行くのを躊躇していた。

呪いじゃなかったら恥ずかしいし聖菜にも迷惑がかかるも思ったからだ。
たが、このまま放置して万一自分に何か災難があったらと思うと恐怖で身体がすくんでくる。

「万一の事があってからじゃ後悔する事になる。何もなければ頭を下げて許してもらえばいい。とにかく聖菜に相談してみよう」

最後には意を決して刀祢神社に向かうことにした。


「先輩、お久しぶりですね。どうしたのですか?私のところに来るという事は何か霊現象でも?」

二千夏は事の次第を聖菜に話す。

「その男はそう言ったのですね。そして会社内では不審な事故が相次いでいる。それだけでは何とも言えないので、その男を遠くから見せてもらえますか」

聖菜が二千夏に連れられて松川智志を遠目で確認するが、霊的なものは何も感じない。

「おかしいですね。あの男からは何ら霊的なものは感じない。先輩の話では会社で何人か怪我で出勤出来なくなっているんですよね」

「そうよ。それをさも自分の仕業みたく脅迫して来たわ」

「だとするとあの男が嘘を言っているか第三者が絡んでいるとしか考えられないんですけど」

そこまで言って聖菜に一人の人物が浮かび上がる。

「例えば呪い屋とか恨み晴らし屋のような人間に呪いを依頼している可能性が高いですね」

大学時代に聖菜と共にミステリーサークル活動をしていた二千夏はそういったものの存在を信じているだけに、冗談とは受け取らず真面目に聞いていた。

「呪い屋とか恨み晴らし屋について大学時代にもっと研究しとけば良かった」

「何にせよ、誰に依頼しているかを調べましょう」

⭐︎⭐︎⭐︎

「松川さん、私はお仕事ですしお代さえ頂ければ依頼は受けますけど、本来呪いというのはこんなに頻繁かけるものではないんですのよ。いつかは自分自身に跳ね返って来る事も踏まえて下さいね」

あまりにも頻繁に依頼に来る智志に稀は一応の忠告をする。

「わかってますって」

しかし稀の忠告を人ごとのように聞き流す智志。
これまでも上手くいっているからか、まったく悪びれる様子もない。
稀は内心ため息をついた。

「それで、今日はどんなお相手かしら?」

「鹿目二千夏という女なんだけど、こいつは普段から俺に対して冷たい態度を取るんですよ。そして今日はついに二度と近寄るなまで言って来ました。これを懲らしめてやりたい」

「具体的にどんな風に致しますか」

「そうだな。事故で両脚を粉砕骨折させてもらいたい。工事現場でも交通事故でもいい」

「。。どんな事情があるかはあえてお聞きしませんけど、以前にも申し上げましたが、あまりやり過ぎても呪いは自分に跳ね返って来ますからね」

〔おそらく話からしてその女性に言い寄ってフラれたのでしょうけど、それは恨みとは違いますわ。自分勝手な理由で相手を呪いにかけるのは危険だと私は忠告しましたわ。あとはどうなろうと責任持てませんわね〕


智志が店を出てから稀は頬杖をつきながら思案する。

「もしかしたら聖菜さんがこの件を聞きつけて来るかも。来てくれたら嬉しいな。それにしても、今回の依頼は少しいただけないですわね」

稀はそう言いながら笑みを浮かべる。

「聖菜さんに来て欲しいのは私の願望。来なかった時はこちらから会いに行こうかしら」


しばらく後をつけていた聖菜と二千夏は智志が神宮寺稀の館に入るところを見て全ての合点がいった。

「やっぱりか。先輩、あの男は神宮寺稀に依頼して先輩を呪いにかけるつもりです」

「フラれた腹いせに私を呪うっていうの?」

「神宮寺稀の呪いの力は強力です。確実に先輩に何らかの災いが降り注ぐでしょう」

聖菜の言葉を聞いて二千夏は恐怖で泣き出した。

「そんな。。私何もしていないのにどうしてそんな目に遭わなきゃいけないの。聖菜でも何とか出来ないの」

「落ち着いて下さい。私に出来る呪い返しの方法はあります。いざとなったら私が先輩の身代わりに呪いを受けて助けますから」

「それじゃ聖菜が危険じゃない」

「大丈夫。私を信じて下さい」

聖菜は自分を頼って来てくれた二千夏を絶対に助けようと思っていた。
二千夏と聖菜は大学のサークル活動でも同じミステリーサークルに属していた。
ミステリーサークルの主な活動はミステリー小説や推理小説を読んで感想を言い合ったり、ドラマや映画の舞台となった場所を見て回るといったものだ。

年に一度、部員の書いたミステリー小説を学内で発表してグランプリを決める大会もある。
聖菜はくだらないと思いながらも他に入りたいサークルも無かったので仕方なく入ったのだが、今や二年生で部長を務めるほどメンバーから信頼を置かれている。

零と麻里奈の二人も聖菜に誘われて現在ミステリーサークルに所属中である。
零が自信満々で発表したミステリー小説の評価が大学内で散々で、しばらくショックで立ち直れなかった事は置いておこう。

二千夏は聖菜が新入生として加入した時の部長で、面倒見が良く、時として人を寄せ付けない態度の聖菜をよく見てくれた。
だからこそ、聖菜は二千夏を助けたかったのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...