霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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神宮寺稀のお仕事 後編

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「先輩、稀が呪いをかけるのはおそらく依頼があった翌日の丑三つ時〔午前二時から四時〕。呪いの効力は翌日中には発動される事を考えれば跳ね返すなら今夜しかない」

聖菜はそう考えてその日の夜に二千夏を刀根神社に連れて来て境内に五芒星を描いた結界を張り、二千夏を結界内で守る事にした。

〔和花(のどか)。。こんな呪いを本当に引き受けるなんて。呪い以外にも恋愛や受験祈願もやっているからまあいいかと思ってたけど。やっぱり止めるべきか〕

聖菜がそんな事を考えていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
神宮寺稀が刀祢神社まで出向いてくるのは聖菜も想定外であった。

「聖菜さん、またお会い出来て嬉しいですわ」

「和花(のどか)。。」

佐々木和花は聖菜だけが知る神宮寺稀の本名である。

「二千夏さん、私は神宮寺稀と申します。松川智志さんにあなたに呪いをかけるように依頼された者ですわ」

その言葉に驚く二千夏。

「本当に私に呪いをかけたのですか?どうしてそんな事を」

「依頼されたのは松川さんですから私に聞かれても困りますわ。私は自分の仕事をしただけですもの」

それもそうかと納得してしまう二千夏だったが、事はそれで済まなかった。

「私の呪いを解いて下さい。何で私が呪われなければならないんですか。松川が勝手に私に言い寄ってきたのを断っただけなのに」

「やっぱりそんな事だったのですね。依頼の内容から大方の予想はついていましたけれど」

稀は予想通りの展開にため息をつく。

「松川さんはは幼少時は身体が弱くていじめの対象になっていたようですわ。その頃からいつか大人になったらこいつらに仕返ししてやると思って、いじめた人間の名前をメモに残していたんです。

私と出会った事によってそれまでの恨みを晴らすべく自分を見下した人間を次々と呪いにかけていきましたわ。まるで私の能力を自分自身の力と錯覚しているかのように」

それを聞いて聖菜はため息をつく。

「同情の余地はあるにはあるけど、それとフラれた事に対する呪いは別問題ね。やられた人間に対しての仕返しをするだけならまだ気持ちもわからなくないけど。。」

二千夏はそんな理由で呪われてはたまったものではないと思った。

「松川さんが依頼した呪いは二千夏さんの両脚を歩けなくなるくらいに大怪我させるものです」

稀の言葉に驚く聖菜と二千夏。

「そんな。。どうしてそこまでされなきゃいけないの」

「いくら何でもフラれた腹いせにそれはやり過ぎね」

「その通りですわ。今回ばかりは私もそのまま引き受けるのはどうかと思いましたので、こうして聖菜さんに会いに来たというわけですわ」

「私に会ってどうしようというの?まさか自分でかけた呪いを自分で解けないなんて言うんじゃないでしょうね?」

聖菜の言葉に稀は笑う。

「まさかですわ。聖菜さん私の力を見くびってもらっては困りますわね。私はただ聖菜さんに会いたくて来ただけですわ。それから二千夏さんにまだ呪いはかけていませんわ。これから松川さんがあなたにかけようとした呪いを本人にかけてみせます」

稀にそう言われて聖菜は黙って見ている事にはしたが、念のために二千夏は結界に入れたままにし、何かあればすぐに対応できるように式札も手に持っていた。

稀は持っていた七色天使セイラルージュの乙桐葉(おとは)人形を取り出して地面に置く。

「松川智志の両脚を大怪我させて下さいな」

稀はそう言いながら人形の両脚を手でへし折った。
不気味なバキっという音が鳴り響いて二千夏は思わずきゃあと声をあげた。

「これで終わりですわ」

「何をしたの?」

恐る恐る聞いた二千夏に稀は平然と答える。

「呪いをかけた本人に依頼をそのままお返ししただけですわ。明日には事故でも起きて両脚がへし折れている事でしょうね」

「やりすぎなんじゃ。。」

「あら、こうしなかったらあなたの両脚が折れていたというのに随分と人がよろしいんですのね」

稀にそう言われて二千夏は背筋に冷たいものが流れた。

「いいですこと?松川さんは一方的な逆恨みであなたに大怪我をさせようとしていたのですよ。その相手に対する情けなど必要ないですわ」

「和花の言う通り。先輩は人が良すぎます。自分がされた時の事を考えて下さい。下手したら一生ものの怪我を負わされていたんですから」

「う、うん。。」

二千夏は恐怖で何も考えられなくなっていた。
やり過ぎではと思ったが、こうしなければ自分が酷い目にあっていたんだからと聖菜と稀に諭されて最後はそう思うように気持ちを切り替えた。

「それにしても大したものね」

「聖菜さんに褒められると嬉しいな。やる気が出ましたわ」

そう言って手を叩いて喜ぶ稀に聖菜は眉をしかめる。
稀は松川智志が自分を利用して恨みを晴らしているのもわかっていた。
ここいらで呪いをやたらに利用するのは危険だと知らしめるのが必要だと考えていた矢先の一件だった。
つまり「口で言ってもわからないなら実際に痛い目に遭ってもらう」という事だ。

「聖菜さん、私はこの商売で困っている人を少しでも助けたいんですの。個人的な都合で呪いを利用する人に協力する事はありませんわ。まあお金だけは受け取っておきましたけど」

「和花、あなたは何を考えてるの?」

「さて、何でしょうかね。いずれおわかりになりますわ。では私はこれで。またお会い出来るのを楽しみにしてますわ。ああ、それからその足の折れた人形は若い男性の間で人気の育成ゲーム七色天使セイラルージュっていうそうですわよ」

稀はそう言ってにこやかな笑顔で手を振って刀祢神社から去って行った。

「あの人、悪い人じゃないよね。。」

二千夏の言葉に聖菜は否定も肯定もしなかった。

「私は彼女の人生を変えてしまったのかも知れない」


翌日の朝、稀の掛けた呪いが発動されて智志は出勤中に大通りで飲酒運転のトラックに跳ねられ両脚がタイヤの下敷きとなってへし折れた。

「ぎゃあああ。。」

苦痛に声を上げて助けを求める智志。
辺りは騒然となり、救急車とパトカーのサイレンの音が鳴り響いた。

その後、松川智志は両脚の複雑骨折にアキレス腱断裂の大怪我で元通り歩けるようになるまで二年以上の治療を要する事となった。
呪いの恐ろしさを知った智志は以降、二度と稀の元を訪れる事はなかった。
鹿目二千夏もあの日のショックから立ち直り、今は普通の生活に戻っている。


それから数日後、大学内で聖菜は零と麻里奈に会った。
零たちに会うのは十日ぶりであった。

「あ、聖菜さん」

「あら零、久しぶりね。どうしたの?」

「これ、見て下さいよ。可愛いでしょ。いま俺の中でのマイブームなんですよ」

そう言って零が見せた七色天使セイラルージュのフィギュアに聖菜は額がピキッとなった。

「俺の推しメンは黄色セイラの。。」

「今、それを私の前で見せるんじゃない!」

思いっきり足を踏みつけられて悲鳴を上げる零。

「稲葉零、お前もか。。」

ユリウス・カエサルの台詞をそう言い変えて聖菜はプイとそっぽを向いて行ってしまった。

「何で?俺、何か変な事言った?」

「いい歳した大学生がアイドル育成ゲームのフィギュアなんて聖菜さんに見せるからでしょ」

麻里奈にそう言われてがっくりうな垂れる零であった。


そして今宵も神宮寺稀の館には恨みを晴らして欲しいという依頼者が訪れる。

私の名前は神宮寺稀。
あなたのお恨みを晴らすお手伝いを微力ながらさせて頂きたく、今夜も稀の館にてお待ちしておりますわ。
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