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誰が呪いを掛けたのか 中編
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一方の零は神宮寺稀の館に来ていた。
「神宮寺稀の館へようこそ」
仕事着でもあるパープルのアラビアン衣装に身を包んだ稀が笑顔で出迎える。
「あ、あの。神宮寺稀さんですよね?」
「ここには私以外誰もいませんわ。他のどなたに見えるのかしら?」
稀は笑顔で少しばかり意地悪くそう答える。
「俺、稲葉零って言います。刀祢聖菜さんと同じ大学の後輩で聖菜さんにはいつもお世話になっているんです」
「まあ、聖菜さんのご紹介で来られたのですか。それは嬉しいですわ。お礼に今回は特別サービスで念入りにお恨みを晴らして差し上げますわ」
「いえ、その。。言いづらいんですけど今日来たのは恨み晴らしの依頼じゃなくてこの件について何かご存知かと」
そう言ってスマホを取り出してスレッドを見せる零。
目をパチクリさせてキョトンと零を見る稀であったが、とりあえずスレッドに目を通した。
「なるほど。大学内で起きる不可解な事故が私の呪いの仕業ではないかと疑っているのですね」
「いえ、疑うとか全然。。ただ知っているかを確認したかったんですよ」
「で、あれば存じ上げませんわ」
「そうするともう一人の新屋敷水菜かな」
「新屋敷さんは私と同業なので度々顔は合わせてますけど私が知る限り、彼女もそんな酷い事をする人ではないんですよ」
「では、今回の件は他に関わっている第三者がいるって事ですか?」
その時、零の携帯が着信した。
相手は麻里奈であった。
「もしもし、麻里奈か? どうしたんだ」
「千葉君が大怪我をして救急車で病院に運ばれたんだけど、何があったの?」
「なんだって?」
麻里奈からの連絡に零は驚きの声を上げる。
「どういう事なんだ? 亮太は新屋敷水菜の店に行くって言ったのに。まさか呪いをかけられたんじゃ。。」
「零は今どこにいるの? 一緒じゃなかったの?」
「俺は神宮寺稀の館に来ているんだ。ちょっと調べる事があってね。とりあえず俺は大丈夫だ。何かあったら連絡するから」
「あ、ちょっと零。。」
麻里奈はまだ何か言いたそうだったが、零は電話を切ってしまった。
「稀さん、新屋敷水菜という人はそんな酷い事はしないって言ってましたけど、友達がやられました。どういう事なんですか?」
「私に聞かれても状況が掴めませんわ」
確かに。。零は稀に聞くのは筋違いだったと反省した。
そして簡単にではあるが、稀にここまでの経緯を説明する。
「なるほどですね。でも、水菜さんが恨みや怒りから幽体離脱するとも思えませんし、もしその一件に水菜さんが絡んでいるのでしたら、何かあったのかもしれませんわね」
稀は水晶を使って水菜の身辺をチェックしてみた。
水晶に映し出されたのは普段の稀が知っている水菜とは似ても似つかない狂気に歪んだ顔であった。
「どういう事なんでしょう。。まるで何者かに操られているようですわ」
「操られているんですか?」
「悪霊かも知れませんし呪いなのかも。。でも恨み晴らし屋をやっている呪術師に呪いをかけるなど並大抵の人に出来ることではありませんわ。まさか水菜さん、何か新しい呪術をやろうとして失敗したのでは。。」
稀は水菜自身が強力な呪術を掛けようとして自分に跳ね返って来てしまったと仮定した。
「だとすると、掛かっている術が解ければ元に戻りますわね。零さんとおっしゃいましたね。あなたはこの事を聖菜さんに伝えて下さい。聖菜さんの専門外ですが、悪霊の可能性もありますので一応耳に入れておいた方がいいと思います。私は水菜さんを詳しく調べて見ますわ」
「わかりました。明日、大学で会うと思うので今日のうちに電話で伝えておきます」
零はそう言うとまた聞きづらそうに稀に問いかける。
「あの。。稀さんは聖菜さんとどういう関係なんですか?」
零の質問に稀はまたキョトンとしたが、すぐに笑みを浮かべる。
「そうですわね。親友でもあり、仕事上ではライバルでもありますわね。でも私は敵のつもりはないんですよ。聖菜さんにはどう思われているかわかりませんけど」
どこか遠い目をしてそう話す稀を見て、零はこの人は聖菜さんを人として好きなんだなと思った。
稀の館を出た零がスマホを見ると麻里奈からのLINEが入っていた。
「零のバカ! 千葉君の二の舞になっても知らないからね。何やってるんだか知らないけど、呪いとか幽体絡みの危ない事なら聖菜さんに報告しておきなさいよ。鈴村龍二さんって刑事が事件性がなくて両腕が勝手に折れたのなら聖菜ちゃん案件だって頭抱えてたわよ」
最後に怒りのスタンプが送られていた。
「何だかんだ言って心配してくれてるんだな」
零はそんな風に軽く考えていたが、麻里奈は心配しているのに理由を話さない零に怒り心頭だった。
翌日、零はいつものように大学に行くと麻里奈を見かけたので声をかけるが、無視される。
「おい、麻里奈。聞こえないのか?」
零の呼びかけにもプイ! と横を向く麻里奈。
「やべーな。完全に怒ってるよ」
零は頭を掻きながら麻里奈の機嫌を取りなすために歩み寄って行こうとするが、キャンバスに見かけない男がうろついているのが目に入った。
「誰だ? 年齢的に俺より全然上に見えるけど」
零がそう思っていた瞬間、男はいきなり懐から包丁を取り出して零に切りつけてきた。
「うわ!」
突然の零の声に麻里奈が驚いて見ると、包丁を振り回す男が零を標的に定めている。
「ちょっと、何あれ?」
これはさすがに無視する訳にいかず、どうしようか考えている時にテニスのラケットとボールがあるのを思いだした。
「これでも食らえ!」
麻里奈がテニスボールを思いっきりサーブするとボールは男の顔に直撃した。
「零、今のうちに逃げて」
「サンキュー。恩に着るよ」
零はすぐに走り出してその場から脱出した。
テニスボールが頭に当たった男は、その衝撃で術から解放された。
「。。あれ? 俺は何でこんなところに?」
「殺人未遂事件ってこれの事か? ちくしょう。俺まで狙われる羽目になるとは」
すぐに聖菜のところに行った方がいいだろう。
聖菜はこの時間、C棟のサークル教室にいるはずだ。
「麻里奈、聖菜さんのところにいこう。昨日のうちに電話でおおよその話はしてある」
「聖菜さんが関わるって事は心霊絡みの危険な事なの?」
「心霊なのか呪いなのかまだわからないんだ。だから聖菜さんに確認してもらう。亮太の怪我の事も含めてね。詳しくは聖菜さんに会ってから話すよ」
「先に私じゃないんだね。。」
「何か言ったか?」
「何でもない」
まだ怒ってるのかと、零はため息をついた。
「水菜さん、神宮寺稀です。いらっしゃいますか?」
稀が水菜の店に訪れるが、店はもぬけの殻であった。
「どこにいったのかしら? まさか零さんを。。」
稀はしまったと額に手を当てた。
「私とした事がしくじりましたわ。幸い零さんは聖菜さんと同じ大学。何かあれば聖菜さんが対応してくれるとは思いますが」
だが、呪術使いが相手となると聖菜は専門外になる。
神楽や式神もどこまで通じるかは未知数だ。
「聖菜さんと連絡先の交換をしておいた方が良かったですわね」
稀は聖菜の携帯番号を知らない。
いずれ高校生の時のように仲直りするまで聞かないでおこうと決めていたからだ。
今回はそれも裏目に出た。
「ここから聖菜さんの大学までは三十分ほどで行ける。間に合えばいいですけど」
稀は急ぎ聖菜の大学へ向かった。
「神宮寺稀の館へようこそ」
仕事着でもあるパープルのアラビアン衣装に身を包んだ稀が笑顔で出迎える。
「あ、あの。神宮寺稀さんですよね?」
「ここには私以外誰もいませんわ。他のどなたに見えるのかしら?」
稀は笑顔で少しばかり意地悪くそう答える。
「俺、稲葉零って言います。刀祢聖菜さんと同じ大学の後輩で聖菜さんにはいつもお世話になっているんです」
「まあ、聖菜さんのご紹介で来られたのですか。それは嬉しいですわ。お礼に今回は特別サービスで念入りにお恨みを晴らして差し上げますわ」
「いえ、その。。言いづらいんですけど今日来たのは恨み晴らしの依頼じゃなくてこの件について何かご存知かと」
そう言ってスマホを取り出してスレッドを見せる零。
目をパチクリさせてキョトンと零を見る稀であったが、とりあえずスレッドに目を通した。
「なるほど。大学内で起きる不可解な事故が私の呪いの仕業ではないかと疑っているのですね」
「いえ、疑うとか全然。。ただ知っているかを確認したかったんですよ」
「で、あれば存じ上げませんわ」
「そうするともう一人の新屋敷水菜かな」
「新屋敷さんは私と同業なので度々顔は合わせてますけど私が知る限り、彼女もそんな酷い事をする人ではないんですよ」
「では、今回の件は他に関わっている第三者がいるって事ですか?」
その時、零の携帯が着信した。
相手は麻里奈であった。
「もしもし、麻里奈か? どうしたんだ」
「千葉君が大怪我をして救急車で病院に運ばれたんだけど、何があったの?」
「なんだって?」
麻里奈からの連絡に零は驚きの声を上げる。
「どういう事なんだ? 亮太は新屋敷水菜の店に行くって言ったのに。まさか呪いをかけられたんじゃ。。」
「零は今どこにいるの? 一緒じゃなかったの?」
「俺は神宮寺稀の館に来ているんだ。ちょっと調べる事があってね。とりあえず俺は大丈夫だ。何かあったら連絡するから」
「あ、ちょっと零。。」
麻里奈はまだ何か言いたそうだったが、零は電話を切ってしまった。
「稀さん、新屋敷水菜という人はそんな酷い事はしないって言ってましたけど、友達がやられました。どういう事なんですか?」
「私に聞かれても状況が掴めませんわ」
確かに。。零は稀に聞くのは筋違いだったと反省した。
そして簡単にではあるが、稀にここまでの経緯を説明する。
「なるほどですね。でも、水菜さんが恨みや怒りから幽体離脱するとも思えませんし、もしその一件に水菜さんが絡んでいるのでしたら、何かあったのかもしれませんわね」
稀は水晶を使って水菜の身辺をチェックしてみた。
水晶に映し出されたのは普段の稀が知っている水菜とは似ても似つかない狂気に歪んだ顔であった。
「どういう事なんでしょう。。まるで何者かに操られているようですわ」
「操られているんですか?」
「悪霊かも知れませんし呪いなのかも。。でも恨み晴らし屋をやっている呪術師に呪いをかけるなど並大抵の人に出来ることではありませんわ。まさか水菜さん、何か新しい呪術をやろうとして失敗したのでは。。」
稀は水菜自身が強力な呪術を掛けようとして自分に跳ね返って来てしまったと仮定した。
「だとすると、掛かっている術が解ければ元に戻りますわね。零さんとおっしゃいましたね。あなたはこの事を聖菜さんに伝えて下さい。聖菜さんの専門外ですが、悪霊の可能性もありますので一応耳に入れておいた方がいいと思います。私は水菜さんを詳しく調べて見ますわ」
「わかりました。明日、大学で会うと思うので今日のうちに電話で伝えておきます」
零はそう言うとまた聞きづらそうに稀に問いかける。
「あの。。稀さんは聖菜さんとどういう関係なんですか?」
零の質問に稀はまたキョトンとしたが、すぐに笑みを浮かべる。
「そうですわね。親友でもあり、仕事上ではライバルでもありますわね。でも私は敵のつもりはないんですよ。聖菜さんにはどう思われているかわかりませんけど」
どこか遠い目をしてそう話す稀を見て、零はこの人は聖菜さんを人として好きなんだなと思った。
稀の館を出た零がスマホを見ると麻里奈からのLINEが入っていた。
「零のバカ! 千葉君の二の舞になっても知らないからね。何やってるんだか知らないけど、呪いとか幽体絡みの危ない事なら聖菜さんに報告しておきなさいよ。鈴村龍二さんって刑事が事件性がなくて両腕が勝手に折れたのなら聖菜ちゃん案件だって頭抱えてたわよ」
最後に怒りのスタンプが送られていた。
「何だかんだ言って心配してくれてるんだな」
零はそんな風に軽く考えていたが、麻里奈は心配しているのに理由を話さない零に怒り心頭だった。
翌日、零はいつものように大学に行くと麻里奈を見かけたので声をかけるが、無視される。
「おい、麻里奈。聞こえないのか?」
零の呼びかけにもプイ! と横を向く麻里奈。
「やべーな。完全に怒ってるよ」
零は頭を掻きながら麻里奈の機嫌を取りなすために歩み寄って行こうとするが、キャンバスに見かけない男がうろついているのが目に入った。
「誰だ? 年齢的に俺より全然上に見えるけど」
零がそう思っていた瞬間、男はいきなり懐から包丁を取り出して零に切りつけてきた。
「うわ!」
突然の零の声に麻里奈が驚いて見ると、包丁を振り回す男が零を標的に定めている。
「ちょっと、何あれ?」
これはさすがに無視する訳にいかず、どうしようか考えている時にテニスのラケットとボールがあるのを思いだした。
「これでも食らえ!」
麻里奈がテニスボールを思いっきりサーブするとボールは男の顔に直撃した。
「零、今のうちに逃げて」
「サンキュー。恩に着るよ」
零はすぐに走り出してその場から脱出した。
テニスボールが頭に当たった男は、その衝撃で術から解放された。
「。。あれ? 俺は何でこんなところに?」
「殺人未遂事件ってこれの事か? ちくしょう。俺まで狙われる羽目になるとは」
すぐに聖菜のところに行った方がいいだろう。
聖菜はこの時間、C棟のサークル教室にいるはずだ。
「麻里奈、聖菜さんのところにいこう。昨日のうちに電話でおおよその話はしてある」
「聖菜さんが関わるって事は心霊絡みの危険な事なの?」
「心霊なのか呪いなのかまだわからないんだ。だから聖菜さんに確認してもらう。亮太の怪我の事も含めてね。詳しくは聖菜さんに会ってから話すよ」
「先に私じゃないんだね。。」
「何か言ったか?」
「何でもない」
まだ怒ってるのかと、零はため息をついた。
「水菜さん、神宮寺稀です。いらっしゃいますか?」
稀が水菜の店に訪れるが、店はもぬけの殻であった。
「どこにいったのかしら? まさか零さんを。。」
稀はしまったと額に手を当てた。
「私とした事がしくじりましたわ。幸い零さんは聖菜さんと同じ大学。何かあれば聖菜さんが対応してくれるとは思いますが」
だが、呪術使いが相手となると聖菜は専門外になる。
神楽や式神もどこまで通じるかは未知数だ。
「聖菜さんと連絡先の交換をしておいた方が良かったですわね」
稀は聖菜の携帯番号を知らない。
いずれ高校生の時のように仲直りするまで聞かないでおこうと決めていたからだ。
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