31 / 67
誰が呪いを掛けたのか 後編
しおりを挟む
「稲葉零だな」
突然大学校内で声をかけられ、零と麻里奈が振り返ると見た事のない女性が立っていた。
「あの? どちら様ですか?」
「新屋敷水菜(あらやしきみずな)」
その名前を聞いた瞬間、零は思わず飛び退いた。
「麻里奈、聖菜さんのところへ早く行け!」
「零、どうしたの?」
「いいから早く!」
零のあまりの必死さにこの女性が危険な事を察知した麻里奈はすぐに走り出した。
二人がいたD棟前広場から聖菜のいるC棟のサークル教室までは走れば三、四分ほどの距離である。
麻里奈は零の危地を悟って懸命に聖菜の元へ走った。
教室で本を読んでいた聖菜の元に息を切らせながら入ってきた麻里奈が零の危険を伝える。
「聖菜さん、大変です。零が新屋敷水菜という女性に。。」
それだけ聞くと聖菜はすぐに立ち上がり、走り出した。
「麻里奈、どっち?」
「D棟の方です」
「先に行く。麻里奈は危険だからここに居て」
「え? 嫌です。一緒に行きます」
そう言った麻里奈の声も届かないほど聖菜はすでに先を走っていた。
「ちょ。。聖菜さん足速い」
聖菜は逃げる幽体を追いかけるために日々走り込んでいるので、足はかなり速い。
普通であれば大学の陸上部からスカウトが来てもおかしくないレベルであったが、何せ変わり者の評判が先立っているため、声をかけられる事はなかった。
最も聖菜は陸上部に入る気はさらさら無いのでむしろ助かっているのだが。
D棟の近くでは零が水菜と対峙している。
「亮太の腕を折ったのはあんたか?」
「お前たちが私を嗅ぎ回っているようだから、少しばかり痛い目に遭わせたのさ」
零は聖菜が来るまで時間を稼ぎたかったので、質問をぶつけてみる。
「あんたは何が目的であんなスレッドを作って関係ない人たちを呪いにかけているんだ?」
「何のために? 恨みを晴らすのに理由なんて山ほどあるだろう。私は依頼された恨みを晴らしているだけよ」
「誰からの依頼で?」
「そんな事言うわけないだろう。依頼者の情報は極秘だ」
その時、零を呼ぶ声が聞こえた。
「零!」
「聖菜さん」
聖菜を見る水菜の目が光った。
「あれが刀祢聖菜。。」
聖菜は水菜の目を見て呪術にかけられている事をすぐに見抜いた。
「零、これは幽体じゃない。呪術による洗脳よ」
「洗脳。。何とかならないんですか?」
「やれるだけやってみる」
聖菜は聖剣神楽(かぐら)を取り出すと水菜に斬りかかった。
神楽は普段は式札に収納されていて、戦う時にだけ取り出せる霊を斬る聖剣である。
もっとも呪術に操られている人間に対して効果があるかはやってみないとわからないが。
「術の気を断ち切れば呪縛から解放されるはず。神楽なら出来る」
聖菜が神楽を振り下ろすと水菜はそれを避けるために身体を左右に動かす。
「そうはさせるものですか」
水菜が両手を動かすと聖菜の腕に針で刺されたような激痛が走った。
「うあ。。」
聖菜は思わず悲鳴を上げる。
聖菜が戦いの最中にこんな声を上げるのは初めてであった。
「呪術人形の舞」
水菜は藁人形を取り出して聖菜に術を施したのだ。
持っている針で藁人形を刺すたびに聖菜の身体に針で刺された痛みが襲う。
「聖菜さん!」
零が助けようとするのを聖菜が手で制する。
「零、来ちゃダメ。これは私の仕事。。」
そう言われても零は水菜に向かっていく。
「やめろ!」
「邪魔するな」
今度は零の身体に激痛が走る。
水菜は零の藁人形も持っていた。
「稲葉零。お前は刀祢聖菜の後でゆっくり料理してやるから大人しくしていな」
その間に聖菜は式札を取り出して宙に掲げる。
「涅槃より。。」
「おっと、そうはさせないよ」
水菜は藁人形の喉元を針で突き刺すと、式神を呼び出そうとした聖菜は声が出なくなってしまう。
「あ。。」
〔あの藁人形を何とかしなければ式神も呼び出せないし、あいつに近づけない。どうすれば。。〕
「これで終わりだよ」
水菜が藁人形の頭に針を突き刺した。
「聖菜さん」
零が思わず飛び出したが、時すでに遅し。
針は完全に藁人形の頭に突き刺さっていた。
だが、聖菜は何ともなかった。
「どういう事だ?」
聖菜たちの目の前には神宮寺稀が立っていた。
「あなたの呪術は無効化致しましたわ」
「神宮寺稀! どうしてここに?」
水菜は藁人形を稀に見立てて腕を折ったり針で刺したりするが、稀には通じなかった。
「聖菜さん、零さん。間に合って良かったですわ。水菜さん、あなた程度の呪術では私には通じませんわ」
今度は稀が持っていた藁人形の腕を抑えると水菜は身動きが取れなくなった。
「聖菜さん、今ですわ」
稀の声に合わせるように聖菜が神楽を振り抜くとサクッという切れ音がして水菜は糸の切れた人形のようにその場に倒れた。
「何とか術を断ち切れたようね」
「聖菜さん!」
麻里奈がようやく追いついた時には全てが終わっていた。
「麻里奈、来るなって言ったのに」
聖菜に言われて麻里奈は頭を下げて謝った。
「ごめんなさい。。でも私一人だけのけものにされたみたいで嫌だったから。。」
「うん、わかってる。危険な目に遭わなくてよかったわ」
稀が水菜に近づいて身体を揺さぶって起こすと、水菜は術が解かれて元に戻っていた。
「私、今まで何を。。」
「ありふれた台詞ね」
「まあ仕方ないですわ」
何があったのかわからない表情の水菜に稀が手を貸す。
「水菜さん、あなたは少しばかり夢を見ていたのですわ。まずはゆっくり休みなさい」
水菜に肩を貸して聖菜に別れを告げ、その場を立ち去る稀。
すれ違いざま、聖菜は小さな声で稀にお礼を言う。
「和花(のどか)、ありがとう」
和花は神宮寺稀の本名である。
稀は少しうつむいて恥ずかしそうに微笑を浮かべた。
「聖菜さんのお役に立てて嬉しいですわ。ではみなさん、私は水菜さんを一緒に連れて帰りますわ」
稀と水菜が大学校内から去って行くのを見送ると、零が聖菜に助けてくれたお礼を言う。
「聖菜さん、ありがとうございます」
「零も無事で良かった。今後は危険な事に首を突っ込まない事ね。私だって毎回助けてあげられるわけじゃないから」
「反省してる。すいません」
「私、一人っ子だからこれでも零と麻里奈を弟と妹のように思っているんだよ。本当に危険な事にはもう手を出さないでよ」
「聖菜さん。。すいませんでした」
そんな風に思っていてくれた聖菜の優しさに二人はあらためて感謝した。
「それにしても。。」
危険は回避出来たが、今回の一件はいくつか謎が残った。
水菜は誰に操られていたのか。
なぜこの大学を狙ったのか。
スレッドは誰が書き込んだのか。
聖菜はもしかして和花は何か知っているのかもと考えてはいたが、もしそうならいずれわかるだろうとこの場でどうこう考えるのはやめにした。
「水菜さん、教えて下さい。今回はどうしたのですか?」
「それが。。私にもわからないんです。ある人から恨み晴らしの依頼されたところまでは覚えているんですけど、そこからの記憶がなくて。。」
「水菜さんが呪術をかけられた?」
稀は驚きを隠せなかった。
新屋敷水菜の実力は稀も先輩呪術師として認めるところであったが、水菜に呪術をかけて精神を乗っ取って操れる程の相手とは何者なのだろうか。
「その人物は誰なのですか?」
「ハ。。」
そこまで言ったところで水菜は口から吐血した。
「水菜さん!」
「あ。。が。。」
吐血による咳と苦しそうに胸を抑える水菜。
稀は急いでヒーリングの術を施すが、かなり強力な術でなかなか回復が追いつかない。
「こうなったら私のフルパワーで。。」
「待って!」
突然の声に稀が振り向くと、三十代前半と思われるスーツ姿の女性が立っていた。
「私に任せてくれ」
女性はそう言うと呪文のようなものを唱える。
すると手から刀が現れた。
「これは伝説の聖剣といわれた霧氷剣(むひょうけん)。私の紫式部(むらさきしきぶ)や聖菜さんの神楽(かぐら)と同じ。。」
青く光る刀を見て稀はこの女性が只者でない事を知る。
女性が剣を水菜に向けて振り下ろすとサクッと何かが切れる音がして、水菜が気を失った。
「呪術を断ち切った。これでもう大丈夫」
気を失ってはいるものの、落ち着いた表情になった水菜を見て稀はひと安心した。
「ありがとうございます。それにしても霧氷剣を扱っているあなたは何者なのですか?」
女性は少し躊躇ったが、名前だけを稀に明かす。
「私は藤村雪乃(ふじむらゆきの)といいます。まだそれ以上の事は言えません。そう遠くないうちにあなたや刀祢聖菜と共に行動する事になるでしょう」
「では、今回の一件はハザマ真理教が。。」
稀の問いに雪乃と名乗った女性は首を縦に振る。
「来るべき時が来たようですわね」
「あなたも事情を知っている一人なのですね。新屋敷水菜に客を装って依頼をした相手はハザマ真理教の幹部だったと思われます。その時に呪術を掛けられてしまったのです。さらに口封じのために正気に戻った時に依頼者の名前を言おうとすると発動する術も仕掛けられていたのでしょう」
「水菜さんが聖菜さんの大学の生徒を呪いにかけたのもハザマ真理教の仕業ですのね」
「おそらくは。刀祢美里の娘がいる事は奴らも知っているでしょうから。そして、そいつはネットにスレッドを作って水菜に○×大学の生徒を無差別に呪わせた。目的はおそらく刀祢聖菜を見つけ出すため」
稀は胸のペンダントをギュッと握りしめる。
「結界に封印されている狭間法元(はざまほうげん)を甦らせるつもりですわね。。そして、聖菜さんは法元を封印した美里さんの娘。法元は復活したらまず手始めに聖菜さんを狙うつもりなのですわ」
自分を封印した巫女の娘がいるとなれば、まず一番の危険を取り除こうとするであろう。
稀はそう推測していた。
「神宮寺稀さんでしたね。あなたもお気をつけ下さい。あなたは新屋敷水菜より遥かに強い力をお持ちのようですが、それでもあの狭間法元とはまともにやりあえません。何かあったら連絡して下さい」
雪乃はそう言って連絡先を稀に伝える。
「わかりましたわ」
「十五年前に刀祢美里が命がけで封印した結界が破られようとしている。ハザマ真理教は教祖である法元を甦らせるために動き出した。おそらく今回、新屋敷水菜に呪術をかけた相手は法元の熱狂的信者であった草刈愛梨(くさかりあいり)。十五年前には十六歳だったから今は三十一歳になっているはず。あの女が教団を支配しているとなると厄介だな」
突然大学校内で声をかけられ、零と麻里奈が振り返ると見た事のない女性が立っていた。
「あの? どちら様ですか?」
「新屋敷水菜(あらやしきみずな)」
その名前を聞いた瞬間、零は思わず飛び退いた。
「麻里奈、聖菜さんのところへ早く行け!」
「零、どうしたの?」
「いいから早く!」
零のあまりの必死さにこの女性が危険な事を察知した麻里奈はすぐに走り出した。
二人がいたD棟前広場から聖菜のいるC棟のサークル教室までは走れば三、四分ほどの距離である。
麻里奈は零の危地を悟って懸命に聖菜の元へ走った。
教室で本を読んでいた聖菜の元に息を切らせながら入ってきた麻里奈が零の危険を伝える。
「聖菜さん、大変です。零が新屋敷水菜という女性に。。」
それだけ聞くと聖菜はすぐに立ち上がり、走り出した。
「麻里奈、どっち?」
「D棟の方です」
「先に行く。麻里奈は危険だからここに居て」
「え? 嫌です。一緒に行きます」
そう言った麻里奈の声も届かないほど聖菜はすでに先を走っていた。
「ちょ。。聖菜さん足速い」
聖菜は逃げる幽体を追いかけるために日々走り込んでいるので、足はかなり速い。
普通であれば大学の陸上部からスカウトが来てもおかしくないレベルであったが、何せ変わり者の評判が先立っているため、声をかけられる事はなかった。
最も聖菜は陸上部に入る気はさらさら無いのでむしろ助かっているのだが。
D棟の近くでは零が水菜と対峙している。
「亮太の腕を折ったのはあんたか?」
「お前たちが私を嗅ぎ回っているようだから、少しばかり痛い目に遭わせたのさ」
零は聖菜が来るまで時間を稼ぎたかったので、質問をぶつけてみる。
「あんたは何が目的であんなスレッドを作って関係ない人たちを呪いにかけているんだ?」
「何のために? 恨みを晴らすのに理由なんて山ほどあるだろう。私は依頼された恨みを晴らしているだけよ」
「誰からの依頼で?」
「そんな事言うわけないだろう。依頼者の情報は極秘だ」
その時、零を呼ぶ声が聞こえた。
「零!」
「聖菜さん」
聖菜を見る水菜の目が光った。
「あれが刀祢聖菜。。」
聖菜は水菜の目を見て呪術にかけられている事をすぐに見抜いた。
「零、これは幽体じゃない。呪術による洗脳よ」
「洗脳。。何とかならないんですか?」
「やれるだけやってみる」
聖菜は聖剣神楽(かぐら)を取り出すと水菜に斬りかかった。
神楽は普段は式札に収納されていて、戦う時にだけ取り出せる霊を斬る聖剣である。
もっとも呪術に操られている人間に対して効果があるかはやってみないとわからないが。
「術の気を断ち切れば呪縛から解放されるはず。神楽なら出来る」
聖菜が神楽を振り下ろすと水菜はそれを避けるために身体を左右に動かす。
「そうはさせるものですか」
水菜が両手を動かすと聖菜の腕に針で刺されたような激痛が走った。
「うあ。。」
聖菜は思わず悲鳴を上げる。
聖菜が戦いの最中にこんな声を上げるのは初めてであった。
「呪術人形の舞」
水菜は藁人形を取り出して聖菜に術を施したのだ。
持っている針で藁人形を刺すたびに聖菜の身体に針で刺された痛みが襲う。
「聖菜さん!」
零が助けようとするのを聖菜が手で制する。
「零、来ちゃダメ。これは私の仕事。。」
そう言われても零は水菜に向かっていく。
「やめろ!」
「邪魔するな」
今度は零の身体に激痛が走る。
水菜は零の藁人形も持っていた。
「稲葉零。お前は刀祢聖菜の後でゆっくり料理してやるから大人しくしていな」
その間に聖菜は式札を取り出して宙に掲げる。
「涅槃より。。」
「おっと、そうはさせないよ」
水菜は藁人形の喉元を針で突き刺すと、式神を呼び出そうとした聖菜は声が出なくなってしまう。
「あ。。」
〔あの藁人形を何とかしなければ式神も呼び出せないし、あいつに近づけない。どうすれば。。〕
「これで終わりだよ」
水菜が藁人形の頭に針を突き刺した。
「聖菜さん」
零が思わず飛び出したが、時すでに遅し。
針は完全に藁人形の頭に突き刺さっていた。
だが、聖菜は何ともなかった。
「どういう事だ?」
聖菜たちの目の前には神宮寺稀が立っていた。
「あなたの呪術は無効化致しましたわ」
「神宮寺稀! どうしてここに?」
水菜は藁人形を稀に見立てて腕を折ったり針で刺したりするが、稀には通じなかった。
「聖菜さん、零さん。間に合って良かったですわ。水菜さん、あなた程度の呪術では私には通じませんわ」
今度は稀が持っていた藁人形の腕を抑えると水菜は身動きが取れなくなった。
「聖菜さん、今ですわ」
稀の声に合わせるように聖菜が神楽を振り抜くとサクッという切れ音がして水菜は糸の切れた人形のようにその場に倒れた。
「何とか術を断ち切れたようね」
「聖菜さん!」
麻里奈がようやく追いついた時には全てが終わっていた。
「麻里奈、来るなって言ったのに」
聖菜に言われて麻里奈は頭を下げて謝った。
「ごめんなさい。。でも私一人だけのけものにされたみたいで嫌だったから。。」
「うん、わかってる。危険な目に遭わなくてよかったわ」
稀が水菜に近づいて身体を揺さぶって起こすと、水菜は術が解かれて元に戻っていた。
「私、今まで何を。。」
「ありふれた台詞ね」
「まあ仕方ないですわ」
何があったのかわからない表情の水菜に稀が手を貸す。
「水菜さん、あなたは少しばかり夢を見ていたのですわ。まずはゆっくり休みなさい」
水菜に肩を貸して聖菜に別れを告げ、その場を立ち去る稀。
すれ違いざま、聖菜は小さな声で稀にお礼を言う。
「和花(のどか)、ありがとう」
和花は神宮寺稀の本名である。
稀は少しうつむいて恥ずかしそうに微笑を浮かべた。
「聖菜さんのお役に立てて嬉しいですわ。ではみなさん、私は水菜さんを一緒に連れて帰りますわ」
稀と水菜が大学校内から去って行くのを見送ると、零が聖菜に助けてくれたお礼を言う。
「聖菜さん、ありがとうございます」
「零も無事で良かった。今後は危険な事に首を突っ込まない事ね。私だって毎回助けてあげられるわけじゃないから」
「反省してる。すいません」
「私、一人っ子だからこれでも零と麻里奈を弟と妹のように思っているんだよ。本当に危険な事にはもう手を出さないでよ」
「聖菜さん。。すいませんでした」
そんな風に思っていてくれた聖菜の優しさに二人はあらためて感謝した。
「それにしても。。」
危険は回避出来たが、今回の一件はいくつか謎が残った。
水菜は誰に操られていたのか。
なぜこの大学を狙ったのか。
スレッドは誰が書き込んだのか。
聖菜はもしかして和花は何か知っているのかもと考えてはいたが、もしそうならいずれわかるだろうとこの場でどうこう考えるのはやめにした。
「水菜さん、教えて下さい。今回はどうしたのですか?」
「それが。。私にもわからないんです。ある人から恨み晴らしの依頼されたところまでは覚えているんですけど、そこからの記憶がなくて。。」
「水菜さんが呪術をかけられた?」
稀は驚きを隠せなかった。
新屋敷水菜の実力は稀も先輩呪術師として認めるところであったが、水菜に呪術をかけて精神を乗っ取って操れる程の相手とは何者なのだろうか。
「その人物は誰なのですか?」
「ハ。。」
そこまで言ったところで水菜は口から吐血した。
「水菜さん!」
「あ。。が。。」
吐血による咳と苦しそうに胸を抑える水菜。
稀は急いでヒーリングの術を施すが、かなり強力な術でなかなか回復が追いつかない。
「こうなったら私のフルパワーで。。」
「待って!」
突然の声に稀が振り向くと、三十代前半と思われるスーツ姿の女性が立っていた。
「私に任せてくれ」
女性はそう言うと呪文のようなものを唱える。
すると手から刀が現れた。
「これは伝説の聖剣といわれた霧氷剣(むひょうけん)。私の紫式部(むらさきしきぶ)や聖菜さんの神楽(かぐら)と同じ。。」
青く光る刀を見て稀はこの女性が只者でない事を知る。
女性が剣を水菜に向けて振り下ろすとサクッと何かが切れる音がして、水菜が気を失った。
「呪術を断ち切った。これでもう大丈夫」
気を失ってはいるものの、落ち着いた表情になった水菜を見て稀はひと安心した。
「ありがとうございます。それにしても霧氷剣を扱っているあなたは何者なのですか?」
女性は少し躊躇ったが、名前だけを稀に明かす。
「私は藤村雪乃(ふじむらゆきの)といいます。まだそれ以上の事は言えません。そう遠くないうちにあなたや刀祢聖菜と共に行動する事になるでしょう」
「では、今回の一件はハザマ真理教が。。」
稀の問いに雪乃と名乗った女性は首を縦に振る。
「来るべき時が来たようですわね」
「あなたも事情を知っている一人なのですね。新屋敷水菜に客を装って依頼をした相手はハザマ真理教の幹部だったと思われます。その時に呪術を掛けられてしまったのです。さらに口封じのために正気に戻った時に依頼者の名前を言おうとすると発動する術も仕掛けられていたのでしょう」
「水菜さんが聖菜さんの大学の生徒を呪いにかけたのもハザマ真理教の仕業ですのね」
「おそらくは。刀祢美里の娘がいる事は奴らも知っているでしょうから。そして、そいつはネットにスレッドを作って水菜に○×大学の生徒を無差別に呪わせた。目的はおそらく刀祢聖菜を見つけ出すため」
稀は胸のペンダントをギュッと握りしめる。
「結界に封印されている狭間法元(はざまほうげん)を甦らせるつもりですわね。。そして、聖菜さんは法元を封印した美里さんの娘。法元は復活したらまず手始めに聖菜さんを狙うつもりなのですわ」
自分を封印した巫女の娘がいるとなれば、まず一番の危険を取り除こうとするであろう。
稀はそう推測していた。
「神宮寺稀さんでしたね。あなたもお気をつけ下さい。あなたは新屋敷水菜より遥かに強い力をお持ちのようですが、それでもあの狭間法元とはまともにやりあえません。何かあったら連絡して下さい」
雪乃はそう言って連絡先を稀に伝える。
「わかりましたわ」
「十五年前に刀祢美里が命がけで封印した結界が破られようとしている。ハザマ真理教は教祖である法元を甦らせるために動き出した。おそらく今回、新屋敷水菜に呪術をかけた相手は法元の熱狂的信者であった草刈愛梨(くさかりあいり)。十五年前には十六歳だったから今は三十一歳になっているはず。あの女が教団を支配しているとなると厄介だな」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる