霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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ハザマ真理教編

ハザマ真理教編 六

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ハザマ学園教員である陽神美夕(ひのかみみゆ)は草刈愛梨について密かに調べていた。

草刈愛梨は幼少から身体が弱かった。
頻繁に入退院を繰り返していたため、小学校低学年期はほぼ出席していない。
ようやくまともに学校に通えるようになったのは小学四年辺りからでった。
だか、入退院を繰り返して集団行動に慣れていない愛梨にとって学校は苦痛でしかなかった。

世間の流行にも疎く、流行りのテレビ番組や音楽もほとんど知らず話題に乗れない彼女は友達を作る事もままならない状況で小学校を卒業した。
中学に入ってもそれは変わらず、クラスで孤立する日々であった。
そして、クラスメイトからは差別の対象とされた。

「気持ち悪い」

「近寄らないで」

「あっち行って」

などの暴言も吐かれたが、愛梨は相手にする事もなかった。

中学卒業を控えたある日、たまたま見かけたハザマ真理教の勧誘パンフレット。

「あなたも幸運を手に出来る」

そのフレーズが愛梨の目を引いた。
愛梨は興味本位もあってハザマ真理教の教会に行き、神父の説法を聞いた後で質問をしてみた。

「神父様、私は学校で周りの人達と合わず、友達も出来ずに気味悪いと言われていますが、そんな私でも幸せを手にする事が出来るのでしょうか?」

「周りの人間と合わないのは、あなたが孤高の存在で周りの程度が低いからなのです。そんな連中と縁を切って修行する事によって、あなたの持っている能力は姿を現します」

「私が孤高の存在?」

「人間と言うのは知識レベルによって階級が違ってきます。合わないのはあなたが周りの人達よりも高い知識レベルにあるから周りの人達がついて来れないのです」

愛梨はその言葉を聞いて、自分が孤高の存在だと思うようになっていった。

「私がここに入信して修行すればもっと高い能力を身につけられるんですか?」

「法元様はあらゆる人たちに手を差し伸べます。しかし、そこから先はあなた自身が自分で能力を高めて力を身につけていくしかないのです」

「私自身の力? 私にそんな力がありますか?」

「この教会に訪れたのはきっと法元様のお導きによるものでしょう。ならばあなたにはそれだけの力があるという証明になります。法元様の目指す幸せというのは誰もが幸せになれるという事ではありません。

幸せとは一部の選ばれた人間のみが掴めるものです。ではどうやったら掴めるのか。それはここでの修行で能力を高めいく事です」

狭間法元の唱える世界がとても素晴らしいもののように感じて来た。
普通の人が聞けば明らかに本題をはぐらかした胡散臭い内容であったが、宗教の勧誘に引っかかる人間とはこういうものなのかも知れない。

法元は毎週日曜日に自らの忠誠心を見るミサから宗教に発展させた後も日曜日にはミサを行い、地域の奉仕活動も積極的に行なった。
信者は当然無料でそれに駆り出されて働かされる。

地域住民には感謝されるし、法元は褒め称えられるといい事ずくめのように見えるが、実際にはこの奉仕活動に参加したものは法元への忠誠を認められてハザマ商会の課長以上の役職と真理教の重職に出世出来るという裏があった。

日曜日の駅前広場に露店をだし、綿菓子や焼きそばなどを振る舞う行事も街の人たちには好評であったが、その金はすべて信者からのお布施から成り立っていた。
そして売り上げは全て法元の懐に転がり込んで来るのだ。

愛梨は入信以来、毎週日曜日のミサはもちろんの事、この奉仕活動にも全て参加した。
お布施の金額こそ学生の身分で少なかったが、それでも月にアルバイトで稼いだ十万円は全てお布施として上納した。
それが法元への忠誠と認められて、愛梨は新規入信者としては異例の入信一ヶ月で法元との面談を許可される事となる。


「愛梨、お前は明日から南町に新しく作る教会の支部長だ」

「え? 教祖様、私はまだ入信して一ヶ月足らずです。いきなり支部長などと言われても無理です」

「お前のわしに対する忠誠心を評価しての事だ。心配するな、支部長は何もせずに命令を下していれば後は神父と信者が動いてくれる」

初めて自分を認めてくれた法元に愛梨は生涯この人についていこうと決めたのだ。



草刈愛梨についてひと通り調べ終えた美夕は顎に手を当てて考えていた。

「なるほど、変わった経歴の持ち主だな。それだけに法元の戯言に簡単に引っかかる性質でもあったのね。学園では普段から挨拶もろくに出来ないし、人を見下す傾向がある。身体が弱くて入退院を繰り返していると言う経歴とは関係なく、元々が世間知らずで偏屈した性格だったようね。敵として葬る事になっても同情の余地は無いわ」

眼鏡の奥の瞳がキラリと光る。
美夕は草刈愛梨は性格からしても法元一辺倒で敵に回る可能性が高いと判断した。

「生駒舞美はどうやら蓮香がかくまっているようね。しばらく蓮香に預けておいた方が安心かな」

美夕は蓮香が舞美をかくまっている事もすでに調べ上げていた。

「あとは宗像凛。どうやらハザマ真理教が怪しいと気がついたのね。傀の正体を知ってショックで気落ちしなければいいけど」

美夕は調べ上げた情報を一つ一つチェックしながら次の手を考えていた。

「ハザマ幼虫を全て燃やしてしまうのが一番手っ取り早いんだけど、研究所に入るのにはカードキーが必要。いや、あいつ(法元)の事だ。幼虫が全滅してもこれまでのデータはどこかに保管しているはず。そのデータを手に入れるのが先か」

⭐︎⭐︎⭐︎

生駒舞美に坂松の手が迫っていた。
厳密には蓮香と舞美が坂松たちを誘き寄せていたのだ。

「見つけたぞ、逃すな」

「追え! 何が何でも捕えろ」

男たちの怒号が飛ぶ中、人気のない森林の近くまで来たところで舞美は足を止めて振り向いた。

「ここまでのようだな」

勝ち誇ったような顔で見下ろす坂松を舞美は興味なさげに見返した。

「ハザマ幼虫。こいつらを倒そう」

舞美の意思に幼虫が呼応する。

「ハザマ幼虫じゃ何だか格好悪いわね。名前でもつけようかな。童子(どうこ)なんてどうかな」

ハザマ幼虫がその名前に反応したような気がした。

「よし、童子で決めた。童子、私たちでハザマ真理教を壊滅させよう」

舞美が神経を集中すると童子がそれに反応し、舞美の身体は傀へと変貌する。
髪が伸び、皮膚は甲羅のように硬くなり爪は鉄をも切り裂く鋭さとなった。
坂松の部下たちは一斉に拳銃を取り出し発砲するが、傀となった舞美の硬い皮膚には通じない。
弾を全て弾き返し、その鋭い爪を一閃させるお男たちの身体がぱっくりと切り裂かれていく。

一人の男が鉄の棍棒で頭を打ちつけるが、その程度の攻撃は舞美にとって蚊に刺されたほどにも感じない。
鋭く光る舞美の目にギロリと睨まれた男は恐怖で体が動かなくなったところを長く伸びた髪に首を巻かれて空中に高く放り投げられ、落ちて来たところを爪の一撃で身体を引き裂かれた。
坂松の部下たちはもはや戦意喪失し、残った者は全員悲鳴をあげて逃げて行った。

「おい、お前らなに逃げてやがる。任務を放棄したらどうなるかわかっているだろうな」

坂松がいくら怒鳴りつけても命あっての物種である。

「どいつもこいつも役立たずめが」

吐き捨てるように言う坂松の目の前に舞美が立っていた。

「何だ、怪物が」

舞美と童子は坂松の身体から出る気が残忍で利己的なものである事を感じ取っていた。
それは童子にとって憎悪を感じる嫌なものであった。
童子はこいつの命を消してやると思ったが、蓮香がそれを制した。

「待って舞美。こいつ生かして帰してやったらどうなるかな。法元が生かしておくとは思えない。私たちが手を下さすとも法元がやってくれるよ」

蓮香の言葉に舞美も賛同し、童子に念を送ると童子もそれに応じて舞美に従った。
傀の姿のまま舞美は坂松にデコピンを一発喰らわせると、坂松はその衝撃で三、四メートル後ろに飛ばされて気絶した。
戦いを終えて元の姿に戻った舞美は坂松を冷たい目で見下ろす。

「助けた訳じゃない。お前のようなクズは私たちが手を下すまでもない。狭間法元が始末してくれるだろうから任せただけ。舞美、行こう。宗像凛が来ないうちに。彼女とは戦いたくない」

「わかった」

蓮香と舞美は急ぎその場を立ち去った。
その様子を近くで見ていた美里も二人と合流した。

「考えたわね蓮香。あの低脳そうな手下の始末を親玉に任せるとは」

「法元は無能で従順な手下を側近に置きたがりますが、己の命令をこなせない役立たずには容赦がありません。おそらく坂松は始末されるでしょうね。私たちもあんなゲスを相手にしたくなかったので、ふと思いついたんです」

「蓮香って意外に意地が悪いところあるよね」

「え? どうしてですか? 私は可憐な乙女ですよ」

「自分で言うか。まあ、そう言うことにしておきましょう。それよりその宗像凛という子がまもなくここへ来るのね」

「ええ。彼女を味方に付けるのが次の目的になります」

「すんなりとついてくれるといいけどね」

「根は素直な優しい子だと聞いています。ハザマ真理教への忠誠心さえ解ければ味方になってくれると信じてます」

「こちらの思惑通りになってくれることを祈るのみってところね」

舞美も含めた三人は宗像凛との接触機会を伺う事とした。
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