霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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ハザマ真理教編

ハザマ真理教編 八

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その夜、美里がいつものように見回りを兼ねた散歩を那由多としていると、霊とは違う気配を察知した。

「那由、感じる? この霊とも怨念ともわからない妙な気配」

「感じるね。邪悪でもない。どちらかと言えば恐怖と悲しみの塊のような。こんなのは初めてだ」

「もしかしたら、これが蓮香や凛の言っていた傀なのかも知れないわ」

蓮香と凛からおおよその話を聞いていた美里はこれが傀なのだとすぐに判断出来た。

美里が那由多と気配を追って行くと、今まで見たこともない異形のものがそこに立っていた。

「これは?」

これまで美里が浄化してきた人間の怨念とは全く違う。
明らかに外的要因によって変化した人間の姿であった。

「この傀と呼ばれる怪物は霊体じゃない。人間を改造してパワーアップさせたのね。ハザマ真理教は何のためにこんな事を」

美里が驚くのも無理なはい。
目の前にいるのは髪が長く白目を剥いて鋭い爪を持つ怪物であった。

「那由、これは元の人間に戻す方法があるのかしら?」

「呪いをかけられているのならかけている術者を倒せばいいんだけど、この人間は妖獣にされちゃってるからもう無理だね。おそらく妖術系の種のようなものを埋め込まれたんだ」

「どのみち助けられないならせめて安らかな死を与えてあげるしかないわね」

美里は聖剣神楽を取り出し、念を込めると神楽が赤色に染まっていく。

「成仏せよ」

異形の怪物は奇声を発して襲いかかってくるが、美里は結界を張り怪物の攻撃を弾き返す。
次の瞬間、美里の剣が一閃される。
はずであったが、すんでのところで「待って!」の声がかかる。
声の主は蓮香であった。

美里は蓮香の声に気がつき、傀の攻撃をかわすと蓮香に向かって叫ぶ。

「美里さん、ここは舞美と私に任せてもらえませんか」

蓮香にそう言われて美里は一歩下がった。

「わかった。この怪物については私より蓮香の方が詳しいと思うから任せるわ」

「ありがとうございます。舞美、行こう」

蓮香の声に舞美がうなずき、二人は傀に向かって行く。
傀と戦うのは舞美で、強力な打撃を軽々と受け止めると腕を取り、足をひっかけて地面に転ばせるとそのままねじ伏せる。
傀には人間の関節技は効かない。
そもそも痛覚がないから骨が折れても動きを止めないのだ。
舞美はそれがわかっているので、地面に押し付けるように力で身動きを取れなくした。

「蓮香、今のうちに」

舞美が押さえつけている間に蓮香が気功で幼虫を傀から取り出すという作戦だ。

初めて見る捕物に美里も驚きの表情で見つめていた。

「よし、幼虫を取り出した」

右腕内肘の静脈から出て来たハザマ幼虫は長さ十五センチほどのミミズに似た形をしていた。

「これは?」

美里の問いに蓮香が「ハザマ幼虫」の存在を説明する。

「言葉が出てこないと言うか、胸糞悪いわね。こんな物を何のために使ってなぜ学園の院生で実験しているのか」

「まだ詳細はわかりませんが、人間を無敵の怪物に変えて戦争兵器として外国に売るためではという情報は聞いています。お金に目の無い法元ならあり得る話です。わたしたちはあいつの金のなる木なんです」

蓮香と舞美がぐっと拳を握りしめたのを見て美里も苦い表情を浮かべる。

「そうだ、宗像凛を呼んでみるわ。連絡先をお互いに交換したから呼べばすぐに来てくれるよ」

そう言って美里が凛に携帯で電話をかけるとすぐに行くと言う返事であった。


しばらくすると美里から連絡を受けた宗像凛も現場に到着して蓮香から説明を受けたが、凛は真実を知って驚きよりもショックの方が大きかった。

「ハザマ幼虫。そんなものを教団が。。」

予想通り教団が傀に絡んでいた事はわかったが、真実は予想を大きく上回るもので凛は頭を抱える。

「じゃあ私は今まで殺人をさせられていたのか。なんて事を。。私と年の変わらない子たちを怪物だと信じきって暗殺していたなんて。だから浄化したあと教会の人間が検分に来ていたのか」

教団は実験台となった院生に幼虫を植え付けて傀にしたあと、その成果や力を見るために教団施設近隣に傀を解き放ち、ある程度データが取れたところで凛に始末させていたのだ。
そんな凛の肩を叩く美里。

「ショックは大きいだろうけど、あなたも利用されていたと考えると教団の被害者なのね」

美里の言葉に蓮香もうなずく。

「ええ。凛も教団に利用された一人。ここにいる舞美も被害者。私はこれ以上被害者が出ないように食い止めるために微力ながら自分のできる事をやっているんです」

「私にも協力させてくれ」

凛の言葉に蓮香が驚く。

「これまで自分がしてしまった事のせめてもの償いのために」

凛がそう言うと舞美もそれに続く。

「私は自分に埋め込まれたこの幼虫の力で教団と狭間法元を倒す。二度とこんな悲劇が起こらないためにも」

「ここにいる人間だけでどれだけの事が出来るかはわからないけど、何もしないよりは私たちが動く事で波紋が出来るでしょう。あとはその波紋が大きな波となって広がるか、小石ひとつ分の波紋で収まってしまうかはやってみなければわからないってところね」

美里の言葉にその場にいた全員が同意した。
謎の宗教団体、しかも人間を怪物に変える寄生虫などと警察に言ったところで本気にすまいし、証拠が無ければ動けない。
美里は仮に龍二に言ったところでやはり動けないだろうと考えていた。

「ま、そもそも私が行くところに龍二の出番はないんだけどね」

美里がふっと笑みを浮かべたが、誰にも気づかれる事はなかった。
こうして美里、凛、蓮香、舞美の四人はハザマ真理教と戦う決意をした。

⭐︎⭐︎⭐︎

南町に美里と蓮香たち四人が集結した事により、傀にされた人たちは元の姿に戻り教団による人体実験が明るみに出ることとなった。
狭間法元は押し寄せる報道陣に対して一切の無視を決め込み、教団を取り囲む報道陣の数は日増しに増えていった。

「まさかこんな事になるとはな。一人逃したところからまるで水風船が破裂したように流れでおったか」

法元は生駒舞美を逃した事を悔やんだが、今となってはどうにもならない事であった。
中昭夫に命じた生駒舞美の捕獲も進まないどころか、宗像凛も裏切ったという報告も入って来た。
何より実験に使った傀から幼虫が取り出されるという予想外の事態にまでなっている。

その立役者となった蓮香という女子が学園の生徒だと知り、生駒舞美とともに捕えるように昭夫に命じるものの、昭夫は坂松と同じで口先だけではもう少しで生駒舞美たちを捕らえて見せますといいながら部下に丸投げし、ズルズル何も出来ないまま月日だけが過ぎていくという有様であった。

そうしている間に蓮香と凛、美里まで仲間に加わり、対抗勢力と呼べる図式が出来上がってしまったのだ。
法元の怒りの矛先は昭夫に向けられた。

「教祖様、生駒舞美たちはおそらくこの教団に乗り込んでくるでしょう。そこを幼虫を使って傀を何体も作り、まとめて始末するのです。これならば確実に全員仕留められるでしょう」

その傀となる人間をどこから何人連れてくるのか、学園からか信者なのか。
仮に舞美たちを始末出来たとして、それだけの傀の後始末をどうするのか。
生駒舞美一人捕らえられない人間が何十体もの傀を何とか出来ると思っているのか。
具体案がまるで出てこない昭夫に法元は吐き捨てるように言う。

「出来もしない事をさも成功するかのように風聴するのがお前の特技であったのう。最後まで役に立たないクズめが」

「教祖様?」

「命令された事を忠実に従う能力を有する者がいかに貴重な存在かお前を見ていてよくわかった。命令された事を実行出来ないばかりか命令が何なのかすら理解出来ずに下に放り投げるだけの無能者が」

「教祖様、そのような事をおっしゃらないで下さい。部下の無能は上司たる私の責任ではございますが、私も懸命にやっているのでございます」

この後に及んで昭夫はまだ部下に責任を押し付けていた。
だが、法元は口先だけの威勢の良さを買っていた昭夫を切り捨てた。
人を噛み殺すだけの狂犬であったが、キャンキャン吠えているだけで、命じた人間を噛みにすら行けなくなった子犬など不要というわけである。

「庭の池で飼っているピラニアたちが腹を空かせておる。丁度いい餌が出来たのう」

法元はそう言って目配せすると、二人のボディーガードが左右から昭夫の両手を掴んで池の前まで引きずっていく。

「教祖様、お、お助け下さい」

必死で抵抗して命乞いをする昭夫であったが、法元は侮蔑の眼差しを向けた。

「お前のような役立たずを餌として使ってやるだけでも光栄であろう」

昭夫はそのまま池に投げ込まれた。
必死で泳いで池から出ようとすると、ボディーガードの一人が拳銃で昭夫の肩を撃ち抜いた。
池に血が流れ出た僅か数秒後にピラニアが一斉に襲いかかり、目にも止まらぬ速さで昭夫の体を食いちぎっていく。
しばらくすると、骨だけになった遺体が池に沈んでいった。


「この上は実験を早めに集結させる事を最優先させろ。四十、五十代の実験はどうなっておる」

「はい、五十代の男性信者に幼虫を埋め込みましたところ、肉体を二十歳近くまで若返らせる事に成功しました。幼虫の力は確実にアップしております」

「そうか。ついに若返りに成功したか」

法元はしてやったりの笑いを浮かべる。

「幼虫のノウハウは保管しておろうな?」

「無論でございます。このUSBの中にデータが入っています。万一紛失した時の場合に備えてコピーデータも取っております」

「よかろう。時期尚早ではあるが、実験の最終段階に取り掛かる。警察なんぞに邪魔されてなるものか」
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