霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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ハザマ真理教編

ハザマ真理教編 九

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法元が指示したのは、数千匹のハザマ幼虫を同じ部屋の中に入れて互いに共食いをさせて、最後に残った一匹が一番強い能力を持つものという毒蟲であった。

こうして、数千匹の幼虫は互いに殺し合い、食い合っていった。
翌日の朝、一匹だけ残った幼虫を見て法元は含み笑いを浮かべる。

「どうやらわしが埋め込む最強の幼虫が出来たようだな」

法元はこの最強の幼虫を閻王(えんおう)と名付けた。
閻王とは中国の閻魔大王のようなものである。


「ハザマ幼虫、閻王よ。このわしに永遠の若さと力を与えよ」

狭間法元はついに自らの身体に最強のハザマ幼虫を埋め込んだ。
自分と同化して永遠の若さと何者をも超える力を手に入れるために。

「があああ。。」

幼虫閻王を埋め込まれた法元はみるみる身体に力がみなぎって来るのを感じていた。
ハザマ幼虫は生駒舞美で立証されたように、精神力の強い人間には服従する性質を持っている。

法元の精神力というより金と権力、若さを求める病的なまでの神経の図太さは幼虫を服従させるに充分であった。

七十歳の身体と姿はみるみる若返り、法元は二十歳の若さと力を手に入れた。
これまでの年老いた身体で感じる事がなかった力がみなぎる感覚。
鏡で若返った自分の姿を確認すると信者に準備させていた物を確認する。

「例のものは用意出来てるか?」

「はい、こちらに」

法元は信者の案内で教団の中庭に行くと、そこにはスペインで使用されている闘牛が用意されていた。
しかも体重七百キロもの大型の闘牛に興奮剤を注射して凶暴化させていた。

「日本を代表する空手家だった大山倍達(おおやまますたつ)は素手で牛を倒したそうだがな、俺にも同じ事が出来る。いや、俺は人間を超えた最強の生物となった事を見せてやる」

法元が牛の前に立つと、興奮した牛は一気に角を突き出し法元に突進してくる。
法元は牛の突進を片手で受け止めると、首に腕を回してそのまま体重七百キロはあろうかという牛を軽々と持ち上げた。
そのまま落とす事も出来たが、あえていったん地面に立たせるようにゆっくりとおろす。

「この肉体の強さを存分に味わおうぞ」

再び法元に突進して来た牛の眉間に拳打を打ち付けると、血飛沫が舞い牛が悲鳴のような声を上げる。
次の瞬間、右の回し蹴りが牛の鼻っ柱に当たると、牛はそのまま数十メートル後ろに吹っ飛ばされ、顔の骨と首の骨が砕けて倒れ、そのまま起き上がる事なく絶命した。

「はっははは。いいぞ。この不死身の肉体は素晴らしい」

法元は高らかに笑い信者たちに命じる。

「生駒舞美たちを始末する。草刈愛梨を呼べ」

⭐︎⭐︎⭐︎

「教祖様」

法元に呼ばれた愛梨が平伏する。

「どうぞ私が必要であればどのような事でもおっしゃって下さい。教祖様のお力になる事こそが私の生き甲斐でございます」

そう忠誠を誓う愛梨に法元は目を細めた。

「愛梨よ、お前の忠誠心を認めてハザマ幼虫を埋め込んで不死の肉体を与えてやろう」

「教祖様のご慈愛に感謝致します」

法元は自らの手で美里や舞美たちを葬っても良かったが、相手は傀を倒す能力を有する者たち。
万が一の危険を考えて、先に別の人間を当ててみて実力を測る事を考え、その役目を愛梨に任せたのだ。
愛梨の法元に対する忠誠心は絶対で、幼虫を埋め込んで力を手に入れても自分に逆らわないという確証もあっての事だ。

最も逆らったとしても最強のハザマ幼虫「閻王」を埋め込んだ法元には勝てないであろうが。

「教祖様、無敵の力を手に入れた暁には必ずや教祖様に逆らう愚か者たちをこの手で葬ってご覧に入れましょう」

愛梨はそう言って手術台に上がると、ハザマ幼虫を右腕から注入された。
ハザマ幼虫を埋め込まれた愛梨は狂ったように叫び声を上げた。
だが、しばらくするとその声もやみ、今度は笑い声へと変わる。

「ふふふ。あっははは。教祖様、私も不死の肉体を手に入れたのですね。素敵です」
愛梨もまた幼虫を支配できる神経の太さを持っていた。

「愛梨、手始めにお前の力を試してみろ。その後で蓮香と生駒舞美を始末しろ。今のお前なら互角にやりあえるであろう」

「全ては教祖様の思召しのままに」

生駒舞美は強靭な精神力で幼虫を味方に付けたが、愛梨は法元への狂信的な信心で幼虫を手懐けたのだ。

「教祖様に逆らう者には死を」



愛梨の壮絶な復讐劇が始まった
無敵の力を手に入れた愛梨はこれまでよりもさらに尊大な態度で信者を扱った。
そして小学、中学時代に自分を虐げて来た連中をリストアップし、教団の信者を使って拿捕して全員教団内の牢に閉じ込めた。
その人数は四十人にも登った

「人を奇人変人扱いし、さらには差別の対象として近寄るなだの気色悪いだの言ってくれたお礼はたっぷりと返してやるよ。いい事を思いついたんだ。きっとお前たちも楽しめるよ」

愛梨はそう言って狂気の笑みを浮かべる。

「おい、例のものは準備出来てるだろうな?」

「はい。こちらに」

愛梨に問われた信者の手の示す方向には砂浜が敷き詰められ、四方を高さ三メートルはあろうかという鉄の壁に囲まれたプールの半分ほどの広さの囲いであった。
その砂浜には十ヶ所の穴が掘られてあり、愛梨が命じると牢から出された十人の男女が鎖で繋がれて塀の中に入ってきた。

ハザマ幼虫により不死身の肉体とパワーを手にした愛梨であったが、傀にならなくとも常人の倍以上の力を出す事が出来た。
愛梨は無造作に男の元クラスメイトの首を掴むと穴の中に落とし込み、顔だけ出すように信者に命じて埋めさせた。

同様に残る九人の男女も顔だけ出した状態で穴に落とし込まれた。
抵抗した男子もいたが、怪物化した愛梨の前では無力で、腕や足をへし折られて抵抗する力を無くしたところで穴に放り込まれた。
この日、この囲いに連れてこられたのは男子四人、女子六人であった。

「さて、スイカ割りゲームでもしましょうかね。おい、お前たちは声がけと手拍子をしろ。私が外さないようにちゃんと伝えろよ」

信者にそう言い終えると愛梨は目隠しをしてバールを手にする。
長さ二メートル。重量六キロほどある解体用バールをまるで小枝のように軽々扱う愛梨。

「見事に十個すべて割れたら拍手喝采よろしく」

愛梨は信者の掛け声と埋められた男女の悲鳴声を頼りに前に歩き出し、思いっきりバールを振り下ろす。
人間の頭にバールが当たり、鈍い音と共に文字通りスイカのように頭が割れて脳が飛び散る。

「当たりかな。さあ、次に行くよ」

「た、助けて!」

「悪かった、許してくれ」

あちこちから悲鳴と助けを求める声が聞こえてきたが、愛梨は聞く耳を持たなかった。
一人、また一人と頭をバールで叩かれ、頭蓋骨が割れる音と絶叫が響き渡る。
最後の一人を打ち終えて、目隠しを取った時には辺り一面に血と飛び散った脳の残骸でどす黒くなり、血の匂いが立ち込めていた。

「教祖様の御許(おんもと)で死ねるという栄誉を与えられた事を喜ぶがいい」

地位の上がった者が急に態度が激変するのは権力を手にしたからではない。
元々そういう性格であったものが権力を手にした事によって表面に出てきたのだ。
草刈愛梨も本来が人を見下し、己が選ばれた人間だと考えている人物であった。
集団行動に馴染めないのも自分が他の生徒たちよりも優れすぎていて話が通じないと考えていた。
そういった性格が狭間法元に出会った事で増長していったのだ。

こうして四十人全員を「スイカ割り」にした愛梨は美里たちの始末に動き出した。

「さあ、教祖様に逆らう愚か者どもを退治に行くよ」

この様子をこの場にいた信者から聞き出した美夕はため息をついた。

「元来残虐性のある性格の人間に権力や暴力といった力を与えるとこういう事になるというわけか。最初に思った通り、草刈愛梨は敵にこそなれ味方につくような人物ではなかったようね」
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