霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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ハザマ真理教編

ハザマ真理教編 十

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愛梨がハザマ幼虫を埋め込まれたのと同時期、ハザマ学園から陽神美夕が突然姿を消した。

「陽神先生が昨日からいなくなったそうよ」

生徒たちの話を聞いて蓮香はまさか先生まで実験台に? と内心心配であった。

「陽神先生はどこに? この学園で唯一味方につけられそうな人だったのに。無事でいてくれればいいんだけど」


ハザマ学園の生徒は孤児で帰る場所がないため、全寮制である。
蓮香は六畳の部屋にクラスメイトの生徒と二人で生活している。
ハザマ学園は基本、授業が終われば門限の夜九時までは外出は自由であった。
蓮香は寮生活をしながら外出し、刀根神社に出向いていた。

刀根神社に寝泊りなどしていたら怪しまれるのは必然だからである。
トイレとお風呂は共用でトイレは四階建ての建物の各階にあり、共同浴場は一階にあった。
一階には食堂もあり、朝と夜にはここで食事が取れるが施設と食事の代金は就業したさいのツケとして出世払いとなっている。

タダ飯を食わせるほど法元はお人好しではない。
むしり取るれるだけ金をむしり取るのがあの老人のやり方である。

夜中に窓ガラスにコンっと石が投げられて、その音に気がついて蓮香は目を覚ます。
隣に寝ているクラスメイトは気が付かずにぐっすりと寝ている。
蓮香が窓の外から下を見ると陽神美夕が立っていた。

「先生?」

蓮香は部屋を出て下に降りるとこっちこっちと手招きする美夕。
寮のすぐ近くに止められたライトバンに乗った。

「ここなら誰に見られないし会話も聞かれない。こんな夜中にごめんね」

「陽神先生、無事だったんですね」

「無事? ああ、私が突然姿を消したからだよね。ごめんなさい。今日ここに来たのはあなたには言っておいた方が良いと思ってね。私はこの学園の内部調査をしている者だって」

「え? 先生は何者なんですか?」

蓮香の問いに美夕は眼鏡を外して後ろに結いていた髪を解いた。
セミロングの髪がふわりと舞い、これまでの目立たないイメージから一転して精悍な顔つきの女性となった。
美夕は持っていた剣を蓮香に見せる。

「これは? 凛や美里さんが持っている物と同じ聖剣」

青く光るその剣は霧氷剣と言った

「私の本名は藤村雪乃。ハザマ真理教と教祖である法元を調べるために忍び込んだ藤村一族の後継者」

「では美里さんや凛と同じく幽体や傀を倒す事を宿命付けられた。。」

「そうね。宿命付けられたと言えば聞こえがいいけど、世襲制だから訳もわからず跡継ぎにされたと言った方が良いのかしら。物心ついた時から厳しく鍛えられていた。

私には歳の離れた妹がいるんだけど、何もなく普通に過ごせる妹が羨ましいと思った事もあったな。でも私がやらなかったら妹がやらされる事になる。だから私は妹の防波堤となるために後継者となっただけよ」

雪乃は少し寂しそうな表情でそう言った。

「その藤村家がどうして狭間法元を?」

「あいつは亡霊に取り憑かれている。金の亡者という亡霊にね。それに取り憑かれると金、金と見境なく金を欲しがり、金こそが全てと思うようになっていく。元々が強欲な人間ほど取り憑かれて易い。

私は法元に取り憑いた金の亡者を始末するためにハザマ真理教に潜入したけど、金以外を信用しない法元に近づくのは容易ではなく、信頼を得て側近になるまでに一年かかってしまった。

ようやくハザマ真理教の幹部として自由に動けるようになったけど、時間がかかり過ぎたために法元が幼虫を自分の身体に植え付けるという最悪の展開になったわ。

あいつは金の力で若さを取り戻す事を目的としていた。ついに目的が達成されたというわけね。しかもこれまでとは比較にならない強力な傀となってあなたたちを始末しに来るわ。だから私も正体を明かして一緒に戦う」

「先生」

「雪乃でいいよ。私はこう見えても十八歳。あなたと一つしか違わないんだから」

蓮香は雪乃の歳を聞いて驚いた。
キリッとした表情に大人の雰囲気が漂う彼女をてっきり二十三、四歳くらいだと思っていたからだ。

「雪乃さんって私と一つしか違わなかったんですか! 大人っぽくてひとまわりくらい年上かと思ってました」

「それは失礼でしょ。私そんなに歳取ってないよ」

「二十四歳だって全然若いですよ」

蓮香と雪乃は互いに見合わせてくすっと笑う。

「法元は草刈愛梨にも幼虫を注射して傀に仕立て上げた。まずは先鋒として愛梨を私たちにぶつけるつもりよ。いよいよ本格的に法元との戦いが始まる。私はハザマ真理教の研究施設に乗り込んで幼虫とそのデータを破壊してくる。あなたは舞美や凛たちと草刈愛梨を抑えて欲しい」

「わかりました。雪乃さん一人で大丈夫なんですか?」

「私はこれでも法元の側近だからね。真理教の施設ならほぼ顔パスが効く。法元からの極秘任務だと言えばどの施設にでも怪しまれずに入れるわ」

「凄いですね」

蓮香がそう言うと雪乃は不思議そうな表情を浮かべた。

「何も凄い事なんてない。蓮香だってこの一年、法元に怪しまれずに傀にされた生徒たちから幼虫を取り出して救っていたでしょ。むしろ蓮香の方が凄いよ」

それを聞いた蓮香はこんな近くに仲間がいたんだと胸が熱くなった。

「草刈愛梨は明日にも攻撃を仕掛けてくる。あの狂信者が傀になったのだから今までの傀とは比較にならない力を持っている可能性が高い。気をつけて」

「わかりました。雪乃さんも気をつけて」

蓮香と雪乃は互いの無事と健闘を祈った。

⭐︎⭐︎⭐︎

その日の夜はやけに生温かい風が吹いていた。
まだ夏はおろか梅雨にも入っていない時期だが、まるで熱帯夜のようだ。
こんな日には大抵嫌なことが起きる。
美里はこれまでの経験からそう予想していた。
この夜は美里と共に舞美も一緒に見回りに出ていた。

蓮香と凛は留守番だが、何かあればすぐに出られるよう準備は整えている。
蓮香はアドベンチャーゲームで言うところの回復系魔法の使い手で戦闘は出来ない。
草刈が今夜あたり来る可能性が高いという事で、蓮香を一人残すのも危険だし、全員で出向くよりも二手に分かれた方がいいとこの夜は美里と舞美が見回りとなったのだ。

美里と舞美もひと回り年が違う。
はた目から見れば年の離れた姉妹といったかんじであった。
それを言ったら蓮香と凛もそうなのだが。

「何だがにぎやかになったわね。一気に年の離れた妹が三人出来たみたい」

「私もそう思います。美里さんと蓮香はお姉ちゃんで凛は妹。私は真ん中で一番気楽な位置かも」

凛には兄がいたが、蓮香、舞美は孤児で美里は一人っ子。
兄弟姉妹のいない三人は気も合ったし、何より全員同じ宿命の元に生まれたという事が結束をより強めた。
そんな他愛のない会話をしながら歩いていたが、突然美里が立ち止まり険しい表情に変わったのを見て、舞美も異変に気がつく。

「美里さん。。」

「気をつけて。この先に何かいる」

美里は自分たちに向けられている憎悪の塊のような殺気を感じ取っていた。

「怨念と殺気が入り混じるような、何とも言えない嫌な感じね」

「傀でしょうか?」

「おそらくね。でもこの前の傀とは比べものにならない気を感じる。かなりの強敵だと思うわ」

美里の言葉に舞美も気を引き締める。
おそらく蓮香の言っていた草刈愛梨。
美里はこれまでとは比にならない伝わってくる殺気の強さからそう確信していた。

「私たちを始末しに来たんでしょ。隠れていないで出て来たらどうなの」

美里の言葉に暗闇から姿を現したのは高校生くらいの女であった。

「私と同じ高校生?」

舞美が驚くが、美里は警戒を強める。

「見た目はね。中身はとんでもない化け物のようだけど」

「教祖様に逆らう者には死を」

「あなたは?」

「教祖様の一番弟子、草刈愛梨。お前たちはハザマ真理教に盾突く敵。この私が出向いたからには確実な死があるのみ」

草刈愛梨の名前を聞いて舞美が美里に耳打ちする。

「こいつは学園でも有名な法元信者で常識知らずで知られている人物です」

それを聞いて美里が含み笑いを浮かべる。

「たかだか十五、六歳の高校生が一番弟子なんて、法元はよほど弟子に困っているのね」

「なんだと?」

「ハザマ真理教には一万人の信者がいると聞いたけど、あなた程度が一番弟子なら他の信者もたかが知れているわね。法元の程度の低さがうかがえるわ」

「貴様、許せん。教祖様に土下座して詫びを入れさせてやる」

愛梨は怒りをあらわにして美里に襲い掛かるが、舞美が美里の前に出て愛梨の腕を取る。

「ここは私が戦う」

「舞美、気をつけて」

「何だお前は?」

「あなたと同じ幼虫を埋め込まれたと言えばわかるんじゃない」

「教祖様が探していた生駒舞美か? これはいい。お前を捕らえれば教祖様への忠誠心をさらに認めてもらえる」

「狂信者に私が捕らえられるかしら」

「黙れええええ。この無礼者があああ。お前の目ん玉ほじくりだして頭の皮ひん剥いて身体を細切れに切り刻んで教祖様のピラニアの餌にしてやるわ」

「下品な事この上ない。もっともあなたに上品なんて言っても何の事か理解出来ないでしょうけど。断っておくけど江戸時代の吉原遊郭の遊女選別じゃないわよ」

「何をわけわからないこと言ってやがる」

「ごめんね、ギャグのつもりだったけど、難しくて通じなかったみたいね」

知能戦というより常識に欠ける愛梨を美里と舞美で冷かしている構図となった。
美里はこれまでの霊体との戦いの経験から、力は強いが頭が弱い相手と、力はそれほどでもないが頭脳明晰な相手では後者の方がやりにくいと考えている。

愛梨は前者のタイプ。
確かに殺気は凄まじいし、攻撃も威力がある。
だが、単調だし隙も多い。
一撃さえ喰らわないように注意していればそれほど恐ろしい相手ではないと美里は思った。
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