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大奥暗殺帳編
大奥暗殺帳 最終話
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「これは天英院様、今日はどのようなご用件で?」
稲生下野守は突然来訪した天英院に内心驚きながらも平静を装う。
「他でもない、江島の一件じゃ」
「はて?江島であれば永流罪に決まっておりますが」
「ほう、僅か一ヶ月で永遠流が決まったとな。本当に江島が生島新五郎を繋がっていたという証拠でもあるのか?」
「生島新五郎が自白致しました。これが何よりよ証拠でごさいましょう」
「拷問による自白にどの程度の確実性があるかのう?稲生殿、ここは妾の顔を立てて、江島にもう一つ軽減をしてはもらえぬか?」
「そ、それは。。」
「別に江島を軽減してもお主に何も喪失はあるまい。それとも何か出来ぬ理由でもござるのかのう?」
天英院に睨まれて稲生次郎左衛門は思わず視線を逸らした。
「いえ、天英院殿がそうおっしゃるのであれば、私からその旨通達し、軽減致しましょう」
「さすがは稲生殿、話しが早い。ではその件はお頼み申したぞ」
天英院が立ち去ると稲生は冷や汗をかいていた。
稲生は月光院の嘆願は一切聞かずに無視を決め込んでいたが、天英院は流石に無視する訳にはいかなかったのである。
「よもや発覚したわけではあるまいな。。早めに口封じしておいた方が良さそうだ」
「稲生殿、心配されずともお静はすべての役目を終えたら毒を飲んで自害する手筈となっております。途中で気が変わり毒を飲まなかった時にはここにいる養源斎が始末する事になっていますからな」
「それならば良いが。宮守、お前に上手く乗せられて危うい橋を渡ったのだ。万一の事あらばどうなるかわかっておろうな?」
「もちろんでございますとも」
そう言いながら宮守志信は不気味な笑みを浮かべる。
〔万に一つの落ち度もあるものか。この御仁も気の小さいお人よ。いや、人間というものは立場が上がればその地位を守るために慎重になるもの。私もいずれ大奥を支配する立場になれば慎重に行動せねばならぬであろうからな〕
永遠流の判決から七日後、決定した江島の配流先は信州高遠であった。
月光院は裏で何とか動けるだけ動いて尾張家と繋がりの深い内藤清枚の藩に江島の身を託した。
そこまでが月光院が江島にしてやれる精一杯であった。
「天英院様」
「錦小路、何かわかったのか?」
「はい、またも由々しき事態にございます。杏葉牡丹の印籠を所持していたお静という女中が服毒し、自害致しました」
「なんじゃと?」
「おそらくは黒幕を足を掴ませないために、予め自害するよう命じられていたと推測致します」
「ぬぬう。死人に口なしという訳か。この事件、思うてたより闇が深いようじゃのう」
結局この事件は闇から闇へと葬られるように片付けられてしまった。
本来なら二年はかかるであろう取り調べを僅か一ヶ月で終わらせて。
⭐︎⭐︎⭐︎
「江島に会わせてもらえぬか」
「たとえ月光院様と言えどもそれはなりませぬ」
「少しでいい。これはほんのお礼です」
月光院はそう言って牢番に小判を握らせた。
「ご老中の監視の目が光っておりますゆえ、あまりお時間は取れません。なるべくお早めにお済ませお下さい」
「感謝する」
牢に入った月光院は江島がさぞ自分を恨んでいようと罵られるのを覚悟したが、江島は月光院の姿を見るなり平伏して謝罪した。
「月光院様、私の注意が足りませんでした。ご迷惑をおかけして申し訳ごさいません」
「私も手を尽くしたが罪一等軽減が目一杯でだった。。すまぬ。。この先も出来る限り軽減をするよう働きかける。しばらく辛抱してくれ」
「いえ、私はもう外の世界へ出られる事はないでしょう。覚悟はできております。私が犠牲になる事で上様(七代将軍家継)や月光院様がご無事でいられるのなら、私はどんな罪でも甘んじて受け入れましょう」
江島は自分が冤罪なのも、これが全て仕組まれた罠なのもわかった上で月光院を守るために自ら犠牲を買ってでたのだ。
「昔、私が江島に言った言葉は今でも鮮明に覚えていますよ。江島がいるから安心していられる。これからもよろしく頼みますよ。と。。」
「そのお約束を果たす事が出来なくなり、申し訳ございません。。私は月光院様にお仕え出来て幸せでした。どうかご創建で」
これが二人にとって今生の別れであった。
こうして江島は信州高遠に流されていった。
白無垢の小袖一枚で駕籠に乗せられ、誰一人とも別れの挨拶すら交わす事を許されなかった。
月光院は「江島、すまぬ」と手を合わせて祈った。
⭐︎⭐︎⭐︎
「これで月光院の勢力も削がれるという訳か」
稲生次郎左衛門は薄笑いを浮かべて宮守志信を見るが素知らぬ顔である。
「表や歌舞伎に手を回して江島を冤罪で流罪にするなど考えたものだのう。だが、お取潰しとなった山村座と生島という役者、少し気の毒ではあるがな」
「稲生様、この大奥の秩序を守るためには多少の犠牲は目を瞑らなくてはなりません。生島にはそのための捨て駒になってもらいました」
「大奥の秩序か。たしかに江島はやたらと正義風をふかして倹約を迫ってきた。だが幕府の財政が底をついていたのは家宣様の時からも周知の事だ。徳川あっての大奥。徳川幕府が破綻してしまったら元も子もない事くらいわしとてわかっておるわ」
〔徳川が破綻してくれれば私としては万々歳よ。だが、せっかく入った大奥。ここで江島に変わり私が権力を主中に収めるのも面白い〕
宮守志信はそう心の中で思ったが、当然口出す事はなかった。
「ともあれ、月光院にとって江島は矛でもあり盾でもありました。江島を失った事により月光院は勢力も権威も失われました。もはやあの女に大奥を取り仕切る力はありますまい」
「お主は恐ろしい女よのう」
「褒め言葉と受け取っておきましょう。そういう稲生殿もこの一件のご活躍により出世が確実。弟君のお恨みを晴らせて出世のおまけまでついてきたではござりませんか」
「その点に関しては否定はせぬがの。すべてはあの女の身から出たサビよ。わしはそのサビを取り除いたに過ぎぬ」
〔お前も徳川にこびりついたサビだろう。切れ者と言われても己の事には鈍感らしいな〕
稲生次郎左衛門はこの江島事件を解決した功績で出世した。
「唯一残る月光院の生んだ家継は病弱。あれでは十歳まで生きられまい。家康からの徳川本家の血筋が絶えるとは愉快じゃ」
宮守志信は声を高らかにして笑った。
⭐︎⭐︎⭐︎
「全ては私の僅かな油断から生じてしまった事。それについて私は一切の言い訳はするつもりはありません。ですが、月光院様は宮守志信の逆恨みとは何の関係もありません。
天英院様はおそらく孝子様の遠縁でありながら徳川に嫁いだのが気に食わないのでしょう。月光院様は秘密を握る者がいては大奥で権力を持つ上で邪魔なのです。宮守志信は月光院様がいる限り大奥で枕を高くして眠れないでしょうから。
これは私の責任でもあります。私が月光院様に事の次第を報告したまま事件に巻き込まれて後の対応が出来なかった。それが今頃になってこんな事件に発展してしまって悔やまれます。。」
「月光院様はご存じなのですか?」
「はい。私は月光院様付きの御年寄でしたからこのような事を知った以上、報告する義務があります」
「宮守志信が月光院様を執拗に狙うのはそのような背景があったのですね」
「宮守が私のいなくなった後、この十年動きを見せなかったのは御年寄への昇進を待っていたからだと思われます。彼奴は本当は私を処刑にしたかった。でも月光院様に天英院様まで加わり嘆願して下さりこの高遠への流罪に減罪された。
それで己の野望を果たすためには御年寄の地位と権力がなけれは駄目だと考えたのでしょう。そして時が来るのを待ち、今それを実行すべく動き出したのです。三日月党は秋津家に仕えていた集団。
秋津弾正は城主小笠原一徳に謀反を企んでいたと噂されていた人物でした。三日月党を雇ったのもそのためでしょう。
しかし因果応報と言うべきか、実行に移す前に弾正は病にかかりこの世を去り、秋津家は長男、兼好が引き継ぎます。
兼好には謀反の気持ちはなく、三日月党は解雇されるところを宮守志信が徳川家への復讐のために受け継いで雇い主となったのです」
「三日月党はどれくらい大奥に忍び込んでいるのかおわかりですか?」
「そこまではわかりませんでした。ただ、おそらくですが党首と思われる人物は潜伏して宮守についていると思います」
「大奥には伊賀者がいるはず。伊賀者は何をしているのでしょう。。」
「伊賀者など今となっては大奥の番犬に過ぎません。おおかた宮守に金を渡されて見て見ぬふりをしているのでしょう。彼奴らも忍者。金で雇われれば雇い主の命令に従うでしょうから。
宮守と三日月党に尾を振った犬など物の役に立ちません。吉宗公が紀州からあなたたち御庭番を連れて来た理由がよくわかりましょう」
江島の言葉に左近は時代に取り残された忍びの悲しい一面を複雑な思いで聞いていた。
「左近殿、私はここから動く事は出来ません。十年前に高遠に出立する前に間部詮房殿に月光院様を頼みますと依頼しましたが、その間部殿も幕府を追われてお亡くなりになりました。
このような事をお頼みするのは筋違いとは百も承知でお願い致します。時を経て動き出した宮守志信の野望を阻止し、どうか月光院様をお守り下さい」
江島はそう言って左近に深々と平伏した。
「江島様、お顔をお上げ下さい。だからこそ上様は月光院様たちを救うために私をここに遣わされたのです。私たち御庭番は必ず月光院様も大奥も守ってみせます」
左近がそう言うと江島は少しお待ち下さいと女中に何やら耳打ちすると、女中が紫色の鮮やかな風呂敷に包まれた品物を持ってきた
「左近殿、これを月光院様にお渡し下さい」
そう言って風呂敷を広げて見せたのは木彫りの仏像であった。
おそらくはこの屋敷で十年前の事件で自分のために処刑となってしまった数多くの人たちを思いこれを彫っていたのであろう。
左近はそれを両手で恭しく受け取る。
「わかりました。必ずお渡し致します」
二人は手を取り微笑みあった。
それは「頼みますぞ」「承りました」という意思伝達であった。
左近は江島に別れを告げると江戸へと急ぎ向かう。
稲生下野守は突然来訪した天英院に内心驚きながらも平静を装う。
「他でもない、江島の一件じゃ」
「はて?江島であれば永流罪に決まっておりますが」
「ほう、僅か一ヶ月で永遠流が決まったとな。本当に江島が生島新五郎を繋がっていたという証拠でもあるのか?」
「生島新五郎が自白致しました。これが何よりよ証拠でごさいましょう」
「拷問による自白にどの程度の確実性があるかのう?稲生殿、ここは妾の顔を立てて、江島にもう一つ軽減をしてはもらえぬか?」
「そ、それは。。」
「別に江島を軽減してもお主に何も喪失はあるまい。それとも何か出来ぬ理由でもござるのかのう?」
天英院に睨まれて稲生次郎左衛門は思わず視線を逸らした。
「いえ、天英院殿がそうおっしゃるのであれば、私からその旨通達し、軽減致しましょう」
「さすがは稲生殿、話しが早い。ではその件はお頼み申したぞ」
天英院が立ち去ると稲生は冷や汗をかいていた。
稲生は月光院の嘆願は一切聞かずに無視を決め込んでいたが、天英院は流石に無視する訳にはいかなかったのである。
「よもや発覚したわけではあるまいな。。早めに口封じしておいた方が良さそうだ」
「稲生殿、心配されずともお静はすべての役目を終えたら毒を飲んで自害する手筈となっております。途中で気が変わり毒を飲まなかった時にはここにいる養源斎が始末する事になっていますからな」
「それならば良いが。宮守、お前に上手く乗せられて危うい橋を渡ったのだ。万一の事あらばどうなるかわかっておろうな?」
「もちろんでございますとも」
そう言いながら宮守志信は不気味な笑みを浮かべる。
〔万に一つの落ち度もあるものか。この御仁も気の小さいお人よ。いや、人間というものは立場が上がればその地位を守るために慎重になるもの。私もいずれ大奥を支配する立場になれば慎重に行動せねばならぬであろうからな〕
永遠流の判決から七日後、決定した江島の配流先は信州高遠であった。
月光院は裏で何とか動けるだけ動いて尾張家と繋がりの深い内藤清枚の藩に江島の身を託した。
そこまでが月光院が江島にしてやれる精一杯であった。
「天英院様」
「錦小路、何かわかったのか?」
「はい、またも由々しき事態にございます。杏葉牡丹の印籠を所持していたお静という女中が服毒し、自害致しました」
「なんじゃと?」
「おそらくは黒幕を足を掴ませないために、予め自害するよう命じられていたと推測致します」
「ぬぬう。死人に口なしという訳か。この事件、思うてたより闇が深いようじゃのう」
結局この事件は闇から闇へと葬られるように片付けられてしまった。
本来なら二年はかかるであろう取り調べを僅か一ヶ月で終わらせて。
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「江島に会わせてもらえぬか」
「たとえ月光院様と言えどもそれはなりませぬ」
「少しでいい。これはほんのお礼です」
月光院はそう言って牢番に小判を握らせた。
「ご老中の監視の目が光っておりますゆえ、あまりお時間は取れません。なるべくお早めにお済ませお下さい」
「感謝する」
牢に入った月光院は江島がさぞ自分を恨んでいようと罵られるのを覚悟したが、江島は月光院の姿を見るなり平伏して謝罪した。
「月光院様、私の注意が足りませんでした。ご迷惑をおかけして申し訳ごさいません」
「私も手を尽くしたが罪一等軽減が目一杯でだった。。すまぬ。。この先も出来る限り軽減をするよう働きかける。しばらく辛抱してくれ」
「いえ、私はもう外の世界へ出られる事はないでしょう。覚悟はできております。私が犠牲になる事で上様(七代将軍家継)や月光院様がご無事でいられるのなら、私はどんな罪でも甘んじて受け入れましょう」
江島は自分が冤罪なのも、これが全て仕組まれた罠なのもわかった上で月光院を守るために自ら犠牲を買ってでたのだ。
「昔、私が江島に言った言葉は今でも鮮明に覚えていますよ。江島がいるから安心していられる。これからもよろしく頼みますよ。と。。」
「そのお約束を果たす事が出来なくなり、申し訳ございません。。私は月光院様にお仕え出来て幸せでした。どうかご創建で」
これが二人にとって今生の別れであった。
こうして江島は信州高遠に流されていった。
白無垢の小袖一枚で駕籠に乗せられ、誰一人とも別れの挨拶すら交わす事を許されなかった。
月光院は「江島、すまぬ」と手を合わせて祈った。
⭐︎⭐︎⭐︎
「これで月光院の勢力も削がれるという訳か」
稲生次郎左衛門は薄笑いを浮かべて宮守志信を見るが素知らぬ顔である。
「表や歌舞伎に手を回して江島を冤罪で流罪にするなど考えたものだのう。だが、お取潰しとなった山村座と生島という役者、少し気の毒ではあるがな」
「稲生様、この大奥の秩序を守るためには多少の犠牲は目を瞑らなくてはなりません。生島にはそのための捨て駒になってもらいました」
「大奥の秩序か。たしかに江島はやたらと正義風をふかして倹約を迫ってきた。だが幕府の財政が底をついていたのは家宣様の時からも周知の事だ。徳川あっての大奥。徳川幕府が破綻してしまったら元も子もない事くらいわしとてわかっておるわ」
〔徳川が破綻してくれれば私としては万々歳よ。だが、せっかく入った大奥。ここで江島に変わり私が権力を主中に収めるのも面白い〕
宮守志信はそう心の中で思ったが、当然口出す事はなかった。
「ともあれ、月光院にとって江島は矛でもあり盾でもありました。江島を失った事により月光院は勢力も権威も失われました。もはやあの女に大奥を取り仕切る力はありますまい」
「お主は恐ろしい女よのう」
「褒め言葉と受け取っておきましょう。そういう稲生殿もこの一件のご活躍により出世が確実。弟君のお恨みを晴らせて出世のおまけまでついてきたではござりませんか」
「その点に関しては否定はせぬがの。すべてはあの女の身から出たサビよ。わしはそのサビを取り除いたに過ぎぬ」
〔お前も徳川にこびりついたサビだろう。切れ者と言われても己の事には鈍感らしいな〕
稲生次郎左衛門はこの江島事件を解決した功績で出世した。
「唯一残る月光院の生んだ家継は病弱。あれでは十歳まで生きられまい。家康からの徳川本家の血筋が絶えるとは愉快じゃ」
宮守志信は声を高らかにして笑った。
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「全ては私の僅かな油断から生じてしまった事。それについて私は一切の言い訳はするつもりはありません。ですが、月光院様は宮守志信の逆恨みとは何の関係もありません。
天英院様はおそらく孝子様の遠縁でありながら徳川に嫁いだのが気に食わないのでしょう。月光院様は秘密を握る者がいては大奥で権力を持つ上で邪魔なのです。宮守志信は月光院様がいる限り大奥で枕を高くして眠れないでしょうから。
これは私の責任でもあります。私が月光院様に事の次第を報告したまま事件に巻き込まれて後の対応が出来なかった。それが今頃になってこんな事件に発展してしまって悔やまれます。。」
「月光院様はご存じなのですか?」
「はい。私は月光院様付きの御年寄でしたからこのような事を知った以上、報告する義務があります」
「宮守志信が月光院様を執拗に狙うのはそのような背景があったのですね」
「宮守が私のいなくなった後、この十年動きを見せなかったのは御年寄への昇進を待っていたからだと思われます。彼奴は本当は私を処刑にしたかった。でも月光院様に天英院様まで加わり嘆願して下さりこの高遠への流罪に減罪された。
それで己の野望を果たすためには御年寄の地位と権力がなけれは駄目だと考えたのでしょう。そして時が来るのを待ち、今それを実行すべく動き出したのです。三日月党は秋津家に仕えていた集団。
秋津弾正は城主小笠原一徳に謀反を企んでいたと噂されていた人物でした。三日月党を雇ったのもそのためでしょう。
しかし因果応報と言うべきか、実行に移す前に弾正は病にかかりこの世を去り、秋津家は長男、兼好が引き継ぎます。
兼好には謀反の気持ちはなく、三日月党は解雇されるところを宮守志信が徳川家への復讐のために受け継いで雇い主となったのです」
「三日月党はどれくらい大奥に忍び込んでいるのかおわかりですか?」
「そこまではわかりませんでした。ただ、おそらくですが党首と思われる人物は潜伏して宮守についていると思います」
「大奥には伊賀者がいるはず。伊賀者は何をしているのでしょう。。」
「伊賀者など今となっては大奥の番犬に過ぎません。おおかた宮守に金を渡されて見て見ぬふりをしているのでしょう。彼奴らも忍者。金で雇われれば雇い主の命令に従うでしょうから。
宮守と三日月党に尾を振った犬など物の役に立ちません。吉宗公が紀州からあなたたち御庭番を連れて来た理由がよくわかりましょう」
江島の言葉に左近は時代に取り残された忍びの悲しい一面を複雑な思いで聞いていた。
「左近殿、私はここから動く事は出来ません。十年前に高遠に出立する前に間部詮房殿に月光院様を頼みますと依頼しましたが、その間部殿も幕府を追われてお亡くなりになりました。
このような事をお頼みするのは筋違いとは百も承知でお願い致します。時を経て動き出した宮守志信の野望を阻止し、どうか月光院様をお守り下さい」
江島はそう言って左近に深々と平伏した。
「江島様、お顔をお上げ下さい。だからこそ上様は月光院様たちを救うために私をここに遣わされたのです。私たち御庭番は必ず月光院様も大奥も守ってみせます」
左近がそう言うと江島は少しお待ち下さいと女中に何やら耳打ちすると、女中が紫色の鮮やかな風呂敷に包まれた品物を持ってきた
「左近殿、これを月光院様にお渡し下さい」
そう言って風呂敷を広げて見せたのは木彫りの仏像であった。
おそらくはこの屋敷で十年前の事件で自分のために処刑となってしまった数多くの人たちを思いこれを彫っていたのであろう。
左近はそれを両手で恭しく受け取る。
「わかりました。必ずお渡し致します」
二人は手を取り微笑みあった。
それは「頼みますぞ」「承りました」という意思伝達であった。
左近は江島に別れを告げると江戸へと急ぎ向かう。
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