たった一つの居場所が失われても、細い糸を手繰り寄せて

青森りんご

文字の大きさ
2 / 34
第一章:裏切りと婚約破棄

第二話 冷たい宣告

しおりを挟む
 リリアはエドワードの言葉をうまく理解できなかった。

「……え?」

 自分の耳が聞き間違えたのではないかと思った。いや、そうであってほしかった。

「リリア・フォン・アルセイン。僕は君との婚約を破棄する」

 繰り返される冷たい言葉。

 目の前にいるのは、幼い頃から共に過ごし、未来を誓い合った婚約者。優しくて、誠実で、いつもリリアを守ってくれたはずの人。

「な……ぜ……?」

 震える声が漏れる。どうして? 何がいけなかったの?

 エドワードは微かに眉をひそめ、ため息をついた。

「僕は、君を愛していない」

 その言葉が、リリアの胸を鋭くえぐった。

「そんな……!」

「……本当は、もっと穏やかに話すべきだったのかもしれない。でも、僕の気持ちは決まっている」

 リリアの手を優しく握っていたはずの彼の手は、今は微動だにせず、冷たい壁のように遠ざかっていた。

「僕はミレイナを愛している」

 ミレイナ――?

 リリアの頭に、ふわふわとした金髪を持つ少女の姿が浮かぶ。宮廷で最近見かけるようになった、平民出身の女性。あどけなく無邪気で、誰にでも笑顔を向ける彼女のことを、リリアも知っていた。

 だが、それがどうして婚約破棄の理由になるのだろう?

「待ってください、エドワード様……。婚約は、王家とアルセイン伯爵家の間で正式に交わされたものです。お二人が愛し合っているとしても、こんな一方的な――」

「君は分かっていないようだね」

 冷たく言い放つエドワードの声に、リリアの言葉は途切れる。

「彼女は”聖女”だ……本物の、ね」

 ──聖女?

「君が偽物であった以上……アルセイン伯爵家はもう、王家にとって必要な存在ではない」

 心臓が凍りつくようだった。

「君の家は、もともと僕の王太子妃としての繋がりがあったからこそ、権力を持てていた。でも、今は違う。僕が王になるために、本当に必要なのは――ミレイナだ」

「そんな……」

「ミレイナは、民衆から絶大な支持を受けている。王として国を治めるためには、貴族の娘ではなく、民とともに歩める伴侶がふさわしい」

 まるで正論を述べるかのように淡々と語るエドワードを見て、リリアは悟った。

 この人は、本気で自分を捨てるつもりなのだ。

「だから、今日をもって君との婚約はなかったことにする。もう二度と、僕の前に現れないでくれ」

 突き放された瞬間、リリアの心の中で何かが砕けた。

 その日を境に、彼女の人生は大きく変わっていくことになる――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

家族の靴を磨いていた私が、実は【神の加護を磨き上げた聖女】だった件。隣国の冷徹皇帝に「君の献身は世界を救う」と誘拐、24 執着されています

唯崎りいち
恋愛
「お前は一生、靴でも磨いていろ」 家族に虐げられ、靴を磨き続けた私。 実はその靴、磨くたびに『神の加護』が宿る聖具になっていました。 噂を聞きつけた隣国の冷徹皇帝に、出会い頭にさらわれて―― 「君は俺のものだ。24時間、指一本触れさせない」 靴を履かせてもらえず、移動は常に皇帝の腕の中!? 磨き上げた加護のせいで、皇帝の執着が神レベルに育ってしまう溺愛物語。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

処理中です...