たった一つの居場所が失われても、細い糸を手繰り寄せて

青森りんご

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第三章:才能の開花

第十九話 導火線に火をつけて

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 リリアたちは、スラム街のさらに奥へと足を踏み入れていた。

 そこには、病気で衰弱した人々が横たわり、苦しそうなうめき声が響いている。

 王宮の目が届かぬ場所――いや、むしろ王宮が“見ようとしない”場所だった。

「これが……この街の現実……」

 リリアは息をのむ。

 王宮の華やかな街並みとは違い、ここには希望すら存在しない。

 それでも、人々は生きていた。

「こんな状態で、まともな医療を受けられる人はいるんですか?」

 リリアの問いに、ロイは肩をすくめた。

「王宮の医者なんて、庶民のことなんか見向きもしないさ。たとえ金があっても、平民の治療は後回しだ」

「だからこそ、お前の魔法具が必要なんだよ」

 アレクセイがリリアを見つめる。

「……ええ、分かっています」

 リリアは覚悟を決めたように頷いた。

 彼女は取り出したのは、小さな青い宝石が埋め込まれた装置だった。

「この魔法具は、“微弱な魔力でも治癒魔法を発動させる”補助具です。魔力のない人でも、体に触れるだけで、少しずつ傷や病を癒せるはずです」

 彼女が説明すると、周囲の人々がざわめき始めた。

「そんなものが本当に……?」

「試してみましょう」

 リリアは一人の老人の前に膝をついた。

 彼は痩せこけ、呼吸も荒い。

 ひどい栄養失調に加え、肺の病を患っているのか、乾いた咳を繰り返していた。

 リリアはそっと、彼の胸元に魔法具を押し当てる。

 ――ぼんやりとした光が広がった。

 老人の呼吸が、ゆっくりと落ち着いていく。

「……あれ?」

「さっきまでの苦しみが……嘘みたいに……!」

 周囲から驚きの声が上がる。

「確かに……さっきよりずっと楽になった」

 老人がかすれた声で呟くと、人々の視線がリリアに集まった。

「す、すごい!」

「本当に治療ができるなんて……!」

「リリア様、どうかこの魔法具を分けてください!」

 人々が次々にリリアへとすがる。

 彼女の技術が、確かに希望になりつつあった。

 だが、その瞬間――

「……まずい、追手だ!」

 ロイが警戒した声を上げる。

 路地の奥から、甲冑を着た兵士たちが現れた。

「王宮騎士団……!」

 アレクセイが剣を抜く。

 その中の一人――ギルフォードが冷たい視線をリリアに向けた。

「リリア・フォン・アルセイン……魔法具を用いた反乱の罪で、お前を拘束する」

 兵士たちが、一斉に剣を抜いた。

 スラム街の人々が悲鳴を上げ、後ずさる。

 だが、リリアは一歩も引かなかった。

「……いいえ、これは反乱なんかじゃありません」

 彼女は強い声で言い放つ。

「これは、ただの“希望”です。貴方たちはそれすらも奪うつもりですか?」

「戯言を……!」

 ギルフォードが剣を振り上げる。

 しかし――

「リリア様を守れ!」

「この人は、俺たちを救ってくれたんだ!」

 スラム街の人々が、リリアの前に立ちはだかった。

 王宮が見捨てた民衆。

 彼らはもう、黙って従うだけの存在ではなかった。

 リリアの魔法具が、彼らに“立ち上がる力”を与えたのだ。

「……なるほど、厄介なことになったな」

 ギルフォードが舌打ちする。

「撤退するぞ!」

 彼は部下たちを連れ、撤退していく。

 リリアは、力強く拳を握った。

 これは、ただの逃亡劇ではない。

(私は、王宮と戦える……!)

 彼女は確かに感じた。

 この日――王宮とリリアの“戦い”が、正式に始まったのだった。
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