最強魔王の背後霊

のぞ

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勇者と伝説の島

勇者、魔王に挑む。

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その日の晩、魔王は弘太に話があると切り出した。

<弘太に、勇者のことを話そうと思う。いつもとは違う魔法を使うぞ。>

< 幻魔法 心鏡 >
魔王の使う魔法により、弘太は意識を失った。

弘太は気が付くと、知らない場所にいた。

「よく来たな、勇者よ!我こそは魔王ルシフェルド、魔族を統べるものだ。貴様はここに来るまでに多くの我が同胞たちを倒した。死んでいった仲間たちのためにも、ここで死んでもらうぞ。」

弘太が知っている魔王よりも明らかに幼いルシフェルドがそこにいた。

「俺らは、おまえなんかには負けない!勇者として!おまえを倒して、この世界の平和を取り戻すんだ!」
金髪に太陽のように輝く瞳の少年が魔王に向かって言った。弘太が思い描いていたよりも、その勇者は若かった。

「そうだぜ!俺らはおまえを倒すために、ここまで来たんだからな。」
大きな斧を持った傷だらけの男は威圧的に言い放つ。その風貌だけでも、強いことがわかる。

「魔王には負けません!女神さまの加護がある限り!」
聖職者のような恰好をした少女が言う。神聖なオーラが見えそうなほど聖なる印象を彼女から感じた。

「あなたが、最強の魔王なんでしょう?あなたを研究しつくさせてもらうわ。」
箒に乗った女性が興奮気味に言った。妖艶なのに聡明な印象を与える彼女はその余裕から、ただモノではないというのを感じた。

その4人に対し、魔王は試すかのように簡単に一撃を放った。
「貴様ら4人まとめて葬ってやろう。」






その戦いは一瞬だった。勇者たちは攻める間もなく、魔王のその一撃で4人とも倒されてしまった。







「口ほどにもないな。これでは、仲間たちも報われはしない・・・。」
魔王の目には涙が流れていた。魔王の周りには多くの魔王の仲間たちが見える気がした。






場面は飛び、魔王は大人びて、魔王の風格があった。
その目の前に、昔と変わらぬ勇者がいた。
「勇者よ、生きていたのか。まぁ、何度来ても同じことだからな。」


「今回は負けない!俺に女神さまの加護がある限り死なないし、ここでおまえを倒してハッピーエンドだ!」
よほど余裕があるのか、勇者は自信満々にそういった。

「先代の魔王には似とらんのう。まさか、人生で二度も魔王と呼ばれるものを成敗するとはな。孫娘の敵、討たせてもらうぞ。」
よぼよぼの杖を持ったおじいちゃんが言った。その言葉から、先代の魔王を葬ったと考えられる。その顔は、さっきの箒に乗った女性と似た印象を弘太は受けた。


「我が国を守るため、騎士団長として、貴様を倒す!」
神々しい鎧を着た騎士が言った。その顔はとても緊張しており、青ざめていた。

「女神さまに認められた勇者様のため、あなたを裁きます。」
聖なるオーラに包まれた女性は言った。先ほどの少女よりもその身から溢れるオーラはすさまじいものだ。

しかし、魔王にとっては物足りなかった。
(こんなものか。)

魔王はただ、手を軽く上げた。

次の瞬間には、4人とも死んでいた。




その後も、勇者は何度も攻めてきた。何度も何度も攻めてきて、その度に魔王は勇者を葬っていた。


そして運命の日がやってくる。






女神が現れ、勇者と魔王以外のものは消滅した。

「これがルシ様の記憶・・・。」

「あぁ、そうだ。これが我と勇者の記憶だ。」



勇者との記憶を見せられた弘太は驚いていた。魔王という称号を持つものが仲間のために涙を流した姿に、圧倒的力を持ちながら決して自ら相手を滅ぼさない姿が弘太の思う魔王というものとはかけ離れていた。

逆に、勇者という存在が、狂信的な女神の信者というのも、勇者=正義という考え方の中で育ってきた弘太にとっては意外なものであった。そして何より、魔王がその記憶を見せたこと、女神との確執の理由を知ったことは魔王と弘太の距離を縮めた。
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