そして何もなかった

平 昌綱

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体育祭と夜電話

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 体育祭の1週間前、クラスのメンバー表を提出する期限が迫っていた。当時、僕は学級委員としてこの責任を負っていたが、正直なところ自信はなかった。しかも、ちょうどその頃、クラスでは女子同士の小さな喧嘩が頻発していて、女子のメンバー選びが難航していた。普段の付き合いが表面的な僕には、この状況をまとめるのは至難の業だった。

迷った挙句、僕が頼ることにしたのは青子だった。彼女なら冷静に話を聞いてくれるし、うまく解決に導いてくれそうな気がしたのだ。電話をかけると、彼女は少し驚きつつも快く相談に乗ってくれた。喧嘩することは多いけれど、こういう時に頼れるのが青子の良いところだった。

僕たちは夜遅くまで電話で話し合い、時には意見がぶつかりつつも、なんとか女子メンバーを決定した。結局、全てが決まったのは朝の3時。電話を切った後も、気持ちが高ぶっていて僕はなかなか眠れなかった。

翌朝、学校に行くと青子も同じく寝不足の顔をしていた。開口一番、彼女が言った。

「お陰で眠れなかったじゃん!」

「いや、こっちのセリフだよ!」

また喧嘩が始まりそうだったけれど、どちらも疲れ切っていて力が入らなかった。その様子を見ていたクラスメイトたちがニヤニヤしながら言う。

「また朝から痴話喧嘩してるよ。」

僕たちは「違う!」と否定したけれど、どこか呆れる気持ちと笑いが混じっていた。

その日、1限目の授業で僕たちは揃って寝落ちしてしまい、先生に怒られた。それでも先生は苦笑しながらこう言った。

「お前ら、本当に行動が似てるな。」

不思議と、それが妙に嬉しかった。

体育祭当日。僕たちのクラスは運が悪かった。男子クラス対抗ドッジボールでは、スポーツ推薦のエリートたちが集う体育クラスと対戦することになった。試合開始の笛が鳴ると、まるで敵の攻撃を避けるしかない戦場のようだった。次々と仲間がアウトになり、隣の奴も消えていく。僕も逃げ回ったが、最後には当てられてゲーム終了。試合時間わずか4分での全滅だった。

女子のバレーボールでは、青子たちが敗者復活戦を勝ち抜いて準決勝まで進んだ。僕たちは感染症対策のため試合を見ることはできなかったが、後から先生に聞いた話では、青子がチームを引っ張りながら奮闘していたらしい。

その日の放課後、彼女が珍しく清々しい表情をしているのを見た。汗で少し乱れた髪と、ほっとしたような笑顔。その顔を見て、僕はふと「あれ?もしかして惚れた?」と思った。それまで意識していなかったけれど、そんな彼女の姿に心が動かされるのを感じた。

クラス対抗リレーでは、僕もランナーに選ばれていた。クラス内で50m走の上位10位には入る程度の脚力があったので、5走目を任された。バトンを受け取ると、周りの歓声が聞こえる中、必死に走った。全力で駆け抜け、なんとか1人抜くことができた。その時、ゴール付近で応援していた青子が笑顔で手を振ってくれているのが目に入った。その笑顔が僕の原動力になったのだと思う。

「ありがとう」とその時は言えなかったけれど、今なら素直にそう伝えられる気がする。

体育祭の総合結果は15クラス中10位。決して良い成績ではなかった。でも、結果なんてどうでもよかった。クラスの結束が高まり、青子が必死に頑張る姿を見られたこと。それが一番の収穫だったと思う。

彼女のあの全力の表情を見て、僕はふと名将・立花道雪の娘であり、智勇兼備と称された立花銀千代を思い出した。戦国時代に男顔負けの活躍をした女性だ。青子の姿には、どこかそんな気高さが感じられた。

僕は歴史が好きだ。そして理系の物理コースを選んだ高校生でもある。そんな僕が彼女を銀千代に例えたのは、きっとそれだけ彼女が輝いて見えたからだと思う。

体育祭の思い出は、結果よりもその瞬間瞬間が大事だ。それが今でも心に残っている理由なのかもしれない。
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