そして何もなかった

平 昌綱

文字の大きさ
5 / 22

中途半端真面目とJと習字

しおりを挟む
僕は高校の教養科目で習字を選択した。授業の大半は墨をすり、半紙に向き合い、自分の字と格闘する静かな時間だったけれど、それが逆に心地よかった。周りの友達はスポーツ系や実技科目を選んだ人が多かったが、僕にはこの地味さが性に合っている気がした。

ある日の休み時間、習字の教室で黙々と準備をしていると、青子がひょっこり顔を出してきた。習字の授業を取っていないはずなのに、何か面白そうなことでも探しているのだろうか。彼女は「あ、工藤発見」とニヤリと笑いながら僕の近くまでやって来た。そして、なぜか突然僕の名前を半紙に書き始めた。

「工藤……J?」

僕の姓を書いた後、なぜかアルファベットの「J」を添えている。意味がわからない。

「何それ?」と僕が尋ねると、彼女はさらりと答えた。

「気分。捨てていいよ。」

「え、捨てるの?」と返す僕。でも、捨てるには惜しい気がして、なんとなくそれを保管することにした。理由はわからない。捨ててもいいと言われたのに、なぜかそれをゴミ箱に捨てることができなかった。授業期間中、僕の引き出しにはその「工藤 J」と書かれた半紙がずっと保管されていた。

墨で真っ黒に覆い隠してもよかったのかもしれない。でも、何かそれをするのが惜しくて、ずっとそのままだった。

その日、習字の授業中には、クラスの恋愛の話題で盛り上がった。書き終わった作品を乾かしながら、自然と雑談が始まったのだ。そんな中、クラスメイトの一人で、普段ほとんど話さない子が急に僕に向かって言った。

「工藤くんって絶対合コンとかいかなそうだよね。」

その場にいた全員が大笑いした。僕も思わず笑ったけれど、内心ちょっとショックだった。第三者からそういうイメージを持たれているんだ、と気づいた瞬間だった。堅いけど、少し抜けている――そんな印象を与えているらしい。

ここで自己紹介を少し挟むけれど、僕はよく「ムードメーカー」と評されることがある。小学校の先生にもそう言われたし、友達にもよく言われる。でも、本当にそうだろうか。自分では、どちらかというと中途半端な存在だと思う。真面目なところもあれば、抜けている部分もある。器用なところもあるけれど、どれも中途半端で、どこにも突き抜けていない。

そして気づいたのは、青子もまた似たような性質を持っているということだ。彼女もまた、何事にも「中途半端真面目」だ。どこかしら器用で、だけど全力で突き進むタイプではない。そんな中途半端さが、僕たちをお互いに引き寄せていたのかもしれない。

高校生活を振り返ると、その中途半端さこそが僕たちの特徴だった。お互い真剣になりきれず、かといって手を抜くこともできない。どっちつかずの自分たちが、何かと一緒に行動したり、ちょっかいをかけ合ったりしていた。それは他の誰とも共有できない、不思議なバランスだった。

「工藤 J」と書かれた半紙も、きっとその中途半端さの象徴なのだろう。意味なんてなかったけれど、今でも記憶に残っている。それは、僕たちの高校生活そのものを表しているような気がする。明確な意味はないけれど、なぜか忘れられない瞬間。あの時の空気感や彼女とのやりとりが、今でも鮮明に蘇ってくるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました

ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。 意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。 しかし返ってきたのは―― 「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。 完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。 その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。

処理中です...