そして何もなかった

平 昌綱

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文理選択とヤンキー

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 高校1年の終わり、文理選択という大きな岐路に立たされていた僕は、人生の方向性を決める重大な決断を迫られていた。もともと文系志向だった僕は、法律や歴史に興味を持ち、将来はその分野で生きていきたいと漠然と思い描いていた。けれど、その頃の僕は、失恋のショックに打ちひしがれていて、心の整理もつかないまま、人生の舵を切る決断をすることになった。そして、なぜか勢いで理系、それも物理コースを選んでしまったのだ。それは、当時の僕にとって、いわば「逃げ」の選択だったのかもしれない。今となっては、どうしてもっと自分と向き合わなかったのかと悔やむばかりだ。

一方で、同じクラスの青子は迷うことなく科学コースを選んだ。彼女はいつも自信に満ちた態度で、自分の好きなことにまっすぐ進む姿が眩しかった。僕は密かに彼女に憧れを抱いていた。彼女の存在は、僕にとって高校生活の中で一筋の光だったのだ。けれど、青子の周りにはいつも友達や注目が集まっていて、僕がその光に手を伸ばすには、勇気が足りなかった。

そんなある日のことだった。青子が僕に「お願いがあるんだけど」と声をかけてきたのだ。聞けば、彼女はあるヤンキーに好意を寄せられていて、誕生日プレゼントを渡したいと言われたものの、相手が怖くて一人で行くのは不安だという。僕は内心、「僕じゃなくてもいいんじゃないか」と思いつつも、彼女に頼られたことが嬉しくて、つい頷いてしまった。

しかし、その日は学級委員の仕事があり、僕は直接同行することができなかった。結局、彼女の友達と一緒に、少し離れた教室の隅から彼女を見守る形になった。教室はカーテンもないオープンな場所で、僕たちは相手から丸見えだった。これでは「警護」とは言えないと思いながらも、なんとか青子を守りたいという一心で、僕は教室の隅からじっと彼女を見つめていた。

ついにそのヤンキーが現れたとき、僕は無意識に彼に視線を飛ばしてしまった。心の中で「彼女に何かしたら、許さない」と念じながら、ぎこちなくも視線を合わせ続けた。ヤンキーは、僕たちの存在に気づいたものの、何も言わずに青子に高級化粧品を差し出し、静かにその場を立ち去った。その瞬間、僕は心の底からホッとした。

その後、青子は僕に向かって「ありがとう、本当に助かったよ」と笑顔で言ってくれた。その笑顔を見た瞬間、僕はまるで自分がヒーローになれたような気分になった。とはいえ、僕が青子に渡したものといえば、購買で買ったパンだった。彼女の手元に残った高級化粧品と比べると、あまりに平凡なものだったけれど、僕なりに精一杯の感謝と好意を込めたつもりだった。

こうして、高校1年は幕を閉じた。僕の心には後悔も、少しの達成感も、そして青子の笑顔が強く刻まれている。今思えば、この小さな出来事が僕の青春そのものだったのかもしれない。
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