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Epic⑩
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一週間ぶりの自宅の前に立つ。心臓が口から飛び出しそうだった。もしかしたら、今度こそ心配してくれているかもしれない。いや、何も変わっていないかもしれない。
ここでも期待と恐怖が入り混じってぐるぐる積み上がる。見た目はおいしそうだけれど、このソフトクリームは舐めたらどんな味がするのか。震える手で鍵穴に鍵を差し込む。
「…?」
鍵が入らない。手が震えているからではなく、鍵穴と鍵が合っていない事に気づき、全てが崩れた。すぐに自宅を離れて綾斗さんの部屋に向かって走った。インターホンを押すと綾斗さんが出てくれた。
「楓?」
「っ…!」
「…とりあえず入って」
楓の顔を見ただけで、何も言わなくても綾斗さんは何かを感じ取ってくれたようだった。その優しさが残酷で、また突き放されるとわかっているのに、それでも縋りたかった。
「どうした?」
「…鍵…交換、されてて…家入れなかっ…」
堪えていた涙が溢れてくる。やっぱり自分は必要ないんだ。
「そっか。…頑張ったね」
そっと頭に手が置かれ、優しく撫でられる。涙でぐちゃぐちゃな楓に優しくしちゃいけない。だってそんな風に優しくされたら涙だけじゃなく…想いも溢れて出てしまうから。
「あったかいものでも飲む? 汗かいてるから暑いか」
「…好きです」
溢れ出た想いを口にすると更に涙が零れた。キッチンに行こうとした綾斗さんの動きが止まる。
「俺、綾斗さんが好きです…」
「…楓?」
怖い。でも目を逸らしたくない。楓は綾斗さんをまっすぐ見つめる。
「五分で忘れていいから、…だから、忘れるまでの五分間だけ、…抱き締めてください…」
「………」
ゆっくり綾斗さんの腕が伸びてきて楓を抱き締める。綾斗さんの香りと温もり。五分間だけは楓のもの。綾斗さんの背に腕を回したくて、でも楓はできなかった。
ここでも期待と恐怖が入り混じってぐるぐる積み上がる。見た目はおいしそうだけれど、このソフトクリームは舐めたらどんな味がするのか。震える手で鍵穴に鍵を差し込む。
「…?」
鍵が入らない。手が震えているからではなく、鍵穴と鍵が合っていない事に気づき、全てが崩れた。すぐに自宅を離れて綾斗さんの部屋に向かって走った。インターホンを押すと綾斗さんが出てくれた。
「楓?」
「っ…!」
「…とりあえず入って」
楓の顔を見ただけで、何も言わなくても綾斗さんは何かを感じ取ってくれたようだった。その優しさが残酷で、また突き放されるとわかっているのに、それでも縋りたかった。
「どうした?」
「…鍵…交換、されてて…家入れなかっ…」
堪えていた涙が溢れてくる。やっぱり自分は必要ないんだ。
「そっか。…頑張ったね」
そっと頭に手が置かれ、優しく撫でられる。涙でぐちゃぐちゃな楓に優しくしちゃいけない。だってそんな風に優しくされたら涙だけじゃなく…想いも溢れて出てしまうから。
「あったかいものでも飲む? 汗かいてるから暑いか」
「…好きです」
溢れ出た想いを口にすると更に涙が零れた。キッチンに行こうとした綾斗さんの動きが止まる。
「俺、綾斗さんが好きです…」
「…楓?」
怖い。でも目を逸らしたくない。楓は綾斗さんをまっすぐ見つめる。
「五分で忘れていいから、…だから、忘れるまでの五分間だけ、…抱き締めてください…」
「………」
ゆっくり綾斗さんの腕が伸びてきて楓を抱き締める。綾斗さんの香りと温もり。五分間だけは楓のもの。綾斗さんの背に腕を回したくて、でも楓はできなかった。
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