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幸せのかたち⑫
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『もうすぐつく』
メッセージを確認して、鏡の前でもう一度髪を整える。
今日は詠心とつき合ってはじめてのデートだ。詠心は昨日の帰りからそわそわとしていたし、藍斗も落ちつかなかった。夜もなかなか寝つけなかったくらいだ。普段の土日にも詠心と会うことはあったが、これからは会う意味が違う。
もう来るかな、まだかかるかな。胸を高鳴らせてインターホンの親機前で待つ。藍斗の準備はばっちりだ。いつでも応答できる。
「まだかも」
時間を確認したら、まだ約束の十分前だ。一瞬モニターから目を逸らしたらインターホンが鳴った。慌てて視線を戻し、詠心の姿を確認する。
「いってきます!」
バッグを持って家を出たら、詠心が片手をあげて微笑んだ。なぜか隣には春海がいる。さらに隣に見知らぬ男子がいる。
「……?」
どういうことだろう。三人の顔を順に見る。春海と男子を見て気がついた。春海の隣の男子は、以前春海がキスをしていた相手だ。
「ちゃんと謝った。いろいろ失礼なこと言ったから」
こほん、とわざとらしい咳払いをした詠心が、言いにくそうに説明した。じいっと見られて、はっとして詠心に視線を向ける。
詠心以外を見ると嫉妬するところは、どうしても可愛いと思ってしまう。本人は複雑な顔をするが、藍斗をひとり占めしたいなんてどう考えても可愛い。
「気にしなくていいのに。藍斗のお友達は真面目だね」
「友達じゃないよ」
苦笑した春海に、藍斗ははっきりと告げる。
「詠心は僕の友達じゃなくて……えっと」
三人の視線が一気に藍斗に向き、緊張しはじめる。きちんと言いたいのに、そんなに見られたら緊張しすぎて声が出なくなる。
「……詠心は僕の大切な人なんだ。誰よりも大好きな人」
「ふ、はは」
噴き出したのは詠心だった。春海もつられて笑い出し、隣の男子も声を抑えて笑っている。恥ずかしくて隠れたい。
「行こう」
笑いながら、春海が隣の男子の手を引いた。ふたりはのんびりと足を進め、その背を詠心と一緒に見送る。
春海は藍斗でも見たことがない、優しい笑顔を相手に向けている。いつも優しく微笑む春海だが、それとは全然違う笑顔だ。心から笑っているような、見ているだけで穏やかな気持ちになる表情で、とても綺麗だ。
ぼうっとふたりを見ていると、手をきゅっと握られた。隣の詠心が、じっと藍斗を見ている。いつから見ていたのだろう。
「小響さんたちのこと、気になるか?」
「うん、ちょっとだけ」
どういう関係なのかな。もしかして、本気で好きな相手、とか。春海にそんな人がいたなんて知らなかった。
本心を答えると、詠心はあきらかに面白くなさそうな顔をした。
「そこは嘘でも『気にならないよ』って言うところだ」
拗ねた口調になっていて、やはり可愛い。でもそんなことは言えない。詠心は藍斗の前で恰好よくいたいと言うのだ。詠心はなにをしたって恰好いいのに、変なことを気にするのだから不思議な人だ。
「ごめん……怒った?」
「怒った」
藍斗の手を引いて詠心が歩を進めるので、引かれるままについていく。言葉とは裏腹に、詠心の表情は緩んでいる。
「明日もデートしてくれたら許す」
いたずらっ子のような顔で詠心が笑う。そんな魅力的な提案を断るわけがない。でも、なんとなく藍斗もやり返したい気持ちになった。
「僕は明日だけじゃなくて、ずっと先も詠心とデートしたいけど」
小走りになって詠心の隣に並ぶと、詠心は目を丸くして足を止めた。変なことは言っていないし、気持ちのままを伝えた。それなのに詠心は驚いた様子で固まってしまった。
「詠心?」
「……っ、藍斗!」
抱きあげようとするので、慌てて逃げる。
「こんなとこじゃだめ!」
「じゃあ捕まえる」
逃げる藍斗を、詠心は楽しそうに追いかけてくる。子どもみたいに追いかけっこをして、手をつないだ。
終
メッセージを確認して、鏡の前でもう一度髪を整える。
今日は詠心とつき合ってはじめてのデートだ。詠心は昨日の帰りからそわそわとしていたし、藍斗も落ちつかなかった。夜もなかなか寝つけなかったくらいだ。普段の土日にも詠心と会うことはあったが、これからは会う意味が違う。
もう来るかな、まだかかるかな。胸を高鳴らせてインターホンの親機前で待つ。藍斗の準備はばっちりだ。いつでも応答できる。
「まだかも」
時間を確認したら、まだ約束の十分前だ。一瞬モニターから目を逸らしたらインターホンが鳴った。慌てて視線を戻し、詠心の姿を確認する。
「いってきます!」
バッグを持って家を出たら、詠心が片手をあげて微笑んだ。なぜか隣には春海がいる。さらに隣に見知らぬ男子がいる。
「……?」
どういうことだろう。三人の顔を順に見る。春海と男子を見て気がついた。春海の隣の男子は、以前春海がキスをしていた相手だ。
「ちゃんと謝った。いろいろ失礼なこと言ったから」
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詠心以外を見ると嫉妬するところは、どうしても可愛いと思ってしまう。本人は複雑な顔をするが、藍斗をひとり占めしたいなんてどう考えても可愛い。
「気にしなくていいのに。藍斗のお友達は真面目だね」
「友達じゃないよ」
苦笑した春海に、藍斗ははっきりと告げる。
「詠心は僕の友達じゃなくて……えっと」
三人の視線が一気に藍斗に向き、緊張しはじめる。きちんと言いたいのに、そんなに見られたら緊張しすぎて声が出なくなる。
「……詠心は僕の大切な人なんだ。誰よりも大好きな人」
「ふ、はは」
噴き出したのは詠心だった。春海もつられて笑い出し、隣の男子も声を抑えて笑っている。恥ずかしくて隠れたい。
「行こう」
笑いながら、春海が隣の男子の手を引いた。ふたりはのんびりと足を進め、その背を詠心と一緒に見送る。
春海は藍斗でも見たことがない、優しい笑顔を相手に向けている。いつも優しく微笑む春海だが、それとは全然違う笑顔だ。心から笑っているような、見ているだけで穏やかな気持ちになる表情で、とても綺麗だ。
ぼうっとふたりを見ていると、手をきゅっと握られた。隣の詠心が、じっと藍斗を見ている。いつから見ていたのだろう。
「小響さんたちのこと、気になるか?」
「うん、ちょっとだけ」
どういう関係なのかな。もしかして、本気で好きな相手、とか。春海にそんな人がいたなんて知らなかった。
本心を答えると、詠心はあきらかに面白くなさそうな顔をした。
「そこは嘘でも『気にならないよ』って言うところだ」
拗ねた口調になっていて、やはり可愛い。でもそんなことは言えない。詠心は藍斗の前で恰好よくいたいと言うのだ。詠心はなにをしたって恰好いいのに、変なことを気にするのだから不思議な人だ。
「ごめん……怒った?」
「怒った」
藍斗の手を引いて詠心が歩を進めるので、引かれるままについていく。言葉とは裏腹に、詠心の表情は緩んでいる。
「明日もデートしてくれたら許す」
いたずらっ子のような顔で詠心が笑う。そんな魅力的な提案を断るわけがない。でも、なんとなく藍斗もやり返したい気持ちになった。
「僕は明日だけじゃなくて、ずっと先も詠心とデートしたいけど」
小走りになって詠心の隣に並ぶと、詠心は目を丸くして足を止めた。変なことは言っていないし、気持ちのままを伝えた。それなのに詠心は驚いた様子で固まってしまった。
「詠心?」
「……っ、藍斗!」
抱きあげようとするので、慌てて逃げる。
「こんなとこじゃだめ!」
「じゃあ捕まえる」
逃げる藍斗を、詠心は楽しそうに追いかけてくる。子どもみたいに追いかけっこをして、手をつないだ。
終
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