きみをください

すずかけあおい

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きみをください②

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◇◆◇


翌日、あのイケメンさんはまた来てくれた。
空いた席にイケメンさんが座ったところですぐに席に向かう。

「あ、ごめんなさい。まだ…」
「いえ、注文じゃなくて…」
「?」

注文を取りに来たと思われたらしい。
俺が慌てて違うと言うと、イケメンさんは疑問符を浮かべる。

「あの、なにか失礼をしてしまったかと思って…」
「え?」
「昨日、お…僕を訪ねて来られたみたいなので、なにか失礼があったかと…すみませんでした」

ひとつ頭を下げる。
それからまた仕事に戻ろうとしたら。

「注文してもいいですか?」

イケメンさんに呼び止められた。

「は、はい」

オーダー伝票を手にして、注文を書き留めるためにペンを持つ。

「きみをください」
「……」

素直に言われた通り“きみ”と書こうとして手を止める。

「きみを、ください」

もう一度、ゆっくりわかりやすく聞き間違えのないように言われる。
いや、さっきのも聞き間違えてないですけど。

「どうですか?」
「……え?」

どうですか、ってなにが?
イケメンさんはじっと俺の顔を見ている。
そんなに見られるほど珍しい顔じゃない。
どこにでも転がっているような平凡な顔だ。

「えっと…?」
「俺は深山みやま結人ゆいとです。橋本くんの下の名前を教えてもらってもいいですか?」
「……啓真けいまです」
「啓真くん…」

俺の名前をなんだかすごく大切そうに呟いてから、深山さんは微笑む。

「今日は唐揚げ定食をお願いします」
「は、はい。かしこまりました!」

そうだ、今は仕事中だった。
すっかり深山さんに引き込まれていた。
注文をオーダー伝票に書き込んで厨房に通す。
頭の中では深山さんの言葉がぐるぐるぐるぐる。

『きみをください』

なんなんだろう、あの人。

そのあと、深山さんからはいつも通りの『ごちそうさまでした』以外、なにも話しかけられなかった。


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