優しい恋に酔いながら

すずかけあおい

文字の大きさ
2 / 2

優しい恋に酔いながら②

しおりを挟む
「達哉、ほら、貸せ」
「うん」

 新年になり藤亜と初詣に来た。あれから三か月、俺達は付き合っている。おみくじを梅の木の枝に結んでくれる藤亜をじっと見つめる。

「お守りとか買うか?」
「買わない」
「じゃあ俺に買って。恋愛成就」

 人の流れに沿って歩き出すと藤亜がそんなことを言う。

「成就してないの?」
「してんの?」

 逆に聞き返されてしまって頬が熱くなる。それはつまり、俺が藤亜を好きかどうかという質問で。

「……してる、と思う」
「俺が教授なら減点してるな」
「ひどい」
「ひどいのはどっちだ」

 そんなことを言いながらも優しく微笑みかけられてどきりとする。つい目を逸らしてしまうのは、まだ慣れないから。

「どうなの? 成就してんの?」
「……」

 ずるい。俺が黙っていると藤亜が神妙な顔をする。

「やっぱ恋愛成就買って」
「…………き、だよ」
「なに?」
「っ……好きだよ!」

 恥ずかしくて顔から火が出そうだけれど、勢いのまま言うと藤亜が嬉しそうに破顔する。
 「好き」と言うのは苦手だけれど、藤亜が喜んでくれるならなるべく言いたい。

「じゃあ恋愛成就買わなくていいや」
「……」

 そっと手を握られ、更に恥ずかしくて周囲を見回してしまう。

「誰に見られたっていいじゃん。俺の自慢の恋人」
「……っ」

 こんな俺がそんなことを言われる日が来るなんて夢にも思わなかった。俯いて、にやける口元をマフラーで隠す。

「早く達哉の部屋に帰ろう? いちゃいちゃしたい」
「いちゃいちゃって……」

 なんだそれ、めちゃくちゃ恥ずかしい。なるべくのんびり帰りたいような、急いで帰りたいような、複雑な気持ちになった自分にも恥ずかしくなる。
 キスは気持ちいい。抱きしめられるのは落ち着く。浅はかでいたい考えはなかなか抜けないけれど、その度に正してくれる人がいる。俺を導いてくれる大切な存在がいる。
 愛のあるセックスしかしたくない。藤亜としか、したくない。
 すれ違った人とぶつかりそうになった俺の手を藤亜が引いてくれて、距離が近くなる。少し高い位置にある顔を見上げると、とても幸せそうだ。

「やっぱり恋愛成就、買ってあげる」
「つまり成就してないってことか?」
「ううん。藤亜の恋がもっと成就するように」

 自分で言っておいて「もっと成就」がなんだかわからないけれど、たくさん幸せになって欲しいから。そう言うと藤亜は目を見開いて、それからこれ以上ないくらい優しく微笑んだ。

「達哉のその気持ちが嬉しいから、お守りはいらない」
「でも」
「それに、俺をたくさん幸せにしてくれるのはお守りじゃなくて達哉だろ?」
「……」

 ゆっくり頷いて視線を合わせる。今すぐキスしたいけれど、帰るまでお預け。繋いだ手にぎゅっと力をこめた。



おわり

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

好きだからキスしたい

すずかけあおい
BL
「たまには実晴からキスしてみろ」攻めからキスを求められた受けの話です。 〔攻め〕玲央 〔受け〕実晴

DONKAN

すずかけあおい
BL
不純な攻め×純情鈍感受け。 大好きな幼馴染の朋春は、幹人を可愛がってくれていた――少し前までは。 〔攻め〕朋春 高2 〔受け〕幹人 高1

自分勝手な恋

すずかけあおい
BL
高校の卒業式後に幼馴染の拓斗から告白された。 拓斗への感情が恋愛感情かどうか迷った俺は拓斗を振った。 時が過ぎ、気まぐれで会いに行くと、拓斗には恋人ができていた。 馬鹿な俺は今更自覚する。 拓斗が好きだ、と――。

嫌いなもの

すずかけあおい
BL
高校のときから受けが好きな攻め×恋愛映画嫌いの受け。 吉井は高2のとき、友人宅で恋愛映画を観て感動して大泣きしたことを友人達にばかにされてから、恋愛映画が嫌いになった。弦田はそのとき、吉井をじっと見ていた。 年月が過ぎて27歳、ふたりは同窓会で再会する。 〔攻め〕弦田(つるた) 〔受け〕吉井(よしい)

【J庭57無配】幼馴染の心は読めない

すずかけあおい
BL
幼馴染の一志は桜大とは違う大学を志望している。自然と距離ができ、幼馴染の近さが徐々に薄れていく。それが当たり前でも、受け入れられない。 まだ一年ある。もう一年しかない。 高二の秋、恋心は複雑に揺れる。 ***** J庭57の無配です。

ずっとそばにいてほしかった

海がミタイ
BL
 三歳の頃互いに番になると約束したアルファである新田と、オメガであり幼馴染の清水は、幼いながらも互いの恋心に気づいていた。しかし、新田は父の転勤を気に遠方へ引っ越す事になり、二人は離れ離れになってしまう。それから時が立ち、高校生になった新田は未だに清水への思いが捨て切れずにいた。頭にある僅かな記憶を頼りに、昔住んでいた街を訪れ聞き込みを進めていくうちに清水は事故で死んだ事を知らされる。絶望した新田の前に、清水と瓜二つの顔を持つ倉橋という男が現れ____________、清水と倉橋の関係とは、そして明かされる清水の過去とは。

インフルエンサー

うた
BL
イケメン同級生の大衡は、なぜか俺にだけ異様なほど塩対応をする。修学旅行でも大衡と同じ班になってしまって憂鬱な俺だったが、大衡の正体がSNSフォロワー5万人超えの憧れのインフルエンサーだと気づいてしまい……。 ※pixivにも投稿しています

花散りて、時巡り

すずかけあおい
BL
『花散りて』 別れた恋人とやり直したくて、相手の転校先の高校へ向かった桜佑だけれど……。 『時巡り』(25.6.1追加) あの日、きみに恋をした。 『花散りて』の藤安視点です。

処理中です...