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バレンタイン小話
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Xとぷらいべったーに掲載していた小話、本編後です。
*****
「巽、おはよう! 今日も好きだよ!」
「……」
「登校日以外会えないのが寂しい!」
「……耀」
相変わらず冷たい視線を送ってくる巽にほっとする。この表情ももうじき見られなくなる。
「そういう顔すんな」
「どういう顔してた?」
「寂しいって顔」
そっけなく言って先に歩き出してしまうのを追いかける。冷たいことを言いながら巽は俺のことをよくわかってくれている。なんとなく背中をつついたら睨まれた。
「耀」
「ごめん」
「……謝らなくていいけど」
こういうところは変わった。俺達の関係は友達でも恋人でもなく、でも誰よりも近いものだと感じる。俺の高校卒業後の展望が霞んでいるのは、心にもやがあるからだ。
「そんな顔しなくても、同じ大学行くんだろ」
「行けるかな」
「行けるよ」
共通テストの結果発表はまだだからはっきりそう言い切れる理由がわからないけれど、巽がそう言うのならそうなのかもしれない。心のもやが、さあっと消えて行く。
「またずっと一緒にいられるね!」
「すぐ調子にのる……」
「いいじゃん」
手を繋いでみたい。だめかな、だめだよな。
遣らずの雨の意味を教えてくれたあの日から、巽は時々手を繋いでくれる。でも気まぐれで、いつでもいいというわけではないようなので難しい。
「ねえ、今日はバレンタインだよ」
「そうだな」
「巽はチョコいっぱいもらうのかな」
毎年たくさんの女子が「新井くんに」とチョコを用意する。俺も用意するけれど受け取ってくれたことはない。巽は誰も特別扱いせず、全部のチョコを断るからだ。
「いつもどおり断る」
「そうだよね」
俺は今年のチョコは用意していない。巽が「誰からも受け取らない」と決めている気持ちを尊重したいし、巽に断られたチョコを自分で食べた昨年と一昨年のバレンタインがとても寂しかったから。
「耀は」
「なに?」
「……チョコ、どうするんだ」
なぜか聞きにくそうに巽が俺から目を逸らす。
「もう用意しないよ? 断る回数が一回でも減ったほうが楽でしょ」
でも街がバレンタイン色に染まっているのはわくわくするね、と言うと巽が難しい顔をして俺の手を引く。
「どうしたの?」
「コンビニ寄る」
なにか買うのだろうか、と手を引かれるままについていく。こうやって不意に巽は手を握ってくるから俺はどきどきの準備もできない。
コンビニに入っても巽は俺の手を引いたままずんずん中に進んでいく。コンビニにもバレンタインチョコが売っていて、可愛くラッピングされたチョコが並んでいる。赤いハートにピンク色のハート、茶色いハート、ゴールドなど、たくさんのハートが飾られている。その棚の前に二人で立ち、手が離された。
「耀はどんなチョコが好きだ」
「え?」
「わかった」
なにも答えてないけど、と首を傾げると巽は棚から一つチョコを取り、レジに向かう。どういうことかわからなくてぼけっとその姿を見ていると名前を呼ばれた。
「行くぞ」
「うん……?」
なんだかよくわからないけれどコンビニを出る。巽の通学バッグには今買ったチョコが入っている。誰かにあげるのだろうか、ともやもやしていたら学校についてしまった。
「帰りに」
「うん?」
「帰りに」
「うん……」
同じ言葉を二回言われて、とりあえず「帰り」なんだろうと思い頷く。でもその「帰り」になにがあるかわからない。
ずっと首ばかり傾げて放課後になった。俺から声をかける前に巽が近寄ってきた。
「帰るぞ」
「う、うん」
どうしたのだろう。巽がこんなに積極的に近づいてきてくれるなんて滅多にない。なんだか嫌な予感がして心臓がおかしな動きを始める。巽を盗み見ると怖い顔をしている。怒っているのだろうか。
「耀」
「えっ」
「なに驚いてるんだ?」
「う、ううん……なんでもない」
なにを言われるかわからなくて緊張していたからとは答えられない。
巽はあの日、雨が止むのを待つために寄りかかった壁にもたれ、俺に手招きする。
「どうしたの? 帰らないの?」
「いいから」
バッグから朝買ったチョコを出し、ラッピングを解いていく。自分で食べる用だったのか、と少しほっとすると、巽はその箱を俺に差し出してきた。
「食べろ」
「え、いいの?」
「だめだったら食べろとは言わない」
差し出された箱からチョコを一つつまんで口に運ぶ。甘くて、でも少しほろ苦くて、大人の味がする。
「どうだ?」
「巽みたい」
「は?」
「ううん、こっちの話」
巽に並んで壁に寄りかかり、昇降口の外を見る。よく晴れていて陽射しは暖かそうだ。
チョコの箱をもう一回差し出され、またチョコを口に運ぶ。おいしい。
「雨、降らないかな」
巽とずっと一緒にいたい。雨が降ってやまなければいいのに。
「雨が降らなくても大丈夫だろ」
柔らかな口調に隣を見ると、巽は俺を見ていた。
「どういう意味?」
問いかけると、巽は俺から視線をはずして外を見る。少し目を細めて、それが微笑んでいるようで横顔がとても綺麗だった。
「遣らずの雨はもう必要ない。俺が耀を引き留める」
驚きに目を見開いたら、口にチョコを押し込まれた。
こんなバレンタインが俺に訪れてもいいのだろうか。
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「巽、おはよう! 今日も好きだよ!」
「……」
「登校日以外会えないのが寂しい!」
「……耀」
相変わらず冷たい視線を送ってくる巽にほっとする。この表情ももうじき見られなくなる。
「そういう顔すんな」
「どういう顔してた?」
「寂しいって顔」
そっけなく言って先に歩き出してしまうのを追いかける。冷たいことを言いながら巽は俺のことをよくわかってくれている。なんとなく背中をつついたら睨まれた。
「耀」
「ごめん」
「……謝らなくていいけど」
こういうところは変わった。俺達の関係は友達でも恋人でもなく、でも誰よりも近いものだと感じる。俺の高校卒業後の展望が霞んでいるのは、心にもやがあるからだ。
「そんな顔しなくても、同じ大学行くんだろ」
「行けるかな」
「行けるよ」
共通テストの結果発表はまだだからはっきりそう言い切れる理由がわからないけれど、巽がそう言うのならそうなのかもしれない。心のもやが、さあっと消えて行く。
「またずっと一緒にいられるね!」
「すぐ調子にのる……」
「いいじゃん」
手を繋いでみたい。だめかな、だめだよな。
遣らずの雨の意味を教えてくれたあの日から、巽は時々手を繋いでくれる。でも気まぐれで、いつでもいいというわけではないようなので難しい。
「ねえ、今日はバレンタインだよ」
「そうだな」
「巽はチョコいっぱいもらうのかな」
毎年たくさんの女子が「新井くんに」とチョコを用意する。俺も用意するけれど受け取ってくれたことはない。巽は誰も特別扱いせず、全部のチョコを断るからだ。
「いつもどおり断る」
「そうだよね」
俺は今年のチョコは用意していない。巽が「誰からも受け取らない」と決めている気持ちを尊重したいし、巽に断られたチョコを自分で食べた昨年と一昨年のバレンタインがとても寂しかったから。
「耀は」
「なに?」
「……チョコ、どうするんだ」
なぜか聞きにくそうに巽が俺から目を逸らす。
「もう用意しないよ? 断る回数が一回でも減ったほうが楽でしょ」
でも街がバレンタイン色に染まっているのはわくわくするね、と言うと巽が難しい顔をして俺の手を引く。
「どうしたの?」
「コンビニ寄る」
なにか買うのだろうか、と手を引かれるままについていく。こうやって不意に巽は手を握ってくるから俺はどきどきの準備もできない。
コンビニに入っても巽は俺の手を引いたままずんずん中に進んでいく。コンビニにもバレンタインチョコが売っていて、可愛くラッピングされたチョコが並んでいる。赤いハートにピンク色のハート、茶色いハート、ゴールドなど、たくさんのハートが飾られている。その棚の前に二人で立ち、手が離された。
「耀はどんなチョコが好きだ」
「え?」
「わかった」
なにも答えてないけど、と首を傾げると巽は棚から一つチョコを取り、レジに向かう。どういうことかわからなくてぼけっとその姿を見ていると名前を呼ばれた。
「行くぞ」
「うん……?」
なんだかよくわからないけれどコンビニを出る。巽の通学バッグには今買ったチョコが入っている。誰かにあげるのだろうか、ともやもやしていたら学校についてしまった。
「帰りに」
「うん?」
「帰りに」
「うん……」
同じ言葉を二回言われて、とりあえず「帰り」なんだろうと思い頷く。でもその「帰り」になにがあるかわからない。
ずっと首ばかり傾げて放課後になった。俺から声をかける前に巽が近寄ってきた。
「帰るぞ」
「う、うん」
どうしたのだろう。巽がこんなに積極的に近づいてきてくれるなんて滅多にない。なんだか嫌な予感がして心臓がおかしな動きを始める。巽を盗み見ると怖い顔をしている。怒っているのだろうか。
「耀」
「えっ」
「なに驚いてるんだ?」
「う、ううん……なんでもない」
なにを言われるかわからなくて緊張していたからとは答えられない。
巽はあの日、雨が止むのを待つために寄りかかった壁にもたれ、俺に手招きする。
「どうしたの? 帰らないの?」
「いいから」
バッグから朝買ったチョコを出し、ラッピングを解いていく。自分で食べる用だったのか、と少しほっとすると、巽はその箱を俺に差し出してきた。
「食べろ」
「え、いいの?」
「だめだったら食べろとは言わない」
差し出された箱からチョコを一つつまんで口に運ぶ。甘くて、でも少しほろ苦くて、大人の味がする。
「どうだ?」
「巽みたい」
「は?」
「ううん、こっちの話」
巽に並んで壁に寄りかかり、昇降口の外を見る。よく晴れていて陽射しは暖かそうだ。
チョコの箱をもう一回差し出され、またチョコを口に運ぶ。おいしい。
「雨、降らないかな」
巽とずっと一緒にいたい。雨が降ってやまなければいいのに。
「雨が降らなくても大丈夫だろ」
柔らかな口調に隣を見ると、巽は俺を見ていた。
「どういう意味?」
問いかけると、巽は俺から視線をはずして外を見る。少し目を細めて、それが微笑んでいるようで横顔がとても綺麗だった。
「遣らずの雨はもう必要ない。俺が耀を引き留める」
驚きに目を見開いたら、口にチョコを押し込まれた。
こんなバレンタインが俺に訪れてもいいのだろうか。
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